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木陰と青木

 


 私の前に青木先生が現れた。


(どうして、どうしてここを知ってるの?)


 ここは私の安息地であり、去年は一人でずっと居た。

 その間に誰もここには来なかった。

 それなのに今ここに青木先生がいる。


「少し私と話さないか?」


「……どうして私が……ここに居るのが分かったんですか……?」


 どうして知っていた? いつから知っていた? そんな感情が心を支配していた。


「昔からここは私の喫煙場所でね。使ってたんだが、去年ここでお前を見つけてから使わなかっただけさ」


 先生の返答に背中から冷たい汗が流れるのを感じた。


(じゃあ、ずっと知られていたの)


「さて、こっちは質問に答えたぞ。お前にも答えてもらおうか」


 あまり話したくはなかったが、仕方ないと自分に言い聞かせた。


「……………いいですよ」


 青木先生は煙草を一服してから私へ質問した。



「新しいクラスは楽しめそうか?」



 ごくありきたりな質問だ。

 しかし、私からすれば先生の望むような回答を返せない。

 さっきも自分で勝手に希望を持って、勝手に裏切られたと思い傷ついている。

 そんな私が返せるのは──


「……たぶん、今年も無理だと思います……」


 私の返答に先生は空を見上げ「そうか」と一言呟く。


「日向とは仲良くしないのか?」


 先生の挙げた人物に思わず身体が跳ねてしまった。


「アイツもなかなか隅に置けないな。昨日の今日でお前からメールを聞き出すなんて思いもしなかったよ」


 聞き出したのは私の方だ。

 それに彼の弱みを握って無理やりにだ。

 私が惨めだから仕方なく付き合ってくれている。


「……私が成田くんと一緒に居ると迷惑なだけです……それに……私よりも仲の良い友達がいっぱい居ますから……」


「そんなに悲しいこと言うなよ」


 慰めなのかそんな言葉をかけてくれる。

 でも私の意思は変わらなかった。


「じゃあ、美冬はどうだ? アイツはお前のこと心配して気にかけ──」




「絶対に……絶対に嫌です!!!」




 自分でも驚くぐらいの大声を出した。

 先生は驚いていたが、すぐに表情を戻す。


「どうして?」


 私は別に前田さんに嫌なことをされた訳ではない。


 ただ、私は女の子が嫌いなのだ。


 それでも席替えのときは少しでも成田くんの近くに行けるならと我慢した。

 けど、連絡先の交換や一緒に食事をするのは我慢できなかった。


「……私は一年生の頃にいじめられました。……それもずっと。……そのほとんどが女の子なんです」


 私の暗い過去。


「……だからもう女の子とは仲良くしたくないんです」


 去年あったのはただただ陰湿ないじめ。


 無視、悪口は当たり前。

 トイレに入れば水をかけられ嗤われる。

 私の持ち物は知らないうちに壊されるか、消える。

 服も何度も隠された。


 私に同情したのか先生は優しい言葉をかけてくれる。


「そうだったのか。辛いことがあるなら私に相談してくれ。私はお前の味方だ」


 でもそれは逆効果だった。

『私の味方』そんな言葉は信用できなかった。


「……そんなこと絶対にない! だって私は何度も、何度もそう言ってた人に騙された!」


『私、相談に乗るよ』そう言ってきた人は全員がグルだ。

 私がなにか言えばそれが共有されて、嗤われ、馬鹿にされる。

 そしてクラスに晒される。


「……だから私は絶対に女性を信用しない!」


 強く宣言する。

 これが私が去年学んだ生きる知恵だ。

 先生は私を悲しそうな目で見つめていた。


「そうか、だったらなおのこと日向と仲良くすれば良いだろ?」


 そんな簡単に言わないでほしい。

 それがどれほど難しいのか先生は分かってない。


「……それが……それが出来ないんですよ……」


 仲良くできればどれほど楽しくか、嬉しいか。

 そのギャップが私を苦しめる。


「……先生だって見てたでしょ……。私なんかよりも、クラスの男の子と話してた方が成田くんはずっと楽しそうじゃないですか……」


 朝のときもそう。男の子とずっと笑って楽しそうにしてた。

 なのに私と居ると笑わない。

 楽しいのは私だけ。


「……私の前では笑ってくれない。……だから私は成田くんの一番の友達にはなれないんです。 ……そんな私は成田くんにとって何番目の友達なの?」


 心から溢れ出た言葉と感情で私の目から涙が止まらなくなっていた。


「きっと今も男の子と楽しく笑ってます。……それなのに……仲良くできますか……?」


 私の問いかけに先生はなにも答えない。


「それだけじゃないんです……」


 私は彼に隠したいものがある。


「……先生は私の顔のことご存知ですか?」


 先生は煙草を吸ってから「少しはな」と答えた。

 私は自分のこの顔が大嫌いだった。


「……見てください私のこの顔。みんなからは『ゴミ付き』って呼ばれてるんですよ」


 理由は一年生の頃だ。

 私がみんなの前で素顔を晒されたときに、クラスの女の子が私のそばかすを見て『ゴミ』と言った。


『カスはゴミだから、『ゴミ付き』で良いんじゃない?』


 半笑いで言われた言葉が今でも耳に残っている。


 何度も言われ続けた結果、私はこのそばかすがコンプレックスとなっていた。


「……こんな顔の友達なんて居ても迷惑なんですよ……」


 だから、成田くんには見せたくなかった。

 見せたくなかったのに、油断して何度か見せてしまった。

 その度に成田くんは私の顔をずっと見つめる。

 きっとみんなと同じことを思ってる。『ゴミ付き』だと。

 それでも今日私の危機を助けてくれた。涙が出そうなほど嬉しかった。


 でもそれは成田くんの足を引っ張っただけ。

 なにも出来ないうえに、顔も最悪。

 そんな私が成田くんの側に居て良いわけがない。


「……でも私気づいちゃたんです」


 私はカバンから財布を取り出す。

 お札を何枚も手に持ち先生に見せびらかす。


「……これで成田くんと仲良くできる。私が一番になれるって」


 青木先生は苦虫を噛み潰したような顔してした。

 私には何故そんな顔をしているのか理解できなかった。

 すると、先生が私を壁に押し付けた。


「そんな……そんな物で友達なんて出来る訳がないだろ!」


 怒気のこもった強い言葉で言われる。

 でも何を言われたか意味が理解できなかった。


「……どうしてですか…………?」


 私の考えは完璧なはず。


「そんな……そんなことも……分からないのか…………?」


 先生は私を可哀想な目で見つめている。


 (何故……? )


 理由が分からない。

 壁に押し付けたままの私の身体が悲鳴をあげていた。


「痛い……」


 そんな言葉を吐き出すと先生はすぐに解放したくれた。

 どうしようもない空気が漂う。


「悪かったな。私はもう行くよ」


 そう言って先生は踵を返す。

 歩いて行く先生の顔はとても悲しそうな顔をしている。

 けれど先生は言い残したことがあったのか立ち止まった。


「顔は洗っておいた方が良いぞ、あと次の体育には遅れるなよ」



 私の顔は涙で溢れていた。



 ◇◆◇◆◇◆



 私は屋上から階段を降りていた。


「クソッ、何でだ、どうすれば良かったんだ」


 生徒たちから青木と呼ばれる私はさっきの出来事を引きずっていた。

 私は生徒を助けたい、学校を楽しんでほしい。そんな願いから教師になった。

 それなのに──なにもできなかった。助けてやれなかった。


 どうしようもない無力感が感情を支配していた。

 私の言葉も彼女に信じてもらえない。

 そんな私に出来ることはなかった。



 私はただ、彼女を救ってくれる人が現れることを、そんな奇跡が起こることを願うしかできなかった。



 どこまでも傷ついている彼女を救う救世主を。



 ◇◆◇◆◇◆



面白いと思った方、続きが気になると思った方は



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(っ'ヮ'c)ウォッヒョョョオアアァァァ!←こんな感じに



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