ポニーテール姿
午後の授業を知らせる予鈴がなった。屋上から教室に戻る準備をする。
最後にまとめていた解く。美冬ちゃんから貰った、ヘアゴムは大切に手首に着けた。また放課後に使おう、そう決めて教室の方へと歩いた。
その後の授業はつつがなく終わった。しいて言うなら日向くんがまた寝ていたぐらいだろう。かく言う私も寝不足にお昼を食べて、何度か寝てしまいうだったけど堪えた。
そして今私は、いつもの場所で日向くんを待っている。
放課後になって眠気は消えつつある。その後に気持ちが高ぶっているからかも。
「ごめん、待った」
顔をあげると日向くんが少し遠くから小走りで来ていた。
「……いえ、全然です」
放課後、いつも待ち合わせしている場所は学生の人通りはほとんどない。こうやって会っても誰かにバレる事はない。私にとっての至福の時間。それだけじゃく今日まるまる日向くんの一日を貰っている。
「……むしろ、運動服を選ぶだけなのに付き合ってくれてありがとうございます」
一日、付き合ってくれた時間の分だけ深く頭を下げる。
「いいよ、いつもご飯頂いてるんだしさ」
と日向くんは
私にとってもその時間、誰かとご飯を囲むというのは穏やかな時間をもらえている。連れ回しているのは私の方なのに、と少し思ったけど日向くんの言葉は大切に閉まっておこう。
「……実はこの後、見せたいものがあるので楽しみにしててください」
昼の時間でのやつだ。手首に着けているヘアゴムに少し期待を込める。新しい髪型を受け入れててもらえるかの不安は、今はあと回しにしよう。
「うん。分かった。気になるけど、楽しみしとく」
楽しみにしてもらっている。大丈夫、日向くんならと思う。
「じゃ、買い物行こうか」
「……はい!」
二人で歩き始めて最初に私が口を開いて日向くんに尋ねた。
「……運動服ってどこで買いますかね?」
運動に縁のなかった私にはイマイチ思いつかない。意識して見ていないというのが正しいかも。だから、知っていそうな日向くんに頼ろう。
「服屋にもあるけど、本格的にならスポーツ用品店とかになるかな」
本科的なもの。私にはハードルが高いな。でも、あの髪型なら……と考えていた。
少しだけ悩んで答えを出した。
「……それは遠慮したいですね」
「なら服屋だね」
改めて思う、運動服でハードルが高いなんて笑われそうな事を流してくれるのが嬉しい。
「木陰、この辺の服屋どこにあるか分かる?」
「……はい、分かりますよ、付いてきてください」
普段通っている道から少し外れた、脇道の方へと進む。距離はそこまで遠くない。そんな間に目的地の服屋に着いた。
「こんなところに服屋あったのか」
「……はい、ここなら他の人たちも来ないですし安心です」
もともと生徒の通行量がほとんどない場所、さらにそこから一本奥なんて誰もいないだろう。これなら安心して二人で服を見られる。
「……では、服見ますから付いてきてくださいね」
店内は前に日向くんと見た服屋と比べるとかなり狭い。あの店が都会で特別広かったのもあるけど、と思う。
それにそこまで人はいない。居るにしても少し歳を重ねたおばあさんぐらいだ。
「……日向くんが選んでください」
私のお願いに、一度頷いてから質問をされた。
「スポーツウェアは嫌だったよね?」
「……そうですね」
「ならジャージとかになるけど大丈夫?」
「……はい、むしろその方が予想できて良いですよ!」
ジャージなら学校の指定とかで着ている。つまりハードルが圧倒的に低いのだ。
「じゃ、これとかどう?」
日向くんが手にしていたのは、黒を貴重とした色にチャックやサイドの色をピンクにあしらっている服だった。
なんと言うか、芋っぽくないラインの服で、まだ試着していないが内心では私もこれにしようと決めてしまう。
「……これですか、分かりました」
日向くんのセンスに関心しつつ試着室の方へと向かう。
「……あ、日向くん、あとで良いもの見せてあげますから楽しみにしててください」
試着室に入り制服に手をかける。そこでふと、自分が何か変な事を、男の子にとって変な期待をさせてしまった気がした。
「……エッチな意味じゃないですからね! ……勘違いはダメですよ!」
慌てて訂正を入れる。
少しだけはだけた制服を隠すために、カーテンから顔だけ見せて伝えた。
一息つく。少しだけイレギュラーはあったが、ただ服を着替えるだけだ。
鏡に映った自分をみると、確かに悪くないと思う。日向くんのセンスの良さを見た。
後ろ髪を右手で軽くまとめる。簡易的なポニーテールを作ってみた。
この服に似合う、本当に運動ができそうに見えた。
「……では見せますね」
カーテン越しから声をかける。髪は離すと同時に解けた。まずはこの姿を見てもらおう。少しだけ覚悟を決めて日向くんの前に姿を見せる。
「……どうでしょうか」
恥ずかしくて目が合わせられなくなった。前髪を直す仕草をしつつ尋ねた。
「……はい、似合ってますか?」
「似合ってるよ」
「……ありがとうございます」
口元ぐ緩む。
まあ、日向くんが選んでくれた服なので最初から似合うって言葉がもらえるのは分かってた。そう、私には分かっていたのだ。
「……もう一つ、見せたいものがあるんですけどいいですか?」
頷いてくれたのを確認して、もう一度試着室に戻る。
(日向くんはこれも褒めてくれるだろうか……?)
そんな期待をしつつ、右手のヘアゴムで髪をまとめてあげていく。
結べた。鏡に顔を振り、ちゃんと結べているかを確認した。
大丈夫。一度深呼吸して、カーテンを開けた。
「……どうですか?」
さっきは前髪を触ってしまったのを、反省して日向くんを見る。少し驚いた表情をしていた。多分、成功だ。
ただ、恥ずかしくなって目を逸らす。
「似合ってると思うよ。普段よりも明るくて運動できそうな印象に見えるよ」
「……本当ですか!? ……ありがとうございます!」
声が少し上ずってしまった。
「……実は今日、美冬ちゃんに言われて髪をまとめてみたんですよ。……これなら邪魔にならないよって」
昼の事を話す。言葉の一つ一つが浮足立っていた。
「……それで日向くんにも見せようと思いまして」
そして大事な確認を一つする。
「……日向くん、この髪型気に入ってくれましたか?」
「うん、凄く似合ってるし、こっちの髪型も凄くいいよ」
「……そうですか」
ニヤけた口元を止められないまま言葉を紡いでいた。
そして安堵の息をつく。
「……では、日向くんに任せましょうか」
昼のとき、美冬ちゃんに聞かれたことが引っかかっていた。
「……私を学校でこの髪型にしますか?」
ポニーテール。少し活発に見える髪型だ。きっとクラスの人たちにも印象が変わるはず……。
正直慣れなくて恥ずかしいし、変わらない事を選びたくなった。
日向くんに聞いてみたい。そうすれば、この髪型への勇気がもらえそうだった。
「うーん、任せるって木陰の髪型を?」
「……そうです」
少し長い沈黙が訪れた。真剣に悩んでくれている、そう思う時間だった。
「……どうです、どうです?」
けど沈黙に耐えられず、少し急かしてしまう。ごめんなさい、と心の中で何度か謝っていた。
「正直に言うよ。他の人には見せないでほしいかな」
まさかの、答えだった。
私はするか、しないかの二択しかなかったからだ。
「……理由を教えてくれたら、普段の髪型にしますよ」
「木陰のその髪を他の人に見せるのはちょっともったいない……かなって」
「……ッ!」
な、な、なな、なんて事を言うんですか。と心が叫んでいた。
二択なんかよりも、最上の褒め言葉だ。この髪型を勧めてくれた美冬ちゃんに心の底から感謝した。
「……分かりました。……ポニーテールを見せるのは美冬ちゃんと日向くんだけにしますね」
ここまで言われてしまったら、他の人には見せないようにしよう。凄く恋人のような感覚だけど、いいという事にしよう。
「今日はこのままの髪で過ごしますね」
日向くんが頷く。
私も何か日向くんのを独占してみたい、と思いながら試着室で着替える。
鏡の前に映る制服でポニーテール姿の私。
結構やるじゃん、なんて褒め言葉をかけて部屋を出た。
実は4/16日で根クラ4周年です。
体験版PC/switchで配信中です。
是非よろしくお願いします❗