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小さな記憶  作者: 二ノ宮小冬
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大人になってからというもの、何だかひどく世界が小さく見えまして、子供の頃に恐れていた全てのことが、くだらなく、どれ程とるに足りないことだったのか、まるで子供の頃の私を大人の私が外側から見ているような気持ちで考えることがあります。




子供の頃の恐ろしかったこと。


私は何も知らない子供でした。

何も知らないということ、それすらもわかっていない子供でした。

人が私を可愛がってくれるのが何故なのか、それを知りたいと思いながら、知りたければ訪ねてみればいいということすらわからない子供でした。

人が何に喜び、何に怒るのかを知らず、それを知るすべも知らない、臆病な子供でした。

不満を口に出せず、他の選択を知らず、ただ曖昧に誤魔化すことだけを覚えた、可愛くない子供でした。







ある日、幼稚園の教室で絵を描く時間がありました。

私は、空と、花と、人を描いて、先生に見せに行ったのです。

先生は絵をひととおり褒めて下さったあと、こう言いました。


縁取りをしたらもっと良いと思います。


私は、「はい」と返事をして席に戻り、頭を悩ませ、結局雲を白く塗りました。

それ以上どうにもしようがなく思えたので、先生に見せに行きました。

先生がそれを見て、どんな顔をしたのか覚えていません。


仕方がないではないですか、現実の雲に縁取りは無いのですから。








ある日、幼稚園でお遊戯会がありました。

題目は花咲か爺さん。桜の精の役でした。

幼稚園に母がきて、淡い色の衣装を着せてくれたような、おぼろげな記憶があります。

その日のことはそれ以外とくに印象に残っていませんが、ただ、舞台の天井に紙吹雪をいれた籠が揺れていたことだけ、はっきり覚えています。


後でビデオを見返すと、私だけ舞台の中心で天井を見上げ、その他はくるくると踊っていたのでした。

劇の練習をした覚えもないので、おそらく興味が薄かったのでしょう。

その日の気持ちとしては、何故か母が幼稚園にいてそわそわしたこと、舞台の上から観客席の方を見て、大きい人がたくさんいるな、と思ったことを覚えています。


仕方がないではないですか、誰もちゃんと踊れとは言わなかったのですから。







ある日、私はものもらいにかかりました。

生まれてはじめて眼科へ行き、目薬をさしました。

目薬が面倒な他はとくに何が苦しいというわけでもなかったのですが、伝染する病気なので幼稚園は休みました。


もうじき治るというところで、母と一緒に幼稚園に挨拶に行きました。


もうじき幼稚園にこられるようになりますからね


私はわざとらしくつらそうな顔をしました。

先生は幼稚園にまだ通えないのが哀しいのかと思ったようですが、私は幼稚園がそれほど好きでもありませんでした。


つらそうな顔をすれば、あわれに思ってもう少し休ませてもらえないかと思ったのです。


仕方がないではないですか、幼稚園に通うのを面倒だと思っていたのですから。

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