おかわり
少しの煽り合いを経て二人でキッチンに向かう。
「……ご飯はどれぐらい盛りましょうか?」
「さっきと同じぐらいでお願いします」
俺はキッチンに来たものの彼女がよそってくれているので、ただ見守っているだけだ。
「俺が運ぶよ」
と盛り終わったお皿を持とうとする。
しかし彼女が手を離さなかった。
「……確か日向くんは何も無い場所で躓いてましたよね? ……私は机に引っ掛かっただけですよ? ……それでも運ぶんですか?」
どうやらまた開戦してしまったらしい。
しかし勝敗はすぐについた。
「ぐうの音も出ません」
そこまで言われると何も言い返せなかった。
ここは勝ち誇った表情の彼女に任せて先に席に戻ることにした。
「……お待たせしました」
と彼女はどや顔と共にカレーを運んできた。
「いただきます」
再び手を合わせて食べ始める。
彼女の方はもうご飯を食べ終えているらしい。
少し食べ始めたところで木陰の視線に気づく。
「そんなに見られると食べにくいよ」
すると彼女が笑顔で
「……さっきの仕返しです!」
と嬉しそうに言った。
もうさっきから色々と負け続きだ。
「なんだか凄く楽しそうだね」
それにしても彼女は今まで一番楽しそうにしている。
そこまで煽り勝てたことが嬉しいのだろうか。
「……好きだからですかね」
「えっ!?」
突然の告白に動揺する。
どうやらそれは彼女も同じみたいだ。
「……好きっていうのはこの時間が好きっていう話しでその、告白とかとは違います……」
と彼女は必死に弁明している。
「この時間って?」
いまいち何を指しているのか分からないので彼女の言っている『この時間』というのを知りたくなった。
「…………えっと、日向くんがおかわりしてくれて私がそれを眺めてる時間です……」
と彼女は恥ずかしそうに顔を真っ赤にして言う。
「……私の作った料理を日向くんが本当に美味しそうに食べてくれるんです」
「そうかな?」
彼女はそうですよと頷く。
「……それで私は食べ終わってて、まだ食べてる日向くんをゆっくりと眺めながら、美味しそうに食べる姿を見て、ああ、料理作って良かったなって思う……そんな時間が好きなんです……」
木陰は誰かと食べる幸せを噛みしめながら言う。
その表情はとても幸せそうで楽しそうな笑みを浮かべたそんな顔だ。
「なら、食べてるところを見るな、なんて言えないな」
俺の返答に彼女はニマニマと照れた笑みを見せた。
「……許可が貰えたのでずっと見てられますね」
彼女は本当に俺を見るため椅子を座り直した。
ここまでされたのなら食べないという選択肢は無い。
木陰に見られながらまた食べ進める。
「本当に美味しいよ」
別に忖度した訳ではなく彼女の料理を本心で美味しいと思っている。それを口にした。
それからしばらく食べ進めたが彼女の反応が無かったので顔を上げる。
「……えっ!? ……あ、今その、顔を見られると困ります……その、こんな恥ずかしい顔見せられないです……」
少し目が合ったが彼女が逸らした。
髪の間から見えた耳は真っ赤だ。
「……その、私は日向くんを見てるのに、ワガママ言ってごめんなさい」
相変わらず彼女はうつ向きながら答えた。
しばらくして木陰が何かを決意した表情で顔を上げる。
「……あの、日向くんに料理を食べてもらえて私は幸せ者です……」
それを言い残しまた顔を下げてしまった。
照れた木陰の顔は今まで見た彼女の中でも一番可愛く思えた。
そこから二人に会話は無く俺はカレーを食べ終える。
顔を下げながらでも彼女は俺が食べ終わったことに気付いたらしい。
「……今お皿下げますね」
と木陰が皿を下げようとしたのだが、俺がそれを止める。
「もう一回おかわりしようかな?」
今日の俺は欲張りらしい。
「良いんですか?」
「それを言うのは俺の方かも」
と返すと彼女が手を差し出してきた。
「……その、おかわりなら二人でまた行きましょう」
彼女に手を引かれてキッチンに向かった。
「ごちそうさま。美味しいかったです」
三杯目のカレーを食べ終えさすがに俺の胃袋の限界がきた。
それを聞いて木陰が笑顔を見せながら食べ終えたお皿を運んでくれた。
「……こちらこそいっぱい食べてくれてありがとうございます」
「もう何も入らない」
彼女がフフッと笑い
「……食べ過ぎなんですよ。……でも嬉しかったです」
と言う。
そんな楽しかった夕食はあっという間に時間が過ぎた。
「……日向くん外暗いですけど大丈夫ですか?」
時計を見るともう8時を指していた。
「本当だ。もうそろそろ帰るよ」
夜も遅くなってきたので帰りの支度を始める。
「……こんな時間まで付き合わせてごめんなさい…………」
「いや、楽しかったから気にしないで」
彼女は嬉しそうに
「……ありがとうございます。……私も楽しかったです」
とニマニマと照れながら言った。
そんな話しの間に支度を終えて玄関に向かう。
「今日はごちそうさま。凄く美味しいかったよ」
「……私こそありがとうございます。……その、また作ったら食べてくれますか?」
こんな願ってもみない提案を断る理解が無かった。
「もちろん! そのときは是非とも食べたいな」
彼女が嬉しいそうに
「……絶対また作りますね!」
と言う。
「それじゃあ、月曜日に学校で」
「……はい、また月曜日に会いましょう」
そして玄関を出ると木陰が手を振ってくれたので、俺も手を振り返す。
今回は保健室のときとは違いしっかりと見てくれて、さらにまた手を振り返してくれていた。
そんな彼女に見送られて長くて短い夕食は終わりを迎えた。
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