第2話 崖っぷち大学生といずみ島
先生の講義が終わると僕は他に講義に耳を傾けていた面々とともにゾロゾロと教室を後にする。
僕も席を立ち、机に出していた筆記用具やノート、ファイルをバッグにしまうと
列に続いて机の隣から段差を上がっていく。
教室を出て廊下に出ると、開いてる窓からは茜色の真夏の夕陽の光が差し込んでくる。
キャンパス内の廊下の電気も相まって、少しだけいつもより一層眩しく感じた。
人混みの中、僕はバッグを右肩にかけながらもキャンパスの外を目指して歩き出した。
結局、基本中の基本は分かったけど、この先もまだ不安だなぁ・・・・・
「この後、今日金曜だしどうしようか?」
「カラオケ、行こうよ!カラオケ!!」
「いいね!!賛成!!」
女子達の賑やかな話し声がざわざわとする人混みの中、後ろから聞こえてくる。
カラオケ・・・・か。最近行ってないなぁ。
あの女子達は就活終わったのか知らんが、見てると楽しそうで羨ましい。
僕は大学のキャンパスの出口に向かって人混みの中、周りには目も暮れず、歩き出した。
僕は森岡境輔。いずみ大学第一校の文学部4年生。
2034年7月中旬現在、絶賛就活中であると同時に先も明るくない文字通りの崖っぷちの大学生だ。
千葉の柏で生まれ、小学校まではずっとそこで住んでいた。
だが6年生の時、親父の「自立出来る力をつけて欲しい」という教育方針で卒業後に
「学生の一人暮らしの発祥の地」と呼ばれているこのいずみ島に
単身半ば強引に飛ばされて今年で10年になる。
今はこの島の生活に馴染んではいるが、振り返ってみれば色々あった・・・
10年前、僕は千葉の小学校からこの島のいずみ第二中学校に進学。
卒業後も島内にあるいずみ第一高校に進学し、
卒業後は現在のいずみ大学第一校に進学した。学部は文学部。
大学受験もちゃんと一番の志望校に入る事が出来て、
留年もせず、大変な事もあったが順調に単位も取ってここまできた。
が、しかしだ・・・そうやって軌道に乗っていた頃、
まさか就活でここまで足踏みをさせられるとは思ってもいなかった。
ルームメイトのタカシとコージが先に揃って内定をとる一方で、
僕は30社受けてもなかなか内定がとれず、屈辱的なサイレントお祈りを味わい、
おまけに最終面接で落ちるというかつてない悲劇を味わう羽目になってしまった・・・・
本当に・・・どうしてここまで来て、周りが就活を次々と終える中、
僕だけが取り残される格好に・・・・
本当によく分からない・・・・分からなくて・・・・先が暗い。
就活までは大変な事もあったけど何とか乗り越えてきたし、
就活も何とかなると思ってはいた。
だがその時は・・・今思えばまさに黄金時代だったかもなぁ・・・・
中学時代は学生の自主性を重んじるこのいずみ島の生活に慣れなくて大変な事もあった。
この島では親と暮らしている奴なんか一人もいない。
自炊、ルームメイトとの生活、小学校とはワケが違う中学の勉強・・・・
他人に頼ってばかりではこの島ではやっていけない。全て自分の力でやらないといけない。
そんな環境に完全に適応したと思ってきたのは中2の半ば頃だった。
何とか中学を乗り越えて、第一高校に進学して始まった高校生活も
中学の出だしの反省も踏まえて春から頑張ったからか、今思えばかなり充実した時間だった。
高校での勉強は始まった時から国語、英語、数学は成績表最高ランクの「5」を毎回とっていた。
次いで、日本史や世界史、政治経済とかは普通に出来ていた。成績表だと「3」か「4」だ。
あとパソコンの授業も「5」だったな。
一方で僕が声を大にして言える小学校からの苦手科目。それは家庭科と美術。
成績表も「3」が最大。「2」をとってしまう事も中学にはあった。
これよりはマシだが理科や化学も決して得意ではない。これも成績表だと「3」かたまに「4」。
理科の穴埋め問題や化学記号とかはあまり好きではなかったな・・・
美術はそもそも絵心もなければ、粘土とか彫刻で何か作るのも苦手だった。
ふと、周りを見ると自分よりも凄い作品を作ってる奴はゴロゴロいた。
なかなかそういうアッと言わせられるものが作れず、モヤモヤした。
家庭科はいずみ島で生き抜く上で必要最低限の家事は出来るが、それ以外の
ミシン使った裁縫の実技試験とか、日常食の知識とか、幼児の生活がどうとか、家族がどうとか・・・
女子が得意そうな単元はあまり興味が沸かず苦手だった。やる気が心底沸かないんだ・・・
苦手科目は無論、テストでは関門。苦労させられた。
事前に勉強こそしたものの、それでも「5」がとれた科目ほどの成績は出せなかった。中頃ってとこだ。
一方でスポーツはと言うと通常の体育の授業だけでなく、
中学と高校はそれぞれ部活で柔道をやっていたし、
高校入って3年の選択式の必修科目では剣道も経験した。
剣道か柔道どちらかを選ぶものだったけど、中学から柔道を散々やっていた僕は
チャレンジ的な意味もこめて剣道を選択した。
剣道は最初は防具のつけ方に苦労したが、運動神経と感覚で授業だけは乗り切った。
ただ、最後の最後に行われるクラス対抗戦では惨敗を喫した。
あの時は柔道選択してたら間違いなく勝てただろう。
経験もない剣道よりは勝ち上がってただろうと後悔した。
が・・・今、こうして追い込まれて振り返ってみるとあれも良い思い出だった。
大学も初めはこれまでとの環境の違いに苦労したが、今は卒論と就活以外は難なくやっている。
成績だって、順調に単位だって取れているし、あとは卒論乗り切れば卒業は出来る。
しかし・・・・・現状、ちゃんとした就職先がない。
今現在、僕は学業と就活の傍らお台場にある蕎麦屋でバイトしているが、それは就職じゃない。
そもそも安定した雇用じゃない。正社員昇格制度もあるわけじゃない。
バイト切られれば、それで全て終わりだ。そうなったら結局の所、就活しないといけない。
なので就活する以外逃げ道などなく、ちゃんと安定した就職先を見つけない限り、
僕は就活という迫り来るモンスターから逃れる事は出来ない・・・・
それに新卒での就職を逃せば、正社員への道もほぼ閉ざされたも同然だろう。
フリーターを強いられる事になり、まさしくフリーター地獄。そんなのは僕も嫌だ。
そして、僕もホンキで蕎麦屋とかそういう関係に就職したいからという理由で
蕎麦屋でバイトしてるわけじゃない。
実は高1~高3の頭までは学業と部活の傍ら、いずみ島内のコンビニでバイトしていた。
しかし、高3になって受験勉強に力入れるためにバイトをやめて、それで大学が決まった後、
再び人生経験のためにバイトをしようと探していた時だった・・・
学生向けのバイト求人の冊子で見つけた一つの蕎麦屋の求人。
良い経験になりそうだと軽い気持ちで申し込んで、
面接に呼ばれて履歴書も持って行って・・・
その時は今とは逆にすぐにバイト先が決まった。
大学一年生が始まってすぐの話だ。
では・・・・蕎麦屋ではない僕が目指す就職先とは何なのか。
それは、第一希望として僕は出版業界に就職したい。
様々な星の数ほどあるジャンルの雑誌や本がこの世の中には溢れている。
本屋、図書館、漫画喫茶、あらゆる場所に。
僕は本や雑誌を読むのが好きだ。
立ち読みでも買っても読むのが好きだ。
だから、本や雑誌を刊行してみんなに読んでもらえるような物を作れる仕事がしたいと考えている。
30社も受けたが、そのうちの半分以上がその手の業界だ。
雑誌や本の企画や編集、出版とか・・・とにかく本や雑誌の出版に関わる付随業務の求人。
他は受ける会社の求人がなくて、その手の業界にわりと近い会社の求人で、
仕事内容も自分で出来そうだと思ったものを受けたりした。
一般事務、営業、資料作成、データ入力などだ。
因みに最終面接に落ちた会社も、一番ショックな5回目のサイレントお祈り食らった会社も・・・
いずれも僕が志望する出版業界の会社だった。
出版業界に入りたいという夢は大学の文学部に入って、少しずつ考えたものだ。
ウチの学部の先輩の就職先は様々だ。その中でも大手出版業界や報道局、テレビ局への就職は夢溢れる輝くものだ。
ただ、僕は大手じゃなくてもいい。出版業界ならば・・・・それでいい。
30社も受けて、それで落ちて・・・・この先が不安だが・・・・
とにかくジレンマやアポリアに襲われようと、やるしかないんだ。
「・・・・ーい、キョウ!!」
「・・・・おーーい、キョウ!!こっちだ!!」
校舎を出て、考えにふけり、茜色の光を浴びながら、
人が行き来する大学のキャンパスの敷地内をぼんやりと校門に向かって歩いていると、
遠くから僕を呼ぶ大きな男の声が聞こえてくる。
「ん?」
その声のお陰で意識が現実へと戻る。
大きくそびえ立つ校門の横で並んで立ち、僕を待っている二人組。
うち一人が手を挙げて僕のあだ名を呼んでいた。
「悪い!!今行く!!」
僕は目的を思い出し、その方向に大きな声で返して他の校門目指して
歩いてる学生を避けながら、その二人組の傍まで駆け寄る。
そうだった・・・・今日はコイツらと・・・・すっかり忘れていた。
僕の名前を呼ぶ声の主はタカシだった。先ほどから手を挙げていたのはアイツ。
僕と同じぐらいの身長に丸い短髪で整った顔立ち、濃い緑のTシャツにジーンズ姿。
そして、タカシの隣にいるのはコージ。
尖ったオールバックのスポーツマンな髪、僕やタカシよりも一回り大きい身長が特徴だ。
半袖ワイシャツにジーンズ姿。
今日は金曜だから、コイツらと近くで飯食って新秋葉原で気晴らしする予定だった。
すっかり自分のことに夢中で忘れていた・・・・・ヤベエ・・・・
「お前、心ここにあらずって感じだったな。
遠くから見てたが・・・いかにもオレ達のこと放って
先に帰ってしまいそうな顔してたぞ?」
僕と同じくカバンを肩にかけ、腕を組んでるコージに真っ先に訝しげな様子で指摘される。
ああ、図星だ・・・・すっかり忘れてたし・・・・・
僕は本音を言うのが恥ずかしくなり、目だけを逸らす。
「ま、お前は」
「キョウ、ひでえぞお!いくら就活で内定取れないからって何も言わずに帰るのはぁ!!
帰るならメールぐらいよこせよ!!」
コージの言葉を遮り、泣きつくように僕を横から非難するタカシ。
「うるせえよ!お前らが声かけてくれたお陰で
そうなることも無くなったんだし、いいじゃんかよ!」
「んだとォ~~!!やるのかキョウ!!!」
「あ~、そうさ。お前がそうならやってやるよ!!頭冷やさせてやる!!」
「おいおい、こんなとこでリアルファイトすんなって」
僕とタカシがいがみ合っているとコージがまあまあと間に入ってとめる。
「・・・・タカシ、頭に血が昇ってるぞ。・・・だから・・・目ェ覚ませ!!」
「イテっ!!コージ、イテぇぞ!!」
コージはタカシの頭に鉄拳を食らわせた。
タカシは殴られた頭を右手で抑えながらコージを横目で睨み、文句を言った。
正直、コージもリアルファイトするなと言っておいて殴ってるが、
僕らの間ではツッコミたくなる事情が起こるのはいつもの事だ。細かい事は置いておこう。
「悪かったな。オレ達が先に内定取ってる一方で、お前だけ取り残されてる状況だからな。
もう少し言葉選ぶべきだった」
コージがそっと優しく謝ってくる。
そう言われると自分の状況一応は分かってくれてんだなと安心する。一応は。
「いや、別にいいんだ。いつもの事だろ」
そうだ。僕ら三人はこうやって話し出すとなぜかこうなる。
一見、くだらない事でも楽しく盛り上がってしまうし、くだらない事で喧嘩にもなる。
僕がタカシといがみ合うのも今に始まった事じゃない。
僕は話を本題に戻す。
「それより、これから飯食って新秋葉原で気晴らしするんだろ?この近くのファミレスも
次々と他の奴に占領されてるだろ?早く行った方が良くないか?」
ふと腕時計を見るともう時刻は午後6時を回ろうとしている。
少しずつの夕食の時間といった所だ。
「そうだなー。お前待ってる最中、アプリでこの地区のファミレスの
混み具合調べてたんだ。いつもオレ達が行ってる店はもう占領されてる。
だが、ちょうど良い店がある。そこでいいよな?」
コージはスマホを動かして、僕に画面を見せてくる。間からタカシもそれを覗き込む。
それは今僕らがいる場所、T-1(ティーワン)地区の地図が表示されていて、
ファミレスがある場所からはそれぞれ10個以上の吹き出しがポンポンと表示されている画面だった。
その中の吹き出しの一つをコージがタッチすると吹き出しが大きくなり、店のデータが表示される。
混み具合のメーターが5段階で表示されていて、メーターは満タンだったら真っ赤になり、満席と表示される。
メーターは今現在、幸い2段階に留まっている。色も緑色でまだまだ余裕がある。
その店はこのいずみ大学第一校の校舎から東に歩いて行った所にある。
近くに大きな川があって、それを挟んだ向こうには懐かしきT-4(ティーフォー)地区が見える。
「ああ。僕はそこで全然構わないぜ」
「コージ、俺もそこがいいぞ!!このファミレスのポテトサラダは超ウメぇんだ!!」
「よし、そうと決まれば早く行こうぜ!!」
僕はタカシと共にコージに続いて、校門を出る。
そして、僕達は三人でそのファミレスへと向かった。
「なあ、食後の気晴らしはゲーセンでいいよなあ?お手頃に」
「おうよ、コージ!!カラオケもいいがゲーセン行こうぜ!!」
「ゲーセンか・・・・ちっとも行ってねえな・・・・・」
大学の校門を出た僕達はそのままファミレスの方角へと歩きながら三人で適当な雑談をする。
今日の座学どうだった?とか卒論どうしようか?とか。
最も、内定取った気楽な様子の二人とは違い、僕は卒論と就活のダブルパンチなので
気楽に話せるものではないのだが。
ちょうど僕らが歩いてる歩道の向かいにはもう一つ、広い敷地にガラス張りの大きな建物が建てられている。
あれもいずみ大学第一校のキャンパスの一つだ。
この辺りは10階まであるキャンパスだったり7階建ての図書館だったりと
大学関係の大きな建物がたくさん集まっている。
そして、最後にゲーセンに行ったのは一体いつ頃だろう・・・・覚えていない・・・・
*
僕達が暮らすこのいずみ島・・・そう、このお台場の海の近辺に浮かぶこの島々は
ほぼ全てが古くから存在する埋め立て地で出来た人工島である。
いずみ島は名前から見て一見、一つの島のように捉えがちだが、
実際はお台場近辺の東京湾に浮かぶ9つの島で構成された広大な島々の集まりだ。
この9つの島々は西側のごく一部が新秋葉原、東側全てが時ノ町という
2つのエリアに分かれ、かつその中で合計10の地区に細かく分かれた構成となっている。
計10地区はうち2つが新秋葉原、残り8つが時ノ町の配分となっていて、
実際の住所に見立てるならば、エリアは市町村、地区は何丁目何番地と言った所だ。
無論、この島にも実際の住所は島ごとにある。
僕らが今いるT-1地区は時ノ町だ。
時ノ町はT-1地区からT-8(ティーエイト)地区までの8つが存在する。
この時ノ町は土地勘がない者からは学園都市エリアとも呼ばれている。
新秋葉原も含めて、「学園都市いずみ島」とはよく言ったものだ。
僕ら学生をはじめ、教師や職員などの島内の学校関係者、いずみ島で何かしらの職に
就いている者が住む豪華なマンションやアパートが建つ団地の他、
中学校、高校、大学、専門学校の校舎やキャンパスが地区ごとに分かれて存在する。
マンションやアパートも建物の色や外側と内側の構造に気を配った
開放感がある清潔な雰囲気の建物が多く、大きさは様々だ。
大きい窓、明るい色と暗い色が調和し丁寧に使った建物の着色がそれらを明るく演出している。
高層ビルマンションも数は少ないが存在し、それらはシンボルのようにそびえ立っており、
その下には9階~12階建てマンションが建ち並ぶ。
アパートは2階~4階建てとマンションよりは小さいがマンション同様に開放感のある景観の良い建物が多く、
少なくとも田舎の住宅街にあるようなオンボロの古びたアパートというわけじゃない。
時ノ町は一人でも多くの人間が住めるよう、
住宅はマンションやアパートなどが多く建ち並ぶ形で構成されている。
一軒家を建てるよりもたくさんアパートやマンションを建てる事で一人でも
多くの人間が住めるように工夫されているためだ。
一方でマンションの近辺は芝生や木、花などが植えられた公園にする事で
都市と自然が共存する豊かな環境を作り出している。
ここが埋め立て地である事を忘れさせてしまうほどに。
地区によっては高層マンションが一つや二つ顔を出している場所もあれば、
9階ぐらいのマンションや4階、5階建てのアパートが集まる場所もある。地区ごとにバラバラだ。
無論、その中で生活に必要な施設もマンションやアパートに囲まれる形で至る所にたくさん存在する。
人工の島とは思えない緑溢れ、スポーツも出来る広々とした公園の他、
ファミレス、ファストフード店、コンビニ、洋服店、薬局、郵便局、
銀行、床屋、美容室、病院、図書館、スーパー、100円ショップとか・・・
普通に一つの町には大抵存在しているものは概ね完備されている。
学生が多い以外は普通の街と何ら変わらない。
一方、僕らが後で向かう新秋葉原はA-1(エーワン)地区とA-2(エーツー)地区の2つで構成されている。
時ノ町ほどたくさんの地区こそ存在しないが、
都心を彷彿とさせる常に賑やかなこの島内では一番の巨大歓楽街だ。
実は新秋葉原だけは埋め立て地ではない。
すっかり今は埋め立て地の島として有名だがそもそも昔、
新秋葉原から増設する形で都市開発が推し進み、結果誕生したのがこの島々だ。
では、そんな全ての原点とも言える新秋葉原。具体的にどんな場所かと言うと
まず、時ノ町以上に9階~10階建ての様々な施設が存在し、
綺麗なガラス張りの高層ビルも建ち並ぶ。
とにかく時ノ町以上に高い建物や派手な建物がたくさん建っていて、
夜になると光る看板や車、人混みで支配される。
しかし・・・この街はとてもボリューム溢れた街でもある。
まず、コンサートやスポーツに使われるドームがある。
ゲーセンやカラオケ、ボーリング場、漫画喫茶とか普通に遊べる場所もたくさんある。
本家の秋葉原みたいに大きなアスファルトの上を歩けるホコ天がある場所だってある。
ビルの中のレストラン街やホテルだってあるし、普通に企業がオフィスや店舗を構えている。
常に人がごった返し、雰囲気は本家の秋葉原や新宿、渋谷とかあちら方面と何ら変わりない。
というか、ドームがあったりホコ天があったりと首都圏の
各地の良いとこだけを切り取り、融合させたような場所だ。
初めてこの島を訪れた者は時ノ町よりも新秋葉原の街並みに圧倒させられるだろう。
なお、9つの島の地区の配分としては新秋葉原のA-1地区、A-2地区合わせて
一つの巨大な島で構成され、時ノ町のT-1からT-8地区までは地区ごとに一つの島で区分けされている。
隣接する島同士は互いに隙間である川を挟み、しっかりと橋で連結し合っている。
歩きでも気軽に移動出来るよう、車が通る橋の上には車道の横に歩行路が設置されていたり、
歩きオンリーの大きな歩道橋が別で設置されていたりする。
この島は歩きだけでは移動が大変な大きな島だが、交通機関に関しても
島内はモノレールや地下鉄、バスが走っており、移動の不便もない。
外部からこの島に入るにしても、大崎やお台場方面から電車に乗って、
そのまま新木場駅を抜け、A-1にある新秋葉原駅か新秋葉原ドーム前駅で降りるのが一番手っ取り早い。
なぜなら新秋葉原駅の前の駅である新木場駅から歩くとなれば、
この島と外を結ぶ巨大な三つの橋の一つであるイーストゲートブリッジを渡り、
到着するにも相当な距離もあるし時間もかかるためだ。
電車、あるいはタクシー、マイカーの類ならば歩かなくても体力も浪費せず島に入る事が出来る。
僕達が歩いているこのT-1地区は僕やタカシ、コージが通ういずみ大学第一校のキャンパスの他、
いずみ大学第二校のキャンパスも同じ地区で互いは離れてはいるが存在する。
通称、大学エリアとも呼ばれる。
どちらの大学も本校キャンパス以外にもT-1内の範囲で様々なキャンパスを近辺に構えている。
キャンパスはどれも綺麗と評判であり、建物はガラス張りの窓で覆われ、広々としており、
僕がさっき二人に呼び止められるまで歩いていた場所含め、
敷地内は芝生や木、花壇が至る所にあり、都市と自然が上手く合わさっている。
また、大学のキャンパスの敷地内には所々に奇妙なオブジェもある。
銀色の時計盤を象ったものや土星を象ったもの。ケンタウロスやドラゴンを象ったものまで。
こういったオブジェもまた、自然、そしてキャンパスの雰囲気と上手く共存した形で設置されている。
キャンパス内もエントランスホールが天井が高かったりと
中学、高校とは雰囲気は全く違うものとなっている。
エレベーターが設置され、階段で高い階まで全力疾走で
かけ上がろうとすれば、それなりの体力も消費する。
T-1地区の川を挟んだ北東にはT-3(ティースリー)地区が存在する。
T-3はこの島全体を統治している「いずみ学園理事会」の本部があり、
巨大な西洋の時計塔がシンボルの場所だ。
いずみ学園理事会。通称、理事会。巨万の財力と権力を古くから併せ持ち、
この島の中高大全ての学校の運営母体だ。
理事会の本部は所謂、市役所のポジションでもある。
いずみ島内の学校に入学する学生は必ずここで
学校や住宅関係など必要な手続きを行うからだ。
そして、僕らが向かってる南東の方角にあるT-4地区。
そこは僕らが高校時代を過ごした場所でもある。
そう、T-4は通称、高校エリアとも呼ばれている。
僕が卒業したいずみ第一高校以外にも、いずみ第二高校、いずみ第三高校が存在し、
この三大高校でT-4は成り立っていると言っても過言ではない。
僕、タカシ、コージ・・・・僕らは中学の時からの腐れ縁だ。
僕がこの島に引っ越してきて、最初にマンションで出会ったのが二人だ。
中学、高校、大学・・・と、住む部屋が変わる事もあったが、住む建物は毎回一緒で
僕らは何だかんだで別々になる事もなくずっとスクールライフを満喫してきた。
それで現在はマンション暮らしで3人共同の部屋にて、ルームメイトという関係だ。
だが・・・その関係も来年3月の卒業式で終わりだ。
それを過ぎれば・・・各々がそれぞれの場所に旅立っていく。
そして、その締めくくりとして・・・卒論と就職活動という二大強敵が立ちはだかっている。
二人は既に一体の強敵を倒してしまったが。
空が茜色から夕闇に包まれつつある中、僕らは9階、10階建てのマンションが
建ち並ぶ街の歩道を歩き続ける。ちょうど駐車場もあるコンビニの横を通り過ぎたとこだ。
僕が歩く前で、いつの間にかタカシとコージが楽しそうに話しながら話している。
さっきまではタカシと並んで歩いていたはずなんだが・・・・
仲良く二人でこちらに背中を向けて話しながら歩いているのを見ると途端に虚しく、
かつ羨ましく感じた・・・話してる内容なんかどうでもいい。
僕より先に内定を取った二人。僕だけがあの輪の中に入れない・・・
そう思うと、励まされようがやっぱり気が重くなっちまうな・・・・




