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ソルジャーズ・スカイスクレーパー  作者: オウサキ・セファー
第三章 プレゼンス・サード -航路の行方-
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第3話 ファミレスにて

「いらっしゃいませ。3名様ですか?」



階段を上がり、入店した二階建ての建物にあるファミレスは客の話し声で騒がしかった。

入店した僕ら3人の前に現れた僕らと同じ年代ぐらいのウェイトレスが

お決まりの台詞で僕らに接客してくる。


「ああ、そうだ」コージがその問いかけに返事をする。


「では、こちらの席にどうぞ」


ウェイトレスの後に続いて、僕らは歩いていく。

店内を見渡してみると先客が思ったより結構いた。


みんな学校帰りで僕らと同じく、ここで飯を食いに来たのだろう。

ま、席が空いてたからいいか。


ウェイトレスに案内された先にあったのは4人席。

一つのテーブルを挟んだソファー型の二人用椅子が左右に一つずつあり、向かい合っている。

左側を見ると同様の席がいくつも並んでいる。

それらも同様に、僕らが座る席の奥には大きな窓がずっと広がっており、

ちょうど夕日に照らされた大きな川を挟んだ先にあるT-4地区を拝むことが出来る。

ここから眺めるとちょうど遠くにあるT-4地区に建ち並ぶマンションや校舎が見える。


席についた僕達。

タカシとコージはごく自然に左側の席に一緒に並んで座った。

対する僕は向き合う方向で一人、右側の席に座った。


僕の右側のスペースが空いたので僕はその窓際の席に、肩にかけていた黒い四角いカバンを置いた。


「とりあえず、まずメニュー決めようぜ。俺、腹ペコだよ~」


「そうだな」「そうしよう」


腹ペコで今すぐにも飯が食いたいタカシはメニュー決めを促す。

コージは頷き、僕も頷いた。


5分後、僕らは各々メニューを決め、テーブルの端に置かれていた呼び出しボタンで店員を呼んだ。

各々メニューをオーダー後、頼んだドリンクバーで飲み物を調達してきて再び席に着いた。


さて、メニューが来るまでは飲みながらのトークタイムと言った所か。

僕は烏龍茶だが、タカシはコーラ、コージはメロンソーダを持ってきていた。


「なあ、キョウ。そういや、お前はどういうとこに就職したいんだっけ?」


早速、口を開いて僕に訊いてきたのはコージだった。


「僕は出版業界が第一志望さ。

 面白い本や雑誌を刊行してみんなに読んでもらえる物を作りたいんだ」


僕は真剣に言い切った。


「もう60社ぐらいも受けてるのに未だに決まらなくて可哀想だよなぁ、キョウは」


「おい。30社だ、バカ」


僕は冗談のように軽く言ってきたタカシにいつものように鋭い口調で突っ込んだ。

僕が未だに就活してる事を承知の上でだいたいの数を適当に言ったのか、うろ覚えなのかは分からない。

だが、タカシの頭の中では僕はそんなに受けた事になっていたようだ。偶然にも二倍の数だ。


「そういや、お前らはどんなとこから、どんな職種の内定もらったんだよ?」


実は僕はこの二人が内定もらった事は知っていたがそれ以外の詳細は何も知らない。

これまでも訊く機会はあったが、僕の眼中には自分の内定だけしかなく、

他人の内定の事なんか興味もなかった。


聞きたくなかった。聞けば余計に取り残された自分が哀れに思えてしまう。

だが・・・・今日はせっかくだから訊いてみる事にした。

今日はこいつらと気晴らしするし、少し気が向いたってやつだ。


それに、この先も何だか不安だ。せめてこの気持ちを和らげ、

得られるモノでもあったらと思って訊いてみた。


「俺は事務でインターネット広告代理店だ!!」


「オレは営業で不動産会社に就職が決まったよ」


「ふーん・・・・」


二人はドヤ顔でその質問に答えてくれた。

僕は左肘をテーブルにつき、二人の輝いてる顔を見た。

タカシは事務、コージは営業か・・・・

コージは大学のプレゼンでも喋りが上手いし適任だろう。


タカシは事務か・・・・意外と普通の仕事に就いたもんだな。


「オレも最初はダメかと思った。二回面接あったんだが、

 最後の面接がちゃんとアピール出来たか不安だった。でも後日、内定通知来たから安心したよ」


「俺もまぁ、そんな感じ。求人内容が良かったから受けたけど、

 面接も筆記試験もどれもキツかったな~いつ落ちてもおかしくなかったぜ」


「結局はよく言われる、"縁"ってことか・・・・」


僕はため息をつき、天井を見上げた。

最終面接で手応えがあって内定取った奴なんか、いるのだろうか。

僕はテーブルに左肘をつき、ふと右の窓の方を見た。空は次第に夕闇に包まれつつあり、

川の向こうにあるT-4地区も次第に暗くなっていた。


何度もお祈りされて、励ましの言葉でよく「縁だから」という台詞をよく聞く。

運の良さと同じで自分はアピールする事以外はどうする事も出来ないのが就活の辛い所だ。


どんなにそれまで優秀な成績を収めていようが、大きな資格を持ってようが、

人の目にかなわなければ結局はみんなお祈りなのだから。


「まぁ~、キョウもいつかは内定取れるって。今は"縁"がないだけでさ。

 それよりもせっかく来たんだ。暗い話より、楽しい話をしようぜ」


勝手にコージが話を都合のいい方に切り替えやがった。

まあいいか・・・・こんな事ずっと考えてばかりじゃ、気持ちが余計に重くなる・・・・


最も、コイツらがする楽しい話は僕にとって楽しいかは別だが。


「楽しい話と言えば。なあ、コージ、キョウ。こんな話を知ってるか・・・・?」


人差し指を上げて、タカシはニヤニヤと怪しげで楽しそうな顔をして語り始めた。


「このいずみ島に・・・・まぼろしの島があるって伝説だ」


「まぼろしの島?そんな伝説あったっけ?」コージはきょとんとした。


「へえー。まぼろしの島、ねえ・・・・」


僕は再び左肘をテーブルにつき、退屈な目でタカシを見る。

また始まったからだ。タカシとコージのオカルトトークタイムが。

コイツらは本っっっ当に世間で起きてる事件やオカルトに目がないんだ・・・・

要するに事件とかオカルトなんかどうでもいい僕とは真逆の関係にある。


樫木麻彩の事件もネットで騒がれていて、二人をきっかけに知った。


「まぼろしの島・・・それはいずみ島に存在するという10番目の島の伝説だ・・・

 γ(ガンマ)ちゃんねるのオカルト板に載っていた新しい都市伝説なんだよ!」


タカシは楽しそうにしながら話を続ける。


いずみ島は言わずもがな、新秋葉原と時ノ町合わせて9つの島で構成されている。

しかしタカシ曰く、最近、どういうわけかこの9つの島以外にないはずの

10番目の島が存在するという都市伝説が報告されているようだ。


「単に船の影を見間違えたとかじゃないのか?ないってないって」


「いや、写真もある。これは本物マジだって!!」


否定した僕にタカシはそう言ってスマホの画面を見せてくる。

受け取ったスマホに僕は目を通した。コージもその画面を横から顔を近づけて覗き込んでくる。


写真は真夜中の海を陸から撮影したものだった。

海の向こうに小さく、島の影が見える。


影は小さく、暗いため目を凝らさないと見えないが、

その影からはトゲトゲとした山のようなものが顔を出しているのが見える。


それは僕から見ても、船ではなく島のようにも見える。


「これ、どこで撮影された写真なんだよ?」僕はタカシに訊いた。


「T-5(ティーファイブ)地区。写真アップした奴はたぶん、この島の住民だろうな」


T-5地区。高校エリアのT-4地区を跨いだ先にある島で草原や森が生い茂る大きな公園が60%を占める場所だ。

残りの40%は隣接しているT-4地区とT-6(ティーシックス)地区の学生のアパートやマンションがある。


T-6地区は通称、中学エリアとも呼ばれている場所だ。

いずみ第一中学校と僕が卒業したいずみ第二中学校があり、

そこに通う学生の住むマンションやアパートが存在する。


T-4とT-6。


いずみ島の中でこの二つの島はまさに巨大学生寮とも言うべき場所だ。

校舎も生徒がたくさん住むマンションやアパートと同じ島にある。


最も、慣れてしまえばこの島全体が島ごとにエリア分けされた巨大学生寮なのは他ならない。

だがいずみ島に中学から入った者は必ずT-6にて、

親元から離れたこの島での生活という物を肌で感じる事となる。


僕も10年前そうだった。慣れない場所に慣れないルームメイトとの生活・・・

中学からこの島に入った者は誰もが通るまさに登竜門だ。



気がつくとタカシとコージがまぼろしの島の話で盛り上がっていた。



「俺が推測するに、もしかしたらあの島にはお宝があるのかもしれないぜ~?

 だからないはずの島があるんだ!」


「いや、怪物が住んでる伝説の島だよ!!

 行こうとするとその島の主の怪物に食われちまうんだ!!」


「はぁ・・・・・・」


僕はため息をつく。

よくもまあ、たかが島一つで盛り上がれるよなあ・・・・ガキじゃあるまいし。くだらない。

僕は互いに盛り上がる二人を呆れた目で横から見ていた。



「失礼します。ハンバーグ&グリル、ハンバーグ&エビフライにライスセットです」


しばらく暇してると、ウェイターがメニューを持って僕らの前に現れた。

タカシとコージの頼んだ奴だ。


「よっしゃーーー!!飯だーーー!!」


「じゃあキョウ。わりいな。先、いただきまーす」


「おう」


僕はコージに軽く返事をした。

タカシはメニューが来た瞬間、早速ハンバーグに食らいつく。


「失礼します。サラダ二人前になります」


更に続けて、ウェイターがやってきた。僕とコージが頼んだミニサラダだ。

たっぷりのキャベツにアメリカンドレッシングによるトッピングがされている。


「サラダ先に食べた方が痩せるって言うし・・・いただきまーす」


僕は手を合わせてからフォークでサラダを取り、食べ始めた。



この島では食に関しては大きく分けて三種類の人間がいる。


一人が、料理に腕が長けており、大抵スーパーなどで食材を買い足して

毎日料理作って腹を満たすマジメな人間。名づけて自炊型。


もう一人が料理に自信がなく、ファミレスや学食などに行ったり、

コンビニで買ってきた物で腹を満たす人間。名づけて調達型。


そしてもう一人が・・・・料理も出来るが外食にも

コンビニにも行く中間的な人間だ。名づけて、気まぐれ型。



因みに僕やコージは気まぐれ型だ。

しかし、タカシは料理がダメでファミレスや学食、コンビニで腹を満たす調達型だ。


最も、僕とコージは今はタカシと同じ部屋で暮らすルームメイト。

だからタカシも外食やコンビニ漬けになったりはしない。


こういった食と直結するものとして健康診断がある。

この島では毎年の健康診断で悪い診断結果が出るとかなりキツイ目にあう。


診断結果は当然、全て遠く離れた親元にも送られるし、

学校側もその結果を踏まえた上で学生に指導をする事もある。


その中には食生活で注意される事もある。

まぁ、自炊出来ないなら大人しく栄養に偏らない学食に行くのが賢明なのだが・・・

島の学生全員がおりこうに食生活に気を遣ってるのであれば、

こういった注意や指導も初めからしなくていいだろう。


最悪、生活面で酷ければ部屋の移動を命じられる事がある。

よくあるのが、例えば一人部屋から食生活もまともなルームメイトのいる部屋に移動させられたりだ。


僕も食生活では高校の時に先生に注意された事がある。

血糖値が基準値より少し高いとかそういうのだ。部屋を移動させられるまでには至らなかったが。

タカシも注意されて凹んでたな・・・・・


このように、学校側も学生が問題行動を起こさないかをチェックしている以外にも

健康、生活面での指導をしてくる事もある。


因みに中学からこの島で生活を始めた者は必ず最初の4ヶ月間は

T-6のマンションかアパートに入れられてルームメイトと共同生活を余儀なくされる。


しかしその後は部屋に空きがあれば希望次第では一人部屋を確保出来るし、

引き続きルームメイトがいる状態の生活を続ける事も出来る。

僕は最初の4ヶ月過ぎた頃には隣に誰かいる生活にすっかり馴染んでしまったので

すぐ一人部屋に移ろうとは思わなかったが。


「学生の一人暮らしの発祥の地」と呼ばれるいずみ島だけあって

学生の自主性を重んじる一方で、学校側もこの島で暮らす学生に対する管理も抜かりない。



それにしても僕が頼んだサーロインステーキとライス来ねえなあ・・・・・


と、用でも足してくるか。


「ちょっとお手洗い行ってくる」



僕は先に食べてるタカシとコージに断りを入れ、席を立った。

たくさんの学生で賑わう店内を歩き、ドリンクバーの横を通って僕はお手洗いへ向かう。

僕らと同じ普段着姿の大学生以外にもT-4から来たと思われる赤や黄色、青の制服を着た学生もちらほらいる。


・・・・・・・・。



偶然か、男子トイレはちょうど混んでいた。

僕は扉を開けてトイレの外で待つ事にした。


ん?


待っている間、横のドリンクバーの方向を見ると見覚えがある後ろ姿を発見した。

細い華奢な肩幅に黒い修道服。

そしてサラサラとした、まるで大和撫子のような綺麗な髪のおかっぱ頭の女性。


ドリンクバーでコップに入れた紅茶を右手に

持っている久しぶりに見かけたその人に僕は声をかけた。


「アレクさーん」


「あ、境輔くん!」


こちらに気づいたアレクさんはこちらを向いてにっこりと微笑んだ。

黒い修道服姿にサラサラした整った黒いおかっぱ頭、そしてピンク色のメガネが特徴的で

細い首から胸元には青い小さな宝石のペンダントをたらしている。


この人、正確な年齢は分からないけど結構可愛いんだよなぁ・・・

少なくとも現在22歳の僕と同年代か少し年下には見える。


そして、僕を地獄のドン底から救い出してくれた・・・恩人でもある。


「奇遇ですね。帰りの夕食ですか?」


「はい、友達に誘われたので今日はここで夕飯です。

 アレクさんもそんな感じですか?」


「ええ。今日はちょっとこの後、残業なのでここで

 夕方までの疲れを癒してます」


残業があるにも関わらず辛い表情は浮かべず、

にこやかに笑みを浮かべるアレクさん。


「お疲れ様です。僕は何も出来ませんが、

 アレクさんも身体に気をつけて下さいね」


「ありがとうございます。境輔くん。

 ふふっ、なんだか私達、恋人同士みたいですね」


「へあっ!?ここここ恋人!?そそそんなつもりはないですよ!??」


思いも寄らないアレクさんの微笑みながらの突拍子もない発言に

僕は顔を赤くして照れながらも両手で顔を覆い隠すようにごまかす。


因みに僕は女友達こそ過去にいたが、大抵つるむのはタカシとかコージとか男ばかり。

僕には恋人なんていた事もない・・・彼女いない歴=年齢と言っても差し支えない。


「ふふっ。初めて会った時から思っていましたが、

 境輔くんはちょっとつっつくと面白い人ですね」


「アレクさん相手だったらしょうがないです」


僕は右手で後頭部をさすりながらも照れる。

ん?トイレから出てきた男子が元の席に戻っていく。空いたようだ。


「と、僕はそろそろ行きますね。アレクさん、また機会あればお会いしましょう!」


「はーい。境輔くんもムチャだけはしないで下さいね~」


アレクさんの癒しがたっぷり含まれた暖かい言葉を背中に受けながら、

僕はお手洗いの方へと向かった。



まさかアレクさんとここで会うとは思わなかったな・・・・


アレクさんと会ったのは実に6月以来になる。4週間ぶりだ。


振り返ってみれば、あの時は散々だったけどアレクさんのお陰で今の僕はある。


あの悲劇から僕を助けてくれたのは・・・アレクさんだ。



そう、あの「水無月の悲劇」から・・・・


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