家に招待された
学校が早く終わったお昼時。
今俺に何が起きているのか分からない。
何故か事故で胸を揉んだ女の子と一緒に彼女の家へ向かっているのだ。
初めて女の子と二人っきりで帰るにも関わらず、俺はまるで死刑判決を待つ罪人の気持ちだ。
「あのー、本当に家にお邪魔していいんですか?」
あまりにも気まずい雰囲気を誤魔化すべく、暗野さんに質問してみたのだが返答が返ってくることは二度と無かった。
おそらくコレは俺を家に連れて行き、助けを呼べなくなったところを家族全員でボコボコにするのだろう。
(けど、仕方ないよなあ……)
ただ、本心では何を考えているのか分からない彼女と何時までかかるか分からない道のりに、俺は相当精神をすり減らしていた。
(いっそ、ここで裁いてくれれば楽なのに)
そんなことを思いながら彼女後ろを付いて行く。
そんな時に小さな異変が起きた。
彼女が大通りではなく、あまり人気のない裏道へ歩いて行ったのだ。
この街は治安は良いが、変質者が全く出ないということは無い。
事実、学校からも不審者や変質者注意という紙が年に何回か配られている。
男ならともかく、か弱くそれも変質者たちの格好の的となっている女子高生が通るのは危険だろう。
とは言っても、今の彼女にとって一番の変質者は後ろを歩いている俺なのだろう。
「あのさ、裏道は危険じゃない? 大通りの方を通らない?」
本人も承知しているだろうが、念のため聞いてみる。
というよりか俺は裏道に入って、暗野さんの連れの方たちにボコられることを一番警戒しているのかもしれない。
ただ、返事は返ってこないだろう。
と、思っていたが予想が外れた。
暗野さんは首を横に振ったのだ。
言葉の返事ではないが、何かしらの反応を見せてくれただけで何故だか心が救われた気がした。
とは言え、彼女は頑なに裏道を通ろうとする。
頑として意見を変えない彼女に、俺は一つ重大な事実に気付いてしまった。
(そうか、大通りだと人気が多いから俺と一緒に歩いているのを他の人たちに見られたくないんだ)
胸を鷲掴みにした男と一緒に居るのを見られたくないという仮説に、俺もそりゃそうだと頷く。
一方、暗野さんは俺のことなど気にかけず先を進んでいるが、拒否権のない俺はただ後ろを付いて行った。
裏道を抜けては、また裏道を通りということを繰り返し20分ほど歩き暗野さんは立ち止まった。
そこは大きなマンションが建ち並ぶ一角、それもひときは高いマンションの前だった。
(俺にこの上から飛び降りろということなのか?)
そんな考えがよぎる。
すると、暗野さんはオートロックの鍵を取り出しエントランスを通っていく。
俺は何も出来ないまま、ただ後ろを歩く。
彼女が突き当たりエレベーターのボタンを押し、ソレが来るのを待つ。
ただ待っているだけかもしれないが、俺の予想が合っていたらと思うと身体から冷や汗がにじみ出る。
心臓を破裂させそうなぐらい鼓動を速くしていると、エレベーターが着いたらしい。
暗野さんが乗り込んだのを見て、俺も慌ててエレベーターに乗り込んだ。
彼女が最上階のボタンを押す。
それを見て更に俺の汗が吹き出た。
一階から最上階へ向かうのにエレベーターと言えどかなりの時間があった。
そんな中でふと気付く。今俺は彼女と密室に二人っきりなのだと。
(俺が怖くないのか? 普通あんなことをしてのに一緒にエレベーターに乗る奴がいるか?)
微かな希望を見出だす中、ふと彼女を心配する。
(いやいや、俺なんかとエレベーターを二人で乗るなんて、人生最低の気分だろう)
そう思い彼女の隣から対角線へと移動した。
(頼む、命だけは、命だけは見逃してくれ……)
最上階に向かうにつれて、俺の生きたいという気持ちはどんどんと大きくなっていた。
チンッと鳴りそれが俺を現実に連れ戻す。どうやら最上階へ着いてしまったらしい。
こうなると覚悟は決まっていた。
エレベーターから降り、歩いて行く彼女へ着いていきながら更に決心を固める。
暗野さんが立ち止まった。自宅へ着いたのだろう。オシャレで高級そうな扉が見えた。
そして、暗野さんが扉を開き彼女の自宅へ入るようジェスチャーをする。
覚悟はさっき決めた。
俺は玄関を潜ると勢いよく土下座をした。
「この度は本当に申し訳ございませんでした!!!」
家の中を響き渡る声量で謝罪する。
時期に暗野さんの家族が来て俺をボコボコにするだろう。
その時にかろうじて命だけは助けて貰おうという魂胆だ。
もちろん、暗野さんにしてしまったことは心の底から反省しているので勘違いをしてもらいたくない。
そんな気持ちが通じたのか暗野さんがまた口を開いた。
ただ、内容は予想外のものだった。
「……何してるの」と
「えっ!?」と腑抜けた声を出してしまった。
しかし、こんなところで止めてられないと謝罪を続ける。
「……そんなこと別に良いから早く中に入って」
一瞬何を言われたのか理解できなかった。
「はい」と返事し中へ進んで行く。
そこには俺の人生で圧倒的一番と言えるほど、綺麗なリビングがあった。
暗野さんが俺をここへ呼んだ意図が全くと言っていいほど分からなくなっていた。
どうして良いのか分からず立ち尽くす俺に、暗野さんは見かねたのか声をかけてきた。
「……その辺に座って待ってて」
「は、はい」
状況が理解出来ないがとりあえず言われた通りにする。
すると、暗野さんが俺に衝撃のことを伝えてきた。
「……今からお昼ご飯作るから少し待っててね」と
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