朝活後
日向くんの隣を歩く。今度は歩く速度を落としてもらって、私が歩き慣れている速度より少し速いぐらいだ。
「これぐらいでどう?」と日向くんが聞いてくれて、最初のときよりも情けない姿を見せないでいれた。
二人でウォーキングの時間が経つにつれて少しずつ道路を歩く人も増えてた。
腕時計をつけていない私はポケットからスマホを取り出して時間を確認する。時刻は6:45を少し過ぎたところだ。
そんな私を見て「今何時?」と日向くんが聞く。時間を伝えると「もうそろそろ終わろうか」と切り出された。
日向くんとの歩くのは時間を忘れるほど短くも感じたし、心の何かが満たされるほど長い時間のようにも感じた。叶うのであればもう少し、と思う。
ただこの時間を引き伸ばせず「……そうですね」と確認し納得したような返事をした。
「確認だけど、明日も同じ時間?」
まるで物足りないと感じている、私の心を見透かしたかのような疑問を投げかけてくれた。
明日もやる気前提の質問が私を
「……お願いできるなら同じ時間にお願いします!」
「了解!」
それともう一つの大切な事を伝えよう。
「……もちろん、明日もモーニングコールしますからね!」
「よろしく」
「……任せてください」と少し息を巻くぐらいの気持ちだ。私にとって朝会う以外のもう一つの楽しみなのだから。
それともう全て勢いに任せてもう一つ頼み事をそよう。
「……それと、日向くん今日の帰りに私の運動服見るの付き合ってくれません?」
今着ている服は動きやすい……とは言えるが中学時代のジャージだ。なんというかサイズも少し小さくて身体のラインは出ているし、少し恥ずかしい。
ので、日向くんを誘って服を選べば一石二鳥だ。
「今日? いいけど。俺、女の子の運動服なんかあんまり分かんないよ?」
断られる事なく無事に約束ができて一安心だ。誘った後に『朝もお世話になったのに放課後も』と頭の片隅によぎったからその分だけ気持ちが楽になった。
「……ありがとうございます! ……居てくれるだけで心強いですから!」
話に一区切りが付いたので時計を確認する。さらに時刻は進んで7時前。帰ってシャワーを浴びたら、もう学校にいかなければない時間だ。
「……では、そろそろですか」
流石に二人とも、もう家に戻らないといけない。せっかくの時間に終わりがきてしまった。
「そうだね」
そんな私の寂れた様子を見かねてか「でもこの後学校で会うじゃん」と声をかけてくれた。
「……そうですね!」
そう、この後もあるのだ。いつもならお別れの後にあるのは本当のお別れだ。
ただ今日は違う。学校でまた会えるのだ。別れに過敏にならなくてもいいんだ。
安心感のような、落ち着く気持ちになる。
「……って日向くんあくびしちゃってちゃんと寝ましたか?」
私が安堵している間にどうやらあくびをしていたようで聞いてしまったが、その最中に私もつられてあくびが出てしまう。
安心感から来たようなあくびだった。
「そう言う木陰もあくびしてるじゃん」
手で口を覆って隠しても見透かされていたよだった。
「……見られちゃいましたね」
「朝起きるの慣れてるじゃなかった?」
少し「朝は慣れてます」なんて見栄を切っていたのが恥ずかしい。ただ今日が楽しみで寝られなかったという小学生のような理由だ。
「……実は寝付けなくて」
「同じだね」
まったく、日向くんという人は。
こんなところで『同じだね』なんて言われると、胸のうちに隠しいた『楽しみで寝付けなかった』と同じ理由って錯覚するじゃないですか。
「……日向くん、家に帰っても二度寝したらダメですからね」
上がるテンションを落ち着けるように、他の事に話を向ける。
「うん、なんとか。木陰もね」
「……了解です」
「……では、日向くん。……また学校で」
「学校で」
そうこの後にまた会えるのだ。
「……さて、シャワー浴びて学校に行こ」
汗に濡れたシャツが張り付く。でも不快感はない。普段起きている朝の時間だが、いつもとは違う場所、違う思い出。
心地よい爽やかな朝だった。
◇◆◇◆◇◆
シャワーを浴びた後はいつも通り登校した。私の方は代わりなかったがどうやら日向くんの方は違ったようだ。
と言うよりも日向くんたちは遅刻ギリギリに来ているようだった。
「……おはようございます」
「おはよう」
汗をかき息を切らしながら返事が返ってきた。
気になったのでクラスの声に紛れるぐらいの小声で、日向くんにだけ届くように「……どうして今日も遅刻ギリギリになるんですか」と尋ねる。
「断じて俺のせいではない」
つまりは日向くんは他の人たちのせいという事らしかった。
「疲れた。もう俺は2日分は運動した」
「……残念ながら、この後体育ありますけどね」
「死ぬ」
流石に男の子といえど、朝の運動と遅刻回避のダッシュは酷らしい。
「……まぁ私もその後の授業はダメそうです」
小声で私の方もと付け加えておく、二人で誰にも気づかれないように笑った。
そして体育も終わり、疲れた身体には厳しい授業が始まる。
現代文だ。教壇に経っているのは担任の青木先生だが、体育の後の授業はみんなが眠そうだと不満を漏らしていることが多い。
私は普段授業は寝ないが、この時間は火照った身体に教室に入る風が気持ちよくクラスの人たちは睡魔に負ける。
そう、普段は寝ないのだ。
「おい暗野、寝てる成田を起こして──って」
起こそうととなりの席の人を指名するも、返事がなかった。
「なんで暗野まで寝てる……珍しいこともあるな」
最前席でも聞こえないような小言を青木は呟いていた。
「起きろ、ねぼすけ共」
机を出席簿で叩かれた音で飛び起きる。何が起きたが分からなかったが、青木先生に頭を叩かれる日向くんを見て理解する。
人が叩き起こされる様子が面白いらしく、そんな姿を見てクラスの人たちが笑う。
「痛ッ」
「……あ、おはようございます」
「なんで俺だけ叩かれて」
そんな小言にはお構いなしで先生は話を続ける。
「まったく隣同士寝るな」
「ははは」
「……すみません」
と二人で誤魔化すように声を漏らす。そんな中、互いの目が合う。
「おはよう」
「……おはようございます」
と挨拶をかわす。そんな事が面白く、二人だけに届く声で笑いかける。
『……私たち今日なん回挨拶するんですかね』
『ホントだよ』
見つめ合って笑う。
先生の授業にかき消されるような小さな声の会話、私のささやかな学校の楽しみだ。
授業が終わり昼食の時間になる。その準備で騒がしくなる間に日向くんに話しかける。
「……放課後、忘れずに買い物に付き合ってくださいね」
「もちろん」
「……その後、良ければですがご飯作りますから」
「本当に? 今日は運動したからいつも以上に楽しみにするよ」
そう言われると気持ちも上がる。
「……お任せください!」
気分良く歩き出す。
昼食のために美冬ちゃんと教室の扉を開け、いつも過ごしている屋上に向かう。
その最中浮かんだ事が、忘れもののような気持ちさせた。
少しだけ理由をつけて席に戻る。
「……今日は一日中、一緒ですね」
そう日向くんに伝えて教室を出た。
エイプリルフール滑り込み。
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木陰の特別な姿です……❗