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夢の夢

作者: 蒼烏

初投稿、処女作ということで生暖かい目で読んでいただけたらな、と思います

ある冬の夕方、と言っても季節も冬ですっかり暗くなっている中、俺、水無(みずなし)カケルは学校から帰宅するために電車を待っていた。いつもならもう少し早く帰れるのだが、今日は生憎と補習が長引いてしまったのだ。


「それにしても最近更に寒くなってきたなぁ」


別に誰かが答えてくれるわけでもないのにこういう言葉を呟くのは、自分のことながら毎回不思議に感じるな。多分俺だけじゃなくて多くの人が考えていることなんじゃないか?


などと思いながら辺りを見回してみた。

古びたホームで電車を待っている人は一人二人でほとんど人がいない、いくら時間が遅いとはいえ、いつもではあり得ないくらい少ないな。


あーあ、高校に入ってからはいいことがないなぁ。さすがにずっと一人で登下校は辛いな。これから先いいことでも起きないとやってられないぞ。


そんなことを考えていたら、アナウンスが流れ、遠くから電車の近づいて来る音が聞こえてきた。俺は乗るために座ってたイスから立ち上がり、乗車位置へ向かった。


乗車位置で立っていると不意に後ろから人の気配を感じ、俺は何気なく振り返って見た。


「お、おい、どうしたんだ?」


つい、そう声をかけてしまったほど、男の顔はとても悲しげで今にも自殺しかねないような顔だった。


本当に大丈夫だろうか?そう考えていると、体に衝撃が走り一瞬のはずだがとても長く感じる浮遊感に襲われた。


おいおい、自殺しそうな人に殺されちゃったよ。いやまだ死んではいないけどこれ確実でしょ。


なんでこんな冷静なのか自分でもびっくりだ。だけどひとつ言うなら、このとき俺は夢を見ているような感覚だった。


だんだんと意識が薄れていく。


最後に視界にはいったのは、両手をつきだした男の姿と、眩しい電車のライトだった。











「ーーーーッ!」


意識が覚醒し、ものすごい勢いで飛び起きた。飛び起きたと言うからには寝ていた状態だったのだろう。多分。maybe。


扉の向こうから物音が近づいて来る、だれだろうか。


「お、目が覚めたか、気分はどうだい?」


起きた音が聞こえたのだろう、すぐに友人が飲み物を持って部屋に入ってくる


「あぁ、ありがとう。大丈夫だ、それより俺は何でここにいる?電車に轢かれそうになったはずなんだが」


そう言い、受け取り口をつけた少し濁りのある、甘さの中にほんのりと塩分の味が混ざった飲み物は某有名スポーツドリンクであるだろうポ○リだ。


余談だが実は俺はアク○リアスの方が好みだったりする。


「ははは、電車に轢かれそうになった?なに寝ぼけたことを言ってるんだい?もしかして夢を見てたんじゃないのかい?」


彼は笑いながらそう言ってくる。確かに言われてみればあのときのことを思い出そうとしてもあまりはっきりとは思い出せなかった。


「まぁ、氷で滑って頭を打ったんだから、それくらいの夢を見るかもしれないけどね」


そうか、俺は滑って転んだのか。記憶が曖昧なのもそのせいなのかもしれないな。


納得したところで別の疑問が出てきた。此処が何処なのかと言うことだ。まぁ、見ただけで家なのはわかる、でも確認はしたいじゃないか?だから聞いてみた。


「此処はお前の家なのか?」


「おいおい、頭が使い物にならなくなったのかい?当たり前だろ、君が知ってる通りいつもの僕の家さ」


使い物にらなくなったってちょっと言いすぎじゃないか?だけど、改めてみてみると、うん、見慣れた友人の部屋だ。


逆に何故わからなかったのか不思議な位馴染みのある部屋だ。


「頭も全然痛くないし明日からでも学校に行けそうだな」


「本当に大丈夫なのかい?」


彼が心配そうに聞いてくる。だが本当に痛くないのだ頭を打ったのが嘘のようだ。


よし、明日から普段通り学校へ行こう。


そのあと、しばらく話などをして、晩御飯をご馳走になってから帰った。


途中少し道に迷ったが、歩いていると見慣れた道が見えたので帰ることができた。










翌日、友人と学校の近くで合流していつも通り二人で一緒に登校していた。

男子高校生ならではの他愛のない話をしながら歩いていた。


ふと、歩いていた道から路地裏へ抜ける通路が目に入った。昼間にもかかわらず薄暗いそこには人が好んで入っていくような雰囲気ではなく、本来なら人の気配があるはずがないのだが、今日この時に限っては違ったらしい。

一瞬ではあるがうちの高校の制服を着た女の子が引っ張られて行くのが見えた。


見てしまったからには放っておくのはさすがに良心が痛むな。


「先にいっててくれ」


「え?ちょっと!どうしたんだい!?」


友人は事態が把握できずそこから動けていない。だがそれでいいのだ、相手は一人だけのように見えたし、後ろからの奇襲なら余裕だと思った。


俺はこの時事態を甘く見ていた。どうせ強引なナンパだろうと鷹を括っていたのだ。俺が見た連れ込んだ奴は身長は低いものの、いわゆるイケメンの部類にはいるだろう。


だが他に二人いたのだ、、これが問題だ。金髪にピアス、ダサい服装。これはもうチンピラのテンプレとしかいいようのない外見である。もう一人の方は茶髪で服の上からでもわかる筋肉が伺える。


そして、金髪がゆっくりと近づき、女の子を手込めにしようとてを伸ばしていく。


「や、やめてください、なにするんですかぁ」


女の子は涙目だ。


「グェッヘッヘッ、言わなくてもわかるだろぅ?ナニをするんだよォ!」


すごく汚い笑い方だ。あれはもう性欲にまみれたサルにしかみえねぇ。


だがいくら相手があんな外見でも、瞬殺できるのは俺TUEEEEな主人公がチートな物語だけである。一般市民である俺に倒せるわけがない。


「だったら取る行動は限られてくるな」


俺は近くに落ちている石を、自分のいる場所とは反対方向に思いっきり投げる。気を引いてるうちに助けようと言う算段だ。


「はやく、今のうちに!」


そう小声で言い、連れ込まれた女の子の手をとり走り出す。


あ、でもなんか逃げるときにサルが近くにいたから去り際に一発殴っていった。


とても清々しい気分だ。


「オイッ!テメェ待ちやがれ!」


「いきなり殴り飛ばしてきやがって!逃がさねぇぞ!」


おぉう、凄い追いかけられてる、だが相手の反応が遅れてまだかなりの距離が開いている。あ、殴りはしたが飛ばしてはいないぞ。と考えていると、不意に声がかけられた。


「ふたりともこっちだ!」


この声は友人のものだ、急いで声の方へ向かう。そこには彼の他に、二人分ほどのスペースが空いている大きめの蓋付きの鉄製の箱のようなものがあった。大分錆びているが、背に腹は変えられないだろう。そこへ彼女と一緒に入った。


間もなく、足音が聞こえ、やがて遠くに消えていったのを確認してから外へ出た。


「ふぅ、危なかったぁ、助かった」


「大したことはしていないさ、君のあとを追うのが遅れて、遠目から君達が逃げてるのを見て、隠れられるところを探しただけだよ」


「あ、あの!ありがとう!カケル君が来たときに凄い安心したよ!」


何で僕の名前を知っているんだ?


そう思いながら、まだ少し乱れている呼吸を整える


「あ、君は確かカケルの彼女の」


「あ、はい!そうです!」


はぁ!?そんなはずはないが顔をもう一度見て確認してみる。


あー、本当だ、数ヵ月前にできたとても可愛いらしい彼女がこちらを見つめている。今でも俺とq付き合ってるのが嘘なんじゃないかと思ってしまう位には可愛い


そうだ、いつも一緒に登校しているのに今日はいなかったから不思議だったのだ。


「一緒にいくか?」


どうせいくんだろうけど一応聞いておく。


「うん!」


これでいつも通りの三人が揃い、学校へ向かっていく。











放課後、担任に職員室に呼ばれていたので、職員室へ行った。


「カケル君、あなた授業態度最近凄くいいって他の先生からよくきくわよー、

この調子でテストも頑張ってちょうだいねー」


話し方に特徴のあるこの女性は俺の担任だ。会えばこの人が担任だとわかるのに、さっき、職員室に呼ばれて入るまではどんな人かわからなかった。


いつもそこまで気にしてなかったからかもしれない。


職員室に呼ばれたのは明日の実験に使う道具を運ぶのを手伝ってほしいとのことだったからだ。本当は日直のはずなのだが何故か俺が指名された。

日直がとても悔しそうにしていたのはそのとき理解できなかったがなるほど。うちの担任はとても若くきれいだった。多分このせいだろう。


「ありがとうございます、これからも頑張ります」


道具を運びながらとりあえず返事をしておく。褒められることに不快感は覚えない、むしろ嬉しいくらいだ。


歩きながら先生と会話をする。ほとんどが先生からの質問が多い。学校に入ってからどうかや、最近は何かあったのか、などそんな身の上話だ。


「最近のあなたは担任として鼻が高いわー、あっ、お手伝いありがとうねー」


教室に道具を運び終えた先生はそう言い、職員室へもどっていった。


俺も一旦自分の教室に戻り、鞄を背負って学校を出る。












校門を通ると友人が待っていてくれた。一緒に帰る約束はしていなかったはずだが。


「先に帰ってても良かったのに」


「どうせ電車は同じなんだ、一緒に帰った方がいいだろう?」


それもそうか。そう思いながら歩き始める。


「今日一日どうだった?」


友人が聞いてくる。たぶん、頭のことだろう。


「大丈夫だったよ、むしろいつもとかわらないはずなのに、いつもよりいい気分だ」


「そっか、それはよかったじゃないか」


そんな話をしているうちに駅についた。ここの駅は最近改装され、とてもきれいなホームになっている。


ふと、彼が話しかけてくる。


「君の生活は夢だったんだ、人を助けて、彼女もいて、担任からも好かれてる、最高の夢じゃないか」


そう言うわりにはとても悲しそうな顔をしている。何故だ?普通に羨ましそうにすればいいのに。


「まだまだだよ、彼女とはまだなにもできていないし、担任は優しくしてくれるけど、まだ俺が結果を出せていない。

これからもっと頑張らないと」


「まだ望むのかい?でももう充分じゃないか?夢は夢だいつまでも見続けて何になるんだい?夢は覚めなきゃダメだろう」


嫌な予感がした。


彼は口を開き更に言葉を紡ごうとしている。何か大事なことを。だけど、聞いてはいけない気がした。


「な、何を言っているんだ?」


俺は慌てた、どうにかして話をそらせないか考えていた。しかし彼はそんなことを気にせず、続ける。


「僕の名前を知ってるかい?」


何かにヒビが入る音がした。彼の名前が思い出せない。おかしい。何故思い出せない。知っているはずなのに。知っているのに。


嘘だ。本当は知らない。俺には友人がいない。


頭のなかで声が聞こえる。いやだ!こんなこと聞きたくない!!!


「彼女の名前はわかるかい?」


心が割れる音がした。わからない!わからない!!なんでっ!だって俺の彼女だぞ!!わからないはずない!!!!


嘘だ。本当はわからない。俺には彼女なんていない。ましてや充分に優しくしてくれる先生なんていない。


違う、違う!違う違うちがうちがう!!!!あり得ないこんなのおかしい!何かの間違いだ!そうーーーー


「嘘だッ!!!」


嘘なんだ、本当はみんな知っているんだ。多分また頭でも打って夢を見ているんだろう。きっとそうだ。そうに違いない!!!!!


「嘘なんかじゃないさ、君は最初からなにも知らないんだよ。


でも、嘘をついているとしたら君だ。君は嘘をついていた、そう、誰でもない君自身にね。君は自分を騙して理想を、夢をみた。君以外誰も嘘をついていないさ。だって此処には


君以外誰もいないのだから」


彼は両手を前につきだして僕を押す。衝撃が走り、一瞬のはずだがとても長く感じる浮遊感に襲われる。


それにつられるように世界が崩れていく。


こんなはずじゃなかった。手に入れたと思っていた『夢』はただの自分の『嘘』だった。


世界が真っ白に染まる。意識が薄れていく。最後に、消えたはずの彼の声が聞こえた。


「君は夢でも見てたんじゃないのかい?」


それを聞いた途端に胸に悲しさが溢れてきた。


現実でも夢でも、自分が居たいと思う方が自分の世界でいいじゃないか。そんなことをふと思った。


世界が反転し、いつかの光景が目に映る。


ついさっき見たようにも、何年も見ていなかったようにも感じる。


目の前に見える古びた駅のホームに人は誰もいなかった。


「もう、夢か現実かなんてどうだっていい」







電車(現実)はカケルの体を轢き殺し辺りを真っ赤な()で染め上げた






読んで頂きありがとうございました!

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― 新着の感想 ―
[良い点] ところどころに軽いジョークなんかを挟んでいるところがすごい好感を持てました!内容も読んでいて見入ってしまうほどの内容で、続きがあればとても気になります!! [気になる点] 個人的にはないと…
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