パンケーキは蜜の匂い
二人で少し他を見て回っていたときも、木陰はぬいぐるみを大切そうに抱き抱えたままだった。
ある程度見たが他に取りたい物は無かった。
「店員さんに何か袋もらえないか聞いて来るよ」
「……お願いします」
流石ににぬいぐるみを抱き抱えたまま他の店を回れないので、店員さんに尋ねると袋をもらえた。
木陰は大切そうにぬいぐるみを袋に入れていた。
俺が「持とうか?」と聞くと彼女は「……自分で持ちたいです」と言う。
それほど大切にしてもらえて少し鼻が高くなった。
「それじゃあ他のところ回ろうか」
「……はい!」
二人でショッピングモールの中を見て歩くが、さっきほど木陰が食い付く物は無くただ二人で散策していた。
「本当に歩いてるだけで良いのか?」
木陰に尋ねた。彼女の願い通りこの辺を歩いていたが、本当に歩いているだけなので心配になり聞いてみたのだ。
「……はい。本当に二人で歩いてるだけで良いです」
どうやら本当に大丈夫な様だ。
そのままショッピングモール出て今度はいろいろなお店が立ち並んだ区画まで戻って来た。
戻って来たとは言っても、広すぎるため同じ道を歩いている訳ではない。
すると木陰のお腹から可愛らしい音が鳴る。
結構大きな音だったので俺にまで聞こえて来てしまった。
木陰が恥ずかしそうにお腹を押さえている。顔は見えないがまた耳が赤くなっているのが確認できた。
「……あの、その聞こえました……?」
彼女のためにも知らないふりをするか悩む。
ただ音が大きく、聞こえなかったというのはかなり無理がある。
しかし、本人が聞いている時点でどっちも同じということに気がついた。
「うん、ガッツリと」
「…………」
答えを間違えてないはずなのに、気まずい空気が出来上がってしまった。
「どこかで何か食べる?」
木陰は恥ずかしそうに頷いた。
時刻は午後4時過ぎだ。微妙な時間帯ではある。
「何か食べたい物はある? いつもご飯作ってもらってるお礼にそれぐらい奢るし遠慮しなくて良いよ」
「……その、あれでも良いですか?」
すると木陰は道の先にあるお店を指差した。
そこはオシャレなパンケーキを食べられる人気なお店だった。
少し前の木陰はタピオカを飲むのを遠慮したり、人の多いところを避けたりしていたが、新しい服を着てからは少しずつだがそういった場所に行こうとしていた。
そんな彼女の変化が微笑ましく思える。
「もちろん!」
今度は木陰が先頭に立って目的の場所を目指した。
お昼時から外れていたこともあり、そんなに並ぶことなく店内に入れた。
「おぉ」
店の中に入った思わず声を上げてしまった。
オシャレな内装に時代の最先端を感じたからだ。
「……凄いですね」
どうやら彼女も同じ意見なようだ。
二人で店内に見とれていると、店員さんに案内されて席に着いた。
そして二人でメニューを見て、お互いに驚いてしまう。
「……あの、その凄く値段が……」
「うん……」
二人してメニュー表を見て固まる。
想像してたよりも値段が高かったからだ。
「……その、私が確認せずに選んだから…………」
お店を選んだ木陰が自分を責め始めた。
「いや、俺がちゃんと見てなかったし木陰は悪くないよ。それに遠慮せずにと言ったんだ、気にしなくて良いよ」
男に二言は無い。
そういう覚悟を持って発言した、ということに今はしておこう。
「……でも、その…………」
そんなタイミングで店員さんが来た。
「お二人はカップルですか?」
唐突な質問に木陰と二人で慌てる。
「いや、そのえっと」
すると店員さんが
「実は今カップルにお得なメニューがあるですよ」
と教えてくれた。
どうやらそれは二人で見ていたページ留めされたメニュー表ではなく、一枚で書かれていたまだ見ていないメニューの方にあった。
「男性客が少ないので今そういうキャンペーンをしているんですよ」
確かにここのお店は女性客ばかりなので、男性客を増やすのにカップルをキャンペーンするのは戦略的なのかもしれない。
木陰と二人でそのメニューを見てみると、二人前でさらに他のに比べてリーズナブルでもあった。
「木陰は遠慮せずに他のを選んでも良いんだよ」
確かにお得ではあるが、ここで俺が飛び付いてしまうと情けないような気がして乗り気ではなかった。
「……あの、これでお願いします」
とそれでも木陰はこのメニューを選んだらしい。
店員さんがメニューを聞いて厨房の方へ向かっていく。
「……その、遠慮した訳でもないです。美味しいそうですし、それにお得ですから。……お得なのは大切です」
木陰は俺のことを気にしてくれたとも思えた。
彼女はお金には困っていないらしいが、自炊をしている分そういった価値観はしっかりしているみたいだ。
「確かにお得なのは大切だ」
そう言うと彼女は笑ってくれた。
少し時間が経って注文したオシャレなパンケーキ運ばれてきた。
これがいわゆるSNSで映えると言われているものだろう。そう思えるだけのオシャレさがこのメニューにはあった。
「……写真撮っても良いですか?」
「好きなだけどうぞ」
答えると彼女は楽しそうにはしゃぎながら写真を撮った。
「……良い思い出になりそうです」
木陰は笑顔で言っている。
そう言ってくれるのなら少しお高い物でも嬉しく思えた。
しかし、お互いにあることに気づいた。
「……ナイフもフォークも一つしかないですよね……それに飲み物も一つです」
木陰の言うとおりだった。
しかし、飲み物は普通の物よりも遥かに量が多い。
そこに嫌な予感がした。
確認するために店員に尋ねた。
「あの、ナイフとか飲み物って一つだけなんですか?」
すると店員さんが
「はい、このメニューはカップルが頼む物なので飲み物や食器は一つなんですよ」
と答えた。そして答えてくれた店員さんは去って行った。
木陰と二人で沈黙が起きる。
「どうしよう?」
彼女に尋ねる。
「……私がまたちゃんと確認してなかったからです。本当にすみません……」
と木陰は相当落ち込んでいた。
そして目の前にある商品はは二人分の量がある。
「今から説明すればどうにかしてもらえるかな?」
しかし、カップルメニューをカップルじゃない二人が頼んだことがバレるとどうなるのだろう。
そんなことを考えて震える。
「……絶対に怒られますよね。それにお得なのも無くなっちゃいます……」
詰まり二人で沈黙する。
「……あの、その、私のせいでこうなっちゃったんですけど、そのもし良ければ──」
と木陰はとても言い難そうにしていた。
「……このお店に居る間だけカップルの振りをしませんか?」
木陰の導き出した解決策はカップルを偽装することだった。
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次回、恋人の振り大作戦!
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