不思議な関係
電話で話した待ち合わせの場所へ向かった。
どうやら暗野さんは先に着付いていたみたいだ。
「待たせてごめん」
俺が申し訳なさそうに言うと暗野さんは
「……全然待ってないです。……それに誘ったのは私ですから、来てくれてありがとうございます!」
そして──
「……一緒に帰りましょう」
と言って家へ向かい始める。
そんな言葉に少しドキドキしてしまった。
暗野さんが前を歩き、俺が後ろから付いて行く。
昨日とほとんど同じだ。
しかし、一つだけ違うことがあった。
それは昨日と違い少し歩く度に暗野さんが後ろを確認してくれるのだが、その確認の仕方に違いがあった。
何故かカバンで顔を隠しながら俺が後ろに居るのかを確認している。
「あの、なんで顔隠してるの?」
明らかに変な行動をしているので、暗野さんに尋ねる。
それを聞いた彼女は分かりやすく動揺していた。
「……えっと、……あの、その……」
しばらく悩んで彼女は答えてくれた。
「……鏡見ないで前髪を切ったから恥ずかしくて……」
彼女は耳を真っ赤にしてカバンを顔に当てながら言った。
残念に思ったが彼女が隠すのなら仕方ないだろう。
「……そんなに見たいんですか?」
まるで心の中を見透かされたように言われた。
「えっ? あ、えーと」
思わず動揺してしまう。
「……あの、顔に出てましたよ……」
「嘘っ?」
俺も慌ててカバンで顔を隠す。
これでお互いにカバンで顔を隠し向き合っている。
人気の無い裏道なので見られることは無いが、客観的に見たら変な二人だ。
すると彼女は──
「……前髪を整えたら何回だって見せてあげますよ」
と言った。
顔が見えないのでどんな表情か分からないが、そう言って彼女は楽しそうに走って行った。
◇◆◇◆◇◆
お互いに顔を隠しながらなんとか暗野さんの家に着いた。
「お邪魔します」
家に入るなり暗野さんが
「……先にリビングのソファーに座ってて」
と言い残し洗面所に向かった。
しばらく待つこと数分、彼女が遅れてリビングに入って来る。
「……お待たせしてすみません」
前髪を整えたらしくもうカバンで隠していなかった。
そばかすは見えているが、目元はまだ隠れている感じだ。
「……今からご飯作りますね」
そう言い彼女はキッチンに向かう。
俺は特にする事がなく待つだけだったので、暗野さんの料理している様子を見に行った。
そして彼女の料理姿をボーッと眺めていると
「……あの、あまり見ないでください……その、料理してるところ見られるのはまだ恥ずかしくて……」
「あ、そのごめん」
慌てて視線を外す。
もし手元が狂えば大惨事だ。
すると暗野さんが
「……料理のできる女性は好き……ですか?」
と質問してきた。
急な質問に返答を迷う。
(素直に言うべきか言わないべきか)
答えは『はい』だ。
しかしそれを今料理している彼女に言うのか、そんな葛藤が生まれた。
「料理のできる女性は……とても良いと思います……」
最後に口ごもり『好きですか?』と聞かれた質問を好きか嫌いかで返答できなかった。
「……それは良かったです…………」
暗野さんはあまりにも小さい一人言を呟いた。
何かを言っていたみたいだが、俺には声が小さすぎて聞こえなかった。
しばらくして料理のおおよそができたらしい。
「……後はオーブンで焼くだけです」
彼女の料理姿は途中まで見ていたが、何の料理をしていたのか俺には分からなかった。
「俺も食器運びとか手伝うよ」
彼女が料理を要領よくこなしていたので何もできないかったが、それぐらいなら手伝えるとキッチンへ向かう。
「……危ないから平気ですよ。……それにやることはほぼ終わっていますから」
そう言って彼女はキッチンから出てきた。
エプロンも外して本当に料理は終わっているらしい。
キッチンから出てきた彼女とキッチンへ向かった俺が向き合う。
その瞬間────
俺は躓き暗野さんの胸へ顔からダイブ
顔いっぱいに柔らかいものが俺を包み込む。
「あ、あのごめんなさ──」
俺が謝ろうとすると
「お怪我はないですか!?」
と真っ先に俺の身を案じてくれた。
「暗野さんのおかげで大丈夫です」
そう答える。
「……そうですか、良かっです………………なら早く私の胸に顔を埋めるのを止めてください……」
彼女顔を真っ赤にしながら言った。
そんな当たり前のことを言われて気づく。
慌てて崩れた体勢を立て直し離れる。
「ごめんなさい!」
一生懸命謝る。
まるで昨日の再来だ。
しかし違うのは
「…………今回は私は悪くなくて、成田くんが100%悪いですから」
全くもってその通りだ。
「ごめんなさい」
俺はできなかった謝罪をする。
すると暗野さんはまた聞こえないぐらい小声で
「……大丈夫です。いつか責任とってもらいますから……」
「えっ、今なんて?」
聞き返すと彼女はまたさらに顔を赤らめた。
「……今のは聞かなくて良いです!」
照れながら彼女ははっきりと断言する。
どうやら一人言だったらしい。
残念ながら俺にはなんて言ったか分かることはなかった。
「……しょうがないですね。今回だけは許して──」
すると彼女は話を途中で止めてしまった。
そして何かを思い付いたのかいたずらな笑顔を浮かべた。
そんな見たことのない表情にドキッとしてしまう。
「……もし私がこのまま先生にチクったら成田くんは殺されちゃいますね……」
彼女は明るい顔で話し、俺は暗い顔で受け答えする。
「そうですね……」
今日の朝のときに同意なく胸を触った奴が居るなら殺すと言っていた。
きっとそのことだろう。
「……つまり、成田くんは私の命令を絶対になんでも従わないといけないですよね?」
「はい……」
暗野さんは小悪魔のように笑っている。
「……なら私のことを暗野さんではなく、下の名前で木陰と呼んでください」
それが彼女の命令だった。
「ええと、暗野さんではなく、木陰…………さん」
気恥ずかしさから『さん』を付けてしまう。
「……呼び捨てでお願いします」
またも命令が届く。
ただ俺は従うしかない。
「……木陰、これで良いかな?」
彼女は顔を赤らめながら「はい」と答えた。
「……じゃあ成田くん、私はもうすぐご飯がてきるのでキッチンに……」
俺はキッチンに行こうとした木陰を止めた。
「待って! 暗…………木陰もさ俺のこと『成田さん』じゃなくて『日向』って呼ばない?」
それを聞いた彼女は驚いていた。
「……良いんですか?」
どうやら迷っているらしい。
「もちろん!」
そう返事すると彼女はうつ向きながら
「……あの、成…………日向…………くん」
詰まりながらも名前で呼んでくれた。
「木陰も『くん』付けしなくて良いよ」
俺がそう言うと彼女は首を横に振った。
「……まだ、まだダメです。……いつか、いつかそう呼ばせてもらいますね。……日向くん」
照れながら名前を呼んでくれたことが嬉しかった。
「うん、そのときを楽しみにしてるよ」
木陰は「うん」と頷いてくれた。
すると彼女は
「……でもこんな呼び方学校ではできませんね……」
それもそうだ。
こんなに親しく呼び合う関係がバレるのはマズイ。
だから
「二人のときだけにしようか」
と提案する。
彼女も頷いてくれた。
「……でも絶対に二人のときは木陰と呼んでくださいね」
彼女はうつ向きながら顔を赤らめて言う。
「もちろん! 約束!」
俺はそう言って小指を木陰の前に出す。
彼女は困惑しているらしい。
「指切りしたことある?」
「……ないです」
今までで指切りをしたことがないらしい。
「こうやってするんだよ」
俺が率先して小指を絡めた。
そして指切りの歌を歌う。
「指切った!」
最後まで歌いきると
「これで良いんですか?」
と聞いてきた。
「良いと思うよ」
そう答えると
「……約束は絶対ですからね! ……本当に針千本飲ませますからね!」
彼女は楽しそうに残虐なことを言っている。
彼女が笑顔で言っているので良いかと思っていると──
キッチンからご飯ができた音が鳴った。
「……それじゃあご飯にしましょうか、日向くん!」
そう言い残し彼女はキッチンへ向かった
◇◆◇◆◇◆
俺はこぼすと危ないからと座っててと指示された。
そこに木陰が料理を運んでくる。
今日は
ミートドリアとポトフらしい。
「美味しそうだね」
俺がそう言うと彼女は
「……その、品数が少なくてごめんなさい」
と謝りながら言う。
「そんなこと気にならないぐらい美味しそうだよ」
と返すと彼女は喜んでくれた。
「……それじゃあ、食べましょう……」
その言葉で俺は手を合わす。
二人でタイミングを確認する。
「「いただきます」」
そうして二人で食べ始めた。
まずはポトフから口に入れた。
「美味しい!」
俺が料理の感想を言うと彼女はとても喜んでくれた。
すると木陰はカバンから取り出していた弁当箱を開ける。
中身が残っていたので、昼は食べなかったらしい。
「それは?」
「……お昼にいろいろあって食べられなかったんです」
彼女はお弁当を少しずつ食べていた。
それを見てると俺も食べたくなってしまう。
「あの、俺もそれ食べて良いかな?」
聞いてみると簡単に許可が下りた。
なのでまずは王道の卵焼きからいただく。
「ん、美味しい!」
ただの卵焼きではなくだし巻き卵だった。
そんな俺を見て木陰も嬉しそうに笑顔で返してくれた。
昨日とは違い、二人で笑いながら食卓を囲んでいた。
「……私不思議に思うんです」
彼女が急にそんなことを言ってきた。
俺が「なにが?」と返す。
「……最初のあんな出会いからこんな関係になれるとは思っていませんでしたから」
これには俺も同意だ。
本当に不思議な関係だ。
最悪の出会い方をした。
でも実際に今ここで二人で楽しくご飯を食べている。
「そうだね。でもまだ出会って二日だし、これからもっと仲良くなれるんじゃない?」
そう言うと彼女は驚いて、それでも嬉しそうに
「……あの、末永くよろしくお願いします」
と言った。
なので俺も前と同じく
「うん、末永くよろしく」
と返す。
そして二人で笑い合った。
こんな雰囲気な関係がずっと長く続くようにと。
ふと思う。
もし、こんな最悪な出会いから始まったこの二人の不思議な関係を誰かに伝えるなら、俺はきっとこう答えるだろう────
『根暗なクラスメイトの胸を間違って揉んだら、いつの間にか胃袋を掴まれていました!』と
これで一章完結です!
またいつの日か二章で会いましょう。
面白いと思った方、続きが気になると思った方は
下の☆☆☆☆☆を★★★★★にしてもらえると、作者が踊り狂い更新頻度が上がります!!!
(っ'ヮ'c)ウォッヒョョョオアアァァァ!←こんな感じに
それとブックマークもお願いします!!!!!