人混みと飲み物
またも不思議なことが起きた。
曲がり角で人とぶつかったと思えばその人はクラスメイトの木陰だった。
しかも私服を褒めると変なことを言い出すし、よく分からなかったが本人が喜んでいそうなので良しとしよう。
それに服を一緒に買いに行こうと言う。それも俺が服を選ぶらしい。
彼女に似合う服を選べる自信が無かったので、行こうか迷ったが木陰がどうしてもと言うから一緒に行くことにした。
今までご飯を作ってもらっていたのでその恩返しにもちょうど良いだろう。
しかし問題があった。
それはこれが周りの目から見ても、自分でどう考えてもデートにしか見えないことだ。
別にそれは悪い気はしないのだが、しないのだが気恥ずかしさが少し勝ってしまう。
まあ凄く楽しそうにしている木陰を見るとこっちも楽しくなるので些細なことかもしれない。
「それじゃあ一緒に行こうか」
「……はい」
横を歩いている木陰を見ると照れながらニコっと笑顔を返してくれた。私服の彼女は普段より魅力的に見え、そんな姿にときめいてしまう。
見とれながらも、楽しそうに歩く彼女と一緒に街へ服を選びに行った。
◇◆◇◆◇◆
二人で電車に乗り目的のブティック店の多い駅で降りた。
いつもより栄えた街へ行くとやはり人が多い。
街を歩くと普段では気にも止めなかった人の視線がいつもより気になってしまう。
こんなところを二人で歩くのだ。周りから見れば答えは一つだろう。
「……人が多いですね」
木陰が縮こまりながら言った。
この人の多さに彼女が怯えているように見える。
「普段こういうところは行くの?」
「……あまり来ないです。……いつも避けられるのなら避けてました」
そこまで気を回せていなかった。
彼女に無理をさせてしまい申し訳なく思う。
「ごめん。もう少し人の少ないところにすれば良かった」
「……いえ、少し人の多さに驚きましたけど平気です」
そうは言うものの彼女は顔から汗が垂れている。
「何か飲む? お金なら俺が出すし」
服を選ぶ前に彼女と少し休むことにした。
「……ありがとうございます。……えっと、ならどこかの自販機で飲み物を──」
木陰がその辺りを見渡し自販機を探す。すると彼女は他の場所で目を止めた。
しかし見たまま何も言わないので俺から聞くことにする。
「タピオカ飲む?」
彼女の目の先にあったものは女子高生で流行っているものだった。
「……いえ、その私の分までお金出してもらうのにその、私は自販機で十分です」
と彼女は飲みたそうにしているが遠慮した。
「木陰って行列とか平気?」
「……ええ急ですね、欲しい物のためなら耐えられます」
「よし、行こっか」
木陰の手を引いてタピオカ店へ向かう。
彼女は目的の場所に気づき
「……その、私のわがままで……」
と申し訳なさそうに言う。
「俺が飲みたいから良いの良いの」
「……ごめんなさい、変な気を使わせてしまって」
彼女はまだ申し訳なさそうにしていた。
なんとか彼女が気にしないようにできないかと考えとある妙案が思い付く。
「俺まだタピオカ飲んだこと無いんだよね。一回は飲んでみたいんだけど、あれって男一人で買うの恥ずかしいから木陰が居てくれると助かるかな」
変に気を使った訳でもなく俺の本心だ。
「……その、それなら私もぜひ連れていってください」
さっきまでの遠慮がちな表情とは違い、彼女は楽しそうしている。
どうやら上手く誘えたみたいだ。
「……あの私もタピオカ飲むの初めてです」
行列に向かう最中に木陰が言った。
「美味しいと良いね」
「……はい」
人気店だったのか待ち時間が少しあったので二人のことを話し始めた。
「……日向くんは休日って何をしてるんですか?」
彼女の質問に詰まる。
俺には趣味と言えるようなものが無ったからだ。
「うーん、何だろう。去年はバイトしてて空いた日は秋と遊んでたな」
「……秋? ……その秋さんって誰ですか?」
それを聞いた何故か彼女の雰囲気が一転して威圧感があり、発した言葉もどこか圧を感じた。
「あー、斎藤秋人だよ。前の席の奴」
俺の話しを聞いたとたんに彼女の圧のある雰囲気は消えて無くなった。
「木陰は休日何してんの?」
今度は俺から同じ質問をした。
「……私は料理と……ゲームですね。……日向くんはゲームしたりしますか?」
「あんまりしないかな」
「……そうなんですね」
と少しシュンとしていた。
「今度何か面白いゲーム教えてよ」
「……はい! ……その時は任せてください!」
そんな会話をしていると前の人たちの注文が終わって俺たちの順番が来た。
「ご注文はなんですか?」
待ち時間に何を注文するか考えてなかったので少し慌てたが、俺は一番有名な物に決めた。
「タピオカミルクティー一つと──」
「……私も同じものお願いします」
「かしこまりました」
注文すると列から外れ出来上がるのを待つ。
周りを見ると頼んだ人たちはタピオカをカメラで撮ったり、自撮りをしていた。
「タピオカミルクティー二つ注文の方?」
呼ばれて注文したものを受けとる。
料金は木陰の分も俺が支払うと彼女が「……ありがとうございます」と言ってくれたので悪いはしなかった。
「……あの私も飲む前に、その写真撮って良いですか? ……顔は写さないで手元だけです」
「別に良いよ」
俺の許可を取ると彼女は嬉しそうにしていた。
「……私も一人だけなら買えなかったと思います。……だから二人で撮りますね」
すると彼女が乾杯する写真を撮るために身体が触れ合う距離まで詰めて来た。
急接近に脈が速くなってしてしまうが、彼女に悟られないよう平常に振る舞う。
「……ありがとうございます。……後で二人での写真送りますね」
少し密着して緊張したが無事に撮れたらしい。
それにしても写真を撮った彼女はニヤニヤしていた。
「……なんだか女子高生みたいで嬉しいです。……それに日向くんとの写真も」
後半になるにつれて彼女が何を言っているのか分からないほど、声が小さくなっていった。
「いや、木陰は女子高生だろ」
なので聞こえた範囲で返す。
彼女は「……それもそうですね」と言いフフッ笑った。
写真も無事撮れたので木陰が初めてのタピオカを口にする。
「……とても甘くて美味しいです」
と彼女は嬉しそうに笑みをこぼしながら言う。
そんな見とれてしまいそうな彼女の笑顔にこの飲み物を選んで良かったと思えた。
続けて俺も初めてのタピオカを口にする。
その味は木陰の言った通りとても甘かった。
◇◆◇◆◇◆
しばらくデート回です
閉じこもりがちな木陰を日向が連れ出します
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