夜道は二人で
夕暮れに染まった二人だけの公園で話し始める。
「……さっき彼氏だって言ってくれましたよね?」
酔っ払った男に絡まれたときのことだろう。
「うん、まあ」
気恥ずかしくなり歯切れの悪い返事をする。
「……私を守るために言ってくれたことは分かってます。……今日は本当に迷惑かけてばかりですね」
「迷惑ってほどの迷惑は無かったと思うけど」
「……だから、日向くんにお礼がしたいです」
彼女の提案に相づちをして続きを待つ。
「……あの、明日ご飯を作ろうと思います。……一緒にどうですか?」
「本当に良いの? 木陰の料理なら大歓迎だよ」
「……それと、あの明日はピーマンの料理をしようと思っていて」
そんな提案に俺の顔が曇る。
早い話、ピーマンに苦手意識があったからだ。
「……その、私が日向くんでも食べられるよう丹精込めて作りますから、その……」
「なら苦手だけど、木陰を信用してご飯いただこうかな」
俺の返事に木陰は喜んでいた。
「……任せてください! 日向くんでも食べられるピーマン料理作ります!!!」
「楽しみにしてるよ」
と木陰はかなり意気込んでいる。
「……あの、その、それでもし私の料理が美味しくなかったときのために、その、明日の昼にピーマン料理、その後に良かったら夜ご飯も一緒に食べませんか?」
つまり、昼頃と夜ご飯のお誘いだ。
しかしその空いた時間は何に使うのだろうか。そんなことを考えていると木陰が口を開いた。
「……あの、それで空いた時間なんですけど、私と一緒にその、お家で遊びませんか?」
「木陰と?」
「……そうです! ……私と一緒に遊んで欲しいです! ……私まだ、友達と家で遊ぶなんてしたことないので……」
そんなことを言われると断れない。まあ、元から断るつもりはないのだが。
「じゃあ、俺は今日外で遊ぶこと教えたみたいな感じだし、木陰に家での遊び方教えてもらおうなか」
「……分かりました! ……任せてください!」
明日の約束事が一段落したところで、夕焼けは終わり夜を迎えていた。
「そろそろ帰るか」
「……そうですね」
俺が彼女の服の荷物を持とうとすると、木陰がその荷物を俺より早く持った。
「俺が持つよ」
「……いえ、私の荷物なので渡せません」
頑なに木陰が断った。
「……日向くんがずっと持ってくれてたので、交代です。……さすがに疲れるでしょ?」
彼女が気を使ってくれたらしい。
「いや、でもかなり重いよ?」
「……普段から買い出しでこれぐらい持ってますよ」
平気な顔で木陰は荷物を持っていた。
「なら甘えさせてもらいますか」
「……はい!」
そして公園を出ようとすると、木陰がまだ歩きだしていなかった。
「木陰?」
彼女の元へ駆け寄ってみると少し震えていた。
「……その、かなり暗くなりましたね」
「まあ、確かに」
夕焼けはもう終わり夜だ。彼女の言うとおり辺り暗くなっていた。
「……あの、さっきの男の人の話はあまり気にしてないんですけど……その、さっき男の人が手を引っ張られたのが少し怖くて……この辺りは夜になるとそういう人多いので…………」
確かにさっきのは木陰にとってかなり怖かっただろう。
隣に居たにも関わらず、あんなに怯えさせてしまった自分が情けない。
「どうしようか?」
怯えている木陰を無理やり連れて行くこともできず詰まる。
「……その、あの、彼氏の振りの延長ってできますか? ……家まで送ってもらえると嬉しいです」
「それは良いけど、さっき効果無かった気がするし、本当に大丈夫かな」
「……その、なら気休めでも良いので──」
振りとは言っても何をするのか分からないが、それで彼女の気が楽になるなら安いものだ。
「……手を繋いでください!」
と木陰が手を差し出してきた。そんな彼女の手は震えていた。
女の子と手を繋ぐなんて初めてで少し臆する。
手を引いたことはあったが、繋いだとは無かった。
俺が引っ張ってあげないでどうする、と自分に問いかける。
彼女に安心感を与えられるように弱気な姿は見せられない。
そう自分に言い聞かせて木陰と手を繋ぐ。
「……ありがとうございます」
そんな彼女手は汗でかなり濡れていた。
「……その、手汗酷くてごめんなさい」
「全然気にならないよ、それに前の体育のときに経験済みだよ」
前に木陰の蹴ったボールが俺の急所に当たったときだ、木陰が責任を持って肩を貸してくれたのだが、マラソンの後ということもありかなり汗ばんでいた。
それと比べると今のなんて大したことではない。
「……まあ、そうですね」
と繋いだ木陰の手の震えは止まっていたがかなり熱くなっていた。
「歩けそう?」
「……はい! ……それは行けますけど、その、あの、手が滑るので…………」
そう言い木陰が恋人繋ぎに変えた。急な出来事にドキドキしてしまう。
「…………ダメでしたか?」
「別に、彼氏(の振り)だよ?」
毅然と答えてみたが、実際に上手く言えたかは分からない。
「……そうでしたね。……甘えさせてもらいます」
と、さっきよりも強く握ってくる。そんな木陰の手はさらに熱くなっていた。
「行けそう?」
震えは止まっているが、木陰の心の内までは分からない。
これで何とか乗りきれればいいが。
「……はい、安心して帰れそうです」
木陰の返答に安堵する。どうにか彼女の心配を拭えたみたいだ。
「じゃあ帰ろうか」
「……はい」
木陰のもう一つの荷物を持ち、日が暮れ冷たくなった風が吹く夜道を二人で手を繋ぎ歩き始めた。
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