温かさと安心感
「……さあさあ、早く撫でてください」
木陰が俺を急かす。本当に子どもみたいに楽しそうにしていた。
今の木陰は仰向けで寝ている。つまり目と目が合っている状態だ。
「分かった、分かった」
女の子の頭を撫でる、それもクラスメイトのを撫でるのだ。
変な罪悪感のようなものが出てくるが、ここは意を決して木陰の言われた通りにする。
そして木陰の頭を撫でた。
さらさらとした、柔らかい髪から木陰の体温が伝わってくる。
「……一回だけじゃ嫌です。……もっと撫でてください」
言われるままもう一度撫でる。今度は何回か撫で続けた。
「……褒めるの忘れてますよ……?」
「わがままな子供みたいだな」
「……子供に戻れるなら戻りたいですね……ほら早く褒めてください」
見つめ合っているので、褒めるのは恥ずかしく思えた。
しかし、やるしかないのも事実だ。
ただ褒め方が意外にも難しい。
「昨日は頑張って買い物できて偉かったよ」
頭を撫でながら褒めてみる。
子供を褒めるみたいな感じだが本当に良いのだろうか。
「……ありがとう……ございます」
その心配は必要ないみたいだ。
仰向けで居るだけに、木陰の表情がまる分かりだ。
顔が真っ赤で照れて緩んだ顔をしている。そんな彼女の顔は特別に可愛く見える。
「……もっと……もっとお願いします」
「もっとって言われても褒め方が難しいんだって」
「……そうですか、本当は私に褒めるところが無いとか…………?」
こういうところで木陰はネガティブなんだなと思う。
「褒めることはあるけど、褒め方が難しい。子供をあやしてる様な感じになりそう」
「……褒めてもらえるなら、子供扱いでも歓迎です! ……むしろ子供に戻れる方が良いです!!」
「なんだそれ、まあ歓迎してるなら別に良いか」
「……はい! ……お願いします!」
木陰は子供のように褒められるのを歓迎しているなら、別に気にしなくて良いかと楽に考えられるようになれた。
再び木陰の頭を撫でる。
「昨日も今日も頑張ってオシャレできて良い子だね」
「……ほ、本当に子供みたいですね…………でも子供に戻れた気がして悪い気はしないので、もっと撫でて褒めてください」
木陰の顔は更に緩んでいた。
しかし、顔をしっかりと覗き見ていたのがバレて木陰が横向きに体勢を変えた。
「……顔見過ぎです」
「バレてた?」
「……はい、バレバレです」
そう言われても見たかったのだ、しょうがないと思う。
しかし、拗ねて横になった木陰も可愛いものだ。
そのまま木陰を撫で続ける。
「……もし、私のお母さんが生きてたら、こんなことしてもらえたのかな…………」
木陰が呟く。
内容が内容なだけに何も言えなかった。
何も言えないので、ただ木陰の頭を撫で続ける。
「……すみません、その、褒めるのお願いします」
木陰から言われて、どうすることもできなかった空気が変わった。
なのでまた褒めながら撫でる。
「木陰の料理凄く美味しいよ」
「…………ありが……とう……ございます……料理してきて本当に……良かったです」
撫でていると木陰の耳に何度か触れた。横向きになったから撫でる度に当たるようになったらしい。
そんな木陰の耳は髪を被ってないので、彼女の体温を直に教えてくれた。
とても温かい、むしろ人の体温で考えれば温か過ぎる木陰の耳たぶをどうしても触りたくなってしまう。
我慢できずに木陰の赤く染まった耳たぶを指で軽く摘まんでしまった。
木陰の耳たぶは柔らかく、それでいてとても温かかった。そんな耳たぶをしばらく触ってしまう。
「…………日向くん、どこ触ってるんですか……?」
やはり追及されてしまった。
「いや、その、耳たぶが温かいなって、ごめん」
「…………」
木陰が黙り込んでしまった。
(勝手に触ったら怒るよな)
「…………勝手に触った罪として、褒めの言葉と撫でる時間を増やしてくれたら許します」
「増やします」
「……よろしい」
勝手に触った割には罪は軽く、ひとまず安心する。
そしてまた木陰の頭を撫で始める。
「今まで一人で頑張ってきて凄いよ、木陰は本当に強い子なんだと思う」
木陰の過去を少し聞いて本当に思ったことだ。
「…………あり……がとう……ございます。……その、一人で……頑張って……きて良かったです」
と木陰が涙声で言っているように聞こえた。
「木陰?」
心配になり様子を伺う。
「……あの、その、本当にそう思って……言ってますか……? ……こんなに褒められる初めてで、その、凄く嬉しいんですけど、なんだか……ここまで私が褒められると信用できないような……気もして……」
木陰から震えた声で質問された。
「本当にそう思って言ってるよ。木陰とした3つの約束を思い出してほしいな」
嘘をつかない、隠し事をしない、そして相手の言ったことを信じる。
木陰から言われた3つの約束だ。
「…………そう……ですね……約束しましたもんね……ありがとう……ございます……本当に……本当に嬉しいです……」
と木陰はそう言って俺の足に顔を埋める。
「……あの、こんなに褒められてると自己肯定感が高まってくる感じがします」
「なら良いのかな」
「……はい、良いんだと……思います。……その、もっと撫でて褒めてください……その、自信が付きますし凄く安心するので……」
「うん、分かった」
そのまましばらくの間木陰に言われた通りに撫でながら褒める。
すると木陰から可愛らしい寝息が聞こえ始めた。
「木陰……?」
寝息だけで返事が無い。どうやら寝てしまったらしい。
「男と二人きりで寝るとか、無防備過ぎるぞ」
試しに聞いてみてもやはり返事は無かった。
木陰は横向きに寝ているが、顔をこっち向けて寝ているので寝顔が完璧に見えてしまう。
本当に心地良さそうに寝てくれている。
「どうするか……」
とりあえず撫で続けてはいるが、木陰寝てしまったこの状態をどうして良いのか分からない。
すると木陰から寝言のようなものが聞こえた。
「…………日向くん、私と遊ぶの楽しんでくれたかな………?」
寝言まで可愛らしかった。
木陰にとって初めて友達を家に呼んで遊ぶらしいので、それが心配だったのだろう。
「凄く楽しかったよ」
そう返しても寝ている木陰からの返事は無い。
「仕方ない、起きたときまた同じこと言うか」
そんなことを考えながら木陰が起きるまで、彼女の頭を撫で続けた。
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