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ソルジャーズ・スカイスクレーパー  作者: オウサキ・セファー
第三章 プレゼンス・サード -航路の行方-
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第15話 ユヒナ

あの僕を捕まえにやってきた牙楽がユヒナによって窓ガラスを割って吹っ飛ばされ、

部屋には人質の僕以外には助けに来てくれたユヒナと相対する真木田の三人だけ。


正直、牙楽もだけど、ユヒナも普通じゃない・・・・

あんな子供のように純粋でおっちょこちょいな女子がこんなにも強かったなんて・・・・


「ぐう・・・・だったら・・・この俺が直接潰してやらぁ!!

 捻り潰して、拷問して・・・理事長について全部聞き出してやる!!

 お前みたいな・・・か、か弱いグラビアアイドルのような女ごときに負けるか!!」


最後は噛みながらも威勢良く、真木田はユヒナを指差した後、

ファイティングポーズで身構えた。


恐らく、言動から察するに真木田はユヒナのようなソルジャーという類ではない。

でなきゃソルジャーという存在に驚くのもおかしい。


だが・・・筋骨隆々で格闘家を思わせる肩幅も大きい体格。身長も高い。

華奢で身体も小さいユヒナをとっ捕まえれば、

簡単にねじ伏せてしまうだけのパワーはあるはずだ。


「一本背負いで終いじゃあぁーーーーーーー!!!!」


咆哮するように大きく叫びながらユヒナに全速力で襲いかかる真木田。

その言葉通り、そのまま両手で取り抑えようとするのだが・・・・


「ぬおわっ!!!」


近づいた所でユヒナはスルリと突っ込んでくる真木田を左に避け、

更に右足を少しだけ伸ばして真木田をつまずかせた。


あれは所謂足払いか。柔道でも相手の足を払って倒す技で足払いがある。

あんな図体のでかい巨体がいきなりコケて思わず笑ってしまいそうになる。


「ってえ・・・・・・・くそお!!」


真木田が転倒した先は窓際だった。

転んですぐに向き直って立ち上がり、ユヒナを睨みつけながら真木田は

その横にあった自分の机の方へ向かうとその中を漁った。


何をする気だ・・・・・?


「ウラーーーーーーーーーーーー!!!!これでどうだぁ!!!」


ガシィィィィィィィィィィィン!!!


真木田は取り出したそれを両手で持ち、

高く持ち上げて床に強く思い切り叩きつけた。


机の中から真木田が取り出したそれは片手持ちの斧。

持ち手は短めだが、その分取り付けられている大きな銀色の刃は

身体を斬られればそのまま粉砕されかねないほどの大きさを誇っている。


昔、様々な武器が載った本で見た事があるが、

あれは手斧ちょうなという刃が大きい斧だ。

直接振るだけでなく投げて使う事も可能な武器だ。


持ち手が短く作られているのも投げて使うための手軽さから。

そのため通常の斧よりも小型になる傾向にある。


だがあの斧はそういう物とはワケが違う。大きすぎる。

刃の異様な大きさから見てとても筋力を持った人間でなければ、

あの斧を持ち上げる事も適わないだろう。


もはや手斧と呼んでいいのかも怪しい。


真木田はそれを軽々と片手で持ち上げている。


まさか・・・・現代社会にあんな武器が存在し、

それを軽々と扱える人間が現実にいたなんて・・・・・


「・・・・・・・・・!」


ユヒナも、右手に斧を装備して迫り来る真木田に対して、警戒の目で見る。


「いかにソルジャーと言えども、この斧で斬られれば、

 その綺麗な身体もボロボロの木っ端微塵だぜ!!」


「今なら降参して、大人しく理事長の居場所を教えてくれるなら・・・

 女だからそこまではしないどいてやろう。どうだ?」


ガニ股で歩きながらユヒナに迫り、その先端を軽々と向ける真木田。


「そんな斧を振り回した所で、私の気持ちは変わらないわ!!

 あなたの思い通りには絶対にさせないから!」


「クウ~~~~~~っ、身の程知らずが!!

 だったら身体で分からせてやるぜ!!オラぁっ!!!」


ユヒナの真っ直ぐな言葉に真木田は怒りに燃えると、

不意打ちと言わんばかりに斧を横に振るった。


その斧を振るスピードもとても軽々としている。

扱いには相当慣れているようだ。


ユヒナはすかさず、背中にある鋼の翼で高く飛び上がって

避けると離れた扉の前に着地する。部屋の出入り口だ。


「待てえ!!!ウォらぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!」


真木田は走ってユヒナに追撃をかける。

なんて体力だ・・・・あの斧を持って走っていやがる・・・・


息切れもしていない・・・・・常人ならばとても出来ないだろう。


「むんっ!!うらあ!!!!」


走りからの一撃目はユヒナの顔を狙って思い切り斧を振り下ろすが

ユヒナはそれを右へとバク転して避けて真木田の背後に回って素早く立ち上がる。


続けて二撃目もそんなユヒナを追って、思い切り振り下ろしたが、

ユヒナは左手に持つSF映画を彷彿とさせる黄色い光の刃を持った剣でそれを防ぐ。


剣と斧。互いに互角にぶつかり合う。つばぜり合いだ。


「くっ!!!」


ユヒナが真木田の巨体を剣でぐいと押し、突き放すとその一瞬の隙を突いて、

すかさず先ほど牙楽を飛ばした時から右腕の形へと変形させている鋼の右翼をぐーんと伸ばし・・・・


「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」



「グゥぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」



ドガーーーーーーーーーーーーーーン!!!!


見事に巨大な平手打ちでホームランした。

吹っ飛ばされた真木田はこの部屋の出入り口である扉に豪快に吹っ飛ばされ、

扉をぶち破り、その奥の廊下で扉の下敷きとなった。


倒した・・・・・のか?


「なあ、ユヒナ・・・・やった・・・・のか?」


そう尋ね、僕が恐る恐るユヒナの下へと近づいた時だった。



ガシャーーーーーーーーーーーーーーーーーン!!!!


「ウラーーーーーーーーーッ!!!まだ終わってないぞ・・・女ぁ!!!」


下敷きになった二つの扉をどかし、真木田は立ち上がった。

まるでゴリラのようだ。


「ッハッハッハッハッハ!!俺はこう見えて、

 空手の経験者でなあ。伊達に鍛えてはいないぞお!!」


「俺は過去に秘密の地下闘技場、一般人限定エキシビションマッチを優勝した。

 この拳でいくつもの強敵を葬り、トロフィーを勝ち取り・・・

 "あの人"から腕を見込まれた俺は岩龍会に入った!!」


自分の過去のエピソードを強気に語りながらのっしのっしと再び部屋に入り、

拳を構え、再度ユヒナと対峙する真木田。

先ほどの斧は衝撃で壊れてしまったのか、再び素手で戦うようだ。


ところで秘密の地下闘技場の一般人限定エキシビションマッチってなんだ・・・?

まさか本当にそんな闘技場があるのか・・・・・?信じられない・・・・・


「境輔、下がってて!」「ああ」


ユヒナからそう言われると再度、僕はユヒナがいるその場から距離をとった。

にしても、牙楽を外に吹っ飛ばしたあの攻撃を受けて立ってられる

真木田もどうかしてる・・・・


「この拳で相手をしてやろう。

 直接ぬ~~~~~~・・・・ウラーーーーーーーーー!!!!」


真木田はボキッボキッと指を鳴らすと全身に力を溜め、

握った両手を広げてグルグルと回り始めた。プロペラのように。


高速で回転しながらユヒナに迫り来る真木田。


するとユヒナは左手にある光の刃の剣を構え・・・


「たぁっ!」


そのまま回転して襲いかかる真木田を一刀で斜めにぶった斬る。



「グゥおぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」



斬られた真木田は回転からフラフラするように

倒れかけるがすぐに立ち上がる。


「い、いてえ・・・・・」


だが既に真木田の体は右肩から腹まで大きな傷を負っていた。

左手で腹の傷を抑えながら真木田はユヒナに懲りずに挑む。


「・・・・グ・・・ウォォぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


右手で大振りに振り下ろし、殴りかかる真木田。


ユヒナはそれをタイミングよく後ろへと下がって避けると

振り下ろされた拳とともに下ろされた真木田の頭に

右足を伸ばし、力強く蹴飛ばした。



「グゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥア!!!!」


蹴飛ばされた真木田は先ほど吹っ飛ばされた方向と同じ方向・・・

すなわち今は扉が破られている部屋の出入り口前へと

ゴロゴロと転がりながら吹っ飛ばされ、仰向けに倒れた。



「くっ、つ・・・・・つええ・・・・・!

 こんなに強いアマだったとはなぁ・・・・・」


そう言いながら真木田はむくりと起き上がり、立ち上がった。


「まだ倒れねえのかよ!?斬られてるのに!!」

その立ち上がる速度に僕はもはや突っ込まざるを得なかった。



「普通に戦っても勝てないか。

 ・・・・・だったらそろそろやるか!!!!おい!!!アレを出せ!!!」




真木田が廊下の方に向かって叫ぶとそこから部下のヤクザが二人ほど、真木田の後ろに現れた。

黒いスーツのヤクザと赤いアロハシャツのヤクザ。どちらもグラサンをしている。


何をする気だ・・・・・?


赤い方のヤクザが銃を取り出し、銃口を真木田の背中の先へと向ける。


が、何かおかしい。形状が明らか普通の銃じゃない。

その銃口の先端には注射器らしきモノが取り付けられている。


まさか・・・・あれは毒薬・・・・?だとしたら・・・・


「ユヒナ、危ない!!!!!」


「えっ!?」


ユヒナの危機を感じた僕は大きな声を出して叫ぶ。

するとユヒナは驚いて真木田のいる前方のあちこちを

キョロキョロと見て警戒する。


その直後、銃口から注射器が発射される。


その注射器は真木田の左手の脇をギリギリ通り抜ける。


真木田をすり抜けた注射器はそのまま真っ直ぐに飛んでいく。



そして注射器が飛んでいって当たった先は・・・・・・



「ううっ・・・・・・・・!」


当たった当人はそれが当たるとその場に膝をついた。

そう、ユヒナだった。


「ああっ・・・・・!」僕は思わず声をあげた。


注射器の細い針はユヒナの右脇腹に見事に丸々刺さっていた。

膝をついたユヒナの顔はとても痛々しい顔をしている。


「お前アホかぁ!!!!!!!!!!

 なにあの女に撃っているんだよ!!!!!」


その直後、なぜか激高する真木田。

怒りの矛先は注射器を撃ったヤクザである。


「す、すんません、カシラ!!!カシラに撃とうとしたら

 あのガキのおっきな声でコイツの銃の標準がズレたみてえです・・・・」


怖気ついた声ですぐに頭を素早く大きく下げて謝る黒スーツのヤクザ。


「コラ、お前のせいだぞ。カシラに頭下げろよ!!!」


続けて注射器を撃った赤いアロハシャツのヤクザも一緒に頭を下げさせる。


アイツ・・・・注射器は真木田に撃つつもりだったのか?

いや、それよりも・・・・・!


「ユヒナ!!大丈夫か!!」僕は呼びかけてユヒナの無事を確認する。


「うっ・・・・き、境輔・・・・・・」


右手で右脇腹に刺さった注射器を自力で抜き取ってその場に捨てるユヒナ。

捨てられた注射器が床の上に落ちて転がる。


しかし、相当な深手を負ったようだ。その場に膝をついて動けない。

右手で撃たれた所を塞いで痛みを抑えている。

左手に持っていた光の刃の剣もいつの間にかユヒナの傍の床に落ちている。


何を撃たれたのか気になった僕は床に転がり落ちた注射器を見る。

するとわずかながら水色の液体が残っているのが見えた。

あれがユヒナに撃たれたものの正体か。


とにかく、目の前で苦しんでるのに黙って見てはいられない。


膝をつき、顔が下を向いているユヒナに僕は近づく。

ユヒナの右肩に左手を置いて話しかける。


「ユヒナ・・・・・大丈夫か?」


するとユヒナは苦しそうにしながら僕の方を見て、


「き、境輔・・・・・身体が・・・・なんかおかしい・・・・・」


いつものような明るい様子はなく、怯えているユヒナ。


「どうしたんだ!!気分が悪いのか?」


「身体が・・・・・ううっ・・・・苦しい・・・・・!」


胸元を抑えて急に苦しみ出したユヒナ。まずい・・・・これは・・・・


「・・・・・おい、大丈夫かよ!?

 ・・・・今すぐ救急車を呼ぶから我慢しろ!!」


僕は呼びかけながら立ち上がり、ポケットに入っていたスマホで救急車を呼ぼうとする。

が、ユヒナは苦しみながら左手を伸ばし、僕を制止するように右足を掴む。


「・・・ダ・・・・メ・・・・きょう・・・すけ・・・にげ・・・・・」 


「えっ!?」


どういうことだ・・・・ユヒナの顔色が物凄くおかしい。

顔色がみるみる青くなっている。

普段は明るいはずの瞳も不気味に怪しく黄色く光っている。


「うわっ!!」


ユヒナの異常な様子から恐怖心と危機感を抱いた僕は

内心気味悪くなりながら右足を掴んでいる左手を振り払い、

その場から様子を伺いながら少しずつ後退る。

今にも湧き出してくる逃げ出したくなる気持ちを抑えながら。


一体、何が起こっているんだ・・・?


「ユヒナ・・・・ごめんな。本当に大丈夫か?」


僕は離れた所から恐る恐るユヒナに声をかけた。


「ッハッハッハッハッハ!!そいつに撃ち込まれたのは精神高揚剤だ」


豪快な笑いの後、真木田の巨体が僕とユヒナの近くまで

のっしのっしと歩いてきているのに気づいた。


僕はすかさずユヒナの前に立ち塞がるように駆け寄った。

戦える自信はないが、こんなに弱ってちゃ理事長の場所を

聞き出すためにユヒナが捕まってしまうだろう。


無力なのは分かってる。でも、こんな女子が苦しんでるのに

痛めつけられる光景を見せられるとなると我慢ならなかった僕は

突き動かされながら自然に体が動いた。


「精神高揚剤だと・・・・・・!?」


「そうだ。これを打つとなぁ・・・精神がいつも以上に高ぶる!!

 それに伴って、戦闘能力も上げる効果があるのさ!!」


つまり、ドーピング薬か・・・・・真木田は最初、これを部下に打たせる事で

パワーアップを図ろうとしたのか・・・・・


しかし、そのドーピング薬はユヒナに当たってしまった。


「だが、この女には少しばかり刺激が強すぎたかもなぁ。

 薬が効きすぎて動けないか」


「どけっ!!!」「ぐあっ!!」


真木田の太い左腕に力強く払いのけられた僕は

為すすべもなく床に叩きつけられる。

くっ・・・・全身に痛みがきた・・・・・

やっぱり柔道や剣道やってた昔みたいにはいかないか・・・・・



「好都合だ。顔色も悪くてすぐには動けなさそうだな。

 このまま捕らえて、薬がきれたら尋問と行かせてもらおうか」


真木田はユヒナを無理矢理捕らえるべく、

素人でも分かる万全ではない体調不良状態の彼女に迫る。


「くっ・・・・・・」


うつ伏せ状態で全身の痛みをこらえ、腕に力を入れて立ち上がろうとふんばる。

ユヒナを助けて逃げないと・・・・・

「やめろぉ!!!!」その言葉が僕の口から出かかった・・・時だった。




「・・・・・うぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」




突如、真木田が何かに恐怖するような大きな悲鳴をあげた。

一体何が起こっているんだ・・・・・? 

気になった僕は急いで身体を起こした。


「・・・・・・・・・・・・!」


真木田の両肩にユヒナの両手がそれぞれ乗っかっている。

どうやら立っている真木田の胴体にしがみついているようだ。


だが・・・・さっきから何やらムシャムシャと食べるような音がする。

まさか・・・・・


僕は嫌な予感を薄々と感じながらユヒナの方へと回りこんだ。



まさか・・・・・!そのまさかじゃないよな・・・・?

え・・・・・・・・!


僕は目の前に映った光景に一瞬目を疑った。

その光景はまるでゾンビモノの映画でゾンビが

人を喰うシーンを観ているかのようだった。僕は自分の目を疑った。


そう、ユヒナが真木田にしがみつき、

真木田の腹の肉に食らいつき、食っているのである。

まるで飢えた獣のように・・・・・よだれを垂らして・・・・・


「・・・・・あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!あぁぁぁぁぁぁぁぁぁ・・・・!

 お、おい小僧助けてくれよ!!!!うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!!」


ちょうど胸元を食われている真木田は恐怖しながら必死に

僕に助けを求めるがしがみついていたユヒナについに押し倒されてしまう。

その先の結末は・・・・ここまで来るともうだいたい先が分かってるだけに恐くて目を閉じた。


「お、俺はまだ死にたくなぃ・・・・・助けてぇ、ナガセの兄貴ぃ・・・・・

 いやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」


その痛々しくも、死に抗うような大きな悲鳴は建物中にこだました。

同時にその部下達も騒然となり、退散していくのが叫び声からも分かる。


僕は目を開ける。目の前にはユヒナに胸元を食われた事で

仰向けになって動かなくなっている真木田の屍があった。


ユヒナはその上に乗り、まだ真木田の屍を、肉の塊を貪り食っている。


まずい・・・・・このままでは僕も食われてしまう・・・・・


「グ・・・・・・・・?」


ユヒナが僕の方を振り向く。

その顔にはついさっきまでの優しくて強い少女の面影はなかった。

目はまるで怪物のように尖っていて、それは不気味なほどまでに赤い。


口を大きく開けてよだれを垂らし、それはまさに獲物を見る野獣の顔だった。


「グルァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!」


ユヒナは咆哮をあげながら翼で羽ばたき、

僕目掛けて飛行しながら突進攻撃を仕掛けてきた。追うように僕に迫り来る。


「うわあああああああああああああああああああああああああああ!!!」


僕は叫んで逃げるしかなかった。

ユヒナから遠ざかるように真木田の屍の横を突っ切り、外を目指してとにかく走る。

この先に出口がある。先ほど真木田がユヒナに飛ばされた事で扉が壊れた場所だ。


飛行して頭から一直線に向かってくるユヒナの突進攻撃を避けた僕だったが、

ユヒナは避けられるとすぐにターンしてその鋼の翼羽ばたき、

高い所から急降下して僕という獲物を狙ってくる。


「グルァァァァァァ!!!!」


「やばいやばい!!!」


焦りながらとにかく走る。自分の命の危機から逃れるために。



「あ・・・・・うわっ!!!」


が、僕は出口目指して走る中であと一歩の所で・・・・

思わずその場でつまずいてうつ伏せに転倒してしまう。

目の前には廊下に続く部屋の出入り口がある。


僕の身体が一瞬、宙に浮き、そのまま頭から大きく転倒した。


「あ・・・・・・・・・!」



豪快に両足を擦りむいたようだ。右足から大きな痛みを感じる。

すぐに立ち上がろうとするが、そこにすかさず

ユヒナが僕の背中にの上に馬乗りしてくる。



「ああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」


絶望的な状況に僕は叫ぶしかなかった。

まずい、逃げられない・・・・食われる事を恐れるあまり、

叫んでじたばた暴れるが状況は変わらない。


体重で僕の下半身の動きを止め、僕の両腕を両手で抑える。

僕の背中からちょうどユヒナが垂らすよだれの感触がする。


や、ヤバイ・・・・・僕も食われてしまう・・・・


もう逃げられない。抵抗出来ない。

完全にこの場から逃れる術を失った僕は悪あがきで必死に叫ぶ。


「ユヒナ!!!頼む、目を覚ましてくれ!!!僕だよ、森岡境輔!!!」


「一緒にステプラしたり、街歩いて念願のハヤネの本を見つけたりしただろ!!」




「思い出してくれよ!!!ユヒナぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!」



僕は死にたくない一心で、内心が恐怖に支配される中、

その名前を先の事も何も考えず、これまでにないほどの大きな声で叫んだ。



ここから生きて逃れるために・・・・・・


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