買い物と買い食い
教室に授業終了のチャイムが鳴り響いた。
「授業は終わるがこのままホームルーム始めるぞ」
青木先生がそう告げる。
「よーし、報告することは何かあったか」
そう言いながら書類をペラペラと捲っていた。
すると一枚の書類に手を止めた。
「最近、女子高生をナンパしてくる不審者がちらほら出てきているらしい。くれぐれも女子諸君は注意してくれ。出会ったら大声出して逃げるなりしろよ」
先生の呼び掛けに女子生徒が返事をする。
「まあ、こんなぐらいか。後は新学年初めての休日だからって浮かれるなよ」
以上で先生の話は終わり解散となった。
木陰との約束があるが待ち合わせを決めていなかったので、どうするかを彼女に確認する。
二人の関係性を他の人にバレないようにメールを送った。
すると彼女は大胆にも耳元で俺にだけ聞こえるよう
「……日向くんと前に待ち合わせしたところで待ってる」
と囁いた。
あまりに急な出来事に戸惑う。
一人の男子高校生として耳元でこんなことを囁かれると、思わず心臓も高鳴ってしまった。
彼女の方は伝えるだけ伝えた後、教室を急ぎ足でで出ていってしまった。
ふと見えた耳が赤く染まっているようにも見えたが、一瞬の出来事だったため、俺の希望的な妄想かもしれないと思い忘れることにした。
「おーい、日向帰ろうぜ……ってお前なんか顔赤くね?」
俺の斜め前席の秋人が振り返り話しかけてきた。
「えっ? あ、暑かったからかな」
咄嗟に適当な嘘で誤魔化した。
「帰りだけど予定あるから、悪いまた今度で」
そう言い残し俺は木陰を追いかけるよう急ぎ足で教室を出た。
取り残された秋人は「なんか最近アイツ付き合い悪くね?」と、となりの美冬に尋ねた。
「そう? 私たちに気を使ってくれてるんじゃない? 日向に甘えて二人で帰ろうよ」
了解と返事しながらも秋人は「そんな奴か?」と疑問を持ちながら家へ帰ることにした。
◇◆◇◆◇◆
「待たせてごめん」
木陰を追いかけて急いで来たものの、慣れない土地で少し遠回りをしてしまったらしく少しだが彼女を待たせてしまった。
「……ううん、全然待ってないよ」
彼女は「それに」と付け足して話し始める。
「……私のせいで授業中に迷惑掛けたし、急にご飯にも誘ったし謝るなら私です。……ごめんなさい」
と彼女は深々と頭を下げた。
俺は彼女がこれ以上引きずらないようにと注意しながら言葉を選んで返す。
「えーと、ご飯のお誘いは大歓迎だし、授業中のは俺も悪いし、それにこの後美味しいご飯食べられるから全然オーケーということで」
それを聞いた彼女はさっきまでの暗い顔から明るい顔へと変わっていた。
「……腕によりをかけて作らせていただきます!」
彼女が晴れやかな笑顔で言う。
そんな眩しい表情でさっきまでの出来事を引きずることはないと安心した。
「……あの、この後買い出ししないといけないんですけど……付き合ってくれますか……?」
彼女はまた気まずそうに言っていたが断る理由は無かった。
「もちろん!」
そう返事すると彼女は嬉しそうに
「……ありがとうございます……一緒に行きましょう……!」
と言って歩き始めた。
二人でいつもとは違う道を歩いていた。
しばらくすると彼女が立ち止まり「……ここです」とスーパーを指差し入って行った。
俺も置いていかれないようにと付いて行く。
彼女がカートを押していたので入れ替わり俺が押す。
「……ありがとうございます」
と彼女から感謝をもらい二人で店の中を歩く。
「……今日はカレーにしようと思っているんですが、日向くんは辛いの平気ですか?」
「平気だよ、木陰は?」
学校ではないので二人して名前で呼び合う。
「……私は全然大丈夫です。むしろ激辛もいけます……!」
と彼女はかなり意気込んでいた。
「激辛はちょっと無理かな……」
そんな会話をしながら二人で店の中を回る。
木陰はサラダを作るのか野菜を多く買っていた。
「……あの、お肉なんですけど、近くに行きつけの精肉店があるのでそこで買います」
「了解」
その後少し店の中を回りレジへ向かう。
「会計どうしようか?」
俺が木陰に尋ねる。俺も食べるのに全部の支払いを彼女にさせるのは心苦しいからだ。
幸い一年生の頃にバイトをしていたので少しは懐に余裕があった。
「……そうですね。私が払います」
どうやら彼女は自分で払う気だ。
「いやでも、俺も食べるし申し訳ないよ」
彼女は少し沈黙して考えていた。
「……なら今度何か奢ってもらいます」
「分かった、その時は任せて」
彼女の提案に乗ることにし無事に会計を済ませた。
そしてそのままの足で精肉店へ向かう。
「荷物俺が持つよ」
「……良いんですか?」
袋詰めした後、荷物を渡されると思っていたが彼女がそのまま持っていたので荷物を受け取った。
「……ありがとうございます」
少し歩くと彼女言っていた精肉店に着いた。
「……あの、コレとコレお願いします」
と彼女はガラスケースの肉を指差し注文する。
しかし店主は彼女を見て固まってしまった。
「あのどうかしましたか?」
居たたまれない時間が流れたので店主に俺が質問する。
「母さん来てくれ、速く速く」
どうやら俺の質問は無視されたらしい。
すると店の奥からこの人の妻らしき人が出てきた。
「なんだい、急に呼び足し──」
とまたも木陰を見て固まってしまった。
二人で不思議がっていると店主の方が口を開いた。
「そうか、この子に彼氏ができるなんてね」
あまりに突拍子の無いことに二人で驚く。
「……彼氏じゃなくて友達です」
と木陰が訂正した。
顔を見ると少し赤くなっているように思える。
「そうかい、でもめでたいことには変わりないね」
何が何だか分からず、目の前で起きている出来事に思わず首をかしげる。
それを見かねたのか、ようやく事情を説明してくれた。
「その子ずっと一人でここに来ては暗い顔で買い物してたからさ、誰かとそれもこんなに明るい顔で来てくれたのが嬉しくてね」
なるほど、それならさっき店の二人が木陰を見て驚いたことも説明がつく。
「……そのすみませんでした」
と彼女が店の二人に謝罪する。
「良いの良いの、あと男の子くん」
「は、はい」
急に呼ばれて変な返事をする。
「その子とこれからも仲良くしてやってね」
と保護者のようなことを言われた。
「もちろんです!」
それを聞いて後、店主の方が木陰の注文したものを袋詰めし渡している。
「あと、これサービスね」
その店主の奥さんからコロッケを頂いた。
買い物が終わったので二人で家へ向かって歩き始める。
「……さっきはごめんなさい」
彼女はまた謝罪していた。
「別に気にしてないよ。それにコロッケサービスしてもらったし食べようよ」
それを聞いた彼女は「……ありがとうございます」と頷いた後、袋からコロッケを取り出して手渡してくれた。
「学校帰りに買い食いはなかなか罪深いな」
手渡してもらったコロッケを見て呟く。
実際に買った訳ではないがだいたいあっているのでよしとしよう。
「……そうですね……それも晩御飯前に揚げ物です……これはかなり罪を重ねてます……」
彼女は意外にも乗って来てくれた。
そして二人でコロッケを食べる。
「「美味しい」」
揚げたてということもありより一層美味しく感じた。
すると彼女がフフッと笑い
「……これで共犯ですね」
と微笑みながら呟いた。
そんな彼女の小悪魔的な笑顔に見とれてしまう。
「……でもこれよりも美味しいものを後でたくさん食べさせてあげますね」
と彼女はさっきよりもより笑顔で言っていた。
「凄く楽しみにしとくよ」
と返事をすると「……任せてください!」と言って楽しそうに家へ向かって歩き始めた。
◇◆◇◆◇◆
面白いと思った方、続きが気になると思った方は
下の☆☆☆☆☆を★★★★★にしてもらえると、作者が踊り狂い更新頻度が上がります!!!
(っ'ヮ'c)ウォッヒョョョオアアァァァ!←こんな感じに
それとブックマークもお願いします!!!!!