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その後

 普通こんなひどい目にあったら、錯乱したり、泣いたり、少しおかしくなっても不思議はない。でもその時の俺は、ゲームのちょっとした強敵を上手く倒した、くらいの高揚感こうようかんがあるだけだった。もちろん高谷たかやが死んでしまったことは悲しかった。でも死んだものは仕方がない。当時の俺だったら、本来は高谷を死なせてしまったことを思って、もっとくよくよしたはずだったと思う。俺は自分がおかしくなっていることに気付かなかった。


 俺は後始末の事を考え始めた。高谷が鎧武者のお化けに殺されたなんていうのは、後で大人に説明する内容としては目も当てられない。おまけに夕子の話とも内容が一致していればなおさらひどい。ここは夕子が見つけた穴に3人で探検に入ったら、中に大人がいて襲ってきた、ということにしよう。大きなナイフを持った男は先頭の懐中電灯を持った高谷を切り殺し、穴の外へ逃げた。暗かったからか俺と夕子には気がつかなかったようだ。これでいいだろう。俺は大人を呼びに行こうと思った。誰に知らせるのが一番いいだろうか。やはり学校の先生か。それともおまわりさんか。


 「た・・・高谷君?・・・」


 「・・・高谷は・・・死んだ」


 拾った懐中電灯をけたまま夕子に返して言った。


 「嘘・・・」


 俺は何も言えなかった。夕子の様子を見ていると鋭くて鈍い痛みが胸にきた。俺は二人を残していこうと思った。


 「夕子。ここで待っていて。誰か大人を呼んでくるから」


 へたり込んで放心状態だったはずの夕子は、驚くべき俊敏さで飛び上がり、歩き出した俺の背中に全力でぶつかってしがみ付いて来た。


 「だめっ!ひとりにしないでっ!!!」


 俺は何だか変な気になってきたが、そんな気持ちを振り切るように夕子の手を振りほどいて抱き上げた。さっき失敗したお姫様だっこだ。そしてそのまま全速力で走り出した。多分さっき俺がイメージしたもの、夕子をかついで全速力で逃げよう、というのが頭の中に残っていて発動したんだろう。今の俺にはそれができてしまう。夕子の顔はすぐ下にあったのに、結局俺は見なかった。どんな表情をしていたのかは知らない。多分鎧武者を見た時と同じように、目を見開いて口を開けていたのではないだろうか。縦穴を軽く飛び出して、休みもせずに走り続けた俺はすぐに夕子の家の前までついた。ここで別れようとしたが、夕子は家にいて欲しいと言う。夕子は両親共働きで鍵っ子だった。年の離れたお兄さんは遠くの大学へ行っていて、下宿しているらしい。めったに帰ってくることもない。


 結局俺は夕子の家の電話を借りて警察に電話した。事情を説明すると、戸締りして家に待機していろと言われた。夕子は何のことはない、家に帰って安心したのか、すぐに寝てしまった。ショックだったし、疲れたんだろう。俺は起こさないようにベッドに寝かせて、両親が帰るのを待った。夕子のお母さんが帰ってきたので、あらましを伝えて帰ろうとしたら、お袋を迎えに来させると言って聞かない。家は近いからいいと言ったが、聞き入れられることはなかった。お袋は既に帰宅しており、夕飯の仕度を置いて迎えに来てくれた。お袋もいろいろと聞いてきてうるさかったが、これもしようがない。


 翌日俺は普通に学校へ行った。夕子は確か一週間ぐらい休んだと思う。何も知らない三バカは早速俺の洗礼を受けた。チャンバラの悪役よりも見せ場がなく情けない感じだった。動く間もなく三人とも得物を持ったまま白目をいて倒れていた。学校での力関係はこの日を境に、俺からするとひっくり返った。お袋や先生に今までとは違う叱られ方をするのがおかしかった。でもそれもすぐになくなった。校区周辺で俺をいじめようとかケンカを売ろうという奴はもういない。俺はヨシオを始めとする悪バカガキ共を完全に従えてしまった。特にヨシオは忠実な子分になった。


 俺は事件の翌日、夕子は登校してきた次の日に会議室へ呼ばれて、担任の先生達と一緒に事件のことを聞かれた。俺は別に夕子と口裏を合わせたりはしなかった。だからもしかすると夕子は見た通りのことをしゃべったかもしれない。でも俺はそれはそれで特に問題はないだろうとタカをくくっていた。俺はあらかじめ考えていた例のストーリーを話した。大人たちは俺の話を信じたんだろうと思う。別に不都合も不思議もない話だ。ただ犯人が架空の人物で、永久に出てくることはないというだけ。防空壕ぼうくうごうの縦穴は埋め立てられ、事件は迷宮入りになった。


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