ベストパートナー
お互いに握手しあったままだった。
するとそこに声が聞こえてきた。
「ふ~、吸った吸った」
慌てて手を離す。
そう言って保険の先生が帰って来た。
「なんだお前らコレ本当に使わなかったのか」
そう言って指差したのは避妊具だ。
暗野さんは恥ずかしがって、俺の後ろに隠れた。
「あれ? なんか仲良くなってるねえ」
ニヤニヤと俺たちをいじるように言ってきた。
「……あ、あの。……私授業に戻ります」
暗野さんはそう言って保健室から出ていこうとする。
「なんだ、もう行っちゃうの? もっとここに居なよ」
先生が暗野さんを引き止める。
しかし彼女はそれでも保健室を出ようとしていた。
そして、保健室のドアから出て振り返った。
「……あ、あの……成田くん」
急に呼ばれた。
何だろうと思い暗野さんを見る。
「……迷惑かけたのと、これはさっきのお礼です……」
そう言って彼女は──
前髪を上げてそばかすを見せてくれた。
コンプレックスと言っていたものを、自分では見せたくないと言っていたそばかすを俺のために見せてくれた。
俺が素敵だと言ってものを見せてくれた。
照れた頬は赤く染まり、恥ずかしそうに前髪を上げた彼女のそばかすは何倍にも魅力的に見えた。
◇◆◇◆◇◆
「……迷惑かけたのと、これはさっきのお礼です……」
私はそう言って、前髪を少し上げて見せた。目は恥ずかしいのでそばかすまでだ。
私に友達だと、この顔を素敵だと言ってくれた彼に何か恩返しがしたかったからだ。
あまりの恥ずかしさに顔の熱が上がっていくのが分かった。
彼が私のそばかすを見たのを確認して前髪を下ろした。
希望的な意見かもしれないが、私のそばかすに彼は見とれている様に見えた。
恥ずかしさがピークに達して成田くんに「さよなら」と手を振りその場から走り去った。
彼が手を振り返してくれたかは確認する余裕がなかった。
私はグラウンドに向かうのではなく、急いでトイレに入った。
トイレが目的ではなく、洗面所が目的だった。
涙で溢れていた顔を洗う。
そんなときでも顔から笑みが溢れていた。
ふと、成田くんの言っていたことを理解する。
(こんなにだらしない顔、確かに見せたくないな……)
顔を洗い終えて鏡で確認した。
目尻は下がり口角は上がっていた。
必死に抑える。
(成田くんも同じことしてたんだろうな……)
そして自分のそばかすを見る。
すると、自分からため息が出た。
今まで呪いたくなる程に嫌いだったそばかすが、今はそんなことを感じなくなっていたからだ。
それどころか今まで大嫌いだったこのそばかすが、彼と私を繋げてくれる大切な存在に思えた。
(私って結構チョロかったんだ……)
文庫本で読んでいたのはほぼ全てが、甘い恋愛物。
それを読む度に「こんなに簡単に人は惚れないだろう」と思っていた。
でも、今の自分がその文庫本の登場人物と同じに思えた。
『星空みたいで素敵だと思ったんだ』
彼の一言で私のコンプレックスが無くなった。
鏡に写った自分の姿を見て、自分の心を確認した。
あまりの愚かさに自分でも笑ってしまう。
もし、私がその文庫本の人たちと同じならその先に待っているのは──
自分の姿を重ねて希望を抱く。
希望と興奮で熱くなった顔をもう一度冷水で洗った。
(落ち着け私……)
そう言い聞かせた。
考えてみれば今日の私の気分はジェットコースターだ。
一度冷静に立ち返る。
でも冷静にはなれなかった。
今私の心にあるのは希望と興奮と幸せばかりだった。
冷静になれない私でも一つ分かっていた。
今は成田くんへのこの気持ちを一旦落ち着けて置こうと判断した。
そしてしばらくは彼と『友達』としての関係を存分に楽しんでいこうと決めた。
そしていつか──
また希望を抱いてしまう。
いつもなら私の心が諦めろと言っただろう。
けれど今の私には誰よりも心強い味方が居る。
ずっと人生を共にしてきた戦友とも言える。
私だけが持っている特別なもの。
私は自分の頬のそばかすを『頼りにしてるよ、相棒』と一撫でし、希望を抱いて歩き始めた。
◇◆◇◆◇◆
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