始まりの
おかわりを頂いて二人でご飯を食べ進める。
二人の間に沈黙があるものの、先ほどとは違い少しだけ心地のよい雰囲気だ。
そんな至福の時間も終わりを迎えた。
「ごちそうさまです」
残すことなく全てを平らげた。
お腹がはち切れそうになるぐらい食べた。
「……さまです」
暗野さんの方も食べ終わったようだ。
彼女が食べ終わった食器を運ぶのを見て、俺もと自分の食器を運ぶ。
すると「運ばなくていいよ」というジェスチャーをされたが、ご飯を頂いたのでそれぐらいはと半ば強引に運んだ。
食器を運び終終わりを彼女が慣れた手つきで皿洗いをしている。
クラスメイトの一面に何故だかドキドキしてしまう。
そんな家庭的な一面をずっと眺めてしまっていた。
俺の視線を感じたのか、彼女と目線が合った。しかし、すぐさま彼女の方から視線を外された。
それからは何事も無く彼女が無事に皿洗いを終えた。
一つの出来事が終わりお互いに初対面のような気まずい雰囲気が出始めた。
(俺はこれからどうすれば良いんだ?)
自分の心に尋ねても返答は無かった。
どうしようも無くなり自分がずっと疑問に思っていたことを彼女に訊ねる。
「あの、何で俺なんかにご飯作ってくれたの?」
彼女は俯いて答えてくれた。
「ずっと誰かとご飯食べたくて……でもきっかけが無くて……ちょうど成田くんを誘えそうだったから……」
ポツリ、ポツリと彼女は教えてくれた。
「……迷惑だったらごめんなさい」
彼女が何を考えていたのか理解できて、ようやく心の引っ掛かりが取れた。
それと同時に、彼女が俺が胸を揉んだことを根に持ってなさそうで、やっと命の安全に安堵できた。
それでも彼女にはとても悪いことをしたとは思っているし、この程度でチャラに出来るものではないだろう。
「全然迷惑じゃないです!」
迷惑なんてことは一切無かった。
それどころかこんなに美味しい料理を食べさせてもらえて感謝しかない。
だからこそ、もう一つの問題をしっかりと解決しないといけない。
「俺もごめんなさい! 今までちゃんと謝れてないのにも関わらず、ご飯までしっかり頂いて」
誠心誠意頭を下げる。
彼女には多大なる迷惑をかけた。
こんなどうしようもない頭を下げるだけでは全然足りないだろう。
「……あの、私はもう成田くんにもう償ってもらったから気にしてないよ…………一緒にご飯食べてくれたし……私の料理を美味しいって言ってくれたし……」
語尾がどんどんと弱くなりながらも話す。
髪で隠れた顔でも分かるくらい真っ赤に染まりながら答えた。
彼女は気にしてないと言ってくれたが、それでも罪悪感に蝕まれる。
「それだけじゃ無いんです! 俺椅子から転けた時にパンツも見ちゃったし、一回ぐらい痛い目を見ないと自分を許せないです!」
自分の罪状を余すことなく告げる。
正直、このまま誤魔化すことも出来たかもしれないが、彼女の優しさに嘘を付きたくなかった。
「えっ……嘘……パンツ見たの…………」
顔をさらに真っ赤にしてスカートを押さながら聞かれた。
「えっ、気付いて無かったの……」
想定外の出来事だった。
「本当に……? 何色…………?」
どうやら本当に彼女は気づいていなかったらしい。
「白い──」
俺が何色かを言い切る前に彼女のビンタが炸裂した。
ありったけの力と不意打ちをされたことも重なり一瞬だけど意識が飛んだ。
目を覚ますと天井が見えた。
「……ごめんなさい。私動揺して思いっきりビンタしちゃって……」
彼女が覗き込むように俺の顔を見ていた。
「いや、俺が悪いだけだから暗野さんは謝らなくて良いよ」
その時にふと違和感に気づいた。
俺の頭を支えるこの柔らかい物に。
(これはいわゆる膝枕……?)
俺は思わず今までの人生に感謝してしまった。
生まれてこの方こんな事に恵まれ無かったので、動揺が隠せない。
しかし、膝枕の原因になったのは俺が暗野さんにかけた迷惑のせいだ。
もう少しこの心地のよい物に身を置いておきたかったが、幸福感よりも罪悪感が膨れ上がるので、起き上がることにした。
「あ、あのありがとう」
どうして良いのか分からず感謝する。
端から見ればビンタに感謝したように聞こえるのかもしれない。
「……もう平気?」
この期に及んで俺の心配までしてくれた。
(これが女神か……?)
「全然平気! むしろいつもより調子が良いかもしれない」
浮き足だって変なことまで答えてしまう。
もし愚か者が誰か尋ねたら全員が俺の名前を挙げるだろう。
「なら……良かった……です」
相変わらず俯いて彼女は話している。
こんなに迷惑をかけた俺に、ここまでの慈悲を与えてくれた彼女に何か恩返しがしたい。
頭を必死に回らせるが良い案が出ない。
だから素直に話すことにした。
「あの、暗野さん。俺は本当に迷惑をかけたと思ってる。これっぽっちじゃ償いにならないと思う。だから何か責任でも償いでも取らせてほしい」
俺の話を聞いて暗野さんは俯いて何か考えて始めた。
しばらくして彼女は口を開いた。
「……私の友達になってください」
思わぬお願いに驚いてしまう。
それだけじゃなく彼女はまだ続けた。
「話し相手にもなってください……ご飯もまた食べに来てください……メールも交換してください……それと、それと、もっと仲良くしたい……です……」
彼女は自分のお願いを全部話し終えたのか俯きながら、俺の返答を伺っていた。
答えは決まっていた。
「喜んで!」
ハッキリと彼女へ宣言した。
驚いたのか勢い良く顔を上げた。
その瞬間彼女の素顔を初めて見た。
(凄く可愛い……)
前髪に隠されていた顔はとても可愛らしいかった。
そして彼女が何故こんなに前髪で顔を隠していたのか理解した。
そばかすがあったのだ。
普段あまり見ることのない特徴に目を奪われた。
それだけではなく、そばかすが俺には夜空のように煌めいて見えた。
そんな俺を我に返すように、暗野さんがスマホを俺の前に出した。
「……あの、メールを……」
「あ、うん。今登録するね」
彼女とメールを交換した。
「……あの、私メール友達これが初めてだから……その……よろしくお願いします」
そう言って差し出して来たスマホには、彼女の言う通り友達が一人と表示されていた。
「あれ、お父さんとは?」
「お父さんはこのアプリ使ってないから……」
なるほど、と俺は頷いた。
いくらあの有名なL◯neとて使わないユーザーが一定数居るだろう。
暗野さんのお父さんは使わない派だったらしい。
ふと、外を確認すると日が暮れ始めていた。
「もう、こんな時間なのか」
「……本当ですね……外が暗くなり始めてますね……」
慌てて帰る準備を始める。
支度を終えて玄関へ向かう。暗野さんが俺を見送るために付いてきてくれた。
「今日は本当にありがとう。色々とお世話になったし」
「……全然平気。それに初めて家に人を呼べて本当に楽しかったの……」
俯きがちで彼女は話す。
「……だから……良ければ友達を続けてほしいな……」
「もちろん! クラスメイトだし、これから仲良くしていこう」
彼女はとびきりの笑顔で返事をした。
「はい!」
最後の最後に俺はまた目を奪われてしまった。
「えっと、俺成田日向、よろしく!」
今さらながらの自己紹介になってしまった。
「……あの私暗野木陰です……! よろしくお願いします……!!」
こうして、新学期初日に俺は一人の大切な友達ができた。
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