振りと繋いだ手
冷たい風の吹く夜道を木陰と歩く。
そんな中でも繋いだ彼女の手は温かかった。
「……日向くんは私を受け入れてくれるんですね」
「何かあったっけ?」
「……はい、いろいろと。手汗とか、そばかすとか、今だって彼氏の振りしてくれたり…………」
「まあ、友達だし」
最後意外は別にそこまで気にすることはなかった。
すると木陰が変なことを聞いてきた。
「……なら斎藤くんとかとも手を繋ぐんですか?」
斎藤くんとは俺の男友達の秋人の名字だ。
「性別が違うでしょ」
変な質問が来たことで木陰と笑いが生まれた。
二人で夜道のなか笑い合う。
「……その、私のそばかすって結構良く思わない人が多いんですよ……」
「そうなの?」
そんな人が居るのかと意外に思ったが、学校での出来事やさっきの男のことを思いだして少し納得した。
「……はい、だからあまり自信が無かったり、でも日向くんは褒めてくれて……」
「あったね、そんなこと」
星空みたい、なんて褒めたが今思うと少し恥ずかしい。
「……その、自信が少し出たんです。……でもまだ少し自信が無くてだから、いつか私と星空を見に行きませんか?」
「星空か」
飲み込むように一度呟く。
自分の言ったことが木陰にとってかなり大きかったらしい。
「……はい、綺麗な星空を見れば、自分のこの顔に自信が出る気がします」
「木陰に自信が出るなら行くか」
なら言った責任を果たすべきだろう。
「……ありがとうございます」
木陰は嬉しそうに言う。
一緒に星空を見るなんてまるで本当の恋人みたいだ。
「……なんだか本当に恋人みたいです」
木陰も同じようなことを思ったらしい。
そんな木陰の手はさらに温かかった。
「……周りから見れば恋人に見えるんですかね?」
「振りをしてるから見えてないと困る」
「……それもそうですね」
照れ隠しに遠回りな言い回しをしてしまった。
「……日向くんは私と恋人の振りするの楽しいですか?」
「ナイショ」
これはさっきからずっと話さないと決めていた。
しかし、木陰が鋭い手札を切ってくる。
「……今だけは恋人ですよ?」
恋人の振りをしているときなら答えると言ったことを思い出す。
「ズルいな」
「……一緒ですよ」
お互いに前の会話を真似て話した。
腹を括って彼女の質問に答える。
「楽しいよ」
「……そうですか、なんだか嬉しいです」
木陰から少し照れた声が聞こえたが、平静を保つためにあまりに意識しないようにしよう。
「木陰はどうなの? 恋人の振りしてるときなら答えるんでしょ?」
そして木陰に同じ質問を返す。
「……私も楽しいですよ。……こんな経験初めてですし……なんだか誰かに甘えられてる感じがして好きです」
木陰に楽しいと言われて少し浮かれている自分が居た。
「別に友達でも甘えて良いのに」
別に友達だから、と遠慮してほしくなかった。
木陰は驚いた顔をしながら呟く。
「……そうですか、なら今度からもう少し甘えます」
「でも、ほどほどで頼むよ」
木陰に頼られるのなら悪い気はしなかった。
すると木陰も
「……はい、日向くんも私に甘えていいですからね?」
と言ってきた。
「じゃあ、ほどほどに甘えるよ」
そんな会話をしているうちに木陰の住むマンションまで着いてしまった。
「……これで恋人の振りは終わりですね」
「そうだね」
名残惜しいが約束は約束だ。
ずっと繋いでもいた手を離す。彼女の手の温もりが無くなってしまい寂しく思えた。
少し移動して木陰とエントランスのところでお互い少し話そうとする。
しかしそこからお互いに何も言わず時間だけが過ぎた。
しばらくして木陰が持っていた荷物が重かったらしく、耐えきれなくなったのか沈黙が終わった。
「……荷物も重いですし、も、もう帰りますね」
「うん、俺も帰るよ」
どことなく寂しさが自分を包んでいた。
しかし何を言うでもなく俺は踵を返す。
すると、木陰から
「……日向くん、また明日」
と声が聞こえた。
そんな最後の挨拶が嬉しく思える。
俺も木陰に聞こえるように返事する。
「うん、また明日」
木陰が手を振っていたので俺も控えめだが手を振り返す。
俺は明日を楽しみにしながら家に帰った。
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