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探り合う関係は終わり

 授業が終わり放課後までに残すはHRだけどなっていた。


「じゃあ、これでHR終わるぞ」 


 青木先生の話が終わり生徒たちが各々放課後に動き出していく。


「あー、やっと終わった」


 そんな事を言って羽を伸ばしているのは斜め前の席の秋人だ。


「日向帰ろうぜ」


 振り返るなり帰りの誘いが来たが木陰との先約があった。


「悪い、俺用事あるから先帰っててくれ」


 断ったものの後を引くような事もなく円満に終える。


「またか、しょうがねぇ。また明日な」


「また明日。遅れて来んなよ」


「分かった分かった。明日の俺に任せてろ」


 軽口を叩きつつ秋人が美冬と共に教室を出ていった。見送るなり木陰から俺にしか聞こえないように話しかけられる。


「……では日向くん、また後でいつもの場所で」


 そう言って木陰も教室を後にした。


 ◇◆◇◆◇◆


「ごめん、待った?」


 時間を少し空けて日向くんが待ち合わせの場所に来てくれた。


「……全然待ってないですよ! ……むしろ走って来てもらってありがとうございます!」


「そう? なら良かったんだけど」


 私は小さく頷いた後にもう一度お礼をする。


「……日向くん、先日はありがとうございました」


「気にしなくて良いよ。木陰が元気になったならそれで」


「……はい、ありがとうございます。とても助かりました」


 風邪の中ひとりの私に助けてに来てくれた日向くんには感謝しきれない。


「……それでお礼をしたいのですが、一緒に帰りながら今日食べたい献立とか聞いて決めて良いですか?」


 その恩返しの一環としてまずは手料理を振る舞おう。


「歩きながら一緒に決めようか」


「……はい」


 隣を歩きながら今日のメニューを話し合う。そんな道の通りがけに思いれのある場所が目に入った。


「…………日向くん、ここ覚えていますか?」


「ここは……木陰が雨宿りしてた公園?」


「……そうです!」


「それぐらい覚えているよ」


 日向くんが私との思い出を覚えていてくれた事に身体が熱くなる。


「……ありがとうございます」


 会話をしながらその公園の横を通りを後にする。


「……それで……それでですよ、日向くん」


 そして今歩いているのは雨の中、一緒の傘で帰った道。


「……前にこの公園の帰り道からですね……一緒に手を繋いで帰ったじゃないですか」


「そうだね」


「……その時はまあ……何と言うかですね」


 言うか言わないかで悩んで口がどもってしまう。でも結局、日向くんなら大丈夫と口にする。


「……二人で探り合いをしてたと思うんです」


 言ってしまった恥ずかしさで顔が赤くなるのを髪の毛で見えないように隠す。そして深呼吸して話を続ける。


「……でも、ですよ。これからはそんな探り合いをしなくても良いと思いませんか?」


 そう看病のときに関係は大きく変わった。それならいっそという気持ちだ。


「……私たちはもうアレなので。……何故か一つ上のステージに上がったという事で」


 濁しつつも伝えたい事は伝えられただろう。


「そうだな。何故か上がったしな」


「……あ、でも私たちまだいろいろするのは早いですからね。……そこは押さえておきましょう」


 まだ私たちは付き合っていないからだ。付き合うのは最終目標として私が成長してからその関係を築こう。

 それまでは恋人のより恋人らしい関係は少しだけ自制しよう。


「分かった。お互い変な探り合いは辞めて気楽に行こうか」


「……はい」


 ひとまず自分の真意も伝えられて心が落ち着く。これでお互いがお互いの事で気を病む事は無くなるだろう。

 それにちょっとぐらい大胆に行って美味しい思いもできたらな、そんな邪な気持ちを持っていてもいいだろうと安心できる。


「……伝えたい事も伝えましたし……一緒に帰りましょうか」


 緊張で止めていた足を再び動かし歩き始める。


「……それで今日の献立ですがどうしましょう?」


「うーん。コロッケとか」


「……なるほどコロッケですか?」


「前に一緒に食べたのを思い出してさ。前回のは木陰の手作りじゃなかったし。どうかな?」


「……リクエストしてもらえるのは凄く嬉しいんですけど」


 日向くんのリクエストに答えたいものの高すぎるハードルに頭を悩ませる。


「……日向くん、コロッケは奥深いんですよ。……それに前回のはお肉屋のコロッケですよ、コロッケ界最強ですよ!」


 そう相手はお肉屋のコロッケだ。牛脂をふんだんに使ったりできるので家庭料理では相手が悪い。


「……つまりはですね、前回のコロッケの味に勝てるか、日向くんを満足させれるかですよ」


「木陰のなら大丈夫だよ」


 ズルいな。そんな気持ちと答えたい気持ちが溢れだす。


「……分かりました。……足りない部分は私の愛情でカバーしますよ。……いいですか?」


「なら肉屋にも勝てそうだ」


「……はぁ、ズルいですよ」


 日向くんによる容赦ない私への信頼に心が踊る。それと同時に私にだけこんな想いにさせる事に嫉妬する。

 ならばそう、仕返しだ。それもとびっきりのを。


「え?」


 私の大胆な行動に日向くんは目を見開いて見つめてくる。


「……人に見られてなければこうやって恋人繋ぎで手を引くのもいいですよね?」


 さっきまで見つめ合っていたのに、照れたのか目線を外された。

 少しの間があり照れた声で「うん」と答えられた。どうやら上手くいったみたいだ。


「……仕返しです」


 成功した喜びと恥ずかしさから笑みがこみ上げてくる。


「……それじゃあ行きましょうか」


 お互いに熱くなった手を繋いだまま同じ帰り道を歩く。

 前よりもわがままな関係。それでいて前よりも気楽に居られる関係。


 そして更に進んだ関係に──いつか私の手で。

 まだ時間はかかる。でも日向くんとなら大丈夫だ。それに


「……待たせてる間も退屈させませんからね!」


 ◇◆◇◆◇◆


3章完結です

4章は修学旅行編

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