新しい私
店員を含めた三人でお店の中を見て回る。
私は日向くんと店員さんの後ろに付いて行っていた。
(……うう、恥ずかしくて死にそう)
日向くんが背中を押してくれて店に入ったものの、今すぐにでも逃げ出したかった。
しかし、日向くんに逃げないと言った以上、もう情けない私を見せたくなかった。
逃げ出した気持ちと逃げたくない気持ちに潰されそうになり、半ば投げ出す形で日向くんに全て任せることにする。
(恥ずかしいけど、ちょっと嬉しい)
意外に日向くんに全て任せているのに悪い気はしなかった。
今まで誰かに任せるなんてしてこなかったので、私のために何かしてもらえるそんな感じが嬉しかったからだ。
それに今流行りのお店でお洋服を日向くんと見れている。それも心が踊った。
「木陰はどんな服が良いとかある?」
「……明るめなら嬉しいです。あとは全部日向くんに任せます……」
そんな投げやりな返事にも嫌な顔せずに私の服を選んでくれている。
「これとか似合いそうかな」
と日向くんが春らしい色のプリーツスカートを持っていた。
私と違い彼はガンガン店員さんと服を吟味している。
「彼氏さんはそういうの彼女さんに着て欲しいんですか?」
「いや、なんとなく似合いそうかなと思って」
さっき会ったばかりにも関わらず日向くんは店員さんと楽しそうに会話していた。
完全に私は置いていかれていた。
「……あ、あの、あと露出が少なくて身体のラインが出ない服でお願いします」
置いてかれないようなんとか会話ひねり出しす。
「確かにそれは大事ですね」
女性の店員さんが私にフォローを入れてくれた。
「うーん」と日向くんは唸りながら考えてくれていた。
すると彼は何かの服が目についたらしい。
「これとかどう?」
日向くんは明るいベージュのワンピース、それも私の意見を取り入れてくれて長袖の物を持って来てくれた。
「そういう服も春らしい服ですね」
店員さんの印象も悪くないらしい。
私は生まれて明るい色の服を避けてきたので、普段なら絶対に選ばない色の服だ。
「試着してみます?」
「……っえ、あ、その」
店員さんが私に尋ねてくれたが、なんて会話して良いのか、焦り声が出なかった。
それにそもそも明るい服を着るのが怖くもあった。
どうすることもできずに居ると日向くんが助けに入って来てくれた。
「試着させます」
助けてくれたのかよく分からないどころか、勝手に試着の許可を出した。
「……っえ、日向くん勝手に……?」
「全て任せるって言ったでしょ?」
確かに私は投げやり気味に全て任せると言った。
そしてまたも日向くんが足踏みする私の背中を押す。
今度は試着室の前まで来ていた。
「……まだ心の準備が」
そんな私の言葉を無視して服を渡すだけ渡して離れた。
このお店のフィッティングルームは一区画に設計されていたので、男子禁制どころか前に居ること自体がかなり危ない。
なので日向くんとは離れて、私は女性店員さんに連れられて試着室の前に来ていた。
「背中を押してくれる良い彼氏さんですね」
と店員さんが私にささやくように言った。
「……その、彼氏じゃなくて友達です」
彼氏と言われて嬉しかったが日向くんのためにも訂正しておいく。
これは悲しいことに詰まらずに答えられた。
「そうなんですか!? それじゃあ振り向いてもらえるように頑張りましょう!」
「……はい!」
振り向いてもらえる、そんな想像をしてニヤつく。
それを店員さんに見られてウフフと笑われた。
「そんなに好きなんですね。では私は彼をこのお店で一人で待たせられないので行きますね」
確かに日向くんがレディース専門店で一人で待っている状況はかなりまずい。
なので店員さんは急ぎ足で戻って行く。
しかしまだ私は試着する勇気が出なかった。
私はどうして良いのか分からなくて店員さんを呼び止めた。
「……あの私、こんな服着たこと無いから似合うか分からないですし怖くて……」
すると店員さんは一言私に言い残してくれた。
「きっと未来の彼氏さんも喜んでくれますよ」
私の背中を押す全ての言葉が詰まっていた。
試着室に入り勇気を出して服を着替える。
身体は緊張で少し震えていた。
(もう、ここまで来たらやけだ)
いつも着ている似たような黒い服のワンピースを脱いで、日向くんが選んでくれた服に着替える。
そして深呼吸し着替えた自分の姿を鏡で確認する。
(これが私……?)
鏡に写っていた私は、今まで着ている想像もしてこなかった明るい服を身に纏っていて自分とは思えなかった。
普段とはあまりに違う自分、明るい服を纏った私は輝いて見えた。
鏡の前でいろんなポーズをとってみる。そんな乗り気の自分に思わずわらってしまう。
「……悪くないよね?」
たった服を着替えただけ。
それなのに私は自分に少し自信が持てたように思える。
そんな新しい自分を早く日向くんに見てもらいたくなり急いで彼の元へ向かった。
「……あの、どうですか?」
新しい自分を日向くんはどう思ってくれるのか、聞いた待ち時間が怖かった。
「凄く似合ってると思うよ」
根暗な私がこんな明るい服を着ても似合ってると言ってくれた。
嬉しくて表情が緩んでしまう。
「……あ、あの前の服とどっちが可愛いと思いますか?」
前は可愛いと褒めてくれた。なら日向くんにとって今の服とどっちが可愛いと思ったのか知りたくなった。
「うーん、前の服も可愛いかったけど、俺は今の方が可愛いと思うよ」
私の地味な服を否定しないのは日向くんの優しさだろう。
「だって今の木陰は凄く良い表情してるから」
確かに私もそう思う。そんなところまで見てくれそして褒めてくれた。
「…………あ、ありがとう……ございます」
日向くんに褒めてもらえたのが嬉しく、心臓が活動限界に近いぐらいはしゃいでいる。
「あとこれとか似合いそう」
そう言って日向くんは私に帽子を被せてくれた。
ツバの付いたクリーム色の帽子だ。
「おお、良いじゃん。木陰は帽子も似合うね」
また日向くんが褒めてくれた。嬉しい。
「……そうですか?」
「可愛いと思うよ」
日向くんによる怒涛の褒め言葉連発に私はもうKO寸前だ。
すると店員さんが鏡を持って来てくれた。
これで私の姿が見れる。
確認すると帽子を被った私は根暗でもアクティブな人間に見えていた。
(……凄いなオシャレって)
そう思ったが、それよりも日向くんのせいで顔が赤く染まっているのが恥ずかしく帽子を深く被る。
そんな状況でも二人に聞きたいことがあった。
「……あ、あの、もっと、もっといろんなお洋服を見て試着して良いですか?」
二人は快く頷く。
明るい服が着れた自分が嬉しい、日向くんが褒めてくれて嬉しい。
そして少し前を向けた自分が嬉しい。
「……今度は私も服を選んで良いですか?」
「もちろん」
日向くんが頷いてくれる。
そんな私を見て店員さんは私たちから離れてくれた。
二度目の服選びは私と日向くんだけで始まった。
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