部屋とぬいぐるみ
いざ女子の部屋に入るとなると心の準備が出来てなく、木陰の部屋の前で立ち尽くす。
すると木陰が俺の背中を後ろから押した。
「……昨日のお返しです」
木陰に押されるまま部屋に入る。
「おぉ……」
入るなり思わず声を出してしまった。
「……どうかしましたか?」
そんな俺の行動に疑問を持ったのか、木陰が俺に質問してくる。
「いや、初めて女の子の部屋に入るから」
「……そうなんですね」
木陰の部屋は、彼女にしては意外なピンクと白の家具がちらほらあり、女の子の部屋という感じがしていた。
そして部屋からより彼女の匂いがしている。なんだか安心できるそんな匂いだ。
「……日向くん?」
「え、なに、何か言ってた?」
木陰の匂いに気を取られたなんて言えない。動揺しながら誤魔化すように返した。
「……なんだか挙動不審です…………まさか下着とか探してました!?」
「探してないよ!」
彼女の予想外の疑いに何故か今度は冷静に対応できた。
「……じゃあ何を?」
「いや、まあ、その、秘密ってことで」
内容が内容なだけになんとか誤魔化そうとする。
「……だ、ダメです! ……お、お互いに秘密はできるだけしないようにしましょう……その、裏に何か隠し事されるのが私怖くて……」
確かに俺も友達に裏で何か言われてたり、隠し事されるのは怖い。
木陰の場合、今まで対人経験が無い分仕方だろう。
しかも俺と木陰は性別も違い、女の子の木陰からすれば俺が何か隠し事をするのはさらに怖いと思う。
しかし、今回は俺が木陰の部屋の匂いに気を取られていた、なんて彼女に言っていいものかと悩む。
「……お願いです」
と木陰がさらに心配そうに頼み込んできて、話そうと決めた。
「いや、その、部屋の匂いに気を取られた……って感じで恥ずかしいから言えなかったんだよね」
「……臭かったですか?」
木陰が自分や部屋を嗅ぎながら言った。
「うーん、安心する匂いって感じ」
それを聞いて木陰は安心した表情を見せた。
「……なら良かったです」
一段落して木陰の部屋をもう一度見てしまう。
するとベッドの上に昨日俺が取ったぬいぐるみがあった。
「……やらしい」
「えっ!? 何で!?」
「……今絶対に私のベッド見てましたよね?」
それは捉え方にもよるが事実で間違いない。
「ぬいぐるみ見てただけだから、それにベッド見ただけでやらしいは発想が飛び過ぎだろ!」
「……それはまあ、そうですね。……ぬいぐるみですか?」
お互いに変な想像をして顔が赤くなってしまった。
話題を変えるように木陰がベッドからぬいぐるみを運んでくる。
昨日取ったダイオウグソクムシという変な深海生物をデフォルメしたやつだ。
「……これ抱き心地良いんですよ」
昨日と同じように木陰がぬいぐるみを抱きしめる。
その顔は彼女の言うとおり、満足げな表情なので本当に抱き心地が良いのだろう。
「……日向くんもどうですか?」
木陰が俺にぬいぐるみを渡してくれた。
ただ、目の前で木陰が抱きついていた物を抱きしめるは何だか悪い気がしてしまう。
「何か悪いしいいよ」
「……そんなこと言わずにどうぞ!」
木陰に押しきられる形となり俺もぬいぐるみを抱き抱える。抱き心地は彼女の言うとおりとても良かった。
「確かに抱き心地良いな」
「……でしょでしょ」
と彼女も何故か満足そうな顔をしている。
しかし木陰がさっきまで抱きついていた物だと思うと、変な気持ちが出てしまう。
「……今日はそれ抱いてて良いですよ」
「え、どうしようかな」
「……どうぞ、どうぞ遠慮しなくて良いですよ」
木陰に押しきられる形となりぬいぐるみを抱いたままになった。
そして木陰が部屋に座り込む。
「……日向くんは座椅子にどうぞ」
「いや、でも木陰が地べたになるし……」
「……私が呼んだんですからぜひ座ってください」
そう言われてしまうと断れなかった。
「木陰も座りたくなったらすぐに言ってよ」
「……分かりました」
お互いに部屋に入ってようやく落ち着く。
そして木陰がゲームの準備をする。
「……それじゃあ、一緒にゲームやりましょう! どんなゲームが良いですか?」
「うーん、二人でやるなら対戦するやつかな」
「……分かりました。……ならこれですね」
木陰が俺に見せてくれたゲームはレースで対戦するやつだ。
「良いね、それ」
「……私、友達と対戦するの初めてです」
そう言うと木陰は嬉しそうにそのゲームの準備をし始める。
「……私は結構強いですよ?」
木陰は自信満々といった表情だ。
「勝てるように頑張るよ」
「……負けませんからね!」
木陰と一緒にゲームをし始めた。
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これで木陰の安眠が確定しました
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