第1話 人生の航路
マイクを持って講義を行う先生の声と、ノートに文字を書くペンの音・・・・
それらが混じり合って、僕の耳に強く響く。
部屋は暗く、正面のプロジェクターに講義の要点だけが映し出され、
その横の教卓でフチが太いメガネをかけ、ネクタイ無しの
半袖ワイシャツを着た白髪まじりの髪にヒゲを生やした先生が
マイクで資料をめくりながらひたすら話を続けている。
プロジェクターからの光だけが唯一の大きな光。
先生が言っている事を、自分なりにノートに素早くとっていく。
今、僕は・・・・人生の中で"最大の選択"を迫られている。
こうしてノートをとっている間にも、それを考えながらとっている。
同時に、先生の声も同時に耳に入ってきては右手に握っているペンの先端がノートの上で踊る。
「えー・・・・ゴホン、ゴホン・・・・」咳払いをする先生。
「失礼。応募書類について話し終えた所でここからは面接について話していきます。
まず一つ覚えておいて欲しいのが、"面接はアピールする場"である事です」
「面接は個人面接だったり、複数面接だったりと会社によってスタイルは違います。
学生一人ずつ面接したり、二人、あるいは三人、時には四人同時に面接したり・・・・」
「しかし!!!最も忘れないで欲しい共通の基本は"面接はアピールする場"である事です。
自分をプレゼンする場なのです」
右手人差し指を立ててもう一度力強く大きな声で改めて主張する先生。
僕はその繰り返して発せられた事をノートに書き写していく。
「企業がどのような人材を求めているか、どのようなスキルを求めているか・・・・・
それは求人や会社のホームページだけでは完全には分かりません。
が、アピールするからには自信を持って下さい。自信を持って、胸を張って下さい」
「よく面接で訊かれる代表格として志望動機、長所と短所、学生時代のエピソードが挙げられます。
特に学生時代のエピソードは長所や短所よりも評価に差をつけるチャンスです」
「ここにいる皆さんの大半は既に大学入ってきて今日に至るまでアルバイトとかされてる方が
殆どかもしれませんが、そういう経験をしていればしているほど、"就職活動"は
実質有利になると言ってもいいかもしれません」
「アルバイトとはいえ働いているのですから。
そこからアピールとなる材料を引っ張り出すんですよ!」
「学力や資格以外にも、プラス、エピソードという名の何らかの"セールスポイント"。
全て、企業があなた方を評価する判断材料となるのです!」
そう。今、この教室で行われているのは、もはや言うまでもなく就職活動に関する講義。
さっきからこちらに強く熱弁をふるっているのはこの学校の就職指導の先生だ。
僕が迫られている最大の選択というのもこれだ。
就職活動において、避けては通れないのが面接。
今、先生が言っている事はまさに最もだ。
勉学が本文である僕ら学生にとって、
アピール出来る事は言うまでもなく、学生時代のエピソードしかない。
そのエピソードの元になる今までの人生をどのように過ごしてきたかで
何を話すかが大きく左右し、その歩いてきた道からアピールに使える材料を見つけなければならない。
前も別の就職活動の先生が言っていた事だけど、
会社側の人事担当者もいかに会社に相応しい優秀な人材を確保するかで必死なのだという。
大企業では、500枚とか1000枚、更に多ければ3000枚近くあるエントリーシートの中から、
採用候補となる人材を選考ごとにピックアップする作業に追われ、
選考ごとに採用したいと思う相応しい人材を会議の中で絞り込んでいく。
外国人採用が広がる関係もあり、
その数は一昔前よりも企業によってはかなり増えたという。
そういえば、大企業というとI.N社は系列会社や子会社、
特例子会社も入れると毎年、かなりの数の新入社員を迎えているらしい・・・
名前もI.Nと略されるだけあってインパクトがあるし、まさに大企業だ。
一流の大企業は採用担当者をたくさん各地で行われてる面接会や就職セミナーとかに送り出して、
優秀な人材を次から次へと確保して行ってるんだろう。
勿論、他の企業も新しい人材を欲しがっている。企業間の人材の争奪戦だ。
そんな学生の運命を決める者達の心理を"モンスターを捕まえて育てて戦う某RPGの世界"で例えてみる。
そのゲームを攻略する上で、強いモンスターと弱いモンスターだったら、
特に愛着やこだわりもないのなら当然高い能力値を持ったモンスターをパーティに選ぶだろう。
なぜならば、そのゲームはプレイヤー同士が対戦する対人戦がメインとなっているゲームだからだ。
モンスターの能力値は同じ種族でもバラツキがある。
その厳選作業及び捜索作業はまさしく"選考"と"争奪戦"に当てはまる。
優秀な能力値、意中の性別とランダムアビリティ・・・・・
多数のパラメータから自分の理想とする理想個体を無数のモンスター群の中から
選び抜き、育成し、それを使って互いに競い合う。それはまるで企業間の競争だ。
勝ちたいから強いモンスターを欲しがる。それと同じで企業も無数のエントリーシートの中から
未来の会社を引っ張ってくれる人材を探しているのだろうと僕は思う。
競争に勝つために。この社会で生き残るために。
そして、自分達が退職しても、会社を支えてくれる柱を確保するため。
優秀なタマゴの確保のために慌ただしく動いている。
結局は僕ら選ばれる側も、選ぶ側も苦労をしているのは同じなのだろう・・・・
僕は内心、考えを巡らせながらも先生の講義に耳を傾け、必要に応じノートをとっていく。
「企業はあなた方を採用して、どのようなメリットがあるか・・・・
それをあなた方がアピールしないといけないんですよ」
そうだ・・・・企業はその人を採用して、どんなメリットがあるか・・・・
それを僕ら受ける側はアピールしなきゃいけないんだ・・・・・
僕の就職活動は今始まろうとしてるわけじゃない。もうとっくの前から始まっている。
振り返ってみれば、去年の12月に就活が解禁してもう早7ヶ月だ・・・・
12月や1月は大規模な会社説明会や就職セミナーにも色々と行った。
4月に採用試験が本格的に開始されるが、それ以前の2月、3月ぐらいから
ぼちぼちと採用選考が始まっている会社もいくつか選んで受けた。
無論、そこで決まるはずもなく、その後も僕の就活は続いた。
最低でも3社は選考待ちの会社を持っておくようにし、1社でも不採用と決まればすぐ様、
次の会社を就職サイトの求人から選び、エントリー。
そんな感じでかれこれ30社近く受けたが、いずれも結果は全てお祈り・・・
つまり就職先は未だに決まっていない・・・・
お祈りは無論、不採用という意味だ。頑張れって意味じゃない。
不採用通知の最後の「ご活躍をお祈りしております」が由来でお祈りメールとも呼ばれてる。
僕みたいな就活中の人間の口から「祈られた」という台詞が出たら、
それは良い意味ではなく悪い意味だ。そして毎回凹む。
不採用通知なら不採用通知と書けばいいのに件名が
「選考結果のお知らせ」って抽象的に書くのがホントに嫌らしい。
で、何回もお祈り食らってるうちに件名だけで
メール開けるまでもなくそれが不採用だと分かってしまう。
それで「やっぱりか・・・」と自然な溜息とともにやってくる二重の憂鬱。
僕の場合は書類選考に関しては必ずではないがほぼ通る。
履歴書に書く志望動機、自己PR・・・ここら辺は一晩あれば、
相手の会社の事も考えて書く内容も絞り込んで普通に作れると自分でも思ってる。
しかし、一次面接、あるいは適性検査で何回もお祈りを食らうし、
二次面接まで行けた事もあるが、それも指で数えられる程度しかない。
が、適性検査と二度の面接を乗り越えてやっとの思いで
最終面接まで行けた会社が最近"1社"だけある。
だが・・・・そこで受かってたら僕はこんなとこにはいない。
そう、不採用だった。まさかの最終面接での不採用通知。
就活のノウハウを教えてもらうこの場所に来てる時点でそれはもはや言うまでもない。
適性検査、面接もヒヤヒヤしたが通ったと聞いた時はスゲエ喜んだ。
最終面接まで来たらもう受かるだろと自信を持って面接に臨んだ。
なのに・・・・まるで手のひら返しのように落とされた。
イイ線いったと思ったのになぁ・・・・・
蕎麦屋でバイトしてること以外にも2年前にニューヨークに短期留学したこととか、色々と話して、
会社に入社する意気込みも自分なりに話して相手に関心はかなり持たれたが・・・・・ダメだった。
因みにその最終面接は代表取締役と採用担当のトップだった。
ホントに、あれは何が悪かったんだか・・・・今でもさっぱり分からん。
落ちた直後の事はもうホントに思い出したくない。あれは死にたくなった。
もう少しで内定決まって就活終了だったのにィ・・・・・
*
常にお決まりの残酷な文章がプリントされた数々のお祈りメール。あるいは不採用通知。
それらは単純に落ちた30社全ての会社から受け取ったわけではない。
最終面接まで行った会社はお祈りメールは勿論来た。
最もそれが来た瞬間、僕は内定通知を心待ちにするワクワクから
一気に絶望のドン底へと叩き落とされたが。
そんな最終面接落ちを通告する悪夢のお祈りメールを受け取るよりも前のこと。今から2ヶ月前に遡る。
季節はゴールデンウィークが明けた頃。だんだん暖かくなっていく季節だった。
僕は登録している就職サイトからとある会社に興味を示し、エントリーした。
企業研究の段階で明るくて良い会社と思い、一次面接に呼ばれ、履歴書を手にスーツ姿で
渋谷にあるというその会社の本社へ向かった。
面接では話そうと思った事をやれる限り伝えた。手応えはあった。
インターネットの会社のHPだって何回も読んだ。
そして、面接後に「合否に関係なく一週間以内に連絡する」と若い女性の面接官に言われた。
なのだが・・・ここでおかしい事態が起こった。
「一週間以内に連絡する」と言っておきながらその会社から三週間経っても連絡が一向に来ない。
そう、気がついた時はもうすぐに納得がいった。俗に言う"サイレントお祈り"だった。
この時は会社を受けまくる中、そういう事もあるか・・・・と思い、流したが・・・・
それから2ヶ月間で4社も同じような会社に出会った・・・・・
まとめて受けた2社がサイレントって事もあった。
無論、一週間以内に連絡すると言っておきながら嘘をつく悪質なものだった。
合わせてトータルで"5社"も僕はサイレントお祈りを平気でする会社に出会った。
そのうちの一つである、一番最後に食らったサイレントお祈りはあんまりなものだった・・・・
初めて最終面接に行くよりも3日前のことだ。
その会社は既に一次面接を受けてから3週間も経っていた。
それまでで4社もサイレントお祈りを食らい、その可能性を考えていた僕は
合否が来ない事とサイレントお祈りを平然と行う企業に痺れを切らせてある行動に移った。
そう、今まさに目の前で講義をしてる就職指導の横村先生に頼みこんで、
その会社に直接問い合わせてもらった。
そしたら、もう分かりきってはいたが・・・見事に不採用だった。
もうこの段階でとっくに5回目。僕は呆れた。
一度起きると、後でまた同じようなことが起きるという意味なので、連鎖しているが意味的には合っている。
しかし、呆れて声も出なかった。祈られるよりはマシだがあんまりにも程がある。
で、連絡しなかった理由は横村先生曰く、手違いなんだそうだ。だがどうせ嘘だろう。
しかも電話に出た女の人は若い人で「申し訳ございませんね~」とゲラゲラ笑っていたそうだ。
ったく、新しい人材に来て欲しいならちゃんと仕事しろよって直接相手に突っ込みたくなった瞬間だった。
落ちた時は普通に連絡しないって言ってくれてもいいだろうに・・・・
こっちも受けては落ちてを繰り返し、たくさん会社受けてるが、
就活だけじゃなくて学業とバイトでスケジュールの管理大変なんだぞ?腹が立った。
何が社会のビジネスマナーだよと怒りを根本的な礼儀作法の方にぶつけたくなった。
ずっと抱えていたモヤモヤが・・・悪い意味で弾けた瞬間だった。
ま、今になって思えばどうせあの会社はブラックだったんだろう。
不採用の烙印を押したどうでもいい就活生を馬鹿にしているとしか思えなかった。
横村先生も僕の5度目のサイレントお祈りが決まった時、あの会社は良くない会社だろうとか言っていた・・・・
連絡をすると言っておきながらしない会社は実は業務体質もいい加減な会社だったりするみたいだ。
・・・・その言い回しを捉えると、サイレントお祈りの被害者は自分だけじゃない。
誰もがある事だと僕は思った。むしろ落ちて良かったのではとも思う。
が、しかしだ・・・その会社もブログを見るとサッカーとか野球とか沖縄や京都旅行とか・・・・
社内のレクリエーションも盛んで、ここなら長く働けそうだと思える
雰囲気良さそうな会社だったのに・・・失望した。見事までに僕の意欲をへし折ってくれた。
あそこは業界的にも業務内容的にもマッチしていたというのに。
たぶん、後輩があの会社受けると言うのなら、僕は「あそこだけはやめておけ」と強く言うだろう。
楽しそうな社風を持った会社だけに・・・・
会社のホームページに対して疑問しか出なかった。不信感しか出なかった。
これまでサイレントお祈りしてきた4社もそういう会社だったんだろう。
入る前からブラックだったと分かったと思えば気が楽だが・・・・
5社目のアレは本当に心の底から失望した・・・
良い会社だと思ってこっちはわざわざいずみ島から足を運んで、
地下鉄に揺られて馴染みもない九段下まで受けに来たのに・・・・
手違いなんてただのご都合主義の言い訳でしかないだろう。ゲラゲラ笑う時点でどうかと思う。
結局、企業にとってはいらない人間は所詮、ゴミでしかないんだろう。
ゲーム内の弱いモンスターと同じだ。ゲームでは確か産廃って言うんだよなぁ・・・こういうの。
役に立たない能力やスキル、役に立たない装備とか、
そして役に立たないキャラクターを指して言うあの「産廃」だ。
今でもふと思い出してしまう。
先月の6月に僕に降りかかった二つの悲劇。名づけて「水無月の悲劇」。
堂々と5度目のサイレントお祈りを通告されて、失礼極まりなく、強い不信感しか出なかった事。
そして、極めつけは最終面接に落ちて頂点から一気にドン底に突き落とされた事。
この悲劇からもうすぐで約一ヶ月となるが、今でも思い出すだけで傷口が痛むような気持ちになる。
*
景気も決して、好景気でもなければ特別不景気でもないのに
上がる人はどんどん上がり、堕ちる者はとことん堕ちる社会。
こんな社会だから、社会の闇をそのまま体現したような奴が世の中を騒がすんだろう。
そう、樫木麻彩みたいな奴だ。
岐阜、大阪、新潟、埼玉、神奈川、東京、千葉と各地を駆け回り、
連続殺人事件を起こし、3ヶ月前に逮捕された凶悪殺人犯。
犯行は3月から行われ、犯人の手掛かりを掴めない手を焼いた警察は
JGBにも協力を依頼し、犯人を追い続けた。
だが、4月のゴールデンウィーク手前・・・
樫木自らボロを出したのもあるがついに捕まった。
彼は日本の教育を変えるため、復讐のために事件を起こした。
過去にいじめ自殺事件を起こしたとされる"いじめの加害者"の所在を調べあげ、
捜してナイフで殺し回った。
ここで言う加害者は生徒だけじゃない。学校側の偉い連中も含まれる。
現にかつての加害者生徒同様に何人か殺された。
だが・・・途中でその趣旨から自ら脱線し、
自分が恨んでる高校時代の同級生や自分の父親まで殺害する凶行に及んだ。
唯一の血の繋がった家族である父親を殺害した事で捜査が進み、素性が特定され、
連続殺人事件とは異なる父親殺害の別事件で全国手配された事で御用となった。
連続殺人事件はいずれも犯行現場のどこかに必ず花言葉に『復讐』などの意味があるトリカブトの花があった。
が、その父親が死んだ事件の現場には花がなかったため、当初は別事件として取り上げられた。
しかし結局はどちらの事件も犯人は樫木麻彩であり、自分の趣旨から外れているのは明確だった。
過激な世直し活動を通り越して、ホントは自分が気に食わない人間に
復讐がしたかっただけの自己中の凶悪殺人犯だ、あれは。
4月のゴールデンウィークあたりは殆どその事件でテレビも新聞も話題は持ちきりだった。
ネット生放送で行われた樫木麻彩の演説はタカシやコージがパソコンで観てたから僕も少しだけ観た。
あれはドン引きした。恐ろしかった。
というか、アイツが余計に扇動する事で、事態を更に混乱させているとしか見えなかった。
お陰で事件後も学校とか教育統制委員会の建物、JGBの施設などに襲撃事件起こす馬鹿まで出る始末だ。
全くもって、騒がしい。迷惑な話だ。そんな奴らに僕は平穏を返せと言いたい。
無駄な争いを引き起こして和を乱しているのはお前らじゃないかと論破したい気分になった。
なのだが。
実際、こんな目に合うといじめの復讐を掲げた世直しのためだけに
あそこまでやった樫木麻彩の執念深さだけには感嘆する。
社会に押し潰されて、道を踏み外してでもその社会に屈する事無く抗おうとするその姿にだ。
だが・・・殺人は当然やってはいけない事だ。また、この事件は同時に社会にも責任はある。
いじめ問題を放置するからあんな歪んだ正義感で凶行に及ぶ狂人が生まれた。
恐らく、いずれ裁判が行われるのだろうが、判決は死刑か無期懲役が妥当だろうな。
あれだけの事をしたんだ、二度と外には出られまい・・・・・
こんな事件は僕にとってはある意味希少だ。
こんな風に得意気に時事について語っておいて難だが、
実際は僕にとっては普段からこの世の中で騒がれてる事は大抵うるさくて嫌いなものばかりだ。
全てがうざったく、めんどくさく思える。
樫木麻彩の事件は僕の中では数少ないそれらの類には含まれないネタだ。
まず第一、この世の中にはどういうわけか蔓延る様々な変なオカルトが溢れている。
オカルトっていうのは俗に言う都市伝説だ。
仮想世界だけじゃなく現実でもそれは語り草になっている。
僕の近くにもそれがうざいほど好きな奴がいるぐらいだ。
身体から炎を出す熱く燃える男、
真夜中の都心に現れて人を食らうドラキュラ伝説、
街の裏路地や海の上、ゴミ箱の中などで見つかる死体、
一度に数人の人間が揃って度々行方不明になる集団神隠し事件、
そして一度にゴミ箱やゴミ袋の中から見つかるたくさんの
衰弱した死体やミイラ化した死体・・・
といった感じでどれもこれも不気味すぎるこのネタは挙げればキリがない上、
一度話し出せば、大好きな人間はその真相について延々と議論を加熱させる。
テレビでもそれらの正体は明かされていない。
むしろ、視聴率稼ぐ目的で騒いでるテレビが馬鹿に見えるぐらい
ネットの世界を中心にこれらはお腹いっぱいになるぐらい満ち溢れている。
そもそもゲームやアニメの世界じゃあるまいし、ドラキュラなんて怪物いるはずがない。
ドラキュラによるものと思われる猟奇殺人事件の話は聞いた事があるが、
外国人も珍しくないこの日本だ、日本人だけじゃなく色々な人間がいる。
名作映画シリーズに出てくる悪役みたいに猟奇的な殺人をする人間がいても不思議ではない。
炎を出す燃える男もどうせその手の芸が出来る芸人かなんかだろう。
海外じゃ炎も自在に人前で操ってパフォーマンスするマジシャンもいるぐらいだ。
死体や神隠しはいつもの事だろう。
この日本では数え切れないほどの殺人事件や失踪事件は
連日ニュースや新聞で報道され続けている。
全くもって、これらに熱中して面白おかしく無駄に騒ぐ
奴らの気持ちが僕には分からない・・・・・
オカルトの他にもテレビでニュースをつければ散見するものも最近見ると目障りでしかない。
よくある原因不明の人気のない廃工場の爆破事故や街のビルの火災といった破壊現象、
興味もない芸能人の熱愛とか結婚とか離婚とか破局とか・・・
アイドルの卒業とか総選挙とか・・・・
本当に僕にはどうでもよく見えてくる。
テレビに何度も映っててやかましいし、騒がしくて付き合ってられない。
僕は自分の事で手一杯でそんな事なんかに一つ一つ目を向けていられる余裕はない。
一向に内定も決まらなくて崖っぷち状態だ。熱心にこれらを見てる暇はない。
樫木麻彩の事件だけは考えさせられるものがあったので除外するが。
しかし、面接で時事について聞かれる事があるので新聞やニュースは
ある程度目を通し、聞かれたら意見は自分なりに述べるようにはしている。それだけだ。
騒々しい、迷惑と思う事は変わらないが、全ては就職のためだ。押し殺してでもやるしかない。
勿論、その答えは質問してくる相手の事も考えてだ。
政治や経済、騒がしくないメジャーの話題を適当に調べて喋ればいい。
樫木事件だけで実質、世間に関心がない僕が言うのも説得力皆無かもしれないが、やるしかないんだ。
*
「水無月の悲劇」を味わった僕はその直後、なかなか本調子に動けなかった。全てが狂った。
あれはすげえ凹んだ・・・・最終面接落ちて、"あの人"に助けられるまでは。
その後しばらくして、気持ちを新たにまた新しく3社受けたが、一つは書類選考で落ちて、
二つとも一次面接と筆記試験で落ちた。最終面接で受けた傷がまた広がって真っ暗な未来しか見えてこない。
受けてもどうせまた落とされるだろう・・・・その不安が僕を付きまとってくる。
だからこうして、ちょっと不安解消になるかと夏休み前に基本を思い出したくて・・・・・
午後のこの時間は空いてたし、横村先生の就職講座に顔を出してみたんだ。
散々就活前に聞かされた基本中の基本だけど、何かあればと思って・・・・
同じような目的で顔を出してるのが僕以外にもよく見たら数人ほどいる。
僕と同学年でまだ内定とってない連中だ。
タカシやコージはどういうわけか僕より先に揃って内定取っちまった。
二人は就職先も決まって卒業論文に存分に時間も割けるし、羨ましい・・・・・
30社受けて未だ内定ゼロ・・・・一体、今の僕に何が足りないんだろうか。
早く内定とらないと、卒業論文とかの準備も
着々始まってる頃だってのに・・・・まったく・・・・
このままじゃマズイ。本当にマズイ。
就職出来れば、千葉の実家の親父とお袋も安心させられる。
あと一歩なんだ・・・・だけどその一歩が遠い・・・・・
同時にスケジュールの配分についても追い込まれている。
卒業論文の時間を裂いて就活すると結局、内定を取っても卒業出来ない。
就活の時間を裂いて卒業論文に力を入れると結局、卒業しても就職出来ない。
大学院に進学するという方法もあるが、僕には程遠いコースだ。
どちらか片方だけを取っても・・・・
結局、最後に行き着くのは、まさに"行き止まり(アポリア)"。
大学のカリキュラムはちゃんと分けられてる。
だけど、オフの時間でもこれら二つに均等に時間を割かないと
とてもじゃないけどやってはいけない。
次の進路・・・・人生の航路を決めなければいけないのは受験生と同じだ。
いや、今回は受験生だった頃より難易度はベリーハードだろう。
なんて考え事をブツブツとしながらも横村先生の講義によく耳を傾け、ノートをとっていく。
よし、この講義が終わったら、今日はバイトもないし、そのまま帰るとしよう。
今日は金曜日だ。この1週間もまた、長かったな・・・・・
だが、もうすぐで夏休みだ。来週の月曜日終わればもう夏休み。
最も、未だに内定無しの僕にとっては楽しい夏休みなんてものはなく、最後の希望そのものだ。
学業でやる事が普段よりも多少なり軽減される以上、就活に力入れる最後のチャンス。
最も、内定とった奴は卒論に力を入れながらのんびりやるのだろうが、
僕は就活70%、卒論30%といった感じでいきたい。
秋になれば内定式の準備が着々と始まり、たちまち求人も少なくなる。
そうなれば全てが終わりだ。他の奴が卒業して就職するのに僕だけが取り残されるなんて・・・・
求人を見る、試験勉強、自己分析・・・・就活だけでも
卒論とはまた違い、また同じぐらいにやる事はたくさんある。
この夏のチャンスを逃してしまえば・・・・そこに待っているのは行き止まりだけ。
待っている行き止まりを打ち砕き、その先の道を切り開けるか・・・・
それはこれから先にかかっている。




