マドンナとマゾ
「だー、なんとか間に合ったか」
教室に勢い良く駆け込んだ秋人がそう言う。
「そうみたいだな」
俺も後ろから教室に駆け込んで返事をする。
二人揃って息が上がっていた。
すると教室の端で座っている暗野さんを見つけた。
いきなりズガズガと話しかけに行くことが出来ず、ほんの少し頭を下げておはようのジェスチャーを送った。
無事に気付いてくれて、暗野さんからも同じ挨拶が帰って来た。
親密な挨拶とは言えないが、とりあえず無視されなかったので安心する。
「おおっと?」
秋人は俺たちの行動を見逃していなく、ニヤつきながら肘で俺の腹をつついた。
もう少しバレないように挨拶するべきだったと反省する。
「いきなり遅刻寸前の出席とはあまり喜べませんね」
聞き慣れない声が俺たちの後ろから聞こえてきた。
振り返るとそこには、学年のマドンナ小川緑子がいた。
ちなみに彼女はいわゆる委員長タイプだ。
さっき話しかけて来たのも彼女らしい。
「すみません」
何た返して良いのか分からず、俺はとりあえず笑って誤魔化した。
それに対して秋人の方は、
「間に合ったからセーフ」
と、彼女の想いを軽んじて返していた。
流石は背中をナイフで刺されそうな男だけある、と関心させられる。
「斉藤くん、あなたはバカなの?」
緑子から唐突に出た毒舌に驚かされた。
が、秋人はへらへらと笑っていた。
「おーい秋くーん? 叱られて笑うとかマゾなのかなー?」
ここぞとばかりに半笑いで煽り返す。
「ああ、テメェなんだと!?」
しまいには、お互いにカバンで殴打を始める。
「それで成田くんは何故、女性物のカバンと普通の
カバンを持っているの?」
確かに俺は今カバンを二人背負っていた。
それには明確な理由があった。
「ええっと、これは──」
俺が彼女の質問に答えようとしたとき、このカバンの持ち主が教室に勢い良く駆け込んで来た。
「あ~、間に合った」
そう言って飛び込んで来たのは、前田美冬だ。
「日向、カバン持ってくれてありがと! 日向が持ってくれるって言ってくれなきゃ、私遅刻してたわ」
俺は美冬にカバンを返す。
「俺は『私を置いていけ、二人が遅刻しちゃう!』って言われたときは焦ったよ」
「迷惑になりたくなかったの」
彼女の意思を尊重しながら、遅刻させないための折衷案がカバンだけは俺が運ぶだった。
「結構重たかったけど、何入れてるんだ?」
実際、運ぶのにかなり疲れた。
「日向も不粋だな~、乙女の秘密よ!」
余計なことを言ったらしい。
やはり女の子に重さの話は控えよう。
「なるほど、前田さんの代わりに運んであげてたのね。優しいところあるわね」
緑子は疑問が解決して頷いていた。
「多分私が秋人に惚れてなかったら、日向のこと好きになってたかもね~~」
惜しいのかもしれないが、美冬が秋人以外の人とくっつく未来が想像できないので、いまいち現実味がない。
すると、ガタンッと教室の端から大きな音が聞こえた。
目をやると暗野さんが立てた音らしい。
見るからに何か焦っていた。
そして読んでいた文庫本で顔を隠した。
もしかして? と希望を抱いたが関係ないだろと自分に言い聞かす。
「そういえば前田さん、さっき秋人が小川さんに叱られて喜んでたよ」
「ホントに……?」
少し怒気をはらんだ声で聞き返された。
俺は「うん」と返事をして、秋人に見せびらかすように悪そうな笑顔をする。
「秋人! マゾなら最初から言ってくれれば良かったのに!」
「はあ!? 何言ってるんだよお前!」
俺の告げ口から夫婦喧嘩が始まった。
すぐさま美冬が秋人に固め技を使う。
「痛てて、放しやがれ! てか、日向テメェ後で覚えてろよ!」
そう言って暴れていた秋人だが、次第に抵抗が弱まっていく。
すると、本当に小さい声で美冬に「あの、胸当たってます」と言っていた。
「あ、胸? サービスしてやってんの!」
秋人とは裏腹に美冬は大きい声で宣言した。
みんなに聞こえてクラス中の注目の的だ。
「成田くん、あの二人はいつもあんな感じなのかしら?」
そう聞いてきたのは小川緑子だった。
「うん。あんな感じだよ。それに付き合ってるし普通なんじゃない?」
「なるほど、これが学年でも夫婦として有名な二人なんですね」
どうやら二人の話は学年のマドンナにも知られていたらしい。
「付き合ってねぇよ! 日向テメェ適当なことほざくんじゃねぇ!」
俺たちの会話を盗み聞きして威勢良く言っていたが、美冬がさらに強く身体を絞める。
それにつれて胸の密着度も上がったのか秋人は大人しくなった。
「あれー? なんか楽しそうやん? 俺も混ぜろや」
近くから関西弁の声が聞こえて来た。
現れたのは、金髪で長髪の色男だ。
その人を見て再び俺と秋人の声がハモった。
「「お前は高橋和葵!?」
◇◆◇◆◇◆
一応これで主要キャラが出揃いました。
日向と木陰
秋人と美冬
和葵と緑子 の六人です
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