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夕子の発見

 そんな小学生の最後の年、忘れられない事件が起こった。事の始まりは、夕子のある発見からだ。


 俺の住んでいる町は日本の田舎の盆地の真っ只中にあった。狭いところなので、周囲を見渡すと四方にへいみたいに山がある。校区の住宅街から少し離れた山のふもとに神社があった。やしろはぼろぼろ。鈴緒すずおも腐ってる。ここにはあまり人は来ない。それだからかわからないが、夕子や高谷たかやと俺は、ここで一緒に遊んだことが結構ある。高谷と拾ってきたエロ本を一緒に見ていたこともあったな。


 ある日夕子は、境内けいだいの裏にある平べったい石の影の地面に、小さな穴が開いているのに気付いた。木の枝でつついてみると穴が広がる。ついに足で蹴ると、周辺がボロボロボロと崩れて大きな穴が開いた。多分穴をふさいでいた板だかなんだかが朽ち果てていたんだろう。ちょっとした落とし穴があった訳だ。


 夕子は高谷と、俺まで呼んで探検をしようということになった。俺は遠慮しようかと思ったが、高谷は笑ってお前もついてこいよという。俺はこいつらの弟か子分みたいなポジションやったんやろな。


 夕子は懐中電灯、高谷は短い木刀を持ってきていた。俺はもちろん手ぶらだ。俺が武器を持っていったって、どうせ満足に振れないんだから、なくても一緒だ。いざ逃げるときに邪魔になるだけ。そういうのは高谷に任せておけばいい。俺はせいぜい大人に見られていないか、周りの気配に注意を払っていた。いじめられ歴実年齢は伊達だてではない。こういうのはプロだ。二人ともぼっとし過ぎ。


 もちろんこんな危険な遊びをしている子供がいたら、大人は止めなければならない。大して固くもない地面にろくな補強も無く掘ったような穴は、あっけなく崩れる危険性がある。子供三人生き埋めで行方不明、なんてことが起こっても不思議ではない。俺はそこまで考えてなかったが、大人に見つかったらまずいという結論だけは確信していた。


 さあこれから穴に入ろうかという時に声がした。


 「やめた方がいいぞ」


 それはあまりにもはっきりしていたため、俺は空耳だとは思わなかった。どきっとして周囲を見回した。誰もいない。俺は何度も見回したが、何も見つけることはできなかった。何と言うことか、俺のキョドる様子に二人は驚いたようだった。


 「タクヤどうしたん?」


 「ネコでもおったか」


 俺はどちらかというとイヌ派だ。それはさておき、俺にはあれほどはっきりと聞こえたのに、二人には何も聞こえなかったらしい。考えられないことだった。本当に空耳だったのか。それとも俺の頭がどうかしたのか。


 本気で悩み始める俺に、二人は戸惑ったようだ。


 「大丈夫か。おまえ」


 「もしかして怖いん? ねえ高谷君。タクヤ嫌みたいやから今日はやめとこっか」


 俺は別に臆した訳ではなかった。俺は当時から、いじめられっ子の弱虫のガキのくせに、幽霊だのお化けだのはあまり怖くなかった。いるわけないとも思ってたし。でもさっき聞こえた声はなんだったのだろうか。別に今日はどこかで頭を打ったり殴られたはしなかったし、気分も体調も悪くはない。俺は別に怖いわけではないと言い張った。二人には弱虫の弟が強がっているようにしか見えなかったようで、別に無理せんでもええでと念押しされる始末だった。そういうのは平気やねんって。


 後でわかったが、このどう見ても自然にできたとは思われないあやしい穴は、戦時の防空壕ぼうくうごうだったようだ。どういう訳か忘れ去られて当時に至る。最初夕子の見つけた縦穴から、下まではそれ程深くはなかった。先に飛び降りた高谷が夕子の手を取って抱きとめた。あの役やりたい。俺は着地で少し滑ってこけた。土が湿っぽかったから・・・高谷に笑われ、夕子に尻についた土を叩いて落としてもらってしまった。


 穴の深さは一番背の高い高谷の目が地面より少し上に来るぐらいだった。俺や夕子は頭が隠れる。その先にはゆったりとした下り坂の横穴が続いていた。


 高谷は懐中電灯を夕子から受け取り、先頭に立った。俺は二番手だ。夕子が殿しんがり。当時俺はここでナンバー2のつもりだったようだ。女の子は守らなきゃ、みたいな。でも最近知ったけどパーティって一番後ろはサブリーダなんな。犬でも最下位の序列の奴は、自分ではケツから二番目のつもりでおるやん。まさにあれやな。


 横穴の先には広間のような大きなスペースがあった。俺達は宝探しのつもりでもあったから、もちろん隅々まで調べようとした。・・・そうすると、奥にとんでもないものを見つけた。かろうじて四角を保っている木箱に鎧武者よろいむしゃが座っている。その周囲にはくいで縄が張ってあったようだが、切れたり朽ちたりしている。杭も倒れたりしている。鎧武者の足元には怪しげな漢字や文様のようなものがたくさん書かれていた。見つけた時は高谷もさすがに声を上げてびびっていた。家宝の鎧とかかもしれない。それとも呪いの鎧か。誰が何のためにこんなところへ置いていったのか・・・それに何だか気味が悪い。


 「よせ!離れろ!逃げろ!」


 鈴緒すずおって言葉知りませんでした。

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