忘れ物と筆談
教室内に授業終了のチャイムが鳴り響いた。
「はい、お疲れ様でした」
そう言って青木先生が教室を出ていく。
ちなみに担当は国語だ。
「あ~腹減った」
伸びながら秋人が言った。
時刻は昼前。三時間目がちょうど終わったところだ。
「次何だっけ?」
秋人が俺に聞いた。
「数学」
次の授業の準備をしながら答えた。
そこである異変に気付いた。
どうやら俺は数学の教科書を忘れたらしい。
◇◆◇◆◇◆
「はい、今年も数学を担当させてもらう初村だ。よろしく」
生徒たちからポツポツと「よろしくお願いします」と返事が聞こえた。
「去年で俺のやり方を分かってる人も多いから早速授業を始めていくぞ」
この効率を重視した授業をするのが初村先生の特徴だ。
「あ、その前に忘れ物のチェックしないとな。まさか一発目の授業で忘れた人は居ないと思うが一応な」
後半の一言で思わずたじろぐ。
「はい、忘れ物した人は手を上げろ」
俺は素直に手を上げる。
忘れ物をしている人は他に居らず、俺だけだった。
「何を忘れた?」
「教科書です」
先生は俺の忘れ物を出席簿に記録する。
そして、初村先生が席替えした座席の書かれた紙を読んでいた。
「えー、となりの暗野、教科書あるか?」
暗野さんは小さくだが頷いた。
「じゃあ、悪いが教科書見せてやってくれ」
彼女はまた小さく頷く。
流石に先生に指示されたままで見せてもらうのは気が引けたので、俺の方からも確認を取る。
「教科書見せてもらってもいいですか?」
「……うん」
と彼女は返事をしてくれた。
そして教科書を机の真ん中に持って来てくれる。
「ありがとう」
すると彼女から──
「……見づらいと思うから、もっと席寄せて良いよ……」
と提案したきた。
まさかの提案で驚いてしまった。
「えっ……? 本当に良いの?」
あまりのことに思わず確認する。
「……うん」
聞いたからには近付けないといけない。
が、俺はさっき見た暗野さんの笑顔のこともあり平常心を保つのがやっとだ。
表情に出ないよう必死に奥歯を噛み締める。
そして意を決して椅子を近付けた。
すると彼女も椅子を近付けて来た。
(!?)
お互いの肩が当たりそうなほど、二人の距離が近い。
暗野さんからシャンプーの良い匂いがしてきた。
思わず心臓が高鳴る。
(いかん、煩悩を捨てろ、俺)
他のこと考えて意識となりの暗野さんから逸らす。
「よし、授業始めるぞ」
ちょうどタイミング良く授業が始まったので、授業にいつも以上に意識を向けることにした。
少し時間が経ち、授業に集中していたときに暗野さんが俺の袖をちょんちょん、っと触ってきた。
なんだろう? と思い彼女の方へ目を向けると彼女が自分のノートを指差していた。
そこには文字が書かれていた。
『成田くんは数学好き?』
授業中だったが、聞かれたので──
『嫌いじゃないよ。暗野さんは好き?』と書いて返した。
それを見た彼女がペンを持ち書き始める。
待ち時間がもどかしく思えたが、少しするとペンを置いた。
『私は得意だよ!』とノートの端に書かれていた。
こうして二人で内緒の筆談を始めた。
◇◆◇◆◇◆
授業が初回ということもあり内容が簡単だった。
そのことも後押しして二人で筆談をさらに進めていた。
『成田くんって好き嫌いはありますか?』
『あんまり無いかな。強いて言うならピーマンかな』
『ピーマン美味しいのに。どうしてですか?』
まだお互いの口調は硬いが、警戒心が少しずつだが解けていた。
『うーん、昔食べたとき凄く苦かったからかな』
過去の話だ。
小さい頃母親がピーマンを使った料理をしてくれた。
まだ、幼かった俺はその苦味に思わず吐き出してしまった。それ以来ピーマンを食わず嫌いしている。
そんなちっぽけな理由だ。
すると、暗野さんがペンを走らせ始めた。
『もし、私が成田くんのために』
と、ここまで書いてノートに書くスペースが無くなってしまだた。
ちょうど良いところで邪魔が入りもやもやした。
しかし彼女はすぐにノートをめくり続きを書き始める。
『もし、私が成田くんのために、ピーマンの料理を作ったら食べてくれますか?』
ご飯の誘いだった。
思わぬ誘いだったが、もともと暗野さんの料理を食べたと思っていたので、それがピーマン料理だろうと断る理由が無かった。
『ぜひお願いします』
『今度絶対に作るね!』
授業中に二人でご飯の約束をする。
彼女が書き終えたと同時に授業終了のチャイムが鳴る。
こうして二人の秘密の筆談は終わった。
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