マラソンと保健室
「男子の皆さんは教室から出ていって下さい」
そうクラス委員長の緑子が言う。
それに愚痴を言いながらだが、男子生徒がぞろぞろと出ていく。
俺もその一人だ。
「にしても、ダルいよな。更衣室が改装中だからってわざわざ違うところ行くの」
秋人が言っているように、女性更衣室も男子更衣室も改装中で、女子は自分たちクラス、男子は違う空いたクラスで着替えている。
「それにしても日向っちゃんさ、昼飯のときからなんか元気ないよな」
どうやら和葵は俺の様子を見て異変に気づいたらしい。
理由は昼休みの暗野さんだ。
昼食のタイミングで悲しそうな顔して出ていった暗野さんを見て、笑い合えるほど図太くはなかった。
それが気になってか、影響が出ているのだろう。
「んー、この後の体育がダルいからかな」
適当な理由をつけて誤魔化す。
「ま、さっさと着替えて外行こうぜ」
秋人が話を締めて俺たちはグラウンドへ向かった。
◇◆◇◆◇◆
「よーし、お前ら遅刻はないな」
体育の担当をしている、山瀬先生が点呼を取りながら確認する。
その中で俺も気になっていた、暗野さんの様子を伺ってみる。
しかし、暗野さんは体育には参加しているものの、顔はうつ向きどこか落ち込んでいるように見えた。
「今日は最初というのもあって、体力測定だ。グラウンドを走ってもらう」
全員からブーイングが飛んだ。
それを想定していたのか山瀬先生は──
「走り終えた者から、サッカーやってて良いぞ」
それを聞いて男子のモチベーションが上がった。
女子はあんまりといった感じだ。
「よし、準備体操するぞ。しっかりやれよ、怪我するからな」
俺たちは先生の言うとおり、しっかりと準備体操をこなして体力測定を始めた。
「あー、ダルい。なんで走らされないといけないんだ」
せっかくの体育がマラソンだったこともあり、秋人はご機嫌ななめの様子だ。
「ホンマやわ、それに女は走る距離短いって男子差別やろ」
秋人に続いて、和葵も言いたいことを言っていた。それもかなり過激なものだ。
「お前らしっかり走らんか!」
俺たちのサボりがバレ、体育教師からお叱りが届いた。
「は、はーい!」
俺たちは逃げるかのように、走る速度を上げる。
「あーもう、ダルい。ほら女子見てみろよ。もうマラソン終わってサッカーしてるぞ」
羨ましいと言いたげな目で秋人は言っている。
「俺たちも早くサッカーしに行こうぜ」
そう言って俺はさらに走る速度を上げた。
「日向っちゃん、危ない!!」
そんな声が聞こえたが、咄嗟に反応できずにいた。
すると、どこかから飛んできたサッカーボールが偶然俺の股関に直撃する。
目の前でバウンドし、股下を下からボールが突き上げる形となった。
「グフッ」
衝撃で声が出た
あまりの痛みに地面にうずくまる。
「……ごめんなさい。……わざとじゃないんです」
そう言って俺にサッカーボールを当てた犯人が名乗り出てきた。
その女の子は────
暗野木陰だった。
◇◆◇◆◇◆
彼女は何度も「……ごめんなさい……ごめんなさい……」と謝りながら俺のところまで来た。
すると秋人が駆け寄り小さな声で「報復されたな」と言った。
(こっちそれどころじゃねぇ……)
あまりの痛みに声が出ない。
「おい日向大丈夫か?」
事態を聞き付けた山瀬先生が俺のところまで来た。
「何があった?」
状況を飲み込めず、先生が野次馬に尋ねた。
「日向っちゃんの息子が死にました」
「サッカーボールが股間に命中しました」
それに暗野さんも口を開いた。
「……私が……やりました…………ごめんなさい…………」
彼女は身体が震えさらに恐ろしいほど怯えていた。
「……ごめんなさい……ごめんなさい」
口からは謝罪の言葉が常に出ている。
「おい、暗野! お前も大丈夫か?」
あまりに怯えている暗野さんを見て、先生もまた彼女を心配していた。
それでも彼女は首を縦に振る。
「そうか。成田平気か? 立てそうか?」
俺は小さくだが、頷き立ち上がる。
しかしあまりの痛みに動きが全体的に鈍い。
「もう休んだ方が良い。保健室行くか?」
痛みであまり話せないので頷く。
ここで休むことも考えたが、保健室で横になった方が楽だと思い保健室へ行くことにした。
「あ、じゃあ俺が付いて行きますよ」
秋人が進んで宣言した。
「お前の気持ちは嬉しいが、まだ体力測定が残っているだろ」
保健室に行けないと分かるやいなや、バレないように「チッ」と舌打ちをしていた。
どうやらサボりたいだけらしい。
「……あの、私が付き添います……私が当てましたし、それに体力測定ももう終わってます……」
宣言したのは俺にボールを命中させた暗野さんだ。
「任せて良いか?」
改めて先生が訊ねた。
「……はい」と彼女が小さく返事をする。
こうして暗野さんに付き添われながら保健室へ向かった。
◇◆◇◆◇◆
急所に直撃し、上手く歩けないので暗野さんに肩を貸してもらいながら、保健室を目指していた。
俺にボールを当てた暗野さんは必要以上に謝りながら肩を貸して歩いている。
「……ごめんなさい……身体……大丈夫ですか……?」
暗野さんは申し訳なさそうに言う。
「うん、少し休めば平気、平気。だからそんなに気にしないで」
本当は痛かったがそれよりも大変なことが起きていた。
暗野さんに肩を貸してもらっているということは、つまり今────
身体が凄く密着している。
そして──
「……あの……ごめんなさい……私今汗だくで……」
暗野さんは今さっきまでマラソンをしていたので大量の汗をかいている。
それに対し俺は手を抜いて走っていたので汗は全然出ていなかった。
密着している俺の身体には暗野さんの汗がベットリと大量に付いていた。
「平気です……」
どういった反応をしていいのか分からなかった。
さらに俺を困らせる要因が一つあった。
暗野さんの大きい胸も俺に密着していることだ。
柔らかいものが身体に押し付けられているので、正直平静を保つのがやっとだ。
煩悩を消そうとするために奥歯を噛みしめていた。
「……なにか辛いことが言ってください……」
俺があまりにも苦しそうな表情をしていたのか、暗野さんが気を使ってくれた。
「あの……暗野さん……胸が……」
それを聞いて暗野さんは顔を真っ赤にしていた。
俺も恥ずかしくなり彼女から逆方向へ視線を外す。
「……あの……サービスです……」
朝の会話を覚えていたのだろう。
暗野さんがそんなことを言うことに驚いてしまった。
「ありがとうございます……」
変な返事をしてしまい、気まずいまま保健室へ着いた。
◇◆◇◆◇◆
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