駅と夕暮れ
そんな木陰を見て俺も秘密にしておこうと思った。
「そろそろ帰るか」
「……そうですね」
二人で木陰の購入した服を取りに向った後に電車に乗り込んだ。
お互いに電車ということもあり無言が続いていた。
すると木陰の最寄り駅まであと数駅というところで彼女が口を開いた。
「……あ、あの最寄り駅の前の駅で降りませんか?」
急な彼女の提案に困惑する俺を見て木陰が補足を入れた。
「……そ、そのタピオカとかパンケーキとか食べましたし、そのダイエット的な感じです……」
そんな彼女の提案を受け入れることにした。
もともと最寄り駅が違うので、無言のまま終わるのが名残惜しく感じたからだ。
「良いね。俺も歩きたいし」
「……ありがとうございます」
二人で最寄り駅の前で降りて歩き始める。
夕暮れのオレンジ色に染まり、心地良い風が吹いていた。
「……あの、私が持ちます」
木陰が自分の服の入った荷物を持とうとしてくれた。
「いや、良いよ」
「……私の荷物ですし、私が歩こうと言いました。……それなのに日向くんに持ってもらうのは気が引けます」
そう言い荷物に触る。
しかし、俺は手を離さなかった。
「いや、俺が選んだ服だし、それにこういう時は男の俺に持たせてよ」
「…………それじゃあ甘えさせてもらいますね。……ありがとうございます」
再び木陰と歩き始める。
「……良い風が吹いてますね」
「確かに気持ち良い風だね。この辺り来るの初めてだ」
「……確かにこの辺りはお酒のお店多いですからね」
心地よい春の風に当たりながら少しずつ会話する。
木陰は帽子が飛ばされないように深く被り直していた。
「……私、今日は人生初の経験が多かったです」
「俺も多かったな」
レディース専門店に入ったり、タピオカやオシャレなパンケーキ、それに休日に女子と二人なのも初めてだ。
「……楽しかったですか?」
「それはナイショ」
木陰の言っていたことをそのまま使う。
「……じゃあ、恋人の振りしてたとき、もう一度聞いたら答えてくれましたか?」
「答えてたかもな」
二人で夕暮れの風に当たりながら歩く。
「……ズルいです」
「一緒でしょ」
「……まあ、そうですね」
そんな木陰との言い合いでお互いに笑いが生まれた。
そんな雰囲気が一瞬で凍りつく。
「おい、そこの帽子の女」
と、大きな声で男性が声をかけてきた。
木陰は怯えて俺の後ろに隠れる。
しかし、その男は回り込んで木陰に話しかける。
「ちょっと顔見せてくれや」
男の口からは酒の臭いが強烈にしていた。
そして木陰は固まり、男が帽子を取る。
「うーん、顔はギリギリ並み、ぐらいか。それにそばかすが残念だな。でもまあ胸がたまらなく良い」
そんなことを小さな声で言っていた。酔っ払って漏れてはいけない声が漏れていたのかもしれない。
しかし、それを木陰も俺も聞いてしまう。
木陰が帽子を奪い返してまた、俺の後ろに隠れる。
「何の用ですか」
目の前の事態に理解できずにいたが、ようやく声を出せた。
「何って、ナンパだよナンパ。そこの女、そんな男より俺と一緒に遊ばない?」
木陰は怯えたまま何も言えずにいた。
「やめてください。彼女嫌がってるんで」
「お前コイツの何だよ」
男の質問に返す言葉を悩む。
「彼氏だ」
男を牽制する目的で嘘をついた。
そして「行こ」と言い木陰の手を引いて歩く。
しかし、男は木陰の腕を掴んで動けなくした。
「良いじゃねぇか、俺と遊ぼうぜ」
「…………やめて、放してください」
木陰が振り払おうともがく。
しかし、男の力が強く振りほどけない。
「……助けて」
小さく木陰が俺に言った。
「この手を放してください」
「こんな彼氏なんて気にせず俺と二人で遊ぼうぜ」
酔っているのか俺の話は無視された。
そして木陰に絡む。無理やり引き剥がすこともできず、彼女が何度断っても絡んでくる。
「……本当にやめてください!」
ここまで粘着されると、もう平和的な解決方法は無いのかもしれない。
男は酔っ払ってブレーキが壊れているのか、それでも嫌がる木陰に絡んでいる。
「ごめんなさい、恨まないでくださいね」
どうしようもできず俺が男の股を蹴りあげる。申し訳ない気持ちがかなりあった。
しかし、断っても絡んでくる酔っ払いの対処がこれしか思い浮かばず、暴力的な解決方法になってしまった。
蹴られた男は「ぐ、がぁ」と声をあげてその場にうずくまっている。
「走って!」
木陰の手を引いて走る。
道も適当に選び進む。二人でかなりの距離を走った。
そして小さな公園を見つけて、二人で休むことにした。
「……ありがとうございました。その、私が歩こうなんて言ったから、お酒のお店が多い道ですし……酔っ払いもよく居ます。私のせいです……」
と木陰は自分が選んだ道だからと悔いていた。
「全然気にしなくて良いから、それにアイツが言ってたこととかも」
「……顔の話ですか?」
そうは言ったものの、いざ突かれると言葉に詰まってしまう。
「うん、まあ、あんな酔っ払いの話なんて忘れた方が良いよ」
「……でもまあ、可愛いなんてあまり言われないので、事実なんでしょうね。……陰口でもよく似たようなことを言われましたし」
木陰はそんな悲しいことを言った。
なんて返していいのか分からず俺は無言のままでいた。
「……でも、こんな私の顔を可愛いって言ってくれた恋人の振りをした人が居ましたね」
そう、パンケーキを食べ終わった後に店員さんと話したときだ。
確かに俺は可愛いと言ったことを思い出す。
「……だから、ちょっといや大分、その、実は結構、いや、かなり嬉しかったんですよ」
彼女の嬉しさの表現が段階的に上がっていく。
「喜んでもらえたなら良かったよ」
少し照れもあったが、ここまで喜んでもらえるのは嬉しかった。
「……それにさっき手を引かれたとき、なんだか映画みたいでドキドキしました。だから、そんなに気にしてないです! ……むしろ褒められたのが際立って良しです!」
木陰の表情を見ても怯えた表情は無く、むしろ照れた笑みが出ててた。
「……その、ここでもう少しだけ話しませんか?」
「そうしようか」
夕暮れが終わりに向かうなか、木陰の提案に乗り二人だけの公園で話し始めた。
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