勇者の幼馴染による、とある一幕
はじめましてみなさん。今日はとってもいい日ですね。
えっ、私が誰かって?
しがないとある『村娘A』です。
ところでみなさんに、お知らせがあります。
聞いて驚くことなかれ。
なんとこの度────
「ちょっとアーリャ、誰としゃべってんの?」
私ははっとして、横を見ました。そこにあったのは、私の友人ビオレッタの呆れ顔。
胡桃色のふわんとした髪に、ちょっとつり目勝ちな目をした、村一番の美人さんです。
「……もしかして、聞こえてました?」
「……『村娘えー』とか何とかぶつぶつ呟いてたわよ」
慌てて口元を押さえますが、後の祭り。思考がすぐ口に出るのは私の悪いくせです。
「…ごめんなさい」
「そんなことより──見てよ」
ビオレッタが目で前を見るよう促してきました。
「やっぱり王都から来た人たちは違うわねぇ」
ビオレッタの頬がほぉっと赤く染まります。
そうなのです。
目の前にはキラッキラに装飾された馬車と、これまたキラッキラな人たちがいます。
そしてその前にひざまづく、質素な身なりの青年。何が行われているのかと言いますと───
真っ白な法衣を纏った老人が、朗々と手元の紙を読み上げました。
「───汝ルークを、勇者に命じる!」
──そうなのです! なんとこの度、私の村から勇者が選ばれたのです‼
『勇者』というのは何かと言いますと、この世界には人を襲い、人を糧とする『魔族』という種族がいます。その親玉──『魔王』を倒す人のことを『勇者』と呼ぶのです。勇者は神託により選ばれ、他の選ばれた方たちと共に魔王討伐をするのです。
そんな世界を救う大役が、私の村から選ばれたのです。
まあでも当たり前です。彼の名はルーク。何でもできて、頭もいい。道を歩けば十人中十人が振り返るような美形です。まさしく才色兼備。こんなちっちゃな村にいる方がおかしいくらいの人です。
ちなみに、彼と私は一応幼馴染なのですが……あ、別にいいですよねこんな情報。
「…………リャ!」
おや、いけません。いつのまにか儀式(?)が終わっていました。王都から来た高貴な方々は、もう帰り支度を始めています。
「……ーリャ!」
びくっ、としました。はて、誰でしょうか。ビオレッタではありませんね。『村娘A』を呼ぶ声が聞こえたような?
「……アーリャ、行ってやんなさいよ」
ビオレッタが背中を押してきました。視線の先には───
「──アーリャ!」
質素な身なりの美形青年──先だって勇者となった私の幼馴染がいました。
「……ちょっといいかな」
「? はい何でしょう?」
興奮しているのでしょうか。ルークの顔が少々赤い気がします。冷静な彼にしては珍しいので眺めていたら、ついと顔を反らされました。
おお……、間近で見る美形は神々しいです。拝みたくなります。勇者と言えば、最後には王女様と結婚するのが王道ですが……、これは王女様も骨抜きでしょう。現在この国に王女様は三人いらっしゃいますが、いったいどなたがルークのお嫁さんになるのでしょうか。
……はっ、それよりもお祝いの言葉を言わなければ‼
「……その、俺が魔王討伐から帰ってきたら……」
「──ルークおめでとうございます!」
ルークの手を握りしめ、顔を見上げて言いました。
「非常に淋しいですが、勇者のお仕事頑張ってくださいね。私ごときの願いなど、ミジンコぐらいの力しかありませんが、いつもいつもルークの無事を祈っていますよ」
「……みじんこ? え、うんありがとう。それでさ、その……俺が魔王討伐から帰ってきたら」
「あぁそれにしても楽しみですね結婚式‼」
「け、結婚式!? もしかしてアー」
「魔王討伐が終わったら、もちろん美人な王女様をゲットして、めでたしめでたしなハッピーエンド‼ これこそ王道というものです! ルークはかっこいいからモテまくりですね。今のところどなた狙いでいきますか?」
「は? 俺はアーリャとけ」
「───勇者様! そろそろ出発しますよ‼」
先程の法衣の老人です。馬車から身を乗り出しています。
なんだかもう淋しいです。私はうまく笑えているでしょうか。
「それではルーク、行ってらっしゃい。ご祝儀は少ないですが、絶対結婚式呼んでくださいね」
「アーリャ? 何か誤解して」
「勇者様‼」
半分引きづられるようにして馬車に乗り込むルーク。頑張ってくださいね。そのまま勇者お迎え一行は、見えなくなってしまいました。
「……アーリャ、あんた……」
「どうかしましたかビオレッタ?」
さっきより呆れ顔が酷くなっていますよ。……今ため息つきましたね。何かそんなに気に病むことでもあったのでしょうか。
何はともあれ、王道万歳!
『村娘A』は、美男美女の結婚式が見れる日を楽しみにしています。
あ、そうですみなさん、言い忘れていました。
私『村娘A』ことアーリャは、転生者です!