洗い物と一人きりの私
楽しかった時間が過ぎ、日向くんが玄関から出ていく。
最後に私が手を振ると振り返してくれた。そんな小さなことが嬉しかった。
彼を見送ると私の家から音が無くなった。すると寂しさが私の気持ちを占める。
昔は慣れていたのに、彼と出会ってからふとした拍子に寂しさを感じるようになった。
次に会えるのは月曜日。嫌いだった月曜日が恋しく思えてしまう。
「……洗い物でもしよう」
そんな気持ちを紛らわしように私は一人寂しく呟いた。
キッチンに向かい夕食の洗い物をする。
しかし日向くんの使った食器を見るたびさっきまでの幸せとの落差にため息が出てしまう。
考えないようにしたつもりがむしろ前よりも頭の多くを支配していた。
洗い物の最中に私は手を止めた。
私の手には食事中に日向くんが使用したスプーンが握られていた。
私の中の悪魔が囁いてくる。
(ちょっとぐらい舐めても誰にもバレない……?)
この部屋には私一人しか居ない。
つまり日向くんが使ったスプーンをどうしようが誰にも分からないのだ。
(これって間接キスできるよね……)
その時にさっきの出来事を思い出した。
それは日向くんが付けた米粒を取ってあげた記憶だ。
日向くんの唇の感触も私の人差し指に残っている。
「……あ、なんで私手を洗っちゃたんだろ…………」
しかし自分の手はもうすでに私のうっかりのせいで洗われていた。
もったいないことをしてしまったと本気で思う。
またも日向くんの使ったスプーンに注目した。
目的は一つだ。それを私の唇に近づける。
「……何やってるんだろ私」
ギリギリのところで冷静になり手を止めた。
そのままの勢いでスプーンを洗う。
「……シャワー浴びよ」
洗い物を終えて今度こそ気を紛らわすように呟いた。
シャワーを浴び終えて私は部屋に戻っていた。
結局、シャワーの時も日向くんを考えてしまって気が紛れることはなかった。
「……月曜日早く来ないかな」
ベッドに寝転び独り言を呟く。
そんなことを言っている自分に笑ってしまう。
「……一ヶ月、いや一週間前までは月曜日なんて来なければ良いって本気で思ってたのに……」
死ぬほど嫌いだった月曜日を今では一秒でも早く来てほしいと思っている。
そんな風に変わってしまった自分が面白く思えたから笑ってしまった。
「……はぁ、日向くんは今何をしているんだろう」
頭の中が彼で埋まっている。
恋煩いとはこのことを言うのだろう。
するとスマホからメールの届いた通知音が鳴った。
私は急いでスマホを開く。
『今日はごちそうさま。凄く美味しかったよ!』
日向くんから送られたメールだった。
私の胸の鼓動が速くなる。
さっきまでの寂しさが消え、幸福感がはね上がった。
(なんて返そう。変な返事は絶対に避けないと)
過去に送った自分の長文のメールを思い出して少し傷つく。
「お口に合ってくれて良かったです。また作るのでその時はいっぱい食べてください」
失敗したくないという気持ちが強く出てしまい凄く硬い文章になる。
しかし変えようもないのでそのまま送信した。
今か今かと待っていると返信がきた。
『楽しみにしとくよ』
と短いメールだ。
しかも話しが終わってしまい返す言葉が無かった。
もしかしたらと思い少し待ってみたが、それから待てども続きは来ない。
(もっと話したかったのに……)
そう思ってももう遅かった。
またも寂しい気持ちが私を包む。
会話の終わってメールを見てさらに悲しくなっていく。
しかし私は妙案を思い付いた。
『日向くん、おやすみなさい』
思い付いたことをそのまま送信する。
その時は迷いは無かったが、送信してからもっと良いものが有ったのではと今さら頭を抱える。
するとすぐ返信が来た。
『おやすみなさい』
またも短いがそのメールは私を確かに満足させてくれた。
「……さっきまではもっと話したかったのに、これだけで満足しちゃう私って…………」
スマホを手放し、これだけで満足してしまうチョロい自分に笑ってしまう。
(やっぱり私ってチョロいな……)
しかしさっき感じていた寂しさは消え、幸福感を持ったまま私は至福の眠りに就いた。
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