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ソルジャーズ・スカイスクレーパー  作者: オウサキ・セファー
第三章 プレゼンス・サード -航路の行方-
83/120

第7話 ユヒナとハイン

・・・・・まさか・・・・あのタイミングであんな事になるなんてな・・・・・


僕は痛む所を引きずりながらもエスカレーターに乗っている。

タカシとコージを捜して。


まっさかあんな漫画みたいな事になるなんて思ってもなかった。


数分前の事だ。僕はふと足を止めた場所がきっかけとなり、

そこにいたユヒナとステプラで対戦した。


好きな曲を選び、ブランクはあったが直前まで勢いだけはあった。

が、その結果は・・・・



僕。ランクD。スコア7631。


ユヒナ。ランクS。スコア104555。


ランクは難易度ノーマルではSが最高ランクである。

圧倒的な大惨敗だった。では、どうしてこうなったのか。僕も思う。

そう、僕は最初のステップを踏もうとした時の事だった。


最初に横に伸ばした右足。勢い強く伸ばした右足。

が、勢い余ってステップを踏み外し、右足を強く横に折ってしまった。


グギっと来た瞬間だった。僕は転びそうになり、ステージを囲む手すりに掴まる。

一瞬バランスを崩した後、何とかダンスを続けたが痛めた右足が足枷となり、

全然曲のリズムに乗る事が出来ず、不調で初戦は黒星スタート。


その後もクレジットが2つあるため2回ユヒナと対戦した。

さっきのスコアは第一回戦のもの。

最も、第二回戦はこのコンディションでは勝負する前から負けは決まっていた。


「じゃあ、次は私の番ね」ニコっと笑みを浮かべ、ユヒナは曲を選んだ。

そう、難易度ベリーハードで「パラダイス・サマー」を選択してきたのだ。


ユヒナ・・・・とても明るく、純粋な雰囲気で可愛げがあるがその実力は高い。


結果は最初を上回る大敗だった。

ランクは最低のEでスコア4680。ユヒナはランクSで151025。


続けて最終戦で僕はアール作曲のもう一つお気に入りの曲、

「ダークナイトは悠久の夢を見るか?」を選択。難易度はノーマル。


ロック調でダークさと穏やかなピアノが入り混じる曲。

結果は言わずもがな、右足の痛みが悲鳴をあげて第二回戦を上回る惨敗だった。

ランクEでスコア3580。ユヒナはランクSSでスコア173521。


まさに天地の差の大惨敗だった。利き足である右足が思うように動かず、重く感じた。

せめて手でパネルをタッチしようと動いたがその度に右足の痛みが足を引っ張った。

就活ですっかり鈍ってしまったようだ・・・・・



「ええと・・・・・その・・・・だいじょう・・・ぶ?」



あまりの僕の情けなさに試合後、

ユヒナは少し戸惑いながらも心配する目で気にかけてくれた。


「大丈夫だ・・・・ちょっと右足を勢い余って痛めただけだ。

 勝負は散々だったけどな」


「ねえ、病院に連れてってあげようか?」


「いや、いい。これぐらいしばらくしたら回復する。

 楽しかったよ。それじゃあな」


僕はユヒナに優しく遠慮し、右手を少し向けてその場を立ち去った。



そんなこんなでユヒナとはその場で別れた。

しっかしスタイル抜群で、元気で優しそうな子だったな。ユヒナ。


女友達は高校時代にはいたが今は特にいない。

恋人も女友達もいない今の僕にはああいう元気な女子とゲームで遊ぶのも希少だ。



痛む右足を引きずりながら僕はエスカレーターで次の4階に到着した。

ああ~、右足痛い。歩き回るのも嫌気がさしてきた・・・・


4階は格ゲーの特設フロアだ。昔の格闘レトロゲームのアーケード版の筐体もあるが

このフロアの目玉と言えば「ブレイヴファイターズ」。

通称ブレファの筐体がたくさんある事だ。


ブレファは1対1の奥行きにも対応した3D横スクロール型の対戦格闘ゲームだ。

キャラを選択し、相手のライフをゼロにするか、制限時間いっぱいまで戦ってライフが多い方が勝ち。

シンプルな格ゲーだが競技人口は多く、各地で大会が開催されるほどだ。

アップデートも頻繁に行われ、新キャラが追加されたり新モードや新ステージが追加されたり、

続編がリリースされたりと今も続いているコンテンツだ。


僕がいずみ島で暮らし始めて1年が経った2025年。

当時、稼働したばかりのブレファはまだ他の著名な格ゲーの影に隠れた小さいモンだった。

ところがそこからアップデートで新キャラや新ステージ、更にはシステムやキャラ性能の調整が入るなど

定期的にテコ入れがされ成長してきた結果がこれだ。


今となってはあらゆるゲームのチャンピオンを競う祭典、

「ジャパン最強ゲーマーグランプリ」格ゲー部門の競技種目として選ばれるほどだとか。


このゲームもステプラと同じく、僕もタカシやコージと忙しくなる前はやっていた。


もしかしたら二人ともここで遊んでるかもな・・・・


多くの人で賑わうブレファの筐体が左右にズラリと並ぶブレファコーナー。

必死にボタンやレバーをガチャガチャし、ブレファにのめり込んでいる学生や大人の背中の間を歩く。


すると、奥の右手に同じくブレファに熱中している

見覚えのある二人の後ろ姿を発見した。


一人が濃い緑のTシャツを着た丸い短髪、

もう一人が背が高く、半袖ワイシャツを着た尖ったオールバックの後ろ姿。


間違いない。タカシとコージだ。

二人とも並んだ筐体で隣同士でプレイしている。


近づいてみると文字通り二人とも素早い手さばきでボタンを操作し、

スティックを真剣にガチャガチャしている。


「よーう、二人ともこんなとこにいたのか」


僕は後ろから声をかけてみた。


「話しかけてないでくれキョウ。今、まずいとこなんだ・・・」


コージはこちらを振り向く事無く目の前の画面に集中し、

真剣にレバーをガチャガチャしている。

青銅の鎧に身を包んだランスを持った戦士ガレットと

長い金髪で赤い服を着たナイフ使いの女戦士マーシィが

華麗に戦いを繰り広げる画面に夢中だ。


「なあ、タカシは?」


「話しかけんな、キョウ。俺も忙しいんだ・・・」


・・・・・やれやれ。これは終わるまで相手してもらえそうにないな。

二人ともこのゲームはストーリーモードを勝ち抜けるぐらい強いのは知っている。


だからやってるのは恐らくインターネットを介した全国対戦か、店内対戦だろう。

タカシとコージが今プレイしている筐体の裏側にも当然それぞれ筐体がある。

この位置だと、店内対戦ではその筐体を操作している側と対戦する事になる。


ちょっと裏側の筐体遠くから覗いてみるか・・・・


タカシとコージ。二人の筐体の裏側にある筐体にもやはりプレイヤーはいた。二人組の男だ。

だがその二人は僕も知っている顔だった。


それは僕らと同じ大学で同学年の高濱たかはま坂野さかのの二人組だった。

僕ら三人と部屋こそ離れてはいるが同じマンションに住んでいて、互いにルームメイト。

少し長めの前髪に鋭い目、兄貴分な雰囲気持ってるのが高濱、丸い頭に大きなメガネかけてるのが坂野だ。


僕は顔を知っているだけで特別親しいわけではないがタカシとコージが最近よく仲良くしてる奴らだ。

だが、いずみ大学第一校に入る前は彼らは第二高校にいたらしい。

僕、タカシ、コージは第一高校だったからどこかですれ違う事もあっただろう。


で・・・コイツらも先に内定を取った勝ち組である。

5月頃に初めて顔を合わせた時は既に坂野は4月の終わりに内定を取っており、

それから程なくして高濱の内定が決まった。


そして6月中旬。僕が最終面接を受ける前にタカシとコージが内定を取った。

このようにして僕だけが取り残され、「勝ち組カルテット」が誕生したのだ。




画面を覗き込んでみたらコージ、タカシ、両者とも異なる試合運びとなっている。


ブレファは三回勝った方が勝利だ。

コージは高濱と戦っている。使ってるキャラはコージがガレットで高濱はマーシィだ。

2対1でコージが一歩リードして勝ってるが高濱に一方的に追い込まれ、同点を許しそうだ。


一方、坂野と戦うタカシは1対1でぶつかり合っている。

タカシは筋骨隆々のカエルの戦士ジョン・ケロゲを使い、

坂野は薬品を使って戦う恐怖の科学者ボルテクスを使っている。


どちらが2勝目もぎ取るかで必死なようだ。


タカシ、コージ、高濱、坂野。

恐らくタカシとコージはコイツらとここでバッタリ会って、

それで自然とこうなったに違いない。


普段ならばとても楽しい場だろう。

しかし、この4人が揃うのは正直僕にとってはあまりいい気がしない。


なぜなら僕はこの4人が揃った時は蚊帳の外である。

タカシとコージが内定を取って、僕が最終面接に落ちてからそれは顕著となった。

いつの間にか自分が入る所がなくなっていた。

就活という枷が外れて自由度も高い人間のやる事にはとてもじゃないがついてけない。


この前ファミレスで5人で食事した時なんか、僕も一緒にいる場で僕が面接を控えているにも関わらず、

みんなでウォルターズランドに行こうとか話していつの間にか勝手に4人で盛り上がっていた。

苦痛だった。アレクさんと出会い、水無月の悲劇から立ち直った後の事だ。


4人が楽しく遊んだり盛り上がる中、せっせと一人で就活してるのが今の僕である。

僕だけが内定を取ってないのだから・・・・完全な仲間外れだ。


はぁ・・・・・なんかせっかく楽しめそうだと思ったのに

急に憂鬱な気分になってきた・・・・・


僕は4人が真剣勝負を繰り広げるその場から立ち去った。


もう右足が痛いし、それ理由にしてさっさと帰るかな・・・・白けちまった。


僕は右足の痛覚を感じながらも真っ直ぐと

下りのエスカレーターの方へと歩き、その動く足場に乗った。


エスカレーターで下へと降りながらタカシとコージ宛てに

メールを送るべくスマホを取り出し、右足が痛いのと疲れた事を

理由に帰る旨をメールで素早く送信した。


文面はこうだ。


--------------------------

右足をステプラで痛めちまったし、

今日は疲れたから先に帰るわ><


--------------------------


さすがに無理強いはして来ないだろう。

勝ち組は勝ち組で楽しんでいればいい。


それに僕だけが内定を取れていないこの現状だ。

これぐらいは許されるだろう。


「あ」知ってる顔を見かけたので僕は思わず声を出した。


3階に降りるとそこにはさっきの長いピンク髪の女子・・・・ユヒナが歩いてきていた。

ちょうど下の階に降りる所のようだ。


「あっ、さっきの!!」ユヒナはこちらの姿を見るなり嬉しそうに反応した。


「よう」僕は反射的に右手を軽く上げて返した。


そのまま流れに乗って二人で2階行きのエスカレーターに乗った。

僕が先に乗るとユヒナもそれに続いた。


「今日はもう帰るのか?」


エスカレーターが下へと降りていく中、僕はさっきまでのモヤモヤを隠し、

ユヒナの方を向いて訊いてみた。


「うん。もうだいぶ遊んで疲れちゃったからね。

 お腹すいちゃった。これからご飯よ」


疲れた様子だが、笑顔を浮かべているユヒナ。とても満足そうだ。

僕が上に行ってる間もステプラなりやってたんだろう。


「そうだ!せっかくまた会えたから、

 あなたの名前・・・教えてくれないかな?

 それで良かったら友達にならない?」


すると思いついたように興味津々で名前を聞いてくるユヒナ。


「そうだな・・・・」


ちょうど取り残され、孤独を感じていたところだ。

新しい交流を作るのも悪くはないか。


「僕は森岡境輔。お前はユヒナっていうんだろう?」


「うん。御咲みさき由緋奈ゆひなよ。

 ユヒナって呼んでくれると嬉しいな」


「苗字じゃダメなのか?」


「苗字でもいいけど、私は名前で呼ばれる方が好きかな」


エスカレーターで2階まで下りると僕とユヒナは右折し、

1階のエスカレーターに乗る。


「分かったよ。ユヒナ・・・で、いいんだろう?」


「うん、ありがとう。ねえねえ、その代わり、

 私もあなたの事は森岡じゃなくて、境輔って呼ぶけど・・・いいかな?」


境輔か・・・・異性に下の名前を呼び捨てで馴れ馴れしく

呼ばれるのもなんかこそばゆいなあ・・・・


同じ異性であるアレクさんからはくん付けで呼ばれてるけど、

呼び捨てで下の名前呼ばれるのとはニュアンスは違う。


・・・・まぁいっか。眩しい笑顔を浮かべ、

どこか人懐っこい純粋な彼女を見ているとどこか許せてしまった。


「別にいいぞ。知り合いからも下の名前で呼ばれる事もあるから。

 友達になりたいならば、別にいいぞ」


「分かった。ありがとう!じゃあよろしくね、境輔!」


ユヒナは眩い天使のような笑みを浮かべる。

・・・・ま、いいか・・・・何だかさっきまでの事を考えると

こういう積極的なのは希少なのかもしれない。


するとちょうど僕が乗ってるエスカレーターの足場が1階へと着いた。

ユヒナもその後についてくる。

ゲーセンを楽しむ人々が行き来する中、出口に向かって歩き出す。


店を出る。真夏ゆえの蒸し暑さを緩和させてくれる涼しい風が横から吹いてくる。

店の中は冷房がガンガンついてるが、店を出るとたちまち暑さを感じるからちょうどいい風だ。


店を出て数歩ほど歩くと後ろにいたユヒナが隣にやってくる。


歩きながらあたりを見渡し、たくさんの人が行き来する光景を前に

キョロキョロするユヒナ。誰か捜してるのだろうか。


「なあ、ユヒナ。どうしたんだ?」


「ハインを捜してるの。私の・・・・」


ハイン?誰だよ?と尋ねようとした時だった。



「あら~?ユヒナ、どうしたのよ。そのインドアそうなイケメンは」



横から落ち着いた女子の声が聞こえてくる。

声がした方向を見るとそこには右手を腰につけ、

一人の女子が立ってこちらを見ていた。


が、その女子はユヒナ同様に見慣れた制服は着ていない。

肩幅も小さいとても華奢な体に、夏にも関わらず真っ黒な長袖を着ていて、

真っ黒なミニスカートの下にはニーソックスと黒い靴を履いている。

それらは街灯に照らされている事で引き立っている白い肌を一層、

引き立てているようにも思える。


サラサラした綺麗な黒髪で整ったおかっぱ頭。

頭の左の部分には三つ葉の黒い花のリボンをしている。


瞳は黒色でイタズラを仕掛けそうな笑みを浮かべるその女子。

いかにも穏やかな感じではない。年齢はユヒナと同じか少し上ぐらいか。


「あっ、ハイン!もう用事は終わったの?」


ユヒナがその女子に慣れた感じで話しかけ始めた。

どうやらこの女子がユヒナが言うハインらしい。


「ええ・・・・フフ。ザコデュエリストばかりだったわ。

 みんな簡単に蹴散らしてあげちゃった」


そう言って、蹴散らした相手を小馬鹿にするような笑みを浮かべるハイン。

コイツはデュエリストなのか・・・・?


「さ、ファミレス行きましょ。ユヒナ。

 ・・・・・ところで、アンタは誰?ユヒナと一緒に歩いちゃってさ」


話の途中で視線をユヒナから僕へと向けるハイン。

その口調は何だか彼女と一緒にいる僕の事が気に食わないようだった。


「僕は森岡境輔。ユヒナとはついさっき一緒に

 成り行きでステプラして知り合ったばかりだ」


「ふ~ん。ユヒナと遊んでくれてありがと。一応、礼は言っておくわ。

 "身体目当て"というわけではなさそうね」


「な・・・・んなわけねえだろ!?」


こちらをからかうような目で見るハインの口から飛び出したとんでもないワードに

僕は声を裏返して強く否定した。


出会ったばかりの異性とそんな事したら・・・マズイだろ・・・


「ふ~ん。どうかしらね・・・・?」


ハインはそっと歩いて近づいてじっと僕の目を見上げ、見つめてくる。

向こうの方が身長は小さい。僕も近づいてきたハインの目を見るが、

漆黒に染まったそれは、まるで黒い宝石のように綺麗だ。


「ハイン。私は境輔はそういう人じゃないと思うよ」


間に割って入ったユヒナは僕の事をちゃんと認めてくれるようだ。

まだ出会って間もないのに、そう断言出来るものだろうかとも思うが・・・

恐らく「ステプラ好きな人に悪い奴はいない」って感覚なんだろう。


「まだ分からないわよ~?ユヒナ。男って今は大丈夫でも、

 一度スイッチ入ると何が何でもそれを成し遂げようとする

 "漢気"っていう要素を隠し持ってる生き物なのよ。良い事でも悪い事でもね」


ハインはユヒナの方を向いて反論する。ユヒナは首を横に振る。


「それでも、私は境輔は悪い人じゃないと思う。ハイン。私は感じるの」


キリっとした顔で、強気で断言するユヒナにハインは大きくため息をついて、


「・・・・・はぁ。あなたがそう言うなら一応尊重はしておくわ」


降参するように引き下がるハイン。


「やった!」ユヒナは嬉しそうに微笑むと僕の方を向いて、


「ねえ!境輔!せっかくだし、私達と一緒にご飯食べない?

 三人でご飯・・・凄く楽しいと思うんだけど・・・」


わりい。僕はもう夕飯さっき食べたんだ。

 食事ならば、まだ今度にしてくれ」


「そう・・・じゃあ、また今度ね」ユヒナは残念そうな顔をした。


「それに、ステプラで痛めた右足が気がつくとまだ痛いんだよ・・・

 帰って休もうと思ってたとこだ」


「だったら、駅の近くまで一緒に行こ!

 私達が食べる予定のファミレスも駅前にあるから」


新秋葉原駅のファミレスと言うと夕方の早いうちから混み始める人気スポットだ。

扉を開けてビルの中に入り、目の前の階段を上ると二階が

丸ごとおしゃれなファミレスと化している。


駅前、しかも場所も分かりやすく気軽に行ける事から

常に他の店以上に賑わっている場所だ。


「そうだな。途中まで行こう」


僕はユヒナ、ハインとともに人がたくさん

行き交う街の中を歩き、新秋葉原駅を目指す。


そんな夜の街を三人で歩きながら、横からハインが口を開く。


「名乗ってなかったわね。私の名前はハイン」


「ユヒナのルームメイトなのか?」


「そうよ。一緒にこの島に住んでるわ」


「どこに住んでるんだ?」


「T-3地区のマンションよ。アンタは?」


「僕はT-2地区6丁目のマンションだよ。互いに正反対だな」


T-3は理事会の本部がある場所だ。

特に高くそびえ立つ西洋の時計塔がシンボルだが、

周りにはその景観を乱さない程度の高さでマンションなども存在する。


その中には勿論、この島で働く大人以外にも学生用の住宅もある。

ユヒナやハインはそこに住んでいるのだろう。


「ねえ、境輔は見た感じ大学生だよね?何年生?」


今度はユヒナが近寄って歩きながら興味津々に話しかけてくる。


「ああ。今年で大学4年だよ。来年で卒業。でもさ、就職活動で苦労してる。

 僕のルームメイトとか周りの奴はみんな内定取っちまってな。僕だけが苦労してるのさ・・・」


「そうなんだ・・・就職活動って凄い大変って聞くけど、

 一人ぼっちって嫌だよね・・・」


ユヒナは憐憫れんびんな顔を浮かべて僕を心配してくる。


「ああ。だから今日はルームメイトの誘いだったけど遊びに来て、

 ちょっと刺激になって良かったよ。ぼっちは寂しいからな」


ユヒナやハインの前では先ほどの勝ち組カルテットに対する羨ましさとか、

そういうのは出さないように喋る僕であった。


そんなこんなで、僕達は横断歩道を渡り、新秋葉原の駅前に到着した。

ユヒナとハインが行くというファミレスも駅の入口の向かい、広場を挟んだ向こうにある。


「じゃあね!境輔!」


ユヒナが大きく手を振る中、僕はそこで二人と駅前で別れた。



さて、帰るか・・・・右足は一晩休めば、たぶん治るだろう。



それにしても、ユヒナとハイン・・・二人とも雰囲気は正反対な女子だ。



ユヒナは純粋で明るく優しい感じだ。人懐っこくて少し子供っぽい。

まだ会ったばかりなのに、積極的にアプローチしてきた。

そんなに一回ステプラやったぐらいで僕の事を気に入ったんだろうか。根もしっかりしてそうだ。

明るく、特別整った体型、まるで漫画に出てくるメインヒロインのよう。


一方、ハインはユヒナとは正反対。ユヒナよりも大人っぽく、

明るい様子もなく落ち着いた雰囲気で、不敵な笑みを浮かべる小悪魔って感じだ。

ドSなお姉さんといった所か。そしてユヒナに負けず、こちらもこちらでかなりの美人だ。

胸のサイズは抜群なスタイルを持つユヒナの方が大きいが、

ハインも全体的に整った体型でなかなかのスタイルである。


どちらもまるで白と黒のように互いに綺麗に対をなした組み合わせだ。

ユヒナには明るさや眩しさがあるが、ハインからはそれを感じさせない。


だが、この島ではどうしても部屋のルームメイトの関係で

ああいう凸凹な組み合わせが出来上がってもおかしくはない。


ルームメイトは選べないのだから。

建物の都合もあるし、いくらこの島の環境に馴染んでも

部屋が変わる事である日突然、接しづらい相手と組まされる事もよくある。

これは、将来社会に出た際にどんな相手と組まされても

適応出来るようにするという目的もある。


あの二人も、そんな感じで組まされたんだろうな・・・・

そういえば、どこの高校に通ってるかは聞かなかったけど、

彼女達は第一、第二、第三、どこの高校に通っているんだろう・・・・?


ただ、あの二人とはまたどこかで会えそうな気がした。


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