昼と屋上
「はーい、授業終わり」
数学担当の初村先生が告げ教室を出ていった。
俺と暗野さんは授業中の筆談を見られないように慌ててノートをカバンの奥底に閉まった。
「よっしゃ、昼飯だ」
俺の前の列の席に座っている秋人が、伸びをしながら言った。
三時間から言っていたので相当お腹が空いているのだろう。
「…………あ、あの…………」
木陰がお弁当を持ちながら日向に小さな向かって声をかけた。
しかし──
「日向っちゃん、一緒に飯食おうぜ」
その言葉は和葵の声にかき消され、日向の耳に届くことはなかった。
「うーん、良いよ」
すぐさま、秋人も会話に混じる。
「俺も入れろよ」
「しゃーなしな」と和葵が了承する。
三人が仲良く会話を始める。
「……あっ…………」
そこはもう根暗な木陰にとっては混じれるような雰囲気ではなかった。
「うわ、俺今日、昼飯買わないといけないのに財布忘れた」
秋人が自分の持ち物をひっくり返して探しながら言った。
「ドンマイ、昼飯は諦めろや」
和葵が半笑いで煽りながら言う。
「良いね」と俺が笑いながら便乗する。
「この後の体育できねぇだろ。しゃーねえ、美冬。金貸してくれ」
秋人の隣の席の美冬にお金を借りようとした。
「ん? お金? 良いよ」
美冬は簡単に了承して、自分のカバンから財布を出してお札を取り出した。
すると、一枚が手から離れ床に落ちた。
俺が床に落ちた札を拾い、確認してみるとそれはオモチャのお金だった。
「前田さん、これ偽物じゃない?」
「あー、これ弟がね、お姉ちゃんは高校生でお金かかるだろうからってくれたやつなの」
そう言って俺からお札を受け取り大切そうに財布に閉まった。
「んじゃ、俺は飯買ってくるわ」
秋人はいつの間にか借りていたお金を持って購買部に向かった。
お金を秋人に貸した美冬は振り返り、弁当を持って暗野さんのところへ向かう。
「暗野さん、私とご飯食べない?」
すると、暗野さんは冷たい汗をかき怯えていた。
「……あの、ごめんなさい。……私は一人で食べます……」
そう言って暗野さんは荷物を全て持って教室から出ていった。
「私何故か避けられてる?」
そんな質問を俺に向かってしてきた。
「たぶん」
そう言って良いほどに暗野さんは美冬を避けていた。
それともう一つ気になることがあった。
教室から出ていった暗野さんは何故か悲しそうな顔をしていたのだ。
◇◆◇◆◇◆
私は勢い良く教室を飛び出した。
いつもの慣れた道を通りある場所へ向かう。その道も人通りができるだけ少ない道だ。
その道中に頭の中に様々な嫌なことを思い出していた。
(……私がバカだった)
自分でも本当に愚かなことを考えたと思う。
どうしてこんな希望を持ってしまったのか、と何度も自分を問い詰める。
(……私なんかが、成田くんと一緒にご飯なんて……)
ちょっと連絡先を交換したぐらいで希望を持ち過ぎていた。
そんな儚くて私にとっては夢のような希望。
そこにあったのは絶望。
でも、ようやく理解した。私には成田くんと仲良くする権利ははいのだろうと。
私は一人でご飯を食べる。
これが生まれてからずっと私の、暗野木陰にとっての当たり前なのだ。
そして私は目的の場所へ着いた。
この学校の屋上だ。
私はこの場所が好きだった。
誰にも邪魔されず、一人で居られる。
そして、そして────
いつでも簡単に死ねる。
私はそれが一番のお気に入りだった。
いつでもこの辛い世界から消えられる。そう思える安心感が好きだった。
いつもの位置、日陰になっている貯水タンクの隅で一人ぼっちで私はご飯を食べ始める。
私はこれを高校一年の頃から続けていた。
なのに、なのに今日──
私のちっぽけな平穏が壊れた。
「新クラス二日目にして、一人ぼっちとはいただけないな。暗野」
私の新しい担任、青木先生がここに現れたのだ。
◇◆◇◆◇◆
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