青木と帰り道
「さて、帰るか」
扉を出た青木先生が呟いた。
「そうですね」
「日向、夜も遅いしタクシーでも乗るか?」
「そ、それは悪いですよ、歩いて帰ります」
先生なりの気遣いだったのだろうが、俺一人のためにそこまで迷惑をかけたくなかった。
「じゃあ送ってやるか」
「歩いて、ですか?」
「そうだが?」
そんな話をしている間に木陰のマンションから出た。
「本当に送るんですか?」
「ああ、まあ少し話に付き合えよ」
「分かりました」
別に断る理由も無いので、そのまま先生と話ながら自宅へ向かう。
「暗野と仲良くなったんだな」
やはり、と言った話題だ。
「そうですね」
「嫌々付き合わされてないか?」
「そんなことないですよ!」
そんなことはないとハッキリ断言する。
「そうかなら良いんだ。私も日向が気を使って一人ぼっちの暗野を構ってるなんて一切思っていなかったが、一応聞いただけだ」
「そうなんですか……」
それじゃあムキになって返した俺が恥ずかしいだけだ。
「ただそれを確認できて安心したよ」
「どうしてですか?」
先生がそんなことを言うので気になってしまった。
「日向は一年の頃の暗野を知ってるか?」
「いや、全然分からないです……」
一年生の頃も青木先生の担任だったので関わりが無かった。
「私は授業で教えることがあったから担任では無いが少し知っていてな」
「どんな感じでした?」
一年生の頃の木陰の様子を知りたくなってしまう。
ただ、木陰と出会ったときのことを思い出してなんとなくの雰囲気が分かっていた。
「そうだな、あまり良くない言い方だが人形みたいだったな。動かず表情も見えなければ、誰かと話してるところも見たことが無かった」
「そうなんですね……」
少し分かっていたが、そう言葉で言われてしまうと孤独だった木陰のことを思い苦しくなる。
「だから担任として、日向が暗野と関わっているのに凄く安心した、という訳だ」
「なるほど、ありがとうございます」
「仲良くなったといって、暗野の可愛さに当てられて思わず胸を揉んだり、スカートの中を覗くなよ、男子高校生」
「キ、キヲツケマス……」
「気を付けます、ってお前犯罪だぞ、絶対するな」
「……ハ、ハイ」
先生からピンポイントの注意を受けて動揺してしまう。その2つをすでにコンプリートしているなんて先生の前で口が裂けても言えない。
「日向踏み込んで悪いが、友達のお前から暗野の良いところを聞かしてくれないか?」
「良いところ、ですか。なんでそんなこと聞くんですか?」
「大した理由は無いが、暗野と仲良く付き合っているから、私の知らない暗野の長所があるかと思ったんだ。教師として暗野を少しでも知りたいからな」
「なるほど」
木陰の長所と言われればやはり料理だろう。彼女の料理は本当に美味しい。
しかしそれを答えるのは気が引けた。
「木陰は本当に楽しそうにしてくれるし、嬉しそうに笑ってくれるんですよ。そこが友達として凄く嬉しいかな」
木陰の一番良いところは彼女の幸せそうな笑顔だろう。
「確かに楽しんでくれたり、喜んでくれたら友達冥利に尽きるな」
先生が俺の言いたかったことを完璧にまとめてくれた。
「それでこっちも楽しくなるんですよね」
「なるほど、だからいつの間にか仲良くなっていたんだな」
「そうなりますね」
本当にいつの間にか凄く仲良くなった。
「なら日向以外にも友達ができそうだ」
「そうですね」
誰か木陰と少しでも関わることがあれば、みんな彼女の楽しそうな笑顔ですぐにでも仲良くなれると思う。
話ながらそれなりに距離を歩いた。自宅まではあと少しだ。
「日向の影響で暗野は凄く明るくなったな」
「本当ですか?」
「明るくなっただろ。少なくとも私は学校であんなに楽しそうに笑う暗野を知らないぞ」
学校では他に人が多いので、人見知りの木陰は恥ずかしいかずっと控えめだ。
しかし少しずつ俺の前では明るくなっているのが嬉しかった。
「だから暗野は友達ができて嬉しいんだろうな」
「そんなに喜んでくれたなら友達としては、やっぱり最高に嬉しいですよね」
まさしくさっき言っていたことだ。自分と関わって喜んでくれるならこっちも嬉しいという訳だ。
「友達からの進展は?」
「い、今のところ、か、考えて無いです……」
そんなしどろもどろな返答に先生が笑う。
「どうなるかは知らんが友達は大切にしろよ。大人になると友達は消えていくし、新しい友達もなかなかできないからな」
「き、肝に銘じます」
先生の表情はどこか寂しげだ。
そんな話をしている間に俺の家まで着いた。
「その、送ってもらってありがとうございます」
ペコッと小さく頭を下げる。
「ああ、気にするな。私が勝手にしたことだしな」
そう言い残して先生が帰ろうとする。しかし立ち止まった。
「日向、暗野ともっと仲良くしてやってくれよ」
「もちろんです!」
「そうか、なら良かったよ」
と先生は安心した顔だった。
「明日月曜日だからって休むなよ」
「分かってますよ」
それを言い残して先生は今度こそ帰っていった。
(今日は本当にいろいろあったし、凄く楽しかったな)
木陰と一緒に昼食を食べることから始まった、楽しかった日曜日は終わりを告げようとしていた。
振り返ると木陰のことばかりが頭を占める。もっと話せば良かったなどの寂しさだ。
俺はいつの間にか木陰のことが気になっているらしい。
(明日も会えるし、また話そう)
そんなことを考えながら玄関を開けた。
◇◆◇◆◇◆
次回二章完結かな
なので!!!
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