褒めてと買い物
考え事をしながら歩いていると曲がり角で人とぶつかった。
それは今私にとって一番会いたくて、会いたくない人だった。
「まさかこんなところで会うなんて。木陰はどこへ行くの?」
そう日向くんに聞かれたが今の私は、普段見ることのできない彼の私服に釘付けで耳に入っていなかった。
(……これが日向くんの私服)
男の人の服もあまり分からなかったが、私から見れば日向くんの私服は彼に似合っていていつもよりカッコよく見えた。
「木陰?」
とここでようやく日向くんが私に何か言っていたことを知った。
「……え、あの、そのなんて言いましたか? そのすみません。……聞いてませんでした」
失敗した。よりにもよって日向くんの話しを無視してしまった。
彼に嫌われないだろうか、見捨てられないかと不安になってくる。
しかし彼は嫌な顔一つも見せずにもう一度話してくれた。
「木陰はどこへ行く予定なの?」
「……えっと、今日はその服を買いに行こうと思ってます」
それを口にして自分の置かれた状況を理解した。
(今、私も私服だよね……?)
浮かれていて忘れていたが、自分が日向くんに会いたくない理由を思い出す。
その瞬間から恥ずかしい気持ちが私を埋め尽くした。
咄嗟に街の角に隠れて自分の私服が日向くんに見えないようにする。
「ええと、何してんの?」
そんな変な行動を見て日向くんが聞いてきた。
(……聞かないで、それに見ないで)
そんな言葉を日向くんに言えずただ黙り込んだ。
日向くんが角に隠れた私を見ようとするたび、もう一つの角に移りやり過ごそうとする。
しかしこれでは周りの人と日向くんに迷惑をかけてしまうのでおとなしく堪忍することにした。
「……あの、その、私服見られるのが恥ずかしくて……それに私の私服地味だし」
それを伝えると彼はより私の私服を注目した。
地味でオシャレの欠片も無いそんな私服を日向くんに見られてしまった。
「そう? 結構可愛いと思うよ?」
恥ずかしがりながらだが、日向くんは私の服を褒めてくれた。
ただ褒めるだけではなく照れながら言っている日向くんが可愛いく、さらに私の幸福感をはね上げる。
「……本当ですか? ……信じられないのでもう一度、今度は名前も呼んでください」
浮かれてむちゃくちゃなオーダーを彼にしてしまった。
「木陰の私服、結構可愛いと思うよ」
さっきよりも照れながら、それもオーダー通り私の名前を呼んで褒めてくれた。
これ以上はね上がらないと思っていた幸福感が簡単にはね上がる。
褒めてもらえた嬉しさと名前を呼んでもらえた嬉しさで、顔から火が出そうなぐらい私も照れてしまう。
「…………ありがとうございます」
もう幸せで死にそうだ。
最初こそ曲がり角でばったり会わした神様を恨んだが、今では反対でこれから一生神様に感謝し続けようと思う。
「……日向くんは何をされるんですか?」
「買い物かな。ちょっとノートを買いに」
どうやら物は違えど二人は同じ買い物で外に出ていた。
「……そうなんですね」
「うん」
話しが終わって少しの沈黙が生まれた。
すると日向くんが
「それじゃあ。気に入る服が買えると良いね」
と別れの挨拶をして踵を返した。
(ああ、せっかく会えたのに)
奇跡の出会い方をしたがこれで終わってしまう。
そんなこと私は嫌だった。
日向くんの袖を掴んで彼を止めた。
「どうかした?」
「…………あの! ……良ければですが、この後一緒に買い物しませんか?」
勢いに任せて言ってしまった。
咄嗟に何か取り繕う言葉を付け足す。
「……えっと、私オシャレ分からないので日向くんが服を選んでくれると安心します」
それに日向くんに服を選んでもらえて日向くんの好みの服を着れる。
さらに日向くんと一緒に居れる。
私からすれば一石百鳥ぐらいある。
「でも俺女の子のオシャレ分からないし」
渋る彼にさらに畳み掛ける。
「……日向くんの着て欲しい服でも良いんです!」
勢いを付け過ぎて本心が出てしまった。
しかしもうここまでくれば引き留めるのに必死だ。
何度も日向くんに懇願する。
彼は「うーん」と悩んでいた。
その時間が私を恐怖させる。
(断らないで、断らないで、断らないで、断らないで)
もし断られたら二度と立ち上がれないかもしれない。
でも、褒めてくれたとはいえ私が日向くんと一緒に歩けるような服装とは到底思えない。
「良いよ。木陰にはご飯作ってもらってるしついでに何か奢るよ」
嬉しさから思わず身体の力が抜ける。
日向くんが手を掴み咄嗟に支えくれた。
「…………ありがとうございます」
本当に良かった。それに日向くんが私のために何か奢ってくれる。
日向くんが私のために……幸せな響きだ。
月曜日まで待たずとも日向くんと会えた。それにこれから一緒に買い物をできる。
勇気を振り絞って誘って良かったと心の底から思う。
私はこうして日向くんと実質デートの約束を取り付けた。
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