膝枕と小さな夢
「……重くないですか?」
膝枕をしてもらっている木陰が俺に聞いた。
「全然重くないよ」
「……そうですか、良かったです」
膝枕をしたもののお互いに恥ずかしさからか、会話がいつもより弾まない。
「膝枕してもらうのってこんな感じなんですね」
「どんな感じ?」
「……日向くんは言わなかったのに、私にはしっかり感想聞くんですね」
またも木陰から痛いところを突かれ言葉に詰まる。
さっきも木陰からの追及を逸らしたばかりだ。
「……そうですね、なら私は日向くんとは違って感想を隠さずに言おうかな? ……日向くんとは違って」
その顔は目を細めてイタズラな顔で言っていた。
木陰の性格は、根暗であまり人と交流しないがタイプだが、本当の性格はこんな風にイタズラを楽しむ小悪魔みたいなタイプなのだろう。
「なんか猛烈に身体を動かしたくなったな。このままだと木陰を凄く揺らしてしまうかもしれない」
イタズラにはイタズラで対抗だ。足が痺れている木陰は今動かれるのは嫌だろう。
今この場を有利に動かせるのは俺だと木陰に主張する。負け続きだったのでしてやったりだ。
「……もう、ズルいですよ」
それは勘弁と言った表情だ。
「……じゃあ、一方的に感想を言います。……膝枕って凄く安心感がありますね」
そんなに感想を言いたかったのかと、イジる目的で声に出そうとしたが木陰から恨みを買うと罰ゲームに影響するので押し殺した。
「なるほど」
「……はい」
木陰が「えいっ」と言葉と共に顔を勢い良く俺の太ももに擦り付けた。
「何してるの?」
木陰の奇行とも言える状況に困惑してしまう。
「……堪能してます」
満足気な表情で木陰が呟く。
「…………?」
「……あ、化粧してないので安心してください」
そういう問題でもない気がする。
「……その、あ、甘えて良いと言われたので……迷惑だったならその、罰ゲームの権利を使って無かったことに…………」
確かにそれは嬉しい提案だ。しかしここでハッキリ「迷惑だった、罰ゲームの分で取り消そう」とは彼女に対して言えないものだ。
もし言ってしまえば対人経験の少ない彼女は取り返しのつかないレベルで傷つく恐れがある。
「別に良いや、迷惑でもないし」
実際に迷惑かと聞かれれば木陰になら迷惑ではないので、今回は罰ゲームのことは惜しいが諦めよう。
「…………良かったです」
「ただし程々に」
「……分かりました!」
返事をしてまた木陰が顔を埋める。
「……家族にも膝枕なんてしてもらった記憶無いです……なんだか嬉しくて、その、もう少しだけ……もう少しだけ…………」
木陰がそんなことを言った。確かに軽く聞いただけでも木陰は家族との関わりがあまり無い感じだった。
それも母が小さな時に亡くなっているらしく、誰かに甘えられる経験は無かったのかもしれない。
「程々にね」
「…………はい」
しばらくの間、木陰が顔を埋めていた。足の痺れのためか身体を動かすのはかなり鈍かったが。
「……その、日向くんの家族ってどんな人ですか?」
「うーん、母、父にあと妹が居るぐらいかな」
「……え、妹居るんですか?」
木陰が驚きながら聞く。
「そんなに驚く?」
「……はい、じゃあ、女の子部屋とかいろいろ初めてでも無いじゃないですか!?」
「いや、家族は別だろ」
「……そうですか、なら良いです。……でも妹さんが居るの少し納得です」
驚いていたが少しずつ冷静になる木陰。
「そう?」
「……だって私、日向くんが女性の店員さんに普通に話しかけに行ったの凄く驚いたんですからね。……妹さんが居るとなると少し慣れてるのかなと」
「あんまり妹関係ないと思うけど」
女の子に慣れているなら木陰にこんなに振り回されることは無かっただろうと思う。
「……仲良いですか?」
「微妙かな。最近はあんまり話しも顔も合わせてないし。一年の頃はバイトしてて、妹も部活で朝練とかその後も遅くまで練習してたから話す機会が無かった」
「……そうなんですね、でも兄妹とか羨ましいです」
「一人っ子はみんなそう言うよ」
そう返すと木陰が笑っていた。
「……じゃあ、頼れるお兄さんにお願いがあります」
同級生から『お兄さん』と呼ばれて少し胸が高鳴ってしまった。
「楽なお願いで頼む」
無理難題は止めてくれと神と木陰に願う。
「……あの、その、頭撫でてもらえませんか?」
想像していなかったお願いに戸惑う。
「撫でるの? 頭を?」
「……はい、小さな頃からの夢みたいな、誰にも撫でてもらったこと無いので憧れてて」
「本当に?」
「……はい、無理なら罰ゲームで強引にやらせます」
そこまで言われたら断れないだろう。
「でも罰ゲームで頭撫でてほしくないでしょ?」
「……ありがとうございます。……あ、あと褒め言葉もお願いします。……撫でるのと褒め言葉はセットなので」
それを先に言って欲しかったが、大して変わることは無かっただろうと思う。
「じゃあ、本当に撫でるよ?」
「……はい、お願いします」
そんな木陰の表情は子供のような笑顔を浮かべていた。彼女の言っていた小さな夢が叶って嬉しいのだろう。
同級生の頭を褒めながら撫でる、そんな不思議な状況だが悪い気はしなかった。
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今回と次回はオシャレを頑張った木陰へのご褒美回です
日向に遠慮せずに甘えて良いよと言われたら、そのまま受け取ってしまう木陰。
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