表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
<R15>15歳未満の方は移動してください。

勇者の幼馴染による、とある一幕

作者: 碧野 水波

はじめましてみなさん。今日はとってもいい日ですね。

えっ、私が誰かって?

しがないとある『村娘A』です。

ところでみなさんに、お知らせがあります。

聞いて驚くことなかれ。

なんとこの度────




「ちょっとアーリャ、誰としゃべってんの?」

私ははっとして、横を見ました。そこにあったのは、私の友人ビオレッタの呆れ顔。

胡桃色のふわんとした髪に、ちょっとつり目勝ちな目をした、村一番の美人さんです。

「……もしかして、聞こえてました?」

「……『村娘えー』とか何とかぶつぶつ呟いてたわよ」

慌てて口元を押さえますが、後の祭り。思考がすぐ口に出るのは私の悪いくせです。

「…ごめんなさい」

「そんなことより──見てよ」

ビオレッタが目で前を見るよう促してきました。

「やっぱり王都から来た人たちは違うわねぇ」

ビオレッタの頬がほぉっと赤く染まります。

そうなのです。

目の前にはキラッキラに装飾された馬車と、これまたキラッキラな人たちがいます。

そしてその前にひざまづく、質素な身なりの青年。何が行われているのかと言いますと───

真っ白な法衣を纏った老人が、朗々と手元の紙を読み上げました。

「───汝ルークを、勇者に命じる!」


──そうなのです! なんとこの度、私の村から勇者が選ばれたのです‼


『勇者』というのは何かと言いますと、この世界には人を襲い、人を糧とする『魔族』という種族がいます。その親玉──『魔王』を倒す人のことを『勇者』と呼ぶのです。勇者は神託により選ばれ、他の選ばれた方たちと共に魔王討伐をするのです。

そんな世界を救う大役が、私の村から選ばれたのです。

まあでも当たり前です。彼の名はルーク。何でもできて、頭もいい。道を歩けば十人中十人が振り返るような美形(イケメン)です。まさしく才色兼備。こんなちっちゃな村にいる方がおかしいくらいの人です。

ちなみに、彼と私は一応幼馴染なのですが……あ、別にいいですよねこんな情報。

「…………リャ!」

おや、いけません。いつのまにか儀式(?)が終わっていました。王都から来た高貴な方々は、もう帰り支度を始めています。

「……ーリャ!」

びくっ、としました。はて、誰でしょうか。ビオレッタではありませんね。『村娘A』を呼ぶ声が聞こえたような?

「……アーリャ、行ってやんなさいよ」

ビオレッタが背中を押してきました。視線の先には───

「──アーリャ!」

質素な身なりの美形青年──先だって勇者となった私の幼馴染がいました。

「……ちょっといいかな」

「? はい何でしょう?」

興奮しているのでしょうか。ルークの顔が少々赤い気がします。冷静な彼にしては珍しいので眺めていたら、ついと顔を反らされました。

おお……、間近で見る美形は神々しいです。拝みたくなります。勇者と言えば、最後には王女様と結婚するのが王道ですが……、これは王女様も骨抜きでしょう。現在この国に王女様は三人いらっしゃいますが、いったいどなたがルークのお嫁さんになるのでしょうか。

……はっ、それよりもお祝いの言葉を言わなければ‼

「……その、俺が魔王討伐から帰ってきたら……」

「──ルークおめでとうございます!」

ルークの手を握りしめ、顔を見上げて言いました。

「非常に淋しいですが、勇者のお仕事頑張ってくださいね。私ごときの願いなど、ミジンコぐらいの力しかありませんが、いつもいつもルークの無事を祈っていますよ」

「……みじんこ? え、うんありがとう。それでさ、その……俺が魔王討伐から帰ってきたら」

「あぁそれにしても楽しみですね結婚式‼」

「け、結婚式!? もしかしてアー」

「魔王討伐が終わったら、もちろん美人な王女様をゲットして、めでたしめでたしなハッピーエンド‼ これこそ王道というものです! ルークはかっこいいからモテまくりですね。今のところどなた狙いでいきますか?」

「は? 俺はアーリャとけ」

「───勇者様! そろそろ出発しますよ‼」

先程の法衣の老人です。馬車から身を乗り出しています。

なんだかもう淋しいです。私はうまく笑えているでしょうか。

「それではルーク、行ってらっしゃい。ご祝儀は少ないですが、絶対結婚式呼んでくださいね」

「アーリャ? 何か誤解して」

「勇者様‼」

半分引きづられるようにして馬車に乗り込むルーク。頑張ってくださいね。そのまま勇者お迎え一行は、見えなくなってしまいました。

「……アーリャ、あんた……」

「どうかしましたかビオレッタ?」

さっきより呆れ顔が酷くなっていますよ。……今ため息つきましたね。何かそんなに気に病むことでもあったのでしょうか。

何はともあれ、王道万歳!

『村娘A』は、美男美女の結婚式が見れる日を楽しみにしています。



あ、そうですみなさん、言い忘れていました。

私『村娘A』ことアーリャは、転生者です!



評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[良い点] 話を聞かない系ヒロイン 思いを伝えられなかった勇者 この二人に待つ運命は! きっとドタバタ劇なんでしょうね 短いながら色々と妄想が進む良い作品でした [気になる点] 従来の作品をなら…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ