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ソルジャーズ・スカイスクレーパー  作者: オウサキ・セファー
第二章 トリカブトの華
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第39話 後悔も何もなし

薄暗い。冷たい。おまけに静か。ここはそんな空間。

冷たいコンクリートの壁に背中を預け、足を広げ、うなだれる。


両手が重い・・・・・逮捕されてから両手に銀色の重い手錠を

ずっと付けられたままだ。檻の中では背中が痒くなっても自分の手でかく事すら出来ない。



そう、僕は逮捕された。逮捕されて・・・5日間は病院に

入院していたが退院してすぐにJGBに聴取に回され、

その後は見ての通り拘置所に放り込まれ、囚人となった。



シマシマの囚人服を着せられ、両手はこの通り手錠で動かせない。

足だけは何もつけられていないので身動きがとれないわけではないが。


僕の最強の能力である透明になる力も今は使えない。

この手錠はただの手錠ではなく、能力を行使しようとすると

なぜか全身に痺れが走り、立つ事も困難になる。



今まで知らなかったが、ソルジャーの力を封じる道具が

この世にあるとはな・・・・・



ここは地獄に一番近い場所。夢も希望もなく、絶望しかない。

殆ど何も残されていない罪人が集められ、ただじっと裁きの時を待つ。



この部屋に初めて入れられる過程で看守に連れられて歩きながら左右の檻を見てみると

今か今かとその奥で裁判や死刑を待っているだろうたくさんの罪人達が溢れていた。

通り過ぎる罪人達は皆、こちらを注目していたが横になって寝ていたりしている奴も多かった。





だが・・・・僕はこんな檻に入れられようが、後悔は微塵も感じていない。





意識が朦朧もうろうとする中で病室で流れていたテレビのニュースを聞いて僕は安堵した。

みんな声をあげてくれているじゃないかと。



僕が爆破しようとした千葉の教育統制委員会本部と

去年の年末の僕が動くきっかけにもなった千葉のイジメ自殺事件が起こった学校で

デモ隊が反イジメを訴えて奴らに抗議しているらしい。



いいぞ・・・・もっとやれ・・・・この調子だ・・・・



船橋での戦いは・・・・ハッキリ言って

生放送をした時点で僕の勝ちは決まっていた。



そもそも戦う前から僕の目的は既に完遂していた。



もしも、あの雑居ビルでフォルテシアとボスを倒していたのなら、

僕は生放送での発言通り、隠居してほとぼりが冷めたらまた日本中を巡って

他のイジメ自殺事件の加害者を手にかけていただろう・・・・

また、最初から自分が囚人になるという事は既に覚悟も決めていた。



しかし・・・今になって思えば、ここで自らの幕を下ろすのも

悪くはないという思いもどこかにあったのかもしれない・・・



僕が逮捕されようが、この状況を止める事はもはや誰にも出来はしないのだから・・・・



僕の起こしたこの事件により、今や日本全国の注目を集め、

学校のイジメ問題に対する世間の関心は既に集まっただろう・・・・言う事無しだ。大成功だ。



諸積君が乗り込んできた時は無性に嬉しかった。

高校時代は僕にとって羨ましすぎる生活をしていた

アイツとこうしてまた会えるなんて思ってもなかった。



イジメられる事なく人気者の諸木坂の相方を務め、

みんなと笑っていられる・・・・羨ましすぎる。

羨ましいアイツをこの手でいたぶれる事が楽しくて仕方なかった。




その後、フォルテシアとボスがビルに乗り込んできた後半はもう・・・・

どちらでも良かったのかもしれない。幕を下ろすか否か。



途中逃げられるチャンスもあった。

しかし、奴らを前にして僕はそうする気にはなれなかった。



なぜだろう。あの時、自分が高揚感に満ちていたのは感じていた。




あぁ・・・・そうか・・・・・あの高揚感は

フォルテシアやボスと本気でやり合いたかったのかもしれない。



JGBとダークメアのトップである奴らの掲げるモノに対して

この正義の拳を全力でぶつけてやりたい思いがあったのかも・・・しれない。



なぜだろうか・・・・・あの感情は・・・・まぁ、いい。

僕の計画は達成されたも同然・・・・・




僕は・・・・・自分の身を滅ぼしてでも、イジメへの復讐を果たすと決めたのだから。

そして、それももう果たした・・・・心は満たされた・・・・満足だ。


裁判だろうと、例えその先にある判決で死刑になろうと、実行すればいい。

僕をどれだけ裁こうがもう取り返しはつかないのだから。


この事件を通して、教育やイジメについて世の中が考え、

変われば何だっていい。僕はこの檻の中でそれをひたすら切に願う。



復讐こそが正義だ。復讐してでも変えなければいけない世の中がある。

同じ悲劇がひたすら繰り返され、一向になくならない以上、誰かがやるしかない。


それでたどり着いて今があるんだ・・・・今は何も後悔は・・・・ない。




何もする事もない。僕はそっと目を閉じた・・・・少し・・・眠るか・・・・・

発端の出来事が次々と頭の中に浮かび上がってくる。



・・・・僕は、あの時の選択を何も後悔はしていない・・・・・






2033年の年末。あの日、僕は全てを決意した。

携帯でニュースを見ていたら、千葉の中学校で男子生徒がイジメを苦に飛び降り自殺、

学校も教育統制委員会もイジメを認めず、

教師もイジメを遊びだと思った、からかいだと思ったと発言したという。


見た瞬間、僕は怒りを奮い立たせ、拳を握った。

憤りしか感じなかった・・・・これで人生終わらせられるって・・・・

その子を死に追いやった加害者共が許せなかった・・・・

今すぐにもこの手で殺してやりたいぐらいに。


このままでは・・・・同じ悲劇は繰り返される。

誰かが止めなければならない。この時僕は感じた。

悲劇の連鎖を誰かが断ち切らなければと。


黙っていてはこの日本はこれから先も同じようなイジメ事件が

繰り返され、自殺する子供が後を絶たなくなる。

死ぬ必要なんか全くない未来と希望がある命がどんどん失われる。

救われずに消えていく命が増える一方だ。


声をあげなければならない。そして訴えなければならない。

このままでは教育統制委員会に都合よくねじ伏せられる。

奴らは数日後には圧力という禁断の魔法によって

どうでもいい事のようにマスコミも報道しなくなる。


今こそ・・・・・長い間ためていた

全ての憎しみを晴らし、腐った教育を覆す好機だと確信した。

同時にこの力があれば・・・・出来るだろうと。




しかし、僕一人ではどうにもならない。仲間が欲しい。




そう考えた僕は所属していたダークメアを使って

教育統制委員会を潰せないかと考え、

どんなに煙たがられてもその危険性を訴え続けた。


ダークメアが奴らを潰したのち、そして同じく

教育統制委員会に反感を抱く者を仰ぐ。そういう作戦だった。



もしもボスが首を縦に振ってくれれば、

岩龍会にも協力を仰いでくれるかもしれない。

ボスは過去に野望は"世界征服"と語っていた・・・だったら

そういう所から名声を浴びて、何かしら政治に介入する事で

デカイ事をすればいいんじゃないかと思った。



たとえ、JGBが来てボスや他の奴らが逮捕されても僕は知らん顔をすればいいだけの話だった。

ただダークメアの猛攻に乗じて人々の注目を集めた存在になれればそれで良かった。



ボスには世話になったが、僕は心の奥底では復讐の好機を待つために

ダークメアを隠れみのにしていたにすぎない。



早い話、ダークメアなんかどうでも良かった。

高校の時にこの力を手にして・・・・今はあえて隠し、

いつか力をつけて、復讐してやりたいと本気で考えていた。



高校卒業して仕事に就いた頃も内心それを考えていた。



3年前に仕事を辞めて懇願の末にダークメアに入ったのも

あの楠木大和を仕留めて調子に乗ってる頭悪そうなボスなら出し抜けると思ったまで。

信頼を得るために組織内では真面目に働いた。



これでも運送会社時代から裏社会を通して楠木大和の名前は知っていた。

だからこそ、彼を仕留めた奴らに取り入った。運送会社をやめたのもこの時から。

コイツらを利用すれば、僕のしたい事が成就出来ると思ったからだ。


ダークメアに入った後も意外に苦でもなかったし楽しかった。

楽しかった時はとことん楽しかった。復讐や憎悪を忘れるぐらいに。


が、それでも僕は復讐の野望を心の奥底で抱き、

そして今回の事件を皮切りに抱いていた復讐と憎悪、

その全てに覚醒し、今こそと、それを行動に移し、声をあげたのだが・・・・・



・・・・奴らに声は届かなかった。

誰も僕の話を聞いてくれなかった。僕の話に乗せられる奴は誰ひとり・・・いなかった。



そして、程なくして僕は奴らにボロボロにされ、

袋に入れられて車で運ばれ、どこかの山中の崖下に捨てられた。


今思えば・・・真夜中にメガホンを使った演説で怒りを買ったが

そうでもしなければ聞き入れてもらえない大問題だからと思ってやったまで。

メガホンで演説する事に何が悪いんだ?この日本は大変な状況なのに。



僕は自分の憎しみに従ったまで。イジメへの憎しみが僕をそうさせた。僕は悪くない。



闇夜に包まれる山の中、袋を何とか突き破り、脱出するとそこで・・・・出会った。

トリカブトの花々に。



僕が落ちた崖下の川の近くの小さな草むらにその紫の華はいくつか咲いていた。

辺りは岩場に覆われていたが、その中に小さな草むらがあった。




だが・・・既にボロボロだった僕はその花の近くで力尽きた。

ゴツゴツした無数の岩の上でうつ伏せのまま倒れた。



全身の傷が痛む・・・・体も重い・・・・・



ここまでか・・・・・・・



僕の命も終わるのか・・・・




このまま何も果たせず終わるのか・・・・





「お前はここで終わるのか・・・・・?」




「へ?」



その時、僕に呼びかける声がした。モザイクのかかった太い声だ。

男なのか女なのか・・・・声だけでは分からない。




『お前が本気でイジメ問題に立ち向かいたいというのなら手伝ってやる。どうだ?』




一瞬、なんなんだと思った・・・・幻でも見ているのかと。夢でも見ているのかと。

しかし・・・今にも息絶えそうな僕はそれにしがみついた。



「イジメは本当に憎い・・・・あってはならない事だ・・・・立ち向かいたい・・・・・」



倒れたままで僕はその謎の声の主が分からないまま返事をした。



『お前がこれから私の命令に従うのならば助けてやる。どうだ?』



「な・・・・・なんでもするさ・・・・・復讐のためならなんだって・・・・・ 

 この状況から生き返る事が出来るのならなんだってするよ・・・・・!」



「よし・・・・・!」



ニヤリとした声と共に僕の周りが黒い闇に覆われる・・・・・




その後、僕は突如、声をかけてきた何者か導かれ、

どこだか分からない場所へと送られた。


着いた場所はどこかの建物の一室。

金ピカの高価な家具に赤い絨毯が敷かれた優雅な部屋で治療を受けた後、

僕はそこで・・・・その声の主より復讐のための力を授かった。




その声の主は僕の前に直接現れた。

顔を出さず、黒いローブに身をまとって。

名前については尋ねたらこんな事を言っていた・・・・



『名前は・・・・・ゼブルだ』



少し間を置いた後で快く名前を教えてくれたゼブル。ただし・・・・・



「約束通り、お前に復讐のための力を授けよう・・・・

 ただし、いくつか規約がある。規約を破ったらその瞬間、死ぬと思え」




そう言うと右手人差し指を立ててゼブルは語る。



『一つ、これから与える力を誰からもらったか、

 "基本的に"外に公表しないこと。また情報漏洩しないこと』


『もう一つ、これから伝授する事はあくまでお前自身がやったと思え』


『更にもう一つ、お前がケツを拭く事。私に責任を押し付けない事』


『そして、最後にもう一つ・・・・それは最初の規約についてだが・・・・』



規約の一つ一つを右手人差し指を立ててゼブルはそう言った。

"基本的に"の意味が含まれる最後の規約を言った後、

ゼブルは人差し指を立てていた手を下げた。




僕はそれに耳を傾けた・・・・・・




なんだ、簡単で当然の規約じゃないか。

これだけで復讐を果たすための力を得られるのなら安いものだ。



僕はその時、すかさずゼブルの規約に同意した。



そして、僕はゼブルから復讐のための力を授かった。



力と言っていたので、僕は己を強化するモノと考えていたが、

もらった物は十分に僕の願いを叶える代物であった。



もらった物は過去30年に日本で起こったイジメ自殺事件に関するデータ資料。

ゼブル曰く、教育統制委員会によってもみ消されたデータだそうだが、

それらは鮮明に分かりやすく完璧に書かれていた。



加害者の現在の動向についても別資料に書かれており、

まさに「僕に犯行をやって下さい」と言っているようなものだった。


どこでこんな物を入手したか気になったが、

それよりも僕は復讐に駆られ、計画の続行へ向けて動き始めた。



一つのUSBに入っていたこのデータを自宅のパソコンで見て、

どのようにして奴らを仕留めるか、

かつどうやって世間の注目を集めるかを考えに考えた。



普通に殺すだけではダメだ、すぐに話題が途絶える。

注目を集めるほどの大事件にしなければならない。

無差別殺傷ではなく、イジメ自殺事件を起こした奴らだけを

殺し、注目を集める事が最低限必要だと僕は考えた。


机で悩んだその時だった。

僕の脳裏にあの崖下で見た紫の花・・・・トリカブトが浮かび上がった。

それでこの花をネットで調べ、花言葉を見て、僕はある事を決意した。


トリカブトの花言葉は「復讐」だ。

他にも「美しい輝き」「厭世家」「人嫌い」「騎士道」「栄光」。



まさにイジメへの復讐とイジメがない栄光のための殺しには最適な花ではないだろうか。

そう思った僕はこれをメッセージもこめて犯行現場に置く事で

警察の注意を引いて注目を集められないかと考え、山へ行ってトリカブトの花を集めた。



そして・・・この時から僕の中で壮大な計画の絵図は書かれていった。


まず、加害者達の現在の所在をまとめた資料を見て考えた。



特定の順番で次々と殺していき、ゆくゆくはこの関東に近づいていく。

資料によればターゲットはその過程で溢れるほどいる。


かつ、一つのイジメ自殺の加害者を集中して残虐に始末すれば効果覿面であろう。

そうすれば警察も警戒を強め、当然マスコミも連続殺人に騒いで

集中的に事件を報道するようになる。これはいける。




次に僕は資料を見てたくさんあるターゲットの中から計画のために何人かを絞った。


その結果・・・・



群馬と新潟のイジメ事件の加害者を殺しながら東を目指し、

最終的に関東にたどり着いて、そこで加害者を何人か始末して世間を仰ぐ。

そしてネット上で殺された被害者の正体を大暴露、

注目を集めて後日生放送をし、仕上げに千葉の教育統制委員会を爆破する。


ゼブルの隠れた支援もあって、事の運びは順風満帆だった。

なお、ゼブルがくれた過去の事件の資料は生放送前に破棄した。

これで奴らはゼブルの存在は知っても、資料は確認出来ない。

"基本的に"情報漏洩はしない、規約の一つを守ったにすぎない。


殺す感覚もわざと一週間ぐらい間を空けた。

そうやって劇場型殺人を引き起こせば間違いなく色んな人の目に留まる。




そして・・・・・千葉でイジメ自殺事件が起こり、

イジメ関係のニュースが記憶に新しいであろう世間の注目を集める。



イジメによって溢れた悲しみと憎しみの思いは

決して沈黙していない事を世の中に晒す・・・・・



そう、これこそが僕の描いた絵図なのだ。

千葉にいる加害者共も殺したかったがこれでアイツ等にもう平和は訪れないだろう。

僕の手によって世間はイジメへの反感が強まっている。

奴らとその一族には死ぬよりも辛い現実が待っているだろう。


なお、食料などはゼブルが色々くれた。パンやシチューなど。

透明になって適当な場所から盗って来ようと思ったが、ゼブルに止められた。

『そんな事をしてはいけない。お前の夢が潰えるぞ』と太く震え上がらせる声で。


今思えば、ゼブルが全て正しかった。やっていたら間違いなく、

JGBに嗅ぎつけられていたかもしれない。



無論、宿泊場所も全てゼブルが提供してくれた。

痕跡を残さないために偽名でチェックインする事を条件にお陰で高級ホテルに泊まれた。





なお、更に僕はイジメへの復讐と教育を変える事とは

無関係な理由で諸木坂と親父を殺した。



諸木坂を殺したのは単なる個人的な恨みによるもの。

親父を殺したのは警察に自分を手配させ、世間の注目を集めるためだ。




だが・・・・これとは違い、親父を殺したのは実はもう一つ理由がある。



僕が手を汚せば、間違いなく親父も僕に殺される直前まで続けていた

老後の暮らしを謳歌する事が出来なくなる。



現にネット生放送の時点で親父が生きていたら

数日中には近所の住民から顰蹙ひんしゅくを買っていただろう。



親父も決して平和に晩年を生きれなくなる。



そんなのは嫌だ。

親父は僕にイジメとはどんなに残酷な事かを教えてくれた。

親父も学生時代はいじめられ、職場でも度々上司からいじめられ、散々だった。



しかし、唯一励ましてくれる同期の女がいて、交際を繰り返し、彼女と結婚して僕は生まれた。

親父は彼女との交際で生きる活力を得たのだとか。



親父がいなければ今の僕はない。

母もとっくにいない僕にとって親父は大切な家族だった。


だから・・・・あの世で母と共に老後を謳歌して欲しい

という願いもこめて僕は親父を殺した。




親父がこの世にいれば、間違いなく死ぬよりも辛い目に合う。

そんなのは息子として見ていられない。



だからこの世から消し去ってしまえばいい・・・・そう思ったまでだ。





因みに母は僕が小学生の頃、僕のせいで・・・・いや、イジメのせいで殺された。



僕は小5の頃、凄惨なイジメを受けていた。

思えば、小5の頃からだった。よくイジメられるようになったのは。

休み時間は暴力や悪口当たり前、母が買ってくれた筆記用具やノートも平然と盗まれた。


それで僕は先生にその事をチクった。イジメてきた奴らを残らず。


先生は怒ってくれた上に奴らを謝らせてくれた。

みんな僕に頭を下げて謝罪し、イジメは収まった。だが・・・・・



その後の保護者会の時だった。

学校が早く終わり、僕の母もまた保護者会に出るべく学校へ行った。



ところが、夜になっても母は帰ってこなかった。

6時前には帰ると言っていたのにもう夜7時だ・・・・


そんな矢先、学校から一本の電話がかかってきた。

僕は携帯から母からの電話だと思ったが、出たのは担任先生。

その内容はとても衝撃的な一言だった。



27になって今も覚えているぐらいに。



「大変なんだ・・・・・君のお母さん・・・・殺されちゃったんだよぉ!!!」



犯人は僕をイジメていた奴らの中の母親だった。

どうやら、先生に謝罪させられてもそいつは僕に謝罪した事を家族に

「遊んでやっただけなのに先生にチクられて謝罪させられた」と母親に愚痴ったらしい。


子供の言葉を鵜呑みにして怒った母親はどのような教育をしているのかと

僕の母に因縁をつけ、保護者会の時にナイフで僕の母を・・・刺し殺した。


無論、その母親は僕の母を殺した容疑で現行犯逮捕され、

アイツの家から多額の慰謝料などが僕の家に支払われたが、

あの事件は僕と親父だけになった樫木家に暗い影を落とした。



理不尽な事件で母を失ったショックで僕はその後は誰とも遊ぶ事なく、

学校では一人で過ごす事も多かった。

だが、中学に入ってもイジメられ続け、イジメてきた奴らに

野球部に無理矢理入れさせられてしごかれた。


「お前の家に火をつける」と脅された。どうしようも出来なかった。

僕の後をつけて家の場所も突き止めたらしく冗談ではなかった。

マンション暮らしだったが、このままでは他の人にも被害が出かねなかった。


先生にチクるという選択肢はこの時点の僕にはなかった。

怖かった。チクれば、また加害者側の家族が何かやるかもしれないと。

保護者会などには親父が出てくれていたため、

そうなれば今度は僕のせいで親父まで死ぬかもしれない。


そんなのは嫌だった。だから僕は先生にもチクらず耐えて、耐えて耐え続けた。



そして次第には奴らに反抗したり、反撃する術も身についていった。

だが、帰り道で不良じゃないのに不良と決めつけられ、通りすがりの小さい女の子を

連れた母親と女の子に因縁をつけられたり、周りから敬遠もされた。



受験の末に高校に入った後もイジメが止まなかったが・・・・

高2の夏の終わりに・・・・布団で眠りについていた僕にこの力は宿った。



「グッ・・・・・なんだこれは・・・・・・!」




「グッ・・・・グァァァァァァァァァァ・・・・・・・!ァァァァァァ・・・・!」



突如僕を襲った凄まじい頭痛。

その痛みに1分間襲われた後、僕は気分が悪くなり水を飲みに洗面所に向かった。



そしたら・・・・目の前の鏡に誰も映っていなかった。

本来は自分の顔を映し出すはずの鏡には洗濯機と背後の物置など、

洗面所の風景しか映っていなかった。



一体、どうなってるんだと僕は慌てた。

元に戻れ元に戻れと自然に心の中で叫んでいたら

鏡の中に僕の姿が突然実体化して現れた。



妙に思った僕は水を飲んだ後、透明になるように心で

イメージすると鏡の中の僕の姿はすっと消えた。

この状態でコップを持つとそのコップも鏡の中ですっと消えた。



この時、そう、まさにこの時、僕は最強の力を手にした瞬間だった。

僕は驚いた。僕にこんな力があったなんて・・・・・と。





しかしこの力を手に入れても僕は力をつけるまで復讐には乗り出さなかった。

だが・・・・僕はこの時点で"殺していない"とは一言も言っていない・・・・・



僕は高校の時点でこの力を試すために実は一人殺している。

ターゲットは同じ学校の三年の鈴木すずき先輩。

力を試すための練習台にした。


彼は三年になってもなお、下級生にカツアゲやイジメ行為、

タバコを隠れて吸うなどの校則違反で先生達にマークされていた。

その一方で同じような素行が悪い仲間がゴロゴロいる。


おまけに夜は遊び歩いてるらしい。

まさに不良をそのまま絵に描いたような奴だ。


僕はそんな彼を下校時に遊び歩いてる所をつけた。透明になって。

試しに彼の視界に正面に出てみても気づく様子はない。

アッカンベーや目立つ不可解な行動をしても。


そして、僕はこの力は他人から見えなくなる事を確認した上で

この不良野郎を、横断歩道の前で立っている彼を、

猛スピードで走ってくる車が来る直前に後ろから背中を

蹴飛ばし、事故に見せかけて殺した。


目の前で車に跳ねられて死んだいかつい不良に辺りが騒然となる中、

僕は透明になりながら自分の力の強大さに余韻に浸っていた。



同時に嬉しくてたまらなかった。誰がくれたか知らないがこの瞬間、決めた。

この最強かつ最高の力でいつか復讐してやるって。



より力をつけて・・・・・復讐してやると心に決めた。




僕を散々苦しめ、母も死に追いやったイジメという行為そのものに。

更にイジメを無くし、イジメがない未来を創るために。



その後、僕は勢いづいてこれまで以上に学業で力をつけた。

前々から奴らを見返したいとやってきた事だ、勉強なら奴らとも戦える。

先生には褒められたが案の定、クラスメートには因縁をつけられた。

「なんでこんなのが」とか本当に酷い言われ様だ。



それで改めて思った。やはり・・・・復讐が必要だって・・・・・








「樫木麻彩。お前に面会希望者が来ている。来るんだ!!」





現実に戻ると牢の向こうの廊下に

立っていた看守の男が真面目な声でこっちを厳しく呼んできた。



その声で再び僕の意識は現実に戻る。



面会希望か・・・・誰だ。まぁ、だいだい分かっている。

僕は看守達に連れられて手錠をかけられたまま連れていかれた・・・


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