Ⅴ 前兆
ザクッ―――――――。
無数の紫の槍が地より出でる。
対象等を串刺せば、跡形もなく肉片と化した。
『フン雑魚が…このオレに敵うわけないだろ』
――――――
「ラウルさん」
背後からした蚊の泣くような声を、耳がとらえた。
「なんだ…ユキか、同い年なんだ
さんは要らねえよ」
幸はオレに名を呼ばれた事が、そんなに嬉しいのか、頬を赤く染めた。
「よかったらお弁当…」
幸は弁当を二つ持っている。
オレに献上するために作ったのか。
「お前友達いなそうだな、一緒に食ってやろうか?」
「う…うん…!あのラヴィーナさんはいいの?」
あいつは今頃隣の教室でクラスメイトと仲良く食っているだろう。
「ああ、いつも一緒なわけじゃねえよ」
「そうなんだ…」
屋上庭園まで浮遊し、弁当を広げた。
「テトラライス…お口に合えばいいんだけど」
ただ三角に握った米、テラネスでよく作られる料理だ。
「ああ、米は嫌いじゃない
オレもテラネス出身だしな」
「え…?…そうなの?」
幸は目を丸くして驚いている。
「そんなに意外か?」
「うん…ラウルくん、すごい魔法が使えるから、てっきり“ドゥーブルフロマージェ星”で生まれたのかと…」
ドゥーブルフロマージェ星…通称センタースター、この星のことだな。
「テラネス生まれのオレが魔法を使えるのは嫌か?」
―――こいつも、オレから離れていくんだろうか。
それも仕方無い。最強とは孤独だ。
「ううん…そんなことないよ!」
「そうか?」
「だって、テラネスにも、何千年前には魔法を使える人がいた。
それに今目の前に居て、話せるなんてすごいよ」
今までテラネスの人間に、そんなことを言われた覚えがない。
「お前変わってるな」
ただ黙ってるだけかと思ったが…こいつ、ちゃんと自分の意見を言えるのか。
「ラウル…」
(どうしてあんなに仲良くなって…)
「…憎い?」
(この人いつのまに…)
「誰よあんた!」
(フードの下に、仮面の…女)
「君もよく知っていると思うよ」
(私も知っている…?)
「すぐに忘れるけどね」
(まさかこの人―――)