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ソルジャーズ・スカイスクレーパー  作者: オウサキ・セファー
第三章 プレゼンス・サード -航路の行方-
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第5話 新秋葉原

「よう、キョウ。なんかやけに長いトイレだったな」


「混んでたんだよ。悪いか」


席に戻るとコージが僕に声をかけてくる。

素っ気なく僕はそのまま返し、さっき座っていた席・・・

すなわち二人から見て向かい側の席に座った。


「おっ、来てたか」


テーブルを見るとミニサラダ以外に僕が頼んだサーロインステーキとライスが来ていた。

じっくり美味しく焼きあがったステーキに白いライスの組み合わせは絶品だ。


僕らはその後は適当に雑談をしながら食事を楽しんだ。

最近は暑い日が続いているので、この暑い時期に食べたいものとか。

で、食べたい好きなカキ氷やアイスはなんだ?とか。


僕はカキ氷はイチゴシロップ、アイスはチョコチップ味が好きだ。

初夏の時点でも十分に暑さを感じる季節。こういう食べ物は癒しになる。


するとタカシは「キョウ。毎回思うがよくあんな氷の塊食えるな?」

とかテーブルに肘をつけていちゃもんをつけてくる。

因みにそんなタカシはカキ氷が嫌いだ。アイスはミント味。


「アイスも似たようなもんだろうに。いい加減認めたらどうなんだ?」と突っ込んだがタカシはそれでも

「フン。俺はどうもあの氷の粉に味付けたような食感が受け付けなくてね」と態度を変える事もなかった。


一方、コージはカキ氷はバナナシロップに、アイスはチョコ味。

「まぁ、毎年の事だから分かると思うが、オレはバナナチョコの組み合わせ一択だぜ」



そんな感じで、僕らのカキ氷&アイストークは盛り上がっていく。そして・・・・



「・・・・なんかアイス食いたくなってきたなぁ~」



ステーキやライスを堪能した後のこと。

コージはそう自分の欲望を口にし、そのままバナナチョコアイスをオーダー。

せっかくだ、たまにはデザートもいいかと僕はカキ氷イチゴシロップ味を頼むと

タカシも続けて対抗するようにアイスミントを頼み、それぞれ好きなデザートを楽しんだ。


食後のカキ氷もたまにはいいものだな。

ハンバーグやライスで体が熱くなる中、少しずつ食べる事で

水分をとるのとはまた違う格別な感触を舌から感じる。


「なあ、タカシ。さっき話してた10番目の島って実際は合成写真ってオチじゃないよな・・・?

 ふと思ったんだが、あれぐらいならば簡単な画像加工ソフトで誰でも作れそうな気がしたんだが」


「いや、今更それはないだろ~?あんなに話題になっててみんな騒いでるんだからさ。

 それに写真をズームすると模様があるんだ。黒塗りとかじゃないぜ?」


食べながらタカシとコージのオカルトな話がまた始まった。

本当にどうでもいい。島があるだのないだの・・・・僕は合成写真だと思うがなあ。

というか、合成写真に決まってる。そういうのが好きな奴が騒ぎたくて、

大衆に説得力持たせるために精巧に作ったんだろう。あの写真は。


「なぁ、そろそろ行かないか?」


お腹が落ち着いた所で僕は二人にそう提案した。

その後、僕らは三人で会計し、ファミレスを後にした。





空はまだ完全に真っ暗ではないがすっかり日が落ち、光もさしていない。

涼しい風が吹き、暗めの青い空が見える。


もうじき夜になる。街路灯もつき始め、

辺りに建ち並ぶ建物も窓から光を次々と放ち始める。


僕達は新秋葉原のA-1地区に向かうべく、T-1のモノレール駅へと歩き始めた。

暗くなりつつある広い歩道を歩く中で、女子大生の集団や

他の学生連中などと度々すれ違い、右手の道路には後ろから車やバスが走っている。


これから行く新秋葉原は騒がしく、人がごった返す煌びやかな巨大歓楽街だ。

新秋葉原はA-1地区とA-2地区に分かれていて、このT-1地区から

見てA-1は北西にある川を挟んだ先にある。

一方で、西の川を挟んだ先にあるのはA-2だ。


新秋葉原は時ノ町よりも地区の数は圧倒的に少ないがその分、広々としている。

様々な施設があるため、慣れていなければ歩きで道に迷い、

目的地に到着するのに時間がかかる場合がある。

この辺は都心の歓楽街と同じだ。


そして、僕らがこれから行くゲーセンはA-1の方に存在する。

A-1には新秋葉原ドームをはじめとした主要施設が集まっており、

大きな建物が建ち並び、広い歩道と大きな道路があり、

アスファルトの上を車が行きかい、どでかい高層ビルが多く建ち並ぶ。


その中で、新秋葉原の数々のゲーセンの中でも特別特大な店が一つだけある。

僕らはそこを目指している。



明かりがつき始めているアパートやマンション、

時折コンビニやファミレス、カフェ、本屋、文房具屋などの施設が建ち並ぶT-1の街を歩いていく。

すると正面にモノレールが運行する駅、「T-1第二ステーション」が見えてきた。


駅へと繋がる大きく広々としたレンガで出来た階段がある。

正面から真っ直ぐ上り、階段を登りきるとそこには駅と広場が広がっている。

脇には小さなコンビニも併設されている。僕らは改札を抜け、ホームへ行く。


この時間、結構人が多い。

それもあってか、はたまた食後だからか、僕らは話す事もなく、

スマホをいじりながら次のモノレール到着を待つ。

ホームにはベンチや自動販売機、喫煙スペースやトイレがあり、

雨を防ぐためにホームの真上には屋根がつけられている。


こんな学生が多い島でも、ガラス張りで作られた喫煙スペースはある。

無論、法律上は二十歳以上になれば、誰でもタバコは吸える。

因みに僕やタカシ、コージはタバコは吸わない。健康にも良くないしな。


ホームの天井から取り付けてある電光掲示板を見ると

現在の時刻は18時15分。次の到着まであと3分だ。


いずみ島内にはどの地区でも地下鉄、モノレール、バスが走っている。

いずれも大切な交通機関であり、時ノ町、新秋葉原問わず建物が多いこの島では

島内で離れた場所へ移動するのに欠かせない。


交通費はいずみ島内のバスは学生証を提示すれば通常料金の半額となる。

これはいずみ島外の学生が自分の学校の学生証を提示しても同様である。


地下鉄とモノレールはいずみ島内の学校に入学した際に一枚のカードで

いずみ島特別定期券が作成され、発行される。期間は3ヶ月。

3ヶ月間は普通の定期同様、いずみ島内の地下鉄とモノレールは乗り放題だ。

期限が切れそうになったら通常の定期券同様に駅に行って更新しなければならない。

この更新費用もお金は一切かからず、いずみ島内の学生ならば学生証を見せれば、誰でも行える。

交通費が殆ど不要な面もこの島の魅力の一つだ。


3ヵ月という期間を設け、更新制をとっているのも、

いずみ島内の学生じゃない者が悪用する事を防ぐためだ。

そして、いくら学生でもいずみ島"外"の学生はこの定期券をもらえない。


また、この定期券はいずみ島内の駅同士でなければ効果を発揮しない。

例えば、鉄道によるこの島の玄関口の一つでもある新秋葉原駅から

外の新木場やその先のお台場へと電車で乗っていく場合、特別定期券の効力はない。


しかし、特別定期券はICカード乗車券でもある。

その中にお金をチャージしていればその中のお金が引かれる形になるため、

カード自体が使えないというわけではない。

効力が切れ、更新していない特別定期券はただのICカードと化す。


正直、この島で暮らし始めて10年。時々思う事だが、たくさんの学生がいるのに

こんなに割引や定期券化してしまって、この島の運営は大丈夫なのだろうかと思う事もある。

まあ、理事会が9つの島を統治するほど膨大な金持ちで、

出資者も多くいるからこそ成せるセールスポイントなのだろう。


理事会にはバックに世界的大企業I.N社や関西大手の雷道寺らいどうじグループといった

強力スポンサーがいるみたいだし、理事会そのものが

財力がハンパないのは中学の時から耳にしていたから、

10年もこの島で僕が暮らせてる以上は大丈夫なんだろうが。


「間もなく~、1番線に新秋葉原方面行きが到着します。ご注意下さい」


駅のアナウンスが流れた。



すると青色に白いラインが入った車両のモノレールが

奥からやってきて、僕らの前に現れた。この時間ではなかなか混んでいる。

座る場所も確保出来るかは分からないぐらいの混み具合だ。


この暑い夏の気候に相応しい夏服の制服やスーツ、

派手なTシャツなどを着たと様々な格好をした先に下りる乗客達。

ゾロゾロとホームへ下りた後、僕らはモノレールに乗り込んだ。


とりあえず、席は既に座っている乗客と乗客の間だが、空いているスペースを

見つけたので近くにあった適当に空いている席に座る。


すると向かい側ではタカシとコージが空いた席に座っていた。

僕達は偶然、互いに向かい合わせになった。


左のドアの方を見るとまだまだゾロゾロと人が乗ってくる。

間もなく夜になる。所謂、帰宅ラッシュだ。珍しい光景というわけではない。


制服姿の人間はこの島のどこかの中学校や高校に通う学生だ。

いずれもこの島で暮らせば見かけない事はまずない制服だ。


ちょうど僕が座ってる場所から右に向くと人混みの中に

黄色がかった黒いズボンと、マス目の入ったスカートを履いてる

半袖ワイシャツ制服姿の男女の学生が立っているのが見えた。

これからデートにでも行くんだろうか。だとしたら青春してんな。


あの黄色がかった黒い制服は僕にとっては懐かしく、馴染み深いものだ。

そう、あれはいずみ第一高校の制服。


いずみ第一高校のイメージカラーは黄色。

ブレザーは淡く薄い黄色で、ズボンとマス目の入ったスカートも

黒色に若干黄色がかったデザインとなっている。言わずもがな、黄色を基調とした制服である。

ネクタイやリボンも黒がかった黄色と淡く薄い黄色がしましまで使われている。

僕だけでなくタカシやコージも三年間着用した懐かしい制服だ。


その横では半袖ワイシャツ姿に赤色がかった黒いスカートの制服姿を着た女子が立っている。

メガネをかけていて、おかっぱ頭。立ちながら教科書を読んでいる。マジメな印象だ。

あの赤色の制服を見ればどこの学校なのかはすぐ分かる。そう、いずみ第二高校の生徒だ。


いずみ第二高校のイメージカラーは赤色。

いずみ第一高校が黄色を基調とした制服を使用しているのと同じように、

第二高校は赤色を基調とした制服を用いている。ブレザーの色は濃い赤色。

ネクタイやリボンの色は濃い赤色と薄い赤色のしましまだ。

ズボンやマス目の入ったスカートも赤色がかった黒い色をしている。


そしてその女子の隣でスマホをいじってる青色がかった黒いスカートを

履いた黒髪の長い女子。ワイシャツは長袖だ。あの女子はいずみ第三高校の生徒だ。

第三高校の生徒はイメージカラーである青色を基調とした制服を着用している。


濃い青色という普通のスーツの色を少し明るめにしたようなブレザーを着用しており、

ネクタイやリボンは濃い青色と薄い青色のしましまだ。

ズボンやマス目の入ったスカートも青色がかった黒い色。


更に言うと第三高校は第一、第二よりもワンランクレベルが高い。

受験の際に第三高校目指してたけど脱落して第一、あるいは第二に

流れたというのはよくある話だ。


第三高校の生徒というだけでもT-4地区では特に一目置かれ、

そんなVIPのような彼らを羨ましく思う奴もいるほどだ。


因みに第一と第二は同レベルであり、これも第三高校が一目置かれる理由だ。

勿論、第三逃したからと言って、人生終わったわけではない。

第一や第二の生徒がいずみ島外の名門や国立の大学に合格したというケースもあるし、

最終的に大手企業に就職出来たケースも聞いた事がある。


反対に、第三の生徒が在学中は成績優秀だったが大学に受かれず、

浪人したケースも耳にする話だ。こういう話は受験シーズンになったりとか、

入学した時にも最初に先生に聞かされたんだよなぁ。

偏差値いい場所入ったからといって浮かれると痛い目合うんだぞ、と。


そして、それら三色の制服ではない制服を着ている生徒は中学生だ。

男女ともにごく一般的な学生服、またはセーラー服を着ている。


彼らもきっとこれからどこかで飯を食いに行くなり

遊びに行くなり、勉強しに行ったりするのだろう。



・・・・・と、モノレールが既に次の駅目指して走り出していた。



何やら二人でヒソヒソと話してるタカシとコージの後ろに広がる窓には

本格的な夜になりつつあるT-1の街並みが見える。空が真っ暗になりそうだ。

無数に広がるたくさんの建物に一際目立つガラス張りの校舎。

建物の中から明かりが灯され始めている。


その遠くに何本か黒い影となって見えるのは高くそびえ立つ高層ビル。

T-1よりも奥にある、あれら高層ビルがある場所は新秋葉原のA-2地区だ。

T-1から見て、川を挟んだ向こう側にそれらはある。

僕らがこれから行くA-1よりも規模は若干劣るが施設は充実していて、

大都市の入口を感じさせる場所でもある。


モノレールから見下ろせるここから近い景色はT-1のもの。

その奥に見えるのがずっと奥にある川を挟んだ先にあるA-2の街並みである。


あの場所のビルの中にもショッピングモールやレストランなどが存在する。

また、時ノ町と比べて数こそ格段に少ないが、A-1にもA-2にも高層マンションが存在する。

高層ビル群にはそれらも含まれている。


この島はT-5や各所の公園などのように草原や森が生い茂る場所があったりするが、

大半はコンクリートジャングルだ。


他にも都市と自然が合わさった場所こそあるが、

この景色はコンクリートだらけのそれをそのまま物語っている。









「まもなくー、新秋葉原駅、新秋葉原駅でございまーす」



T-1第二ステーション駅を出て、モノレールに揺られて5分ほど。

モノレールが二つ目の駅に近づくと到着を知らせるアナウンスが車内に響き渡った。

僕達はモノレールが駅のホームに停まると駅を降りていく大勢の客の中に紛れて、

そのまま三人で目的地に向けて歩き出した。


ここ、新秋葉原駅はT-1第二ステーションとは比べ物にならないぐらいホームは広い。

天井も高く、多くの人で常にごった返している。売店やベンチもある。


この新秋葉原駅はいずみ島内の駅の中でも最大規模を誇る駅だ。

モノレールだけでなく、地下には島内を走る地下鉄のホームもあり、

島外である新木場からやってくる電車の終点ホームもある。


無論、乗り換えたりする際はこの人々がごった返す駅内を進む他ない。

この様相も首都圏と殆ど変わらない雰囲気を引き出すのに一役買っている。


思えば、ここに来る度に思い出す。

電車の中で最終面接のお祈りメールを見たあの嫌な日を。

厳密には新木場から来る電車のホームでの話だが、あの時ホームで転んだのはよく覚えている。

電車の中であのメールを見た日の事はたぶんもう忘れないだろう。思い出すだけで嫌になる。


だいたい普通だったら家か学校で分かるパターンだろう。

なのに面接の帰りの電車の中で最終面接に落ちた事が発覚するという

まるでドラマや漫画みたいな展開が実際に起こるとは思わなかった。


ホームから真っ直ぐに改札口を抜け、僕達は人混みの中、

エスカレーターで下へ、また下へと降りて行き駅の西口を目指す。

僕らが乗ってきたモノレールのホームは3階だ。

3階には少し離れているが、新木場方面行きの電車のホームもある。


新秋葉原駅西口を出るとそこには大きな建物が建ち並ぶ巨大歓楽街の広場に出る。

床は赤いレンガのタイルに覆われ、カフェやファミレス、

コンビニとか銀行とか郵便局が見えてくる。


街に行けば大抵あるものは、この街にもだいたいある。


無論・・・・僕らがこれから行くデカイ遊び場も。


夜になったばかりの街は駅と同様に色んな人でごった返している。

街の看板や街灯には光が灯され始め、建物の窓の中も光に包まれている。


駅から歩いて10分ほどの場所にその遊び場はある。

西口から大通りの道に出て真っ直ぐに行き、途中右に曲がり、

歩いた先にそれは大きくそびえ立っている。


黄色に赤のブチ模様がついた壁。英語で店名が書かれた看板が入口の真上にある目立つ建物。

その名も、「ゲームセンター・ニューアキバ」。


新秋葉原の各地に点在するゲーセンの中でも最大規模の遊び場だ。フロアは全8階。

クレーンゲームやシューティングゲーム、レースゲームや格闘ゲームなどは勿論、

カードを機械に読み込ませて遊ぶゲームや女子向けにプリクラコーナーまである。


更にこの店はそればかりではない。トレーディングカードゲームも扱っていて

7階にはカード屋があり、8階は様々なカードゲームで

デュエルを行うデュエルエリアと化している。


「決闘」と書いてデュエルと呼ぶ。

文字通り、カードゲームで戦う事をよくデュエルと呼ぶ。

そしてカードゲームをやる奴をデュエリストと呼ぶ。


7階や8階はそんなデュエリスト達の巣窟だったりする。

何かしらのカードゲームのデッキを持ち込めば、下手したら

RPGの雑魚敵のエンカウントよろしくデュエルを挑まれる事もある。


これは余談だが、僕も小学生の頃はデュエリストだった。

小学校後半の時はランドセルにデッキをしまい、放課後は公園でデュエルしてたな。

あの時、遊んだカードゲームも未だに現役でその時のカードも

捨てられずとっといてあるが、今はあのカードゲームどうなってんだか・・・・


「くっ、離せよ!!おい!!!」


「ん?」


タカシとコージの後に続き、ゲームセンターに入店しようとすると横から反抗的な声が聞こえてくる。

水色のキャップと制服を着た二人の男の巡回警備員に取り押さえられて

じたばたと抵抗しながらどこかに連行される男子学生が店から出てきた。


あれは見た感じ中学生だ。いずみ島の三つの高校の制服にも

当てはまらないズボンを半袖ワイシャツと一緒に着ている。


僕だけでなく、周りにいたこれから同じく入店しようとする客達も

彼が連行されていく様を見ていた。


この時間帯に、しかも中学生でこの遊び場に来るとは・・・な。


新秋葉原と時ノ町ひっくるめて「教育と娯楽の街」とも呼ばれる

この島ではよくある光景だ。


この島で暮らす学生が外出せずゲームに興じるには、部屋を移動する事も考慮し、

自己責任の上でゲーム機を実家から持ち込むなり、自費で購入して自己管理する必要がある。


この島の学生用マンションやアパートには冷蔵庫やテレビなどの必須品は

予め各部屋に完備されている。家庭用ゲーム機の場合はそのテレビに繋げばいい。

なお、テレビは薄型でしかも最新に近い。


しかしそれも出来ない学生は遊び場を求めて放課後に新秋葉原にやってくる。

が、遊び放題という訳ではない。


そもそもこの島では中学生は午後18時までしかゲーセンに入る事が出来ない。

既にその18時はとっくにオーバーしている。

他にもカラオケやボーリング、漫画喫茶などは午後22時までと決められている。

これら時間制限は店側及び理事会によって定められている。


僕も中学でこの島に入って、そういう場所で時間に気づかず

遊んでは追い出された事もある。素直に従ったので連行された事はない。

あの男子学生は反抗的な態度をとったから連行されたんだろう。


入学すれば、親元を離れて学生は一人暮らしをする事になるこの島では

学生にちゃんとした生活をさせるための規則や校則がてんこ盛りだ。

食生活の事以外にも、ありとあらゆる場所に理事会によって

学生には学生の特有のルールが張り巡らされている。


「校則は破るためにある」とかよく言うが、この島では破ろうとすれば、

最悪停学処分では済まず、退学処分と"追放"のコンボが待っている。


この島では学年問わず、退学処分と追放はダブルセット。

そう、つまり退学になれば学生専用のマンションやアパートに住むのに

必要な「いずみ島の学生」という身分を失い、住んでる場所を出なければならない。

この身分は、この島で生きていく上では絶対必須なものだ。


停学処分は命拾いしたも同然。退学処分はこの島では追放と同義だ。

退学という言葉の重みもここでは違ってくる。


水色の制服の警備員に連行されていく男子学生を見ていたら、

既に一緒にいたタカシとコージの姿はなかった。


どうやら先に店の中に入っていったようだ。

正面のガラスの自動ドアを通って、僕も店の中に入った。


中はあたり一面、黒い壁に覆われており、様々なゲーム筐体が至る所に置かれている。

ゲームの筐体から発せられる光や画面の光、部屋の照明、黒い壁と天井が

大きなゲーセンならではの暗さと怪しさを演出している。


そう、いかにもガラの悪い連中が集まりそうな感じだ。

実際そうだ。ゲーセンと言うとヤンキーや不良の溜まり場というイメージだ。


だが、学生や大人が格闘ゲームやシューティングゲームなど

色んな筐体のゲームで遊ぶ一方で、さっき店外で見た水色の制服の警備員が

あたりを人の邪魔にならないように度々巡回している。


僕はタカシとコージを捜して店の中を、色んなゲームの筐体を見ながら歩き出した。


実はあの警備員、警察でもなければGメンでもない。

この島には専門の治安維持組織が存在し、それは"自警団"という。

そして、ただ一つの理事会公認の自警団が存在する。


その名も「いずみ島オーシャンシーガルス」。通称、シーガルス。

あの水色の制服を着た警備員はその団員で、何か事件があれば通報で駆けつけてくる他、

夜になるこの時間帯では店内を巡回までしている。


理事会が公認し、その下に位置する組織であり、現在はこの島では警察、消防と並ぶ三大勢力。

シーガルスはその中でもこの島の治安を預かる組織で、

警察と並んでパトロールや警備、ゴミ回収といった活動を行っている。


この時間帯になるとゲーセンにいる中学生を見つけては

時間制限に沿って店を出るよう促し、

逆らうとああいう風に自分達の事務所に連行していく。


素行の悪い学生に関しても同様で自分達の指示に従わないのであれば、

取り押さえて連行していく。夜遅くに遊び歩く学生なども捕まえてしまう。


連行された学生は説教食らう上に学校側にもその事が報告され、マイナス評価をつけられる。

それが原因で停学処分にされる事もある。

改善が見込めない場合は退学処分になる可能性もあるほどだ。

勿論、最後は誰でも釈放されるが引きずるものは大きいだろう。


だが、実際の所はシーガルスの世話になるのは中学生と次いで高校生が大半だ。

大学生にもなれば、中学生や高校生ほど厳しく見られなくなる。

勿論、夜遅くに出歩こうが遊んでも文句は殆ど言われない。


いかにも厳格なイメージがある組織だが、話かければ親切に対応してくれる上、

朝に巡回している警備員はすれ違うと「おはようございます」と挨拶してくるほどだ。


学園都市ゆえ、学生が他の場所よりも多いこの島では警察だけでは全ての問題に着手出来ない。

それを解決するために少しずつ出来上がっていったのが今の自警団という存在だ。


僕がいずみ島に住み始めてこの10年間でこの島の自警団事情も10年前と比べて大きく変わった。

10年前は自警団組織はシーガルスだけではなかった。

島の治安を守る自警団同士が互いに睨み合いを効かせ、縄張りを持って争っていた。


が、最終的に理事会の手によって体制は見直され、

4年前に出来上がったのが現在のシーガルスだ。


と、このフロアにはタカシもコージもいないみたいだ。

広いフロア中を捜してもどこにもいない。

ズラリと並んでる筐体でゲームをしてる人の後ろ姿をよく見て捜しているが、見当たらない。



しょうがない。上のフロアに上がってみるか・・・・・


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