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ソルジャーズ・スカイスクレーパー  作者: オウサキ・セファー
第三章 プレゼンス・サード -航路の行方-
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第8話 T-2地区

タカシとコージをゲーセンに残し、駅前でユヒナとハインの二人と別れた僕は一人、

T-2方面に走るモノレールの中でドアの窓から街の夜景を見ながら暇つぶしにスマホをいじっていた。


右足が痛むが、混んでいて座れない。

しょうがないのでこうして揺られながらもモノレールのドアに寄りかかり、ニュースサイトを見る。

スマホゲームは水無月の悲劇の後、興味本位で始めた流行りのゲームが

超課金ゲーだったからやる気無くしたんだ・・・・ガチャ回すのに

リアルマネーが必要で無課金だと激レアカードはまず無理と知った時点で切った。

ニュースは本当に僕にはどうでもいい話ばかりなのだが・・・生憎これぐらいしかする事がない。


・・・・・・・新宿歌舞伎町のビルで原因不明の火災発生か。

あそこは本当にしょっちゅう火事が起こるな・・・・

この前も歌舞伎町の古いビルで放火による火災が起こったばかりだ・・・


渋谷のロ地裏のゴミ箱から腐敗した男の死体が見つかった・・・・?

死後、2ヶ月で身元も不明・・・・


またか・・・これも時々ニュースで見かける事件だ。

都会の人気のない場所で腐敗したグロテスクな死体が

見つかるというお決まりのパターン。まるでゴミのように放置されている。


タカシやコージはその辺のホームレスの成れの果てだろとか話してたが・・・

こればかりはそうかもしれない。


他にもホームレスと言うと二人が話していたオカルトの中に

闇の臓器屋の噂についての話がある。それは言わずもがな臓器を売る店のこと。

ドナーを欲する患者のために臓器を売る店があるという噂だ。

ドナーが見つからない患者の前に救世主のように現れる存在とされているが、

実際は存在するかは分からないとされている。


しかし、その店で売られる臓器は全てホームレスのものが使われているというのが

その噂の恐ろしさであり、マニアは興奮し面白がる部分である。


就活の面接や適性検査のために渋谷、新宿などにも行ったが、

そこには賑やかな大都会が広がる一方でボロボロな異臭がする服を着続け、

新聞紙を床に敷いて隅っこに座ってたり寝てるホームレス達がいた。


住む場所もないであろう彼らがどう毎日を生き延びているのか、僕は知らない。

が、そういう成れの果てになってしまう要因がある事は確かだろう。

餓死とか病をこじらせて野垂れ死ぬとか・・・

なんせ、路上生活なのだから。耐え切れず自殺しても不思議ではないし、

存在するかも分からない臓器屋の商売に使われてもおかしくない。




そして・・・・最近ではこんな事件もまた起きている。


神隠し事件。今でも都内でたまに起こる一度に数人が突然失踪する事件だ。

今から2年前の2032年の秋。30人の老若男女が一度に行方不明になり、

神隠し事件として大きく報道されていた事が記憶に新しい。

30人は住んでる場所もバラバラで同時期に行方をくらませた。


これも起こる度に「またか」と言いたくなってしまう。

が、タカシとコージ曰くそれ以前から報道されないだけでよく起こっていたらしい。


毎回、失踪する人も様々で普通の大人ばかりがいなくなる時や、

未成年や僕らと同じ年代の人ばかりが揃っていなくなる事もある。

その神隠しにあって助かった人はいるのか?それは報道もされていないので僕にも分からない。


いずみ島に住み始めて10年、僕の身近では神隠しが起こった事はない。

だが、火災や死体などと並んで物騒さを感じさせる。

極めつけには燃える男やドラキュラなどの話もついてくる。


見ればみるほど騒がしい世の中だ。うるさいにも程がある。


ああ~、なんか機嫌悪くなってきた・・・・もうどうでもいいや。

見るんじゃなかった・・・・こういうのを見ていると

ホントに就活で苦しむ自分がちっぽけな存在に見えてくる・・・


どうでもいいあまり、僕はスマホを待受画面に戻して

ポケットにしまい、右手を額に当てた。


「まもなくー、T-2地区6丁目~。T-2地区6丁目でございまーす」


到着を知らせるアナウンスが響く。着いたか。降りるとしよう。

モノレールがホームに止まると僕は人混みに紛れてホームへと降りた。

人混みは制服姿や普段着姿の同じ学生が多い。この辺に住んでる連中だろう。


このT-2地区は通称、居住区エリア。

他の地区にもマンションやアパートといった住む場所があるが、ここは特にそういう建物が多い場所だ。

コンピュータ系や医療、料理などの専門学校のキャンパスもあるため、専門学校エリアとも呼ばれる。


そのまま人混みに紛れながら駅の階段を下り、広い改札口を抜け、すっかり夜になった駅の広場に出る。

電灯から放たれる白い光が歩いている僕と地面を覆う茶色いタイルを照らしてくれる。

電灯には光を好む蛾が群がっている。


真夏の暑い空気が漂う中、涼しい海風からなる夜風が吹いてくるのがまた気持ちいい。


僕、タカシ、コージが住む部屋があるマンションは駅から住宅街を歩いて10分ほどの場所にある。

高層とはいかないまでのマンションやアパート、コンビニや郵便局を通り過ぎた先にある

大学生専用マンションの「カルミア」。全13階。


カルミアとは花の名前からきている。

北アメリカからキューバにかけておよそ7種が分布する常緑樹で、

開花時期は5月から6月頃とされている。

花言葉は「大きな希望」「野心」「優美な女性」といったものがある花だ。


床は真っ白なタイルに覆われ、白いブロックが重なって出来た正面ゲートを通った

先の広い敷地に建つのがその長方形型の建物。

僕が通ったここは北口で、入口はどちらも北口と南口でどちらも同じ形をしたゲートが迎えてくれる。


普通に30階とかあるシンボル的な高層マンションには及ばないが、

地下には大きな食堂があるのが大きな特徴だ。


学食は大学のキャンパスにもあるが、こういう食堂を利用して食べる事も出来る。

しかもメニューが同じようなメニューに見えて微妙におかずが違ったりするから、

人によって傾向が違ってくるんだよなあ。


僕達の部屋はここの4階にある。

各部屋には外側にバルコニーが存在し、洗濯物を干す事が出来る。

また、高ければ高いほどT-2の街並みを遠くまで見渡せる。

4階は・・・うーん、高いかと言われると微妙だ。


エレベーターで4階に上がり、部屋のドアの前まで行く。

鍵を取り出し、ドアを開けた。


僕らの部屋は小部屋だが三人分の自室がある。そもそもこの部屋は三人用の部屋だ。

リビングもある決して全体的には狭くない部屋だ。リビング奥の窓はバルコニーへと通じている。

勿論、生活に必要な洗面所、風呂、キッチン、洗濯機もある。


この島内の学校に世話になる学生は必ず三段階に分かれる

学生専用のマンションやアパートのいずれかに住む事になる。


三段階・・・そう、学生が住むマンションやアパートは必ず学年ごとに分かれている。

例えば、ここは"大学生専用マンション"。他にも"中学生専用"や"高校生専用"と名がつくものもある。

大学生専用はいずみ島の学校に通う大学生ならば誰でも住める他、専門学校生も住む事が出来る。

該当する学年しか住めないため、退学などで学生という身分を失うという事は、

ここに住む権利も失われる事に他ならない。


また、この島で働く大人が住める"一般専用マンション"という場所もある。

この専用制度により、学年が例えば中学から高校、高校から大学または専門というように

学年の段階が上がる場合は必ず所定のマンションやアパートに引越しをしなければならない。


本来、中学エリアであるT-6には中学生専用、高校エリアのT-4には高校生専用というように

各地区にある学校の学年に応じたタイプの専用マンションやアパートが多い傾向にある。

だが、このT-2には学年関係なく様々なタイプのマンションやアパートが集まっており、

学生専用に影が隠れがちな一般専用のマンションやアパートも他の地区よりも多く存在する。


学生専用マンションは決して最初入った時から引っ越してきたばかりの家の如く、

何も置かれていないという事はない。なぜなら学生専用マンションにはアパート、

マンション問わず最初に入った時からある程度の家具や道具が備え付けされている。

例えば、洗濯機や物干し竿、洗濯バサミ、キッチンの用具などの類。

他にも薄型テレビ、テーブルや机、ソファーやベッドまたは布団などが含まれる。


あと、家事のマニュアルとか料理関係の本もいくらかついてくる。

本だけでこなせるならばいいのだが、僕は料理は本だけでは不安だったから

島内で定期的に開かれているという料理教室に何度か顔出しをしたものだ。


また、これとは別で一人一台、ノートパソコンが無料で支給される。

スマートフォンの存在もあり、パソコンが使えない人間は珍しくない。

なので強制的に持たせ、パソコンの授業で使わせる事でそういう人間を減らすのが目的だ。


勿論、部屋を移る時や卒業して島を出る場合はちゃんと洗うなり洗濯するなり

手入れして返さなければならないものもある。

さすがにソファーなどは洗わなくてもいいが、洗濯関係は洗わなければならない。

布団やベッドのシーツは大抵はクリーニング屋に預けられる。


借り物以外に必要なものがあれば基本的には自分で買わなければならない。

また、初めて入学した際に生活に必要な物を実家や外から色々持ち込む学生もいる。

私服とかも自分で買うか実家からの持ち込みが多い。


自分で用意したそれらの物の管理は全て自己責任かつ自己負担だ。

部屋を移る際はそれらは置きっ放しではなく一緒に持っていかなければならない。

勿論、引越しの際は業者や理事会などから荷物を運んでくれる人を呼ぶ事も可能だが、

荷物が多すぎるほどその分運ぶのに苦労し辛い思いをする場でもある。金もかかる。


食料に関しても、基本は自分で買い足さなければならない。その管理も無論自己責任だ。

お金に関しては僕みたいにバイトが出来る人はバイト代を使う他、実家からの仕送りが主となる。

バイトに関しては高校から行えるが、学校に内緒で無断バイトは出来ず、学校に申請が必要だ。


他にも理事会による数多くの特別制度によって支給を受けている学生もいる。

実家が貧乏だからとかそういうのだ。因みに僕は仕送りとバイトで

資金を得ているので、特別制度はよく知らない。


因みに進学や就職でこの島を離れる事になった場合。

実家に帰るか、島外の別のアパートやマンションに引っ越すかを迫られる。

だが、退学とかじゃない限りは次の住まいを探す手伝いをしてくれる支援制度もあるという。

タカシとコージがそのために理事会に相談に行っていた。


このように、いずみ島は学生が安心して一人暮らし出来るよう、

豊富な支援制度やルールで成り立って現在までに至る。







玄関で靴を脱ぎ、電気をつけて短い廊下を通る。

左右に二つずつドアがある廊下のうち一つの右奥にある自分の自室のドアを開けて、

右肩にかけてあるバッグをベッドの上に投げ込んだ。


それでリビングにある四角い黒いテーブルに置いてある

リモコンを手に取りテレビをつけ、ソファーに座ってぐったりする。


が・・・・・ついていたのはニュース番組。

目の前の男のニュースキャスターが緊迫した空気で原稿を読み上げている。


「ええ、速報です。先ほど東京都中央区のビルで爆発がありました。

 テロと思われます。速報です。先ほど東京都中央区のビルで爆発が・・・・・」


カチャ。またかよ・・・・僕は呆れてチャンネルを変えた。

騒がしい事件が連日起こりすぎなんだよ・・・・爆発、火災、殺人とか・・・・

チャンネルを変えた先はミステリー番組だった。


爽やかな青空の下に大きく広がる青い海が映っている。

カメラが水中へと潜っていき・・・


「果たして、東京湾に巨大サメ男はいるのだろうか・・・・?」


カチャ。ナレーションとともにサメの顔をした男のシルエットのイラストが

出たとこで僕はリモコンでテレビを消した。


巨大サメ男ねえ・・・・ホントにいるわけがないだろ。なに騒いでるんだか。

適当にオカルト拾って、視聴率稼ぎのためにあたかもホントに

いるかのように演出加えてるだけのやらせだろ?煽りだろ?

番組に出演してる芸能人たちもご苦労なこったな・・・・


こういうのばっかりだ・・・・世の中は。くだらない事ばかりやってる。

こうして見ると、ゲーセンとかファミレスとか、現実の方が遥かに落ち着けるな。


何をしようか。右足も寝れば明日には治りそうなんだよなあ・・・・

帰ってきたら気が楽になっちまった。


・・・・風呂でも沸かして入るかな。


僕は風呂を沸かしに、リビングに繋がっている洗面所に行き、

風呂がある浴室へと向かった・・・・





***




その同じ頃。ここは新秋葉原駅前のファミレス。

店内は学校帰りや仕事帰りの客で賑わい、ウェイトレスが忙しそうに

テーブルからテーブルへ、キッチンからテーブルへと動き回る。

ユヒナとハインは窓際の互いに向き合う二人用の席に座り、ハンバーグを食べながら話をしていた。


「ねえ、ユヒナ」


「ん?」フォークを手にハンバーグを口に入れているユヒナにハインが尋ねた。


「ユヒナはさ、なんで出会ったばかりのアイツと仲良くしようとするの?」


「アイツって・・・境輔のこと?」ユヒナはハンバーグを飲み込み、水を口に加えながら聞き返す。


「そうよ。ゲーセンじゃ、あなたの名前は知られつつあるけどこの島に来て、

 親しいトモダチなんか作った事、今までなかったじゃない?」


「なんだか・・・不思議に思ったわ。

 オフになっていたスイッチがまたオンになったって事で・・・いいのかしら?」


ハインは話しながら、フォークで刺したブロッコリーにハンバーグの

オニオンソースをたっぷりつけるとそれを口に運んだ。


ユヒナにはこの島に来てからも心を許して、一緒に遊んだりするような

親しい友達というものは一人もいない。

ハインだけが唯一の家族であり、友達である。


ユヒナは普通ではない。友達を作っても、その友達を危険な事に巻き込んでしまう恐れがある。

自分のせいで何も知らない他人を危険な事に巻き込み、傷つける事に負い目を感じた

ユヒナはそれを自覚してからは新しい友達を作る事をやめてしまった。

ハインはそんな彼女が突然友達を作ろうとする事を疑問に感じていた。


が、しかし・・・・


「うん。そうね。そんな感じかな。

 境輔はその辺の人達と違って、どこか仲良く出来るような感じがしたの。

 ノリも良かったし、それに・・・何だかとっても優しそうな感じがしたんだ」


ユヒナは森岡境輔の事を思い出しながらニコニコと嬉しそうな顔をしている。


「それにこの島に来てしばらく経つけど・・・もうどこかしらで

 友達を作っても大丈夫な気が前からしていたの」


「ここならば"彼ら"に狙われる事もないし、たとえ何があってもこの島には

 シーガルスや、遠くにはJGBもいるし何とかしてくれると思うから。

 私が戦う時は、本当にどうしようもない時」


ユヒナは何かと人を信用しやすい。一度その人の事が気になると

遊びや食事に誘ったりと人懐っこく、アプローチをかける事が多い。

その純粋で明るいフレンドリーさは彼女とは対照的なハインも呆れるほど。


「そう・・・・」


ハインはその話に対して冷めた顔をする。

視線をユヒナから、自らが頼んだハンバーグのある下の方にやった。


「ユヒナ。そこまで言うなら好きにしなさい。

 でも忘れないで。あなたと私は・・・・」

 

「アイツとは、"住む世界"も違うんだから・・・」


「下手したらあなた、また前に逆戻りよ。

 それか、前よりも苦しむ事になるかもしれないわよ?」


ハインは静かに忠告しながらフォークで自分の皿にある人参を刺してパクリと口に入れた。

まるで、冷めた態度をごまかすように口に入れた人参を噛む。


「大丈夫よ、ハイン。

 この島ならば、たぶん大丈夫だよ」呑気に微笑むユヒナ。


「そう。もういいわ。でもこの国の裏社会、

 相当広いから何が起こるか分からないわよ。気をつけなさい」


ユヒナは意気込んでいても、静かに釘を刺すハインであった。

ハインにとっても、ユヒナは数少ない心を許せる相手である。


残虐で冷酷な事を繰り返してきたハインであるが、

ユヒナの事はただ心許せる相手以上にとても特別な存在なのである。



ユヒナとハイン・・・・・この二人が森岡境輔と出会ったのは

偶然の縁なのか、それとも運命なのか・・・・それは誰にも分からない。


そして、これがこれから始まる物語の萌芽となる事も・・・誰も知らない。


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