三バカ
始業のチャイムが鳴りロングホームルームが始まった。
「よーし、お前ら席に着いたな」
彼女は教卓に立ち話を進める。
「改めて自己紹介する。このクラスを一年間持つ青木だ。私の方針は基本、生徒の自主性に任せることだ」
つらつらと説明していたが、俺はこの先生のことを良く知っていた。
何故? と聞かれれば去年の担任も彼女だったからだ。
「私のやり方は他の教師たちと色々違うと噂になってるから、慣れるまで不安だろうが悪いようにはしないから安心してくれ」
クラスからは「はーい」という返事がポツポツと聞こえる。
「じゃあ、早速で悪いが学級委員長を決めていく。早い話、男女二人必要だ」
無駄な話を省いて進めるのが、青木先生の特徴の一つと言えるだろう。
「やりたい者は挙手してくれ」
皆がうつむき静かになる中で一人の生徒が手を挙げた。
小川緑子だ。
「お、流石だな。他にやりたい女子は居ないか? 居ないのなら決定とさせてもらう」
青木先生がそう言った後も手が挙がることはなく、無事に小川緑子が学級委員の一人に選ばれた。
「よし、後は男から一人だな。誰かやりたい奴は居るか?」
男子からは自主的に手が挙がることはなかった。
青木先生は「はあ~」と深いため息を吐いている。
「学年のマドンナ、小川緑子と一緒に活動できるならと飛び付け男ども」
先生が少し愚痴っぽく呟いた。
それにそんな情報が先生の耳に入ってることが驚きだ。
ただ、それでも手が挙がらなかった。
それもそうだろう。青木先生のクラスでは自主性が大事とされる。
つまり、先生があまり干渉しないのだ。
当然様々な負担が学級委員にのし掛かる。
学年のマドンナを魅力を考えても、手が挙がらないのはこういった理由があるのだろう。
「ったく、しょうがないな。緑子、お前誰と組みたい?」
青木先生が緑子に質問を投げた。
これにクラスの男が湧く。あの緑子に選ばれるのは誰だ? と
「うーん、そうですね」
緑子は少し悩んでいた。そんな姿も絵になる。
「じゃあ、成田くん」
まさかの俺が使命された。
「えっ、俺!?」
俺だけでなく、クラスの男たちも驚いていた。
それにまた暗野さんからガタンッと大きな音も聞こえる。
目をやると彼女はうつ向いて、何事もなかったかのように振る舞っていた。
「それと斉藤くんと高橋くん」
どうやらまだ続きがあったらしい。
思わせ振りな言い方にクラスの皆が早とちりしただけのようだった。
「この三人から決めて欲しいです」
緑子の人選が終わったらしい。
「よし、呼ばれた三人は前へ来い」
青木先生の呼び出しに三人は従って教卓前まで来た。
「よし、お前しっかり話あって自ら進んで立候補しろよ」
何やら不穏な言葉が付いていた。
「強制ですか?」
俺が青木先生に尋ねる。
「もちろん。それにお前ら三人私に何か貸しがあった気がするな?」
痛いところを突かれる。
さっきドタバタ暴れたのがここに利いてきた。
俺たち三人は不満を圧し殺し、円陣を組んで声が外に漏れないよう話合う。
「お前らがやれや」
先制して和葵が周りに聞こえないように小声で呟く。
「「嫌だ」」
「そんなハモんなて」
三人で押し付けあいをしていると──
教室のドアばバンッと開いた。
「いきなり遅刻とはよろしくないな。優美」
そう呼ばれたのは今教室に入ってきた女の子だ。
彼女は坂本優美、学校でも有名だった。悪い方で。
髪の色は金髪、制服も着崩していた。見るからに不良少女と言った感じだろう。
「サーセン」
と言い遅刻届けを出して席に着いた。
俺たち三人は予想外の出来事にただ呆然と見つめていた。
「お前らは見てないで早く決めろ」
「「「サーセン」」」
俺たちの返答に青木先生が頭を抱えていた。
それを横に再び三人で話し合う。
「カズがやれよ」
今度は俺が擦り付ける。
それに秋人もまた便乗していた。
「いや、俺はやりたくても出来んから」
そう言い切った和葵に疑問を持つ。
「どうして?」
「お前らさっきの女が入ってきたとき何て思った?」
質問に質問で返されたが、和葵との会話では良くあることなので気にせず答える。
「いや、金髪だなと」
秋人が答えた。
「やろ? 俺も金髪やからさやりたくても出来んねん」
とんでも理論でこの押し付けあいから逃れようとする和葵。
逃がさまいと、俺が引き留める。
「いや、でもカズ地毛じゃなかったか? たしか地毛証明書出してたし問題ないでしょ」
去年に一度和葵の髪色の話をしていたのが役に立つ。
くっ、と悔しそうな表情を見せたがすぐさま──
「いやこれ、染めてんねん」
とんでもないことを言い出した。
証明書を偽造したと言うことだろう。
「君ら俺が嘘付くと思うか?」
「思う」
「残念ながら」
即答だ。
「チッ、お前らもっと人を信じること覚えろや!」
話し合いが振り出し戻った。
逃げきらせなかったことに安堵し、再び押し付けあいを始める。
すると──
ドンッと強く床を叩く音がした。
「お前ら早く決めろ」
青木先生がドスの籠った声で言い放つ。
思わず三人とも縮み上がった。
「仕方ない、じゃんけんで決めよう」
俺が提案する。
「日向にしては良い提案だな」
「しゃーない、乗ったるわ」
もう小声で話すことをやめて、クラス中に筒抜け状態だ。
「よし、じゃん負けな。恨みっこなしや」
和葵の提案を俺が止める。
「いや、男気の方でいこう」
二人は最初に疑問の顔を浮かべたが、すぐに理解してくれた。
男気じゃんけん、勝ったら喜び、負けたら悔しがる。
つまり、自主的に立候補させられるこの状態においてはこっちの方が都合が良いからだ。
「分かった、負けて泣きついても学級委員の座は譲らんからな」
すぐに和葵も乗っかってきた。
「ハッ、俺が二人負かして終わりだが?」
秋人も調子良く言う。
「じゃあ、行くぞ」
「「「じゃんけん」」」
脱落者は一瞬で決まった。
秋人の一人負けだ。
「よっ、あ。くっっっそ、何で俺はこんな肝心なときに負けるんだ! 俺のバカ野郎ッ!」
本音が出かけていたが、すぐさま演技に切り替えていた。
「まあなんだ、昨日の敵は今日の友って言うだろ。俺は負けたがお前ら二人を全力で応援してるぜ」
出ている言葉とは裏腹に、勝ち誇った顔に腹が立つ。
誰だ! こんなの提案したやつは!
戦犯探しをしても仕方ないので、和葵と再びじゃんけんの構えを取る。
「俺が勝っても恨むなや」
「そっちこそ」
一呼吸おいて──
「行くぞ」
「「じゃんけん」」
また一発で勝負がついた。
俺の負けだ。
「負けたよ。カズお前がナンバーワンだ」
どこかで聞いたセリフを使い和葵を祝福する。
一方、和葵の方は喜ぶでもなく、自分の出した手を見つめていた。
秋人と俺はそこに畳み掛ける。
「悔しいけどお前に任せたぜ」
「そうだ、そうだ。カズならきっと出来るよ!」
そう言って無理やり肩を組んむ。
そして小声で「ドンマイ」と声をかけてから席へ戻った。
すると、和葵が──
「先生、アイツら俺の補佐にしてええですか?」
とんでもないことを言い出す和葵。
「良いだろう。アリだ。あれだけ熱心に学級委員に成りたそうな奴は今時居ないしな」
「そんなのアリかよ!?」
秋人が聞く。
「そうだ! どっかの連載会議みたなこと言い出して!」
俺も秋人に続いた。
「アリなものはアリだ」と一蹴されてしまった。
そんな会話を聞いて和葵が勝ち誇って──
「よろしくな、俺のナンバーツーとナンバースリー」
ぐぬぬ、と何も言い返せないでいると青木先生が
「全く三バカのせいで時間がかかった。さっさと席替えするぞ」
三バカと言う言葉にクラスが吹き出す。
そしてこれが俺たちのあだ名として定着してしまった。
◇◆◇◆◇◆
次回席替え!
主人公とヒロインの運命やいかに!!!
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