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ソルジャーズ・スカイスクレーパー  作者: オウサキ・セファー
第三章 プレゼンス・サード -航路の行方-
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第16話 欺瞞と真実

「思い出してくれよ!!!ユヒナぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



僕の生死をかけた叫びが部屋中に響き渡った時だった。

やられる・・・・!背中を丸呑みにされてしまう・・・・・

それを覚悟し、恐怖に抗うように瞳を閉じる。


「グルァァァァァ!!!グ・・・・・・グ・・・・・・!」


ユヒナが何かに踏ん張って抵抗する声が聞こえる。

同時にうつ伏せ状態の僕の右肩を抑えていたユヒナの右腕が離れる。


恐る恐る目を開けた僕はユヒナにうつ伏せの状態で馬乗りされ、

左肩は依然抑えられた状態のまま、何とか首を軽くなった右の方へと曲げて真上を見る。


「・・・・・・・・・・・!」


ユヒナが抵抗する相手を確認した僕はその意外さから目を丸くした。

そう、ユヒナの後ろに立っていたのは先ほど、彼女に吹っ飛ばされた牙楽だった。

牙楽は武器である赤黒い色をした光の剣で後ろから僕を食おうとしていたユヒナを叩き斬ろうとしたが、

ユヒナは右腕を前に出してその振り下ろされた剣を防いでいる・・・という状況のようだ。


赤黒い光の剣と生身の腕・・・・常人ではとても出来ない鍔迫り合いだ。

当然、そんな事をすれば腕が丸ごと斬り落とされてしまう。


「さっきはよくもやってくれたな小娘・・・・・!」


「グ・・・・グ・・・・・」


吹っ飛ばされた後、すぐ近くの海まで飛ばされて落下したのか牙楽は全身がずぶ濡れの状態だ。

纏っているマント、ワイシャツも全てが濡れている。

そんな牙楽が借りを返すべく因縁をつける鋭い赤い眼で相対するユヒナの顔を

睨みつけると剣の力も一層強くなる。


「妙だな・・・・近づいても微量のソウルも感じない・・・・

 小娘・・・・貴様はソルジャーではないな?」


「ウガァァァァァァァァァァァァァ!!!」


ユヒナは剣を受け止めている右腕を大きく右へと力強く振るった。


「グッ・・・・・・!」


その強さは尋常ではないのか牙楽を剣ごと突き放す。

ソルジャーじゃない・・・・?ソウル??一体、どういう事なんだ・・・・・?


明らかに今のユヒナは普通の人間じゃない・・・・一体なんなんだ・・・・・?


ユヒナは乗っていた僕の背中から離れて立ち上がった。

その瞬間、僕は隙を突いて立ち上がり、その場から何とか距離をとった。

逃げようとも思ったが今逃げたらユヒナが追ってくるかもしれないのでやめた。


「グルゥァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」


ユヒナは牙楽に大きな咆哮を浴びせる。

だが、対する牙楽は特に動じる事もない。怯える事もない。

剣で押されて突き放されても体制を崩さず立っている。


「いいだろう。なぜそんな獣のようになっているのか知らんが、

 このまま帰るのも難だ」


牙楽はそう言うとチラっと横で仰向けに倒れ込んでいる上司の屍を見た。


「フン・・・・・死んだか」真木田の屍を見て冷たくそう零す。


そして、再び凶暴化したユヒナの方を見る。


「相手をしてやろう。ブラッディ・ソード!!!」


既に右手を覆う赤黒い剣を振るい、ユヒナに斬りかかる牙楽。


「ウガァァァァァァァァァァァァァ!!!」


ユヒナは既に右腕の形に変形している右翼の翼を振り回し、

それを高く上げ、広げて牙楽目掛けて叩きつけた。


ドスン!!!!!牙楽は素早くスッと横に避けた。


「まずはこの憎たらしい翼からだ!!」


避けた所で、素早く自慢の剣で翼を真っ二つにすべくそれを振り下ろした。

ユヒナの翼を切断して攻撃手段を無くすつもりなのだろう・・・・・

あの剣がどれぐらい強いか知らないが、あの鋼の翼を切断されればユヒナは飛行も出来ないし、

攻撃手段も一つ封じられて不利なのは確実だ。



カン!!!!


「へっ!?」


僕は思わず拍子抜けした声を出した。

それはあまりにも意外な結果だった。



カン!!!!カン!!!!



「なんだと・・・・・!」



カン!!!!カン!!!!


牙楽もこんなはずはないと思っていたのか、とても驚愕している。

そう、ユヒナの翼はとてつもなく硬かった。

慌てて牙楽は再度二回剣を振り下ろすが全く効果がなく、傷が全くつかない。


あの血で染まったような赤黒く光る剣を甲高い音を出して弾いてしまう。

それぐらいに硬い。


「ウガァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」


ユヒナが再び暴れ出す。右腕の形となっている右翼の翼が伸縮し、

グーパンチで牙楽に襲いかかる。


「く・・・・・・・・くっ!」


牙楽はユヒナのパンチを剣でガードするが防ぎきれず押し切られ、

牙楽はその状態のまま2メートルほど距離を離され、吹っ飛ばされる。


ノックアウトこそしていないが、そのパンチの威力は防ぎきれないほど強そうだ。

先ほど、牙楽を海まで吹っ飛ばしたほどだ。防ぎきるのがやっとなのだろう。


「ウガァァァァァァァァァァァァァァォォォォォォォォォォォッ!!!!!」


ユヒナのそれまでとは比べ物にならないほど大きな咆哮をあげた。

僕はたまらず耳を両手で塞ぐ。耳が痛い・・・・

こんな怪物が本当にあのユヒナなのか?と疑いたくなるほどだ。


咆哮が止まるとユヒナは天井に向かって高速で飛び立っていた。


ユヒナはそのまま天井を突き破り、上空へと飛んで行く。


ユヒナが突き破った場所には大きな穴が出来、

真っ暗な夜空がそのまま顔を出している。


「待てえ、小娘!!!逃がさん!!!」


牙楽もその後を追いかける。

ユヒナが開けた穴の下まで走り、そのまま巨大なコウモリを

彷彿とさせるマントを広げ、夜空へと飛び立った。


くっ・・・・空に行ってしまった・・・僕にはどうしようもない・・・・

逃げる事は出来るがこのまま逃げていいのか・・・・・?



どうする・・・・?


僕にはユヒナを止められない・・・・どうすれば・・・・



「キョースケ」


僕の名前を呼び、後ろから右肩をツンツンとしてくる何か。

振り向いてみるとそれは黒い袖に包まれた白くて柔らかな肌に綺麗な右手。

その声もどこかで聞き覚えがあった。


「あ、お前は確か、ユヒナの・・・・」


僕の後ろに立っていたのは前にユヒナと一緒にいた女子だった。


「ハインよ。下で真木田組の掃除をしていたんだけど、

 まさかユヒナが久々にああなるとはねぇ・・・・組長も死んでるし。

 何かあったの?」


ハインは特に緊迫した様子もなく、マイペースで話を進める。

特に驚く様子もなく、この状況に対してやれやれと呆れている。


「真木田のヤツが部下に精神高揚剤を銃で自分に撃たせようとしたんだが、

 それが誤ってユヒナに当たってしまったんだ」


「ふーん。それでああなったと」


僕が簡潔に状況を説明するとハインは穴が開いた場所から上空を見る。

夜空ではユヒナと牙楽がぶつかり合っていた。


夜空を縦横無尽に飛び回り、互いに剣と剣がぶつかり合う。


ユヒナは正気な時から使っていた光の剣を振るい、

対する牙楽は赤黒い剣で応戦する。


互いに剣を振るい、それが乱れに乱れてぶつかり合っている。

鍔迫り合いになるがすぐに距離が離れる。


「ゆけぇっ!!」


ここで牙楽が左手を前に広げると一匹、またもう一匹とコウモリが出現し、

それらは一匹ずつユヒナに襲いかかる。


だが、襲い来るコウモリをユヒナは剣を振るい、両断する。


そんな夜空での戦いを僕達は見上げながら、ハインは話を続ける。


「キョースケ。ユヒナは見ての通り、人間なんかじゃないわ。

 人間の姿をした化け物なの」


「あぁ。それはもう分かってるよ。とても信じられないけど・・・

 ソルジャーってヤツなんだろ?牙楽と同じ」


あんなに純粋で明るいユヒナがあんな化け物になるとは誰も思わないだろう。


「いいえ。ユヒナはそうじゃないわ」ハインは首を横に振った。


「え・・・・・・?」


「もっと特殊でレアな存在。最も、アンタ達人間から見れば、

 ソルジャーもユヒナも同じかもしれないけどね」


人間でもソルジャーじゃないだと・・・・?

じゃあ、一体なんなんだよ・・・・おい・・・・

いや、そもそもソルジャーの定義ってなんなんだ?ユヒナはなんなんだ?


次から謎が謎を呼んでならない・・・・・


「何が何だか分からないってツラしてるわね。

 いいわ。コレが終わったら教えてあげる。

 その前に、私も人間じゃない事を刮目しなさい」 


「えっ!?」


ハインはゆっくりと天井に開く穴の下まで歩く。

するとハインはその場からパッと消えた。


そして、瞬時に上空にいるユヒナの後ろに現れて背後を突いた。


「ユヒナ、暴れるのもいい加減にしなさい」


ハインはそう呼びかけて背後からユヒナにしがみついた。

背後からユヒナの首筋へと左腕を回し、

両手で締め上げる事でユヒナの首が後ろに引っ張られる。


「ウガ!?グルゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」


ハインにしがみつかれたユヒナはハインを振り払うべく暴れ出す。

大丈夫なのかと思う僕だったが、ハインは振り落とされる様子もない。

手馴れた様子でユヒナの動きを素手で止めている。


ハインの手に噛み付こうとするユヒナだが、

締め上げられた顔は下に下ろす事が出来ず、噛み付こうにも噛みつけない。


「麗しき闇の姫君か。その小娘は貴女の連れであったか」


ユヒナちとハインの目の前に浮いている牙楽は急にハインに対してかしこまった態度をとった。

なんだ・・・・?あいつはハインの味方なのか・・・・・?


「そうよ。ウチの連れが迷惑をかけたわね」


「闇の姫君。その小娘は強大な力を放ちながらもソウルの力は

 微塵も感じなかった・・・どういうことだ?その小娘の"中身"はなんだ?」


「答えろ!!!!!」


牙楽は声を荒げて剣を大きく振るい、ハインを威圧した。

赤黒い光を放つ剣が空を切った。



「あなたに話す事は何もないわ。・・・・ノーコメントよ」


ハインは動じない。ユヒナを後ろからずっと締め上げている。


「ウググググググググ・・・・・・・!」


ユヒナは暴れようにも首を後ろに引っ張られ、身動きがとれない。

しかしそれでもジタバタじている。


「チッ、このままじゃ話も出来ないわ」


そう舌打ちした後、ハインは左腕でユヒナの首筋を締め上げながら、

ある物を右手でどこからともなく取り出した。


取り出されたそれは一本の注射筒だった。

何が入っているのか、針があるのかないのかは地上からでは分からないが、

先端には出っ張りが微かに見える。明らかに何か薬物を注射する道具だ。


ハインはその注射筒の出っ張り部分をユヒナの細くて綺麗な

右脇腹へと手を伸ばし、出っ張り部分を突き刺した。


どうやら、針もない出っ張り部分をそのままユヒナの肌に

密着させた事から普通の注射器ではないようだ。


「グ・・・・・・・ルゥ・・・・・・・」


ユヒナの顔から凶暴性が薄れていく。

注射された謎の薬物はみるみるとユヒナに効力を及ぼす。

凶暴なユヒナは動きが止まり、力が抜けていく。

同時にユヒナの背中から生えていた巨大な鋼の左翼と右翼の右腕もその瞬間、白い光の塵と消える。


そして、その場でガクリとユヒナはハインの腕の中で意識を失った。

ハインに上空で背後から身体を抑えられながら、ユヒナは顔を下げ、動かなくなった。


ユヒナの暴走が・・・・止まった・・・・・?


どうやら、あの薬物は麻酔か何かのようだ。

注射された薬物が、ユヒナの暴走を無理矢理抑え込んだという事か。


「ホウ、そのような"存在"でも麻酔は通るようだな」


その様子を見ていた牙楽は自身の右手を覆っていた赤黒い剣を

消滅させながらハインに話しかけた。剣は先端部分がスーっと消えていく。


「当たり前じゃない。この娘は身体の構造は人間と変わらないんだから。

 身体を構成するもの以外ね」


「ねえ、牙楽。今日の所は終わりにしない?

 というか、退かざるを得ないんじゃないの?この有り様を見れば」


涼しげな顔のハインが目をやったのは僕もいる地上。メチャクチャになった真木田組事務所だった。

ユヒナの暴走で天井に穴が空き、組長である真木田もユヒナの暴走に巻き込まれて死亡、

組員達も恐らくハインや暴走前のユヒナによって倒されたのだろう。


残ったのは牙楽ただ一人。


「というか、あなたが私に勝てるなんて、有り得ないだろうけれども。フフ」


小馬鹿にするようにハインは笑う。


「フン、いい気になるな闇の姫君。

 真木田を仕留めてくれた礼に今日の所は引き下がってやろう」


牙楽は着ているマントで自分の身体を覆う。

コウモリが翼を閉じるように。


「あら、真木田の事が嫌いだったようね?同情するわ」


「・・・上の命令だ。あんな小物に飼い慣らされる筋合いなどない」


ハインのまるで挑発するような問いに対して、

牙楽はそう吐き捨てると一旦、そこから一段更に高く空へと飛び、

身を翻して高速でその場からどこか遠くへと夜空の奥に飛び去った。

纏っているマントをヒラヒラとさせながら。


終わった・・・・・・のか?


するとハインはユヒナを優しく両腕で抱き抱えた状態でスッと僕の下へと降り立った。

ハインも牙楽のように空中を自在に飛行出来るようだ。

一体、なんなんだ・・・?ハインも・・・・


ハインに抱かれているユヒナは麻酔でスヤスヤと眠っている。

寝顔は先ほどまでの凶暴な獣のものではなく、元の明るい少女のものだった。

だが、目を覚まして襲ってきたらどうすんだ・・・・?


「な、なあ、ユヒナはもう大丈夫なのか?

 目が覚めて・・・暴れ出したりなんかはしないよな?」


ユヒナの後の事が気になった僕はそうハインに訊いた。


「大丈夫よ。9時間はグッタリする強力な麻酔薬を注射したわ。

 目が覚めた時には精神高揚剤も抜けて元に戻ってるはずよ」


「そ、そっか・・・・・良かった・・・・・」


僕は胸を撫で下ろした。元に戻るんだな・・・・・

ハインは抱き抱えているユヒナを目の前の床に仰向けにして床に寝かせた。


ユヒナの気持ちよさそうな寝顔を見て思う。

正直な話、こんな女子がまさか薬打たれて凶暴なモンスターと化すなんて・・・

改めて思ってもいなかった。

 

だが、そればかりではない。もっと肝心な事がある。


「それにしても・・・・なんなんだ?

 ソルジャーとか、ソウルとか、ソルジャーじゃないとか・・・・・

 僕には何が何だか全然分からないぞ」


「それに・・・・・ユヒナはソルジャーとか言うのじゃないんだろ?なんなんだ?

 あと、お前も明らかに普通の人間じゃないだろ?なんなんだ?」


おまけに牙楽というどこからどう見ても吸血鬼の男が

何食わぬ顔で夜空を飛び回るという非常識さ。


僕はなんかおかしい夢でも見ているのではないだろうか・・・・

実は今もユヒナと食事の約束をして、そのために出かける直前、

うっかり自分の部屋のベッドの中で寝てしまってるだけなんじゃないだろうか。


今思い出しても、牙楽が僕の家にやってきたとことか、

ユヒナが凶暴化したとことか、牙楽がユヒナと戦ってるとことか、

ハインが空を飛んであっさりユヒナを止めたりとかどう見ても非常識だ。


あんなのが現実にあってたまるか。

ウォルターズランドのショウの演出じゃあるまいし。


ユヒナに馬乗りされた時は真木田のように本当に死ぬかと思ったぞ・・・・・

今、自分が生きてる事にはホッとする。


「なんなんだ、なんなんだとうるさい男ね」


ハインは呆れて左手を腰にあて、見下した様子で言った。


「そんなの決まってるじゃない。これがこの世界の現実よ」


「はあ?この世界の現実?答えになっていないぞ?」

 

ハインは呆れて一度ため息をついて、問いかけてくる。


「・・・じゃあ訊くわ。アンタはこれまで人間で生まれてから、

 よくニュースで流れてる大規模な火災事故とか爆破事故とか、

 そういうのが本当に事故で起こったと思っていた?」


「二日前、東京湾で船が海賊に襲われたというニュース。

 あれも本当に海賊に襲われて沈められたと思っていた?」


「まだまだあるわ。四日前、六本木でヤクザ達が

 揉め事を起こしたというニュースがあったけれど・・・・」


「それもただの殴り合いや銃撃戦だと思っていた?

 報道されるがままに鵜呑みにして・・・そう思っていた?」


淡々と、次々とハインによって投げかけられる言葉。

その問いかけの一つ一つが、僕に突き刺さる。


「え・・・・・・・・・!」


それら世の中で起こっている事は就活で忙しい僕には当然どうでもよかった。

だが、それらはどれも電車とか昼休みに暇つぶしにふと見たスマホのニュースサイトや

街頭テレビのニュースとかで入ってきたものだった。


ハインのこちらに問いかける口振り。

彼女が何が言いたいのか・・・・・それは最後の言葉で分かった。


だが・・・・ちょっと待って欲しい。


「ちょっと待てよ。

 日々、流れてる報道が全部事実じゃないという事なのか?」


世の中にはマスコミが報道しない、扱わないものもある。

現に学校でのいじめ自殺事件も3ヵ月前に樫木麻彩が樫木事件を起こして

逮捕されるまでは加熱的に報道される事もなかった。


だが・・・・事実を捏造して報道するという話は聞いた事がない。

そもそも事実を・・・真実を報道しないと・・・そんな物は報道じゃないだろう。


「全部、というわけではないわ。ただ私が今さっき言った事は全部捏造が

 加えられて違うニュースになったほんの一例よ。

 住宅街や街での火災事故は本当に火の後始末を怠ったとかそういうのもあるだろうけどね」


ハインは顔色一つ変えずに自然体に喋っている。

この現状に対し、不自然を全く感じていない。


「じゃあ、なんでマスコミはこういう事尚更報道しないんだよ!??

 報道しないと大変な事だろう!!!?超能力者が暴れているんだぞ!!?

 無関係な人に被害が及ぶかもしれないだろ!!」


そんな平然とした様子で話すハインに僕は強く訴えかけた。

だいたいおかしいだろう。地震や水害など、災害が起こった時は

揃って各局の報道番組は一斉にその旨を報道する。


衆議院選挙や参議院選挙とかだってそうだ。

各局の報道番組は一斉に長時間の特番を組んで報道する。


だったらなんで尚更こんな事を報道しないんだ・・・


暴力団やテロリスト、ギャングやマフィアなどの抗争に

無関係な一般人が巻き込まれるというさながら映画のような事件も世の中にはある。

バラエティ番組でよく扱われるような事件だ。

ニュース番組でも組織名こそよっぽどな物じゃない限りは滅多に出ないが

社会問題として報道される事がある黒い部分だ。


だが・・・・・それとはワケが違う。牙楽やユヒナ、ハインのような現実にはまずいない、

まるでアニメや漫画に出てくるような超能力を使う存在が暴れ出したりでもしたら大変な事になる。


ちゃんと報道して世の中に知らせないと戦争レベルで

あらゆるものがメチャクチャになってしまう・・・・・



嘘だろう・・・・?僕らはそんな抗争が起こっている事を知らずに

ここまでのうのうと生きてきたというのか・・・・・?


「ありふれた反応ね。この"世界"の実際の現状を

 知らないヤツはみんなそういう反応をするわ」


みんな・・・・・・?じゃあ・・・・・・


「この世界の社会はね、裏と表に分かれてるのよ。裏社会とか表社会とかって言葉あるでしょ?

 裏は今アンタが目の当たりにしたソルジャーとかヤクザによる抗争の世界、

 表はアンタが暮らしてるごく平凡で当たり前の世界よ」


「互いに一つになる事がなく、互いに同じぐらいに成長を続け、

 二つはそれぞれ別々の方向性で存在しているのよ。まるで兄弟みたいにね」


「それらは本当にごく一部しか交わる事がない。

 報道機関もあえて見て見ぬふりをしたり、嘘の情報を流したり偏向する事で、

 二つに分かれた世界の現状を否定し、都合よく表社会を正当化しているのよ」


ハインは僕に容赦なく次々と事実を突きつける。


「つ、つまり・・・マスコミは完全な表社会側というわけなのか」


僕は戸惑いながらも今の話の内容を理解した。


「そうよ。そしてあなたはそのマスコミから一種の洗脳を受けていたようなもの。

 ヤクザのケンカも裏社会のほんの些細な出来事にすぎない。

 マスコミは、報道はしても事実を都合よく捻じ曲げているのよ」


ニュースでも暴力団絡みの抗争事件や犯罪は報道されている。

だが暴力団の団体名までは、よほど大きな事件を起こさない限りは

毎回報道されるものではない。


ハインの言っている事をそれに当てはめると、

大きな事件とはつまり隠し通せないほどの事件という事か。


ネットには、賑わいを見せているオカルトの話と同様に

暴力団関係の情報が載っている場所もある。組織名もバッチリだ。


それもあってか、暴力団絡みの事件が起こるとネットでは

マスコミが報道しないそういう暴力団の団体名と思われるものが載り、盛り上がっている事がある。

実際の所、それが本物なのかは僕にも分からないが。


報道している側であるにも関わらず、裏社会には深く関わろうとしない。

この有り様はまるで・・・・・


「触らぬ神に祟りなし、だな。というかそのままじゃないか」


まさにそれだ。ハインの話を聞いて頭の中から出てきたことわざを口に出した途端、

僕の中でこの世界のイメージが大きく改めて覆ったように感じた。


「そういうことね。裏社会は彼らにとってはパンドラの箱のようなもの」


「真実を報道する、とか、今起こっているニュースを分かりやすくコンパクトにお届け♪とか

 調子こいてるけど、実際は裏社会関係の真実を否定して自分達の表社会を中心的に持ち上げ、

 欺瞞ぎまんに満ちた社会を形作ってる元凶よ」


話してる最中にわざとらしいモノマネを挟みながらもすぐにズル賢い顔へと戻るハイン。

マスコミというものが嫌いなのか、結構ひねくれた言い方をするもんだ。

欺瞞に満ちた社会・・・・か。要するに裏社会側から見れば、表社会は嘘が蔓延っている社会と言いたいのか。



「・・・・・・と。長くなってしまったわね。そろそろ帰りましょ」



「ちょっと待てよ。他にも聞きたい話はいっぱいあるんだが?」



「続きはまた今度にしましょ。だから」



ハインの黒い目が突然怪しく紫色の光を放つ。

その光を見た瞬間、僕の視界が闇に包まれていく。


まるで、全てが闇に飲み込まれていくように。


とてつもない眠気に襲われる。意識が、遠のいていく。


「おやす・・・・・」


深い闇の中へと完全に堕ちていく直前、ハインの声が微かに聞こえた・・・・


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