私服と曲がり角
朝の光で私は目が覚めた。
時刻は11時。休日ということもありアラームもかけずに気の向くまま寝ていたからだ。
(そろそろ起きようかな……)
身体を起こした拍子にスマホが目に入った。
もしかしたらという期待が私を駆り立てスマホの通知が来ていないかを確認する。
しかし私の求めていたものは無く喪失感が残った。
(昨日は幸せだったなぁ……)
脳も覚醒して昨日の記憶もしっかり思い出してきた。
それと同時に昨日は浮かれていて気付かなかったが、私は相当に気持ちの悪いことをしたと自覚する。
(指舐めさせるし、スプーン舐めようとするし……)
罪悪感が私を押し潰す。
極めつけは昨日の私の顔だ。
昨日の私のニヤついた顔はかなり気持ち悪かっただろう。それも自分で自覚できるぐらいだ相当だと言える。
そんな顔を何度も日向くんに見せてしまった。
幻滅されていてもおかしくない。
おかしくないのだが、日向くんなら気にせずに私と居てくれるような気がしてしまう。
(私のそばかすも好きって言ってくれたし、十分ありえる話しだよね……?)
こんな根暗で気持ちの悪い私を受け入れてくれる人。
そんな人と出会えたのが嬉しかった幸せだった。
しかしその分だけ今日のギャップに苦しめられる。
「……まだ土曜日か」
日向くんに会うにはまだ今日と明日も耐えなくてはならない。
(昨日みたいにメールを送る……?)
今の寂しさを埋めるのに最適な解決法と言える。
(なんて送れば良いの……)
今まで対人関係を築けなかった私にとって、日常的にみんなが送るメールがどんなものか分からなかった。
「……私のバカ」
できることなら今にでも会いたいが、私にそんなメールを送る勇気は無い。
「……はぁ」
自分にやるせなくなりため息が出てしまう。
しかしまたも妙案が思い付いた。
「……そうだ。ピーマンの料理だ」
前に日向くんに嫌いな食べ物を聞いた時のことだ。
その時に私の手料理なら食べてくれるか聞き、食べてくれると書いてくれた。
それに私が絶対に料理作るね、と約束したのだ。
「……これなら日向くんを誘える」
これでメールを送る内容ができた。
それも家に呼んで一緒に食事できるという最高のおまけ付き。
私のテンションは一気に上がった。
さっそく私はメールを打つ。
でもさすがに今日誘って今日一緒にご飯を食べるのは無理だろう。
なら明日にご飯の予定をして、今日のうちにピーマン料理の研究をすれば良い。
打ち終わったメールの内容はかなり硬いが十分許容範囲だろう。
意を決して送信を押そうとしたが、寸前で私の知能がはね上がった。
(休日に会うって私服じゃん!?)
急いで私の持っている服を確認する。
しかし持っているのは全部が地味な服ばかりで、日向くんの前では見せたくないものだった。
「……予定変更。……今日は服を買いに行こう」
明日のためにオシャレな服を買う決意を固めた。
オシャレに興味の無かった私だが、たった一瞬で興味を持ってしまう恋とは恐ろしいものだ。
送信前だったメールは一旦保留し、服を選んでから送ろう。
(日向くんはどんな服が好みなんだろう……)
考えても答えが出なかった。
仕方ないので良さそうな物を買うことにして家を出る準備を始める。
今はこの地味な服を着るしかないが、明日には日向くんの目を釘付けにするような服を着る。
そんな覚悟を持って私は家を出た。
◇◆◇◆◇◆
(服を買いに行くなんていつ以来だろう……)
道中そんなことを考えて歩く。
オシャレに興味の無かった私が服だけを買いに出かけることなどあり得ない変化だ。
それと平行して街のみんながどんな服を着ているのか確認する。
確認するたびに私の私服のダサさに悲しくなった。
こんな私服絶対に日向くんに見せられない。
そんなことを考えて歩いていたからか、曲がり角で人とぶつかってしまった。
「…………ごめんなさい」
すぐさま当たってしまったことを謝る。
すると向こうも「こちらこそごめんなさい」と謝ってくれた。
しかしその声に何故か親近感を感じた。
「あれ、木陰?」
そう『木陰』と呼んでくれるのは父以外に、ただ一人しか居ない。
そして今一番会いたくて会いたくない人だ。
顔を上げると予想通りの人がそこに居た。
「……日向くん」
神様のイタズラか曲がり角でばったりと私たちは出会ってしまった。
◇◆◇◆◇◆
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