修学旅行前の決意
前を歩く木陰が、玄関の扉を開ける
「……ただいま」
「おじゃまします」
「……日向くん、荷物持ってくれてありがとうございました」
「いいよ、全然。これぐらい軽いし」
そう言って差し出された木陰の手に、買い物袋を渡す。
「……さすがは男子ってことですね」
渡された袋を持つや、ひとり言のボリュームでこぼしていた。
「……さて、私は料理に取り掛かるので日向くんはリビングで楽にしててください」
「じゃお言葉に甘えて」
木陰に案内されるままリビングに入り、キッチンの見える位置に座る。
ここに座るのも期間が開いたため少し懐かしくなる。
「……あの、テストの期間が空いたのもあって、そう見られると恥ずかしいですよ?」
どうやら向こうの方も期間が開いたこたを意識しているらしく、前みたいに恥ずかしそうな仕草をしていた。
「ジロジロまでは見ないから」
「……そうですか? ……ま、まぁ前も言ってましたし、見ていて楽しいなら良いですけど……」
まんざらでもなさそうな事を言いながら言葉の終わりには、距離の問題ではないほど聞き取れないほど小さくなっていた。
「木陰の手際の良さを見ていて心地良いんだよ」
「……そ、そうですか。……でもそう言われると……手際が悪くなっちゃいますよ?」
顔を赤らめ目線を逸したりしつつも、最後には少し意地悪そうな顔をしていた。
「さすがに危険だよな」
とはいえ、料理中ともなれば火や包丁を使う訳で、木陰の言うことはもっともな意見だ。
「……そうですよ。……ですから、私をからかうにしても料理のとき以外にしてくださいよ」
「分かった」
「……それはそれとして、褒められるのは悪い気はしませんが……」
そんな言葉をこぼして木陰は料理に集中していった。
「……料理できました。……日向くん、ご飯の量はどうしますか?」
木陰に呼ばれてテーブル方へと移動する。
「多めでお願い」
テスト期間で開いたので、久しぶりの木陰の手料理である。
「……分かりました」
「マンガご飯過ぎない?」
普段よりもてんこ盛りに盛られた白飯を見て、困惑した感情とともに言葉が漏れた。
「……楽しくなっちゃって」
そう言い、お茶碗をテーブルに置くも重量感のある音が響いた、
「……まあまあ、男の子ですから。……無理なら私も手伝いますし」
白米をよそった側の木陰は俺とは逆に、楽しいのか微笑んでいた。
配膳が終わり、木陰が席に着く。目が合いタイミングを測る。
「いただきます」
「……いただきます」
両手を合わせ、二人でご飯を囲む。
「どうかした?」
「……日向くんと食べるの久しぶりで……楽しいなって思いまして」
面と向かって言われると照れてしまい「そう……」と無愛想な返事をする。
「…………照れましたね」
そんなことを見透かすように木陰に言われ、余計に照れる。
しかし、こちらも言いたい事がある。
「木陰も恥ずかしそうに言うなら、聞こえないように言ってくれ」
「……そうですね」
ひとまずこれで少し仕返しはしただろうと思い、木陰の方に目線を合わせる。
そこには予想と反して、ドヤッと顔決めた木陰居た。
そして「……なら」と口添えして言葉を紡ぐ。
「日向くん、照れましたね!!!」
学校では考えられないほど、ハキハキとした表情と声色をしていた。
そんな木陰に呆気を取られ無言になる。
「……黙秘ですか、まあ良い私は良い気分になれたのでいいですけどねっ」
なんというかものすごく楽しそうに笑いかけている。
そこまでされると、こちらも何か仕返したくなるものでされたことをそのまま返す。
なるようになれ、こちらも元気良くだ。
「俺も久しぶりに一緒で楽しいよ!」
「──ッ!?」
勝ち誇っていた木陰の顔が崩れ、赤面していく。
「……か、カウンターはズルいですよ…………?」
次第に目を逸し、顔を下に背け始める。
「……本当にズルいです」
ひとり言のようだにつぶやく
「……負けました」
いつの間にか勝負になっていたらしく、そしていつの間にか勝ったらしい。
悪い気はしないどころか、むしろ楽しい気持ちだ。ただし、こちらの羞恥心を考えなければだが。
この勝負に勝者は居たのだろうか、とさえ思う。
「…………無理です、話を変えましょう」
「そうしよっか」
いたたまれない雰囲気になり話題を変える。
そうなると、話に挙がるのはもうすぐに控えている修学旅行の話だ。
「……修学旅行は日向くんと回れたりするんですか?」
「聞いた話だと現地で自由行動が多いらしいから、回ろうと思えば回れるはず」
そんなことを友だちの秋が言ってはずだ。それに勉学にあまり励んでない奴らの中では少しまえからその話題で盛り上がっている。
「……そうですか。……一緒に回っても良いですか?」
唐突な木陰からのお誘いに驚く。何というか前よりも積極的というのか。その理由は風邪のおかげだろう。
「俺はもちろん良いけど、二人だと勘違いされるからどうにかしないとなんだよな?」
誘ってもらえたことは凄く嬉しいが、そのときに言われた事でもある。
「……そうですね。……周りに知られて……みたいな関係は私にはまだ荷が重いというか……私の準備期間が欲しいです」
考え過ぎているかもしれないと思うが木陰には大切なことなので、彼女のペースに合わせて待っておこう。
しかし、そうなると修学旅行の問題がつきまとう。
「……でも一緒に修学旅行回りたいです!」
一緒に回りたいが、二人きりは避けたいという事になる。
「となると、前田さん誘ってになるかな?」
「……そうですね。……美冬ちゃんが居るなら周りから勘違いはなさそうです」
ただそれには木陰には少し辛い問題があった。
「ただ、そうなると秋とも一緒に回ることになるな」
「……そうなりますかね?」
「なるだろうな。あの二人仲良いし、話の中で前田さんが秋を誘ってるの何回か聞いてるから」
「……そうですか」
どうやら木陰の方も頭を抱えているようなうなり声がしていた。
「あ、秋ってのは斎藤秋人で木陰の斜め前の席のヤツね」
「……はい、日向くんと良く一緒に居る人ですね。……それは日向くんを見てるので分かります」
後半の言葉が気になるが話の腰を折らないために「そうそう」とながす。
「一緒に回るってなると……木陰、親しくない人と行動できそう?」
「…………それは……厳しいですね」
片手を顎に持ってきて物凄く難しい顔をして言う。やはり木陰にとって親しくない人間と過ごすのはハードルが高いみたいだ。
「……日向くんが常に私と居てくれるとして、それでも……」
木陰が言葉を続ける。
「……私が無理って言ったらどうなります?」
「木陰が前田さんと二人で観光地を回るか、一人で行動するかかな」
「……うーん、そうなりますよね。……でも前田さんと二人ってしてしまうと、せっかくの修学旅行も前田さんにも申し訳ない気がしますね……」
「いっそ俺と二人でっていうのもあるけど?」
立ち行かなくなり、秘蔵の案を出して見る
「……お、女の子の弱みに漬け込んでの急接近はダメですよ! ……そんなの他の生徒に見られたら絶対に言い訳できないです!」
それを言い出すと「今の状況も中々だけど」と思った言葉が溢れる。
「……日向くんとの帰り道は他の生徒は通らない道を選んでますから大丈夫です!」
「そうなのか」
知らず知らずのうちにそんな事をしていたらしい。
「……それは置いておいて、せっかくの修学旅行なら日向くんと回りたいです」
そう言い木陰が真剣な顔で物事を考える。
「…………き、決めました。……日向くんと一緒に修学旅行回ります」
「大丈夫なのか?」
「……ここで攻めないと後で絶対に後悔します!」
無理していないかと心配するも、決意は固い様子で見つめて来た。
「……あ、日向くんの友達さんには、私を無理に気に掛ける必要はないと伝えておいてください」
「それで良いのか?」
「……大丈夫です! ……棲み分けって言うやつです、多分」
棲み分けか。それなら何とかなる、のかと思うがつつくのは野暮だろう。
心配だが俺も居るし、いざとなれば自分で木陰のサポートに回れば何とかなるだろう。
「……修学旅行、一緒に回りましょうね!」
それに木陰の楽しそうな表情を崩したくない。
「そうだな。一緒に回ろうか」
「……あ、これってダブルデートになりますか?」
「ノーコメントで」
こればっかりは流そう。
「……そ、そうですね!」
言い出した木陰も耐えられなくなったのか、また話題を変えた。
根クラのHPです。
https://www.entergram.co.jp/nekura/
他にもX(旧Twitter)や、ビジュアルアーツ様の配信にて本作品のゲーム情報が出てたりします。
コミケではビジュアルアーツ様のブースにて『木陰のクリアファイル』が配布されるらしいですよ!
コミケに参加しなくてもVA冬フェスでグッズを買うとクリアファイルが付いてくるみたいです!
何卒……!
(来年こそは、来年こそはいっぱい更新したい)