行くぜ、イベント1
この世界は不平等だ。神様なんてものはいない。
『やったー!当たった!チョーうれしい!!』
『ヤバイ、また当たった。両部参加します!』
『やっぱり落選だった…ま、1枚は取れているからいいかー』
「…」
『ご利用いただき、誠にありがとうございます。
申し込みについては、厳正な抽選の結果、チケットをご用意することができませんでした。
またのご利用お待ちしております。』
「あー!!!!また落ちた!!!」
携帯を握りしめ数分前に来た抽選の当落を見て叫ぶ。
そう、この世界は不平等なのだ。
こんなにも当たっている人がいるのに自分は一切当たらないということ。
なぜ当たらない?チケットがご用意されない?ご利用お待ちしております?何度もご利用してますけど当たらない。一体いつになったら当ててくれるのでしょうか?私はいつまで待てば良いのでしょうか?
『譲渡。重複当選したのでお譲りします!グッズ協力してくれる人だとうれしいです。』
『譲渡。当たったはいいけどその日に急用ができたので行きたい人がいればお譲りします。』
『譲:チケット
求:定価』
「どういうこと…なぜ…なぜ…?」
「相変わらずあれてるね。やっぱり落ちた??」
「あっちゃん…」
私の肩をたたいた相手は同士のあっちゃんこと北野敦子だった。
「そうですよ、落ちましたよ。私が当たるはずなかったんですよ。知ってましたよ?どうせ落ちることなんて…」
「まあまあ、今回結構倍率高かったみたいだし仕方ないんじゃないかな。」
「では、なぜその倍率の高いチケットが譲渡に出されるのでしょうか?そもそもタイムラインを見ると当たったという人を多く見かけますが本当に倍率は高かったのでしょうか?」
「いや、私に聞かれても。ね、みーなこれなんだ。」
「は?何?」
あっちゃんの手にあったのは当選の文字、そしてその枚数は『2枚』
「あっちゃん…それは…」
「そうこれはみーなが落ちたチケット。もちろん私の推しも出ているから申し込んでいた。その結果がこれ。1枚は私用、もう1枚は…」
「もう1枚は…?」
「もちろん、行くよね?」
あっちゃんの手をチケットごと握りしめ言うことは一つだけ。
「神かよ!!!!!」
そして前言撤回、神はいた。
「それにしても当たらないね。最後に当たったのいつ?」
「えーと確か舞台のチケが取れたのが最後だから…」
「それって一緒に観に行ったやつ?」
「そう。」
「あれって去年だよね。」
「そうだね。あれ、ということは1年間何も当たって…ない…?」
「マジでか。それはそれですごいね。」
「そんな半笑いで言われても傷つくだけですよ。」
分かるよ、私もここまで来たらむしろ笑えるから。でもさ…少しは隠すっていう努力はしてほしかったな。思わず私の目から思わず涙がこぼれた。
私は3次元ではない次元が好きだ。そう、私渡辺南は『オタク』なのだ。
気づいたら好きになっていた。推しのために生きている。推しがいるだけで幸せなのだ。
推しと出会ってからは毎日が楽しいし、その推しに会いに行けるイベント、舞台というのはとても素晴らしい。推しに命を与えてくださる方々には感謝しかない。それなのに私はチケット運というものが一切ない。応募者全員当たるのでは?というようなチケットすら当たらない。逆に才能だと思うぐらいには当たらない。毎回枕を濡らしている。思い出しただけでも涙が出てくる。
同士あっちゃんこと北野敦子は逆にチケット運が恐ろしいぐらいにある。ほぼほぼチケットは取れている。そして、いつも私にチケット恵んでくださる。ありがたい。本当に神だと思っている。
「なんでそんなに当たらないんだろうね、日ごろの行い?何かしたの?」
「何もしていないはず。というかチケ申し込んだ後は良い行いを心掛けているから。」
「なんで?」
「当たるために。なんかいいことしてたら当たりそうじゃん。」
「その考えがいけないのでは?」
そんなはずはない。徳を積んでおけばきっといいことがある。何か起こるはずだと私は信じてる。よく言うだろう『日頃の行いが良くないからダメ』だと。なら逆に日ごろの行いをよくすればいいことがあるということだろう。私は信じている。
「あ、イベ行けるなら痛バ組みなおさないと。最近新しいの仕入れたんだよね、使いたい。」
「おーいいね。私も変えようかなーずっと同じなんだよね。」
「でもきれいだよね。あっちゃん器用だしセンスもいいからうらやましい。」
「本当に?ありがとうー結構自信作なんだ。」
「やっぱり?あー今から楽しみだなー!!」
「そうね」
行きたかったイベントにはあっちゃんのおかげで行けることになって本当に頭が上がらない。私の神様だ。イベントが今から待ち遠しいかった。
某アニメショップにて
「あっちゃん!!この推し最高にかわいい!!絶対買う!!痛バに使う!!」
「そうね」
某ゲームセンターにて
「待って、あっちゃんこれ良くね??あと10個あればいいかな?」
「そうね」
某オンラインショップにて
「あーーー!!この柄の缶バがある!!買うしかない!!」
「そうね」
そして、月日は流れ…
「ふわぁ…」
「眠そうだね、徹夜?」
「そう。痛バが全然できなくて。入れたいやつが沢山あったんだよねーこれでも厳正したんだけど、おかけで時間かかっちゃって寝れなかった。ちょっと仮眠ぐらい。」
「お疲れ。」
「うう…さっさとすればよかったんだけどね…前日になって慌てるやつ。学習能力がない。あっちゃんってこういうの作るの早いよね。」
「こういうのは直感が大事だからね。」
「直感かー…難しい。それよりやっぱり朝早いのきついね。」
「仕方ないよ、物販開始が9時、列形成が8時30分ということは会場に向かうのは7時がベスト。」
「別にそんな決まりないけどそれぐらいにはいかないとだよね。」
今日は待ちに待ったイベント当日。グッズのラインナップはもちろん確認済み、何を買うのかもちゃんと考えてきた。2人は電車を使ってイベント会場まで向かう。会場までは電車を乗り継いでいかないといけない場所にあり、2人の活動範囲から少し離れたところにある。高いビルや建物ばかりだった電車の外の景色は変わり、木々が増えてきた。それは段々とイベント会場に近づいていることだった。朝早い時間だからあまり人はいないだろうと思われがちだがそんなことは無い。今回のイベント会場の近くにはテーマパークの最寄り駅がある。そのテーマパークはとても人気で修学旅行などにも使われる。そのため、早い時間でもそのテーマパークに1分1秒でも早く向かうための家族ずれなどが電車に乗っている。今、この電車は人で溢れている。
「まぁ同じ考えの人は沢山いると思ってたからこの混み方は予想してたかな。」
「そうだね。そういえばさ次のイベなんだと思う?ジャン来るかな?」
「どうだろう、確かに最近来てないもんね。みーなは最近推しの新規絵がなくて辛いんじゃない?」
「そうなの!!なんで最近来ないの!?ずっと待ってるのに!!新規絵!!推しイベ!!準備もできてる。」
「あはは」
私があれている理由それはただ1つだ。
推しがイベにいない。ただそれだけ。いや、とても大きなことだ。ゲームのイベに最近いない、それすなわち推しの新規絵がないという状況が長く続いているということ。推しの親愛度もほぼほぼ上がりきってしまっている。
今回のイベントは南と敦子の好きなアプリゲーム涙あり笑いありそして恋愛要素も少しありのゲーム「ロイヤルガーディアンズ」の3周年記念イベント。「ロイヤルガーディアンズ」通称「ロイガー」は簡単に言えば下流貴族である主人公がある日突然特殊能力に目覚め上流貴族たちを仲間にしていき自国を災厄から守り抜くという物語だ。今回のイベントではキャラに声を吹き込んでくださるキャストの方々が登壇する。そして内容としては今までの周年記念イベントと同じであればミニゲームをしたりアフレコしたり絶叫必須の新情報があったりとなっている。しかも今回は南の推しである「ジャン・シュード・ベルトニア」と敦子の推しである「クール・ウェル・シトニア」のキャストが登壇する。必ず参加したいイベントだった。そのため特に今回はチケットの戦いに勝たなくてはいけなかった。クールのキャストはメインであるが人気で忙しいためなかなかイベントに参加されない。仕方ないことだがやっぱり悲しいものは悲しいし残念である。だからこそそんなクールのキャストが参加する今回のイベントはとてもレアだ。
「もう最近イベ休みすぎて走り方忘れちゃったよー」
「私は最近来たばっかりだからまだかな。」
「ボーダーがやばかったやつか、結構大変だったでしょ?」
「そんなことないよ、無課金で推しゲットしたよ。」
「うん、無理のない課金でしょ」
「そうね」
そんな話をして気づいた時にはテーマパークの最寄り駅まで電車は着いていた。家族ずれやいかにもテーマパークへ行きますという武装をした人達が降りていく。それでも電車の中は混んでいた。よく見るとイベントのキャラのグッズが所狭しとついている痛バを持っている人やキャラのぬいぐるみを持っている人、そのキャラのイメージカラーを身につけている人たちで目的は同じであることを示していた。
「考えてることは同じってことだね。」
「まあそうね。これぐらいの時間がベストだからね。」
「だね。よし、行こうか戦場へ…!」