86 重力と硫酸と素直じゃなくてゴメン
「次のチーム発表か」
「グレド&グラヴィティアvsルサッデ&リコト!」
「あ、ルサッデとペアの子、テラネスからの留学生だよ」
「ふーん魔法の使えないテラネス人は不利じゃないか?」
「がんばろうねぇ~シン~」
「……」
グラヴィティアは狂気と無邪気の相反する異質なオーラはさることながら、グレドからは魔とは異なりただならぬ力、神秘的な雰囲気を感じる。
「あー遠足よりどきどきする」
「小学生かよ。で、俺達が優勝したらどうする?」
この勝負はペアの問題でルサッデの負けか、見たい勝負が見られず残念だ。
「つまらぬ……」
グレドだかシンだかわからんやつは踊りながらモバァイルをいじる。
「じゃ、パパッとご飯しちゃおっか!」
グラヴィティアがグレドの腕をつかみステップを踏みながら、ルサッデとリコトの周囲をぐるぐる回転しはじめた。
テラネスでは古くから葬式にやる事なので人の周りを回るのは無作法にあたることだ。
おそらく重力を操ってあの二人を動けなくしたんだろう。
これは早くも決着がついただろうか。
「ふー危ない危ない」
ルサッデが重力の黒オーラをはじいた。
否、溶かしたのだろう。
硫酸の物質を溶かす科学的定義。重力という個体や物理とは遠くにある空気と類似するそれを、魔法論理、理論あるいは結果論に変えて。
科学物質なる硫酸が物を溶かすのではなく、硫酸と同じ作用をもつ魔法。
おそらくはそれを同じく重力と同様の効果となった魔法と対等になり。
硫酸で重力を溶かすことを可能にした。
そういうことだろう。
「へー溶かせるんだ~おもしろーい。ボクもうだめみたーい。シン頑張ってよぅ」
「ふむ」
「たしかテラネスのやつは魔力ないってさーだからいけるでしょ。殺さない程度に加減は難しいけど」
「……魔力のない人間”を捻るなど`我には造作もなきこと。バイアスとなる魔力がなければな……」
グレドは意味深なことを言う。どうせ自分は人間じゃないと思い込んでいる中二病だろう。
「人間よ……魔<ま>とも理<ことわり>でもあらぬ……我が力の前にひれ伏すがよい」
グレドは手を地から天へふりあげる。白と黒の混濁した灰の何か、それは空気にとける。
気のせいか、周りの空気にまで重圧がかかる。
奴はやはりただの人間じゃない。なにものだ――――――
「終わりだ―――――重神<おもきがみ>の前へ伏せ!!」
離れていても尋常ではない気が、会場全体を覆った。
このままではまずいのではないか―――
だが他チームに外野が関わるのはナンセンスだ。
だれか、この状況を打破できるものはいないのか。
「濁りし眼<まなこ>をつんざけ!青き光り《ブルーミュ・ライト》!!」
「え!?」
リコトがその力を相殺した。
「まさか……あいつが……」
「いやーあの子、一応魔法使えるみたいなんだよねー実は」
「あーもう飽きたし、ボクたちの負けでいいよねシン。このままだとイラついてオーバーキルしちゃいそう」
「勝者ルサッデ&リコト!」
「ちっテラネス出身って聞いたからグレドの力に問題ないと思ったら
まさか魔力持ちなんてねー。もうつまんないし、帰ろっか――――神<シン>」
―――そうか
魔力と神力は、打ち消し合うものだということか。
「ラウルくんみたいにハーフなのかな?」
「ううん、あのこはテラネスで生まれて育ったみたいだけどテラネス星人じゃなかったみたいだよ」
「属性からして……
ミューン星かダークブルームエンゲージ星か」
「ちなみに竹やぶに捨てられていたのを拾われたらしいよ」
「どこの昔話だよ」