問題解決と電話
「私はこの顔を恥ずかしいと思ってない!」
そう私が宣言し、前髪を切るとさっきまで騒がしかった教室が静かになった。
みんなが私の顔を注目していた。
その中で先生は私の行動を見て嬉しそうな顔をしていた。
昼休みのときの私とは違う、前向きな姿を見てそう思ってくれたのだろう。
「だから、だから何になるの!」
そう凄い剣幕で言ったのは坂本美優と呼ばれる女子だ。
そして彼女は続ける。
「別にお前が髪を切ろうと、お前が盗んだ可能性は消えないの!」
確かに彼女の言い分は正しい。
例え髪を切ろうと私が犯人候補からは消えない。
しかし私の見せたかったものはそんな事ではなく、彼に誉められたこの特別な物を誇りたかったからだ。
その信念は通せたと思う。
そして立ち向かえた自分が嬉しかった。
けれど今のパフォーマンスに何の進展性もない。
事態はまた膠着するかと思われたが、意外にもそうはならなかった。
坂本と呼ばれる女子が話終えた後の少しの間沈黙が訪れる。
しかし、小川緑子が沈黙を破った。
「先生、さっきから思っていたのですが、その教卓に乗っているお金に偽物が混じっていますよ」
彼女は挙手し意見を述べた。
それを聞き、青木先生が教卓のお金を確認し始める。
そのお札があったのは坂本と呼ばれる女子の方だ。
「確かに、コレは偽物だな。しかしなんで偽物なんて」
先生が手に持っていたのは、数字が本物よりも遥かに多く書かれた偽物だった。
すると───
「「あーー!それって!!」」
勢い良く、日向と美冬が食いついた。
唐突な事態に困惑する教室。
しかしそれに動じることなく、美冬の方が歩いて来てその偽物の確認をし始めた。
「先生これ! 私のです!」
彼女はそう宣言した。
◇◆◇◆◇◆
つまり彼女言い分はこうだった。
この偽物は弟から貰った大切な物であり、これを持っていた坂本さんがお金を盗んだ犯人だと言うことらしい。
それもずっと持っていたので見間違うはずはないと言う。
「確かに、お前の言い分があってるならそうなるだろうな。でもお前の持ち物って証明できるか?」
先生は冷静に扱う。
それを前田さんも見越していたのか、成田くんと斎藤くんに声をかけていた。
「ちょうど昼にこのお札二人が見てます! それに一年の頃の友達に聞けば皆私がコレ持ってったと言ってくれますよ!」
声を掛けられた二人も頷く。
「なるほど。確かにコレは信頼できそうだな?」
そう振り向きながら坂本美優に先生は尋ねていた。
しかし、彼女は何も言うことはなく沈黙を通す。
するとまたクラスから手が上がった。
「あの私の財布はみつ折りで、暗野さんのお札は折れてないからたぶん違うと思います」
「私もそうです」
ポツポツと続く者が現れた。
「なに!? 私を犯人にする気!?」
どうやら彼女は徹底抗戦の構えだ。
「分かった。なら今の話を持って警察へ行こう。それで白黒はっきりするだろ」
先生はそう言いスマホを取り出し電話を掛けようする。
それを見た坂本さんの顔色がみるみる変わっていく。
「まっ、待って!」
彼女は耐えられなくなったのか先生を止めた。
「嫌なら、今から私と指導室に来てもらう」
坂本さんは小さく頷き先生と歩いて行く。
こうして私の無実は一応証明された。
先生は扉の前で立ち止まり、この後の指示を行う。
「この後はプリントを読んで説明するつまらんヤツだ。お前らにもできるから緑子と三バカに任せる」
それともう一つ思い出したかのように続ける。
「あ、あと補佐二人で教卓周りの掃除もしておいてくれ」
それを言い残して先生と坂本さんは去って行った。
◇◆◇◆◇◆
一つの事態が解決すると俺は青木先生から面倒を押し付けられた。
仕方ないので、前の席に居る秋人と掃除道具を持って教卓へ行き掃除を始める。
すると、暗野さんが手伝うと言い始めた。
「私がやった事なので、私がやります」
秋人かそれを聞いて掃除道具を渡した。
「んじゃ、よろしく」
渡すなりすぐに席へ帰って行った。
なので、二人で掃除をする。
和葵と緑子は二人でプリントを説明しながら読んでいた。
すると、その裏でみんなに聞こえないように暗野さんが呟く。
「……成田くんのおかげで、私は立ち向かえました……」
俺も同じように彼女にだけ聞こえるように返す。
「全部暗野さんが頑張ったんだよ」
本人にとって俺の言葉がどう影響したかは分からないが、コンプレックスだった物を誇れるのなら、それは彼女の成長だろう。
俺の言葉を聞いた暗野さんは────
「ありがとう」と微笑んだ。
彼女の笑顔の破壊力に思わず目を逸らす。
そして掃除を急いで終わらせ席に戻る。
どうやらプリントでの説明も滞りなく進んだらしい。
授業終了のチャイムが鳴った。
「どうなんや、コレってもう解散でええんか?」
先生不在のこの状況に和葵が緑子含めクラスに尋ねる。
しかし、みんなもどうするべきか分からなかった。
すると教室の扉が開いて、青木先生だけが帰って来た。
「はい、終わりの挨拶するぞ」
何事もなかったかのように振る舞う先生にみんなは戸惑いを隠せないが、言われたまま挨拶をした。
「財布のお金のことだが今私に報告しに来い」
その言葉を聞いて女子たちが先生の前に並ぶ。
いろいろなことがあったが今日の授業はこれで終わった。
◇◆◇◆◇◆
放課後、購買部に予定があり立ち寄ったが残念ながら閉まっていた。
仕方ないので帰ることにしたが、喉が渇いたので学校内の自販機に立ち寄る。
すると声を掛けられた。
「よう、日向」
青木先生だ。どうやらもう生徒の報告を終らせてここに来たらしい。
「お疲れ様です」
そう言って自販機に向かったが、先生に回り込まれてしまった。
「私が奢ってやるよ」
先生はお金を先に入れて、俺に選択権をくれた。
さっきまであんなことがあったにも関わらず先生の機嫌は良さそうだった。
今回は先生のご厚意に甘えさせてもらう。
「ほーう、コーヒーの微糖か。まだまだあまちゃんだな」
人が選んだものに勢い良く横やりを入れてくる。
「別にいいでしょ。あ、いただきます」
喉が乾いていたので、それだけ伝えコーヒーを飲む。
「お前保健室で暗野と何があったんだ?」
むせた。
それに先生が知っていたことに驚く。
「何にもないですよ」
そう伝えても先生は懐疑的な目を向けてくる。
「アイツは一年の頃はずっと一人か、今日の美優みたいなのが寄って来てたからな。お前が暗野と仲良くしてくれるなら私は嬉しい」
そう言って先生はコーヒーの無糖を飲み始める。
「任せてくださいよ。暗野さんとはと──」
タイミング悪くスマホが鳴った
誰かからの電話だ。
「出て良いぞ」
先生が許可をくれたのでスマホを取り出す。
すると先生も電話の相手が気になるのか、俺のスマホを覗き見してきた。
着信相手は暗野木陰だった。
噂をしていただけに二人で戸惑う。
しかし待たせてられないので意を決して電話に出る。
「もしもし、成田です」
『……暗野です。……今良いですか?』
先生に確認も取っていたので「大丈夫」と伝える。
しかし先生は俺のスマホの反対側に耳を当てて、電話の内容を盗み聞きしようとしていた。
スマホを遠ざけ「なにやってるんですか!」と伝えると「すまない、すまない」とへらへらしながら返ってきた。
するとその会話が暗野さんに聞こえてたらしい。
『…………成田くんって彼女居たんですか……………?』
心なしか悲しそうな声がする。
「えっ? 彼女!?」
予想だにしない出来事に思わず声が上ずる。
かなりリアルな反応になってしまった。
俺のしどろもどろな説明に先生が「面白いことになったな」と笑い俺のスマホを奪って電話に出た。
「暗野、青木だ。お前の担任だ」
◇◆◇◆◇◆
今日のお礼をしようと、私は意を決して成田くんに電話をした。
しかしその後ろから女の声がしてきた。
私の心が深く傷つく。
(なんで気付かなかったんだろう。成田くんってモテそうだし)
一人悲しみに暮れていると、電話が女性の方に代わった。
『暗野、青木だ。お前の担任だ』
簡潔に、それでいて私の欲しい情報をくれた。
心の憑き物が一瞬で消え、心の底から安堵する。
『お前とも少し話したい。今良いか?』
「……はい、大丈夫です」
本当は成田くんと話したかったがまあ良しと思おう。
『まずは、おめでとうか』
昼休みの出来事を考えて言ってくれたのだろう。
「……はい、ありがとうございます」
昼休みのときとは違う自分になれた。
だから胸を張って言える。
『だったら私が昼に聞いたことも答えが変わるな?』
────新しいクラスは楽しめそうか?
このことを聞いているのだろう。
あのときの私とは違う。だから答えも変わってくる。
「……はい! ……私の人生で一番楽しいクラスになると思います!」
それを聞いて先生は嬉しそうに笑ってくれた。
『なら一つお前に良いことを教えてやる』
なんだろう? と思い身構える。
『成田は、彼女居ない歴=年齢だ』
電話の奥から「なんてこと言ってるんですか!」と声が聞こえてきたが今はそれどころではなかった。
──私が成田くんの初めての彼女になれる。
今はその可能性のことで頭がいっぱいだ。
「……はい! ……絶対に射止めて見せます!!」
今の私は先生にそんな返事をしてしまう程に動揺と興奮が混じっている。
すると先生は笑って『頑張れよ』と言った後、成田くんに電話を代わってくれた。
『もしもし、成田です』
普段ならこんなこと言えないが、今の勢いなら言える。
「……あの、この後! ……お礼がしたいので私の家でご飯食べてくれませんか?」
神に祈りながら返事を待つ。
ほんの一瞬が永遠のように感じられた。
『喜んで行かせてもらいます!』
そんな返事が返ってきて私は思わず嬉し泣きした。
◇◆◇◆◇◆
「いったい何のお誘いだ?」
私はそう甘い電話をしていた日向に問いかける。
「言うわけないでしょ!」
それはごもっともだ。
それよりも今はずっと一人だった彼女の前に現れた救世主に感謝しておこう。
「ほら、私なんか気にせず暗野のところに行ってやれ」
相変わらず分かりやすい奴だ。見るからに動揺している。
カバンを掛け直し、急ぎ足で向かおうとする日向に一つ聞く。
「なあ日向、暗野とどういう関係だ?」
すると少し悩んで答えてくれた。
「大切な『友達』ですかね!」
(先は案外長いのか短いのやら……)
そう答えて救世主は走り去って行った。
◇◆◇◆◇◆
次回で一章完結です!
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