そばかす
先生から語られた事実に沈黙が起きる。
「女子の着替えた教室でお金が取られている。着替え終わったあと皆が居ないタイミングで取ったんだろうな」
女子は沈黙し、男子はざわついていた。
「女子は前の席にカバンを持って座れ。男子は後ろの席に行っててくれ」
そう青木先生が指示をだす。
みんな言われるまま動き出した。
「おい、コレどうなるんだ」
小声で俺に聞いてきたのは秋人だ。
「俺も分かんねえよ。とりあえず後ろ行こうぜ」
指示の通りに女子が前、男子が後ろ別れた。
それを確認して指示をだす。
「女子は自分の財布をもう一度確認してくれ」
皆が先生に従い確認し始める。
すると、何人かの女子から声が上がった。
「私、たぶん盗られてます」
「私も」
「私もです」
どうやら被害の人数はかなり多いらしい。
「今言い出せば半殺しで許してやるが?」
先生は怒りの感情がかなり出てきているみたいだ。
しかし、沈黙が起きるだけだった。
「分かった、私が前から各自の持ち物をチェックしていく。犯人か分からないが、お金を多く持っている者を悪いが候補にする」
そう言って前からチェックを始めた。
一人、一人と先生がカバン、財布、ポケットを確認して回る。
時間が掛かったが、これで候補が分かったらしい。
「坂本美優と暗野木陰は教卓に荷物全部を持ってこい」
先生は二人にそう告げた。
◇◆◇◆◇◆
どうやらこの二人は所持金が飛び抜けて高かったらしい。
「何か言うことはあるか?」
前に立たされた二人に先生が問う。
先に口を開いたのは坂本美優と呼ばれる女子だ。
また今日の委員長を決めている最中に、遅刻してきた人でもある。
「私を疑うの酷くないですか? 先生って見た目で人を判断してるでしょ」
確かに彼女の言うことは一理ある。
しかし、まさしく不良少女に見える彼女は多少は仕方ないのかもしれない。
「お前の財布にお金がたくさん入ってたからだ」
先生は感情云々よりも証拠を突きつける。
机に置かれた財布からは合計で九万のお金が出てきた。
「誰かが私に濡れ衣を着せるために入れたんじゃないんですか?」
先生に楯突くように言っている。
「その可能性も十分あるが、今はこの話は後にしよう」
そして先生は続ける。
「こんなにお金を入れて何に使うんだ? 使わない分は置いていても良いだろ?」
用途を聞き出すらしい。
「何って年頃の女の子にはお金が必要なんですよ。いろいろと」
明確な意図は無いかもしれないが、彼女の方はあやふやな答えだ。
坂本への話が終わり次の容疑者に質問をする。
もう一人は暗野木陰だ。
◇◆◇◆◇◆
私は今、教卓の前に立たされていた。
「暗野、お前は何故こんなにお金を入れていた?」
そう先生に聞かれる。
私の財布から五万円が出てきた。
でも私は絶対にやっていない。
だから堂々と答えれば良いだけ、そう自分に言い聞かしはっきりと答える。
「……私は家の食費の管理をしています。……その財布を持ち運んでいただけです。……放課後に買い出しをしようと思って……」
私は嘘偽り無く答えた。
昼休みのときにも、この財布とお金は一度先生に見せている。
だから私は冷静で居られた。
「なるほどな」
先生は短く答えた。
するととなりに立っていた金髪の少女が私に何か言ってきた。
「先生、私こんな奴と同じ扱いされてるのあり得ないんですけど」
明らかに私を見下して言っていた。
この感じは過去に何度も体験したことがあった。
一年の頃、私をいじめていた人たちと同じ感じだ。
「先生はこんな奴の話を信じるですか? 今の聞いてたでしょ。口ごもるなんて後ろめたいことが有るからじゃないんですか?」
彼女は私と違いどんどん自分の思うことが言えるみたいだ。
「……私は盗っていません」
もう一度言いきる。
しかし────
「聞きました。先生今の。明らかにどもってたでしょ。後ろめたいことが有るからでしょ」
私の話し方を指摘された。
この話し方は昔からずっと変わっていない。
「……違います」
必死に反論する。
「えっ? なんて聞こえなーーい」
確かに声は小さいがこの距離なら聞こえているはずだ。
しかし、彼女は何度も聞き返してくる。
「もっとはっきりと言ってよ。もしかして、後ろめたいことが有るからはっきりと言えないの?」
私をバカにするかのように言う。
「……違います」
「えっ、聞こえなーーーい。もっとハキハキ喋ってよ」
私の声が聞こえているにも関わらず、彼女は私に何度も聞き返してきた。
「美優、止めろ」
先生の静止が入る。
先生の声は聞こえたのか、素直に聞き入れていた。
「いやー、アレがブツブツ話すから聞き取れなくて。でも仕方ないでしょ。だってはっきりと言わないアレが悪いから」
そう悪びれず先生に言っていた。
「アレと呼ぶのは止めろ。名前で呼ぶなり他の言い方があるだろ」
そう先生が言うと彼女はさらに悪い笑みを浮かべた。
「先生コイツの名前知ってます?」
何を考えているのか、そんなことを先生に尋ねた。
「暗野木陰だが? それがどうした」
「あーあー、そっちはどうでも良いんですよ」
そう言い私を見つめて来た。
この目は、この目は私をいじめていた人たちと同じ目だ。
「先生、コレには『ゴミ付き』ってあだ名があるんですよ」
そんな彼女の発言を聞いて、静かだったクラスがざわつき始めた。
「なんでだと思います? 知らない皆のために親切な私が教えてあげるね」
そう言って私の前髪を触ろうとしてきた。
咄嗟に手を弾く。
「せっかくこの私が触ってやろうと思ったのにこんな対応は酷いなあ」
弾かれた手をわざとらしく痛いフリをしていた。
「でもしょうがないよね。見せたくないもんね。そんな酷い『ゴミ』の付いた顔なんて」
そんな発言を聞いてクラスがさらにざわついた。
「コイツの素顔そばかすまみれなの知ってた? だからコレは『ゴミ付き』って呼ばれてるんだよ」
「止めろ!」
先生が今までにないぐらいに強く止めに入った。
「ただの愛のあるいじりですよ」
さらに彼女は続ける。
「あー! 分かった! 皆のお金を盗ったのは整形するためか。しょうがないよね、そんな顔じゃ恥ずかしくて前髪も切れないよね」
そう言って彼女は私の近くまで来て囁く。
「お前友達居ないだろ。この私が友達になってやるから、今ここで『私が盗みました』って言えよ」
私に『友達になってやるから嘘の自白をしろ』と持ちかけてきた。
しかし彼女が私の近くに来たことに焦った先生が無理やり彼女を引き離した。
羽交い締め状態だ。
「美優、お前私の前でよくもこんなことをしてくれたな。これは立派ないじめだぞ」
押さえつけながら先生は言う。
「違うよね。私たち友達だもんね? だから『ゴミ付き』も愛称なんだよね?」
と、私に頷けとアイコンタクトを送ってくる。
私は彼女から過去のいじめられていた恐怖を思い出し、ただ茫然と立ち尽くしていた。
そんな恐怖が徐々に身体を支配し始める。
身体が固まり、恐怖が支配した時に彼の言葉を思い出した。
『星空みたいで素敵だと思ったんだ』
その言葉が私を恐怖から解き放ってくれた。
「……あなたとは友達ではないです」
そう伝えると彼女は暴れした。
「今ならまだ間に合うよ」
彼女はそう私にしか伝わらないことを言う。
今なら許してやると、友達になってやると。
でも、私にはもうとびきり最高の友達が居る。
だからこそ彼の前で宣言したかった。
素敵と言ってくれた顔を、恥ずかしい顔と思われたくなかった。
だから私はカバンからハサミを取り出した。
すると先生は勘違いしたのか必死に私を止める。
「私はこの顔を恥ずかしいと思ってない!」
そう私は強く宣言し、前髪をハサミで切った。
ずっと昔から、このそばかすが嫌いだった。でも今は違う。
素敵だと言ってくれた人が居る。
だからもう隠して生きる必要は無い。
私はこの私を受け入れる。
ハサミを通した前髪は切れ落ち、私のそばかすを隠すものが何一つなかった。
これが本当の私だ。私はそう皆に宣言した。
◇◆◇◆◇◆
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