Ⅰ 最強のオレ
―――――魔法があればなんでもできる。
富、幸福、愛、力、すべてが手に入る。
「きゃっ」
女生徒が足をかけられ、転ぶ。
手荷物を床にばら蒔いた。
「医学なんて魔法がありゃ必要ねーよ」
足をかけた男は女生徒を見下ろし、けらけらと笑う。
「そーだそーだ!
テラネス人はさっさと星に帰れぇ!」
男の仲間が囃し立てる。
「お前ら、オレに喧嘩売ってんのか?」
男二人の肩をパワー増強魔法で強化した手で握る。
「死にたくなかったら謝れ、でないと燃やす」
ついでにファイアーの魔法で肩から燃やしてやった。
「もう燃やしてんじゃねえか!!」
「くそっおぼえてろ!」
ケツをまくって逃げるとはこのことか、二人組はチリチリ燃えながら脱兎のごとく退散した。
「やれやれ、無駄な魔力使わせやがって」
「あの…ありがとうございました!」
女生徒が頭を下げて、ぶちまけた荷物を拾おうとする。
オレは魔法で物を移動させ、女生徒の手元にまとめた。
「そろそろ授業だな」
ここは宇宙に浮かぶ、惑星に存在する魔法学園。
医学の青き星“テラネス”
武器の赤き星“フィエール”
植物の翠なる星“グリテア”
他にもいくつもある星から生徒を募っている。
「――――ての源は」
―――なんてくだらないんだ。
今日の授業、いつもと変わらず幼稚で退屈。
精霊を呼び、空気を震わせ、突風をおこす魔法。
そんな低級魔法、授業でやる必要あんのか。
「きいてるんですか!!」「あーハイハイきーてますよセンセイ(声はな)」
「では、先ほど言った通りに、やってください」
「ハイハイ」
詠唱なしで、爆発、火炎、雷雨、嵐、渦潮を同時に起こしてやった。
「廊下に立ってなさあああああい!!」
やれやれ、センセイは俺の高度な技に嫉妬でもしたか。
オレは間違いなく、この学園のみならず全世界において最強の魔術師だ。
嫉妬するのは無理もないだろう。
オレは今、硫酸入りのバケツを持たされている。
非常にぶちまけたい衝動にかられた。
決して怖いのではない。
「まーたやらかしたのね、ラウル」
幼い頃からの幼馴染みのラヴィーナだ。
昔から飽きもせず毎日ベタベタしてくるからオレに気があるに違いない。
「ラヴィーナ、変わりにバケツ持ってくれ」
冗談半分に、片方の硫酸入りバケツをつきだす。
「なんでよ。」
ラヴィーナはあっけにとられたような顔から目を細めて聞き返した。
「オレが最強の魔法使い様だからだろ」
「はあ…」
「てめー調子に乗んなよ!」
女生徒を取り囲む男子生徒の怒鳴り声が廊下に響く。
「あ。」
誰かと思えば今朝方の気弱そうなやつだった。
「あいつら…また絡んでるのね」
「知ってるのか?」
「ええ、最近よく見かけるから
あの子最近テラネスから留学で来た子なんだけど」
テラネスから来た学生はは昔からこの惑星セクタで手厚く歓迎される。
取り合えず何千年も前からのつながりらしい。
そして、オレもその、テラネスで生まれた。
「わたし…何も悪いことはしてません」
「とぼけんな!!
この前のテストでおれ等より順位上だったじゃねーかよ!」
くだらねぇ。
「オイオイ、ガキの喧嘩かよ」
「万年最下位は黙ってろ!!」
なにいってんだこいつ。
オレが最下位なんじゃない。
魔法の使い方に文句を言うやつがオレの実力を認めないだけだ。