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ソルジャーズ・スカイスクレーパー  作者: オウサキ・セファー
第三章 プレゼンス・サード -航路の行方-
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第23話 絞られし標的

 境輔がアレク、ハインの口から理事長代理について話を聞いていた頃、ちょうど東京新宿区東の街外れにあるビル――長瀬川会事務所では長瀬川篤郎の召集の下、緊急幹部会が開かれていた。

 

 ブラインドが閉められ、明かりがついている小さな会議室に集められた5人の部下達の立つ目の前で腕を組み、今さっき正面右側のドアを開けて出て来た長瀬川は立っている。

 集められた5人の中には当然、Dr(ドクター).シンドラー及びいずみ島から帰還した牙楽も数の中に含まれている。

 既に彼らも長瀬川会若頭であり、真木田組組長の真木田大助が何者かに殺された事は伝えられていた。

 

「……今日、お前達を集めたのは他でもない。俺の兄弟、真木田が死んだ」 

「しかもとんでもなくイレギュラーな奴のせいでだ!」

 

 内側に怒りを抑えながら、眉を吊り上げた表情で本題に入る長瀬川。

 

「御託はいいからさっさと殺った奴教えろゴス!割れてるって聞いたゴスよ?」

 

 集まった部下のうち、一人の男がせっかちに野次を飛ばす。

 見た目は近寄りがたい外見だが「ゴス」という口癖がその印象を中和する。

 太い筋肉質な腕に筋骨隆々な体――顎が大きく、顔の半分と顎に黒いギブスをした顔と口癖が特徴的な茶色いズボンにタンクトップ姿。

 ギザギザの歯の中には上下2本ずつある一際大きな牙が見え隠れする。

 彼の名はスコルビオン。以前はスペインで、鋼鉄の体と長い尻尾を活かした広範囲技を武器に″暴れん坊サソリ″として名を上げた若きルーキーだった。

 イギリスにて″現代の吸血鬼″″闇夜の悪魔″などで名を馳せた牙楽ほどの経験や名声はないが若くその腕を買われ、岩龍会にスカウトされたソルジャーである。

 スコルビオンに野次を飛ばされた長瀬川は切り出す。

 

「あぁ! 割れてるとも。だが、ここからが本題だ。そいつはな、ソルジャーじゃない――」

 

「――エクスサードなんだよ」

 

「エ、エクスサード!? まさかあの伝説と言われてるのがホントに存在していたとは……」

 

 スコルビオンは長瀬川の口から断言されたその単語を耳にした瞬間、目を丸くし呆然と口が開いたままになる。

 そして自分の耳と長瀬川の口を一瞬疑った。


 ――エクスサード。

 

 この裏社会においてオカルト的に噂となっている人間でもソルジャーでもない第三の存在がいるという都市伝説だ。

 この世界において異能者は誰もがソルジャーソウルを持っている。これは力の源であり、一般的に異能者のエネルギーとはこれを指す。ソルジャーとはこのエネルギーを宿した人間の事である。

 だが、それがなく異能的な力を操るイレギュラーな存在がいるという。その異能者こそがエクスサードだ。

 必要不可欠なエネルギーである電力やガソリン無しで力を発揮するスマートフォンや車のようなものである。

 その存在性も疑われ、現在は本当に存在するか不明の都市伝説として知られている。そもそも研究が進んでいないため、ソルジャーとは別のエネルギーを宿しているのか、生い立ちはどのようなものかもハッキリしていない。

 

 長瀬川はこの場にいる全員がエクスサードについて分かっている事を前提とした上で話を進める。

 

「とにかく、そのエクスサード。牙楽や真木田組の奴からの証言から割り出した結果――現状、一人だ。標的は一人」

 

 長瀬川は集まった者達の顔をひとりひとり見回しながら説明していると、タイミングよく彼の背後に白いプロジェクターが天井から現れる。

 長瀬川が小さいリモコンのボタンを押すと白いプロジェクターに一枚の写真が映し出された。

 

「ほら見ろぉ! エクスサードはこの翼生やした長い髪の女だ! コイツに真木田は殺られたんだよ!」


 プロジェクターによって晒される一枚の写真。そこに映っている者のうち、ピンク色の長髪の少女に因縁をつけ、指差して説明する長瀬川。

 

 写真には見下ろす形で撮影された二人の少女の姿が映っている。建物から真木田組が撮影したものだ。二人はそれぞれ並んで立って真木田組の後続の迎撃部隊と戦っている。その証拠、二人の周りの足元には仰向けやうつ伏せで真木田組の組員が数人倒れている。

 一人が整ったスタイルに黒い長袖の服に黒いミニスカート、黒いニーソックス姿の黒く整った綺麗なおかっぱ頭の少女。黒い三つ葉の黒い花のリボンをしている。

 そしてもう一人が議題となっている、腰までとどく長髪のピンク髪の少女だ。豊満な胸にまるでビキニのような鋼の鎧を身につけ、足は膝から少し上までとどく鎧に覆われている。彼女の背中からは左右へと大きな鋼の翼が生えている。そう、ジェット機の翼のような。左手には闇を明るく照らす光の剣が握られている。

 横の黒髪の少女もだが、この少女もとても肌が白く美しい。男ならば十分魅了される色気を持った二人である。

 

「ゴ、ゴスう!? 二人とも、か、か、可愛いゴス~~~~!!」

 

 スコルビオンは二人の少女の姿を見た途端、真っ先に顔を赤くし激しく興奮する。エクスサードがどうとかお構いなしだ。

 

「コイツが……エクスサード……」

 

 一方、ハ一トを射貫かれてテンションを高くするスコルビオンとは対照的に他の4人は落ち着いている。だが、その中でも息を飲み、好奇心に内心くすぐられ、目を密かに輝かせている少女がいた。


「ドクター。この女が本当にエクスサードなのか? 他の能力を持つソルジャーという可能性は? 科学的証明は?」

 

 後ろ髪がやや肩にかかる程度で左右に少しはねた髪型をした青髪の少女。ピチピチ全身を覆う青いスーツの上に白衣を着ている。十代半ばから後半と思しき少女は次々と冷静に右の壁際に背中を預けているシンドラーに疑問を投げかける。

 

「あぁ、そうですよ。ドリス」

 

 シンドラーはそう答えると背中を壁から離し、一同の前へと歩みを進めながら続ける。

 

「そもそも、彼女がエクスサードである事は警備用に組員の一人が携帯していたソウル探知機が証明してくれています」

 

 ソウル探知機はソルジャーのソウルのエネルギーに対して反応し、アンテナから電波音を発して知らせてくれるものだ。

 指揮棒(タクト)のような形状をしたそれはソウルのエネルギーが近ければ近いほど、すなわちエネルギー反応が大きければ大きいほど電波音も早くなる。

 ところがソウルを持たない普通の人間ましてやエクスサードの前ではソウル探知機はただの機械の棒と化す。一切、反応しない。

 

 シンドラーはプロジェクターの前で立ち止まる。黒い少女を白衣から取り出した指し棒で指し、

 

「その組員からの報告によれば、この左の黒い少女からはソウル反応を検出していたそうです。なので言わずもがなソルジャーです――ところが!!」

 

「右の長髪の少女からはソウル反応が一切ないんですよ。こんな、立派な鋼の翼を背中から生やしてるにも関わらず!!」

 

 シンドラーの落ち着いた声が締めの部分を特に強調するように大きくなる。その興奮は″未知(エクス)生命体(サード)″を前にしたからこそのものである。科学者としては興味深い存在なのだ。

 

「……なるほど。ソウルの有無を観測出来ているのなら、この女こそが伝説のエクスサード……」

 

 先ほど、シンドラーからドリスと呼ばれた少女は疑問に納得して頷いた。正面の左右から伸びる青い横髪が揺れる。彼女はソルジャーではないが、シンドラーの助手であるため連れて来られた。そして、目の前に映る少女の写真に視線を向ける。 

 

 ソウルを持たないにも関わらず、異能的な力を出せるのがエクスサードという生命体である。この時点で多種多様な能力を持つソルジャーのうち、どれかに当てはまる事はなくなる。

 エクスサードは都市伝説ゆえに過去の事例で蓄積されたデータは探しても格段に少ない。唯一辛うじて分かるデータはソウルを持たない異能者ということだけだ。

 

「おい、博士。助手のガキ。それぐらいにしろ」


 長瀬川は盛り上がるシンドラーとドリスに対して厳しく口を尖らせた。同時にドリスの顔が唇を噛みしめた不快な物へと変わる。写真の少女に一人ときめくスコルビオンも機嫌が悪い長瀬川を察して元通り落ち着く。

 

「今はこのエクスサードの女をぶち殺す方が先なんだよ!! この女の首をとらなきゃ死んだ真木田が浮かばれねえだろ!!」

 

 兄弟を失った怒りを長髪の少女にぶつけ、怒鳴る長瀬川。

 

「それに……どのみちこの女と横の黒い服の女の(タマ)はとらないといかん。こいつらは俺の″野望″を阻む敵じゃ!!」


 長瀬川の野望。それはここにいる全員は理解していた。あまりに身勝手で自己中心的な野望を。

 

「どのみちって……どういうことゴスか!! まるで殺さなきゃ先に進めないみたいな言い方ゴスね?」

 

 長瀬川に強く問うスコルビオン。それち対し、牙楽は「フッ」と微かに笑う。そう、昨日まで真木田組に派遣されていた牙楽はもうその意味を知っていた。

 

「真木田組の報告によれば、あの島の理事長――自分の代理を置いているようだ」

「そしてそれももう割れてる。それはな――」

 

 長瀬川は経緯を話す。真木田死亡直後、警察やシーガルスの手を逃れた真木田組の残党の一人は身を隠しながら電話で長瀬川会に現状と真木田組の活動状況を改めて報告した。

 真木田組は少人数体制であった理事会の事業所――特別公認事業所に狙いを絞り、長瀬川の野望実現のため、理事長の所在を探っていた。

 そんな中、真木田組の事務所のパソコンに一通のタレコミを知らせるメールが届いた。理事会の内部告発者を名乗る者からのメールだった。

 内容は、理事長白針刻は理事長代理を極秘で置いているというもの。多忙ゆえにその代理が受け持っているという。そしてその代理の名前は――。

 

 アレクシオネリア・アヴリーヌ。

 

 メールには添付ファイルでその顔写真も入っており、一目瞭然であった。そしてプロジェクターに映る写真の少女二人がそこの従業員である事も真木田から伝わっている。

 

「――つまり、だ。特別公認事業所の所長が理事長代理と分かった以上、事業所の従業員であるこの女二人とはやり合うしかねえんだよ」


 長瀬川は改めてプロジェクターに映る写真の少女二人を特に強調して何度も指差した。

 

「ヨッシャー! このスコルビオンに任せろゴス! エクスサードだろうが叩き潰すゴス!」

 

「――長瀬川会長。差出人不明かつ詳しいソースが不明のメールの情報を元に動くのはリスクが高いと思いませんか?」


 真っ先に気合に満ちた表情を見せるスコルビオン。

 それとは対照的に落ち着いた物腰で冷静に物事を判断し、長瀬川に物申す一人の女性。紫色でウェーブのかかった紫色の髪に紫色の瞳。黒いコウモリの翼が描かれたマントを羽織っている。マントのわずかなすき間から白い素肌の太ももが見え隠れする。二十歳そこそこと言った所である。

 

「気にするなマステマ。迷惑メールにしては臭いし、信憑性は高いだろうがこの情報。理事長は名前以外不明なんだしよ――」

「それに真木田も死ぬ間際までこれを頼りに動いていた。誘拐までした。突き止めねえと気になってしょうがねえだろ」

 

「……分かりました」

 

 マステマと呼ばれた女性は呆れ顔で頷いた。

 

「誰かに乗せられている事はもう見え透いているんだろう、会長?」

 

 牙楽が追随する形で長瀬川に問う。

 

「んなもんとっくに分かってるわぁ! 今は叩く他ないんだよ……真木田の仇がとれて、理事長の居場所も分かる可能性あるならやるしかねえだろう!」

「それに……もう誰にも止められないぞ――昨日既に″リッパー・ヴェノス″をあの島に送りこんだからな」

 

「り、りりりリッパー・ヴェノス!!? あの野郎をいきなりゴスか!?」


「ほう……リッパー・ヴェノスですか」


 スコルビオンは恐れおののき仰天する一方、シンドラーは顎に手を当て、感心するように長瀬川を見た。

 

「既にこの写真の二人――特に真木田殺ったこいつは重点的に始末するよう伝えてある。あと――」

 

 長瀬川は再度二人の少女が映る写真を指差した所でリモコンのボタンを押して画面を切り替える。黒いおかっぱ頭にピンク色の眼鏡をかけ、笑みを浮かべる修道服を着た女性の証明写真が映る。

 

「ほほ~、この女もなかなかゴスね」

 

 スコルビオンが画面を見て呟く。

  

「さっきのメールの添付ファイルにあった顔写真だ。理事長代理のアレクシオネリア・アヴリーヌを万が一、見つけたら最優先で捕まえるよう伝えた!」


「し、しかし、あのリッパーにかかればオレ達の仕事なくならないゴスか?」


 スコルビオンは戸惑う。以前、彼はリッパーと戦った事がある。動物系統の能力を持つ者同士の戦いでスコルビオンは鋼鉄の体と自慢の尻尾を武器に挑んだが、能力の相性以外に実力差で圧倒され、敗れている。

 

「リッパーで倒せるならエクスサードも所詮、その程度だったって事だ。仮にリッパーが理事長代理を連れ帰ろうが、お前達にはモノホンの理事長を確保する仕事があるから大丈夫だ――」


 かくして、長瀬川は現有戦力の主力メンバーに事態の大まかな説明を終え、野望のための一手をリッパーに託し、二手に向けて動きだすのであった。

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